やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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こうして長かった一件は終息する。

 一色ちゃんとの話を終え、めぐりの家で飯をご馳走になった後俺はまっすぐ帰宅する。

 毎度の如く、お母さんの泊まっていったら?攻撃にあったが、それだけは丁重に断らさせてもらった。越えちゃいけない一線だと思うので!

 「ただいまー。みんなのお兄ちゃんのおかえりですよー」

 「にゃふ……」

 「おー、一番に迎えてくれるのはやっぱりカマクラなんだなー。嬉しいような悲しいようなー」

 帰宅した俺を真っ先に迎えてくれたのは我が愛猫カマクラだった。しゃがんで撫でてやると気持ちよさそうに身をよじる。

 むふう、可愛い奴よのぅ。

 「おかえり、兄貴」

 「お?八幡が小町より先にお出迎えとは珍しいじゃないか」

 普段であればカマクラの次に出迎えてくれるのは小町なのだが、リビングに繋がる扉から出てきたのは我が愛しの弟君だった。

 ということは、俺にいち早く頼みたいことでもあるのだろう。

 「兄貴、頼みがある。ちょっといいか」

 「ほいほい、着替えてくるから部屋で待ってな」

 「わかった」

 そう言うと、八幡は俺より先に階段を上り、自分の部屋へと入っていった。

 さて、今回は何をやらされるのやら。

 

 

 「それで、俺に頼みって?」

 数分後、着替えを終えた俺は八幡の部屋へと入り、八幡と向かい合い座っていた。

 「今日、小町や戸塚達といろいろ話したんだが」

 「みたいだね。俺にもお誘いがあったよ」

 「でだ、相談の結果、俺の方針は決まった」

 そこから、今日行った相談の内容や、その中で決まった方針を八幡は俺に教えてくれた。

 八幡が教えてくれた方針はこうだ。

 候補者を乱立し、推薦人を多く集め他の候補者を立候補できなくする。そして、それを行うのは人間ではないものであり、ツイッターで架空の応援アカウントを作り、架空の人物が推薦人を募ることで身バレのリスクを軽減するというのが八幡が教えてくれた全てだ。

 まあ、『八幡が教えてくれた』という点が非常に重要なわけだけど。

 「方針はわかった。それで?どうせその先があるんだろ?八幡のことだし」

 「……まあな」

 おそらく、これはアカウント運用の半分を任せている材木座君にも話していないことなのだろう。相当にクズいもので、聞いたものが引いてしまうような考え。それを八幡は心の奥底に持っている。

 「……一色を生徒会長にする」

 「彼女はやりたくないんだろ?」

 その意思は今日俺も目の当たりにした。彼女のやる気はないに等しいだろう。まあ、最後は少し揺らいだみたいだけど

 「やりたくないなら、やらせたくすればいい」

 「どうやって?」

 「それは……まあ、このアカウントと葉山と一色の置かれている境遇を交渉材料にしてな……」

 ようやく観念したのか、八幡は隠していた考えを渋々といった表情で話してくれた。

 三日後、八幡は材木座君にも頼んで運用している応援アカウントの名前をすべて『一色いろは応援アカウント』へ変えるのだという。そして、それと葉山君、一色ちゃんの境遇を材料にして交渉する。

 八幡は雪ノ下さん達を生徒会長にすることなく、尚且つ一色ちゃんを生徒会長にする選択肢を選んだということだ。

 「でも八幡、その交渉が難しいんじゃないか?相当博打になるぞ」

 「わかってる……。だが、やってみる価値はある」

 一色ちゃんを口説き落とすのは相当難しいと思う。だけど、八幡が決めたなら俺は兄として背中を押してやるだけだ。それに、八幡のこれ程までに必死な表情は久し振りに見たからな。俺が八幡を信じる理由なんてそれだけで充分だ。

 「わかった。八幡の好きなようにすればいい」

 「悪い。心配かけて」

 そう言って八幡は柄にもなく頭を下げてくる。

 「心配かけてる自覚はあったんだな」

 「おい、ひでぇな」

 「はっはっは!冗談だよ。まあ、気にすることないよ。弟を信じるのも、背中を押してやるのも兄貴の役目だ」

 「すま……いや、ありがとな」

 八幡は謝罪の言葉を出しかけ、思い出したように感謝の言葉を口に出す。

 「その言葉で充分。さて、俺は何をすればいい?」

 「情報の拡散を頼みたい。兄貴、ツイッターやってるだろ?」

 「まあね、ほら」

 俺は携帯のロックを解除し、ツイッターのアカウント画面を見せる。

 「これはリア垢だけど、他にもネトゲ用やネットサーフィン用もあるぞ」

 「……フォロワーとフォローの人数に差がありすぎるんだが」

 八幡は若干引き気味にそんな感想を述べる。

 「俺、基本的にリア垢触らないし。でも、フォロワーだけ増えるんだよね」

 「リア充が……」

 こんなことで妬まれても困る。

 でもまあ、久し振りに見たけど通知の多さには若干俺も引いた。名前も顔も知らない人から『フォローさせてもらいました!学校でもお話したいです!』とか来てても怖いだけです。通知切っててよかった。

 「それで、情報拡散ってどうするんだ?」

 「今、いろんな人の応援アカウントが稼働してるって情報を流してくれればいい。みんなも気になる人がいたらRTしてみよう!って一言も付け加えてな。兄貴くらいの影響力なら拡散にはもってこいだろ」

 「了解。あとで呟いておくよ。うわ、リア垢で呟くの始業式ぶりだ」

 ちなみに始業式のツイートは『ドーナツ食べたい』だ。始業式関係ねぇ!

 「助かる。ありがとな」

 「お安い御用ってことよ。また、何かあったら言ってくれ」

 「わかった」

 その後、八幡と少し話した後部屋へと戻った。

 

 

 さて、今回の件だが、結論から言うと解決した。

 雪ノ下さんやガハマちゃんが生徒会長になるわけでもない、そう、八幡は見事交渉を成功させ、一色ちゃんを生徒会長へ就任させることができたのだ。

 これで奉仕部は守られ、一色ちゃんからの依頼も解決。こうして、この件は終息したのだった。

 「あ、颯君こんなところに居た」

 「お、元生徒会長さんじゃないですか」

 後ろを振り向くとニコニコと笑顔を浮かべためぐりが立っている。

 「そっかぁ、もう会長って呼ばれることもないんだねー」

 一色ちゃんが生徒会長になったということは、前任の生徒会長であるめぐりは会長職を一色ちゃんに引き継いだということだ。めぐりがこの学校で会長と呼ばれることはもうない。

 「最初はそうやって呼ばれることに慣れないー!って泣いてたくせに」

 「ははは、そうだったねー。懐かしい。……颯君」

 「ん?」

 めぐりの声に後ろを再び振り向くと、そこには少しだけ寂しそうな顔をしためぐりがいた。

 「私ね?雪ノ下さんに生徒会長になるのを期待してたんだ。由比ヶ浜さんが副会長で、弟君が庶務。それで、卒業した私と颯君が遊びに行くの」

 「……」

 それは非常に魅力的な光景だ。そんな光景があってもよかったのかもしれない……そう思えるほどに。

 「でもね、今は別にどうでもいいかなって思ってる」

 「どうしてだ?」

 「あの三人が一緒にいるなら、そこに遊びに行けばいいもん。颯君がいれば問題ないでしょ?」

 そう言う、めぐりには先程までの寂しそうな表情はない。本当に、心の底からそう思っている証拠だろう。

 「俺は奉仕部に行く口実かよ」

 「ち、違うよ!私はただ、奉仕部に行くなら颯君も一緒の方が楽しいと思って……」

 「……わかってるよ。俺もめぐりと一緒の方が楽しいと思う」

 「だよね!ねえ颯君。今から生徒会室の私物片付けに行くんだけど、一緒に行かない?」

 私物って、あれをまとめるのは結構時間かかるぞ……。

 「まったく、手伝いのお誘いですか」

 「だめ?」

 「いいよ。城廻会長への最後のご奉公だ」

 「ふふ……じゃあ行こうか!」

 「おう」

 そう言って俺は生徒会室へと向かっていった。

 

 

 「やあ、一色ちゃん」

 「あ、比企谷先輩じゃないですかぁ。どうしたんですかー?」

 俺が生徒会室に入ると、晴れて生徒会長に就任した一色ちゃんがいつもの甘い声で迎えてくれる。

 「ん?こいつの手伝い」

 「やっほー!」

 「あ、城廻先輩!お疲れ様ですー」

 一色ちゃんと挨拶を交わしためぐりは、自分の私物をまとめる為生徒会室の奥へと向かっていった。

 「ちゃんとやれそう?」

 「さあ、どうでしょうねー。でもまあ、大変な時は先輩がいますしー」

 憐れなり、八幡よ。

 「……比企谷先輩」

 「ん?」

 「比企谷先輩言いましたよね?生徒会は自分を変えることが出来るって」

 「言ったね」

 あの日、生徒会倉庫で一色ちゃんに言った言葉だ。

 「あれ、違うと思います」

 一色ちゃんは甘い声を低く抑え、俺にしっかり伝わるような声で続ける。

 「先輩を変えたのは生徒会ではなく、周りの人間です。違いますか?」

 「……確かにそうかもね」

 一色ちゃんの言うことに間違いはない。

 たとえ、俺が生徒会との関係を持っていたとして、そこにあの三人がいなければ俺は変われていたのだろうか。可能性がないわけじゃない。しかし、今のようにはなれていなかっただろう。

 「一色ちゃんの言う通り、俺が変われたのは生徒会のおかげじゃないかもしれない。でもね、生徒会はいわば接着剤なんだ」

 「接着剤……」

 「俺と彼女達を繋いでくれた接着剤ってこと。一色ちゃんはその接着剤を手に入れた。あとはそれで繋ぎ合わせる人間関係だね」

 「……そんな人達いません」

 果たしてそうだろうか。本当に一色ちゃんに彼女達のような人間がいないだろうか。

 「そっか、じゃあ見つけようぜ。幸い、一色ちゃんには生徒会長に誰かさんに就任させられたっていう大きな口実があるんだからね」

 「……ふふ、弟を売るんですか?」

 「はは、まあねー」

 「悪い人です」

 一色ちゃんは先程とは打って変わって小悪魔を彷彿とさせる笑みを浮かべる。

 まあ、これじゃ、誰か言ってるようなもんだよな。でも、多分そうなんだと思う。なんでかって?そりゃ……。

 

 兄貴の勘ですよ。




どうもりょうさんでございます!
というわけで八巻終了でございます!少し駆け足気味だったかもしれませんが、次回からはようやく九巻に入ります。
元カノだったことが判明したかおりとの絡みも期待してください!
それではまた次回でお会いしましょう!


なんと月水水憐さんが比企谷三兄妹を描いてくださいました!水憐さんにはお礼の小説を送らさせていただきました!本当にありがとうございます!

【挿絵表示】


https://twitter.com/ngxpt280
ツイッターもやっております!是非絡んでやってください!仕事終わりや投稿後にお疲れ!と声をかけていただくと懐くと思われます。引き続き絵なども募集してます!

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