例年通り、静かな年の瀬となった今年、というか去年も終了し、新たな年が始まりを告げた。
昨年は様々なことがあった。
まあ、それまでも多くのことがあったのは確かなのだが、去年はいろんなことが動きを見せた年だと思う。
小町の受験勉強がスタートし、俺の方は無事大学合格を決めた。奉仕部の二人に出会ったり、一色ちゃんともかかわることになった。
更に元カノである折本かおりと再会したり、八幡が本物を求め動きだしたりなど重要な出来事も多々起こり、まさに激動の一年だったと言えるだろう。
そして、何より……。
「あけましておめでとう、颯君っ」
「……ああ、おめでとう、めぐり」
俺の目の前に立つのは、この湯島天神に集まる多くの人の中でも一際可愛い振袖を着た女の子。信じられないことだが、この女の子こそ俺の彼女なのである。
そう、去年一番の出来事、それは俺に家族以外の特別と呼べる存在が出来たことだ。
「やっぱり混んでるなぁ……。俺も八幡達と同じところに行けばよかったかなぁ」
「しょうがないよねー、受験シーズンだし有名どころはどこもこんな感じだと思うよ?」
俺達が新年早々やってきたのは湯島天神。初詣と小町の合格祈願を兼ねてやってきたのだが、流石有名どころというべきか、その人の多さに俺は圧倒されていた。
「帰っていい?」
「いいけど、まだ小町ちゃんの合格祈願できてないよ?お守りだって買ってないし」
「よし、小町の為に頑張る」
「はは、そうだね!私も小町ちゃんの為に頑張るっ!でもね、颯君……?」
「ん?」
いつもと変わらない笑顔で握りこぶしを作りながら気合を入れためぐりだったが、急にこちらを窺いながらもじもじし始める。
「その……彼女になって初めての初詣だし、私の為にも頑張ってほしいかなーって」
「……っ!」
なんという不意打ち。その反則級の表情と言動に俺は一瞬声を出すことが出来なかった。
「……はっはっは!当たり前だろ!勿論、めぐりの為にも頑張るさ!」
「うん、ありがと。凄く嬉しいよっ」
なんだろう。めぐりと付き合い始めて一週間程経ったが、会えば会う程にめぐりが可愛く見えてくる。勿論、付き合う前から可愛いと思っていたし、ドキドキすることもあった。しかし、最近は前よりも一層その頻度と度合が多く、大きくなってきている。
なるほど、これが付き合うということなのか。これは危険だ、ものすごく危険だ。
そして、そんな態度にあてられたのか、俺の行動も積極性を増していく。
「めぐり、手……繋ぐか」
「……うん!繋ぐ!」
俺から差し出した手をめぐりが握り返すと、境内へと続く道を埋め尽くすほどの人ごみの中、俺達は互いの体温を感じながらその間をかき分けていった。
「ただいまーですよー!おかーさん!おとーさん!」
「もう、そんな大きな声出さなくても二人とも聞こえるからー」
あの後数十分並び、無事小町の合格祈願を済ませ、お守りも購入できた俺達はその足でめぐりの家へとやってきていた。
「二人ともおかえりー!颯君、あけましておめでとう!今年も娘共々よろしくねー」
「あけましておめでとう!もっと早く来てもらいたかったんだけど、俺の仕事の都合に合わせてもらってすまないね!」
俺達が玄関で靴を脱いでいると、お母さんとお父さんが嬉しそうな笑みを浮かべて迎えてくれる。
「あけましておめでとうですよ!お父さん、お母さん!お父さんもお気になさらず!」
「ありがとう。さあ、寒かっただろ?早く上がって上がって」
「はーい」
二人との挨拶も程ほどに、俺達は暖房の効いたリビングへと向かう。
「改めて、颯君あけましておめでとう。……うふふー」
「おめでとう。……ふふ」
リビングの炬燵へ入ると、満面の笑みで嬉しそうに正月の挨拶をしてくれる。気になってはいたのだが、なぜ二人はこんなに嬉しそうなのだろうか。
「おめでとうございます。どうしたんですか?嬉しそうに」
「そりゃー、ねぇお父さん?」
「だよなー、母さん?」
俺の問いかけに二人は笑顔で頷き合いながら、俺とめぐりを見る。
「二人がようやく正式にお付き合いすることになったんだ。それを待ち望んでいた俺達にとって、これほど嬉しいことはないよ」
「そうね。颯君が初めてここに来た時からそうなればいいと思ってたし」
なるほど。俺達が正式に付き合うことになったのはめぐりがあっさりと白状したらしい。そして、二人にとってその事実はそれほどまでに嬉しい出来事だったようだ。
「も、もう、二人とも恥ずかしいよ」
しかし、それを面と向かって言われるのはめぐり的に恥ずかしいらしく、その可愛い顔を赤く染め上げ、俺の服の裾を二人に見えないように掴み俯いている。
そんなめぐりのあざといとも見える天然の行動にドキッとしながらも、俺はいつも通り四人での会話を楽しんでいた。
まあ、四人での会話となると大体の割合でめぐりいじりが入ったり、めぐりのツッコミを受ける場面があったりするのだが、それがいつもの俺達であり、逆にその方が安心できたりする。
そんな心地良い時間を過ごしていたのだが、いつまでも振袖を着ているのも窮屈だろうということで、めぐりとお母さんはリビングを出ていった。
「さて、颯君」
「はい」
残された俺とお父さんの間には緩い空気が流れていたが、お父さんの声により少しだけその空気が締まる。
「俺も母さんも颯君のことを信頼している。颯君のことを話すめぐりは凄く楽しそうで、幸せそうだ。あんな表情を浮かべるめぐりを見るのは親としても幸せだ。……あの笑顔を守ってくれるかい?」
お父さんの言いたいことはわかる。守ってくれるかい?という言葉の中に含まれている、泣かせないでくれという思いはハッキリと伝わった。
親として子供の泣いている姿など見たくはないだろう。お父さんは不安なのだ。いくら家族と同等に扱ってくれているとはいえ、誰かに任せるというのが不安だということは俺だってわかるつもりだ。
ならば、どうするべきか。そんなの決まっている。
自分の思いをハッキリ伝えるだけだ。
「俺もめぐりの笑顔が大好きです。守りたいとも思っています。いや、守って見せます。一生。どちらかが果てるまで」
「……そうか」
俺の言葉を聞いてお父さんの表情が少しだけ緩んだ気がする。
でも、俺の思いは全てじゃない。まあ、先程の言葉に具体性を持たせるだけなのだが。
「お父さん、俺は将来めぐりと結婚したいと思っています」
「……ふへっ。んんっ!失礼、続けてくれ」
一瞬お父さんの顔が凄いニヤケ顔になった気がするんだが、気のせいだろうか。
「すぐには無理だと思っています。だけど、大学を卒業して、就職して……それほど待たせないつもりでいます。だから、許してくださいますか?」
今言う必要があったのか?と問われれば今じゃなくてもよかったのかもしれない。しかし、俺がどのような覚悟をもってめぐりと付き合っているのかを知ってほしかったのだ。
お父さんは黙ったまま俯いている。
殴られるだろうか?まだ高校すら卒業していないのに無責任なことを言うなと叱咤されるだろうか。そんな不安を抱えたまま沈黙が続く。
そして、数分が経った頃、お父さんは顔を上げ口を開く。
「許す」
そう一言述べたお父さんの目には涙が浮かんでいた。
その後、俺はお母さんと入れ替わるようにめぐりの部屋へ入り、のんびりと二人の時間を過ごしていた。
めぐりもそのまま降りてくるつもりでいたようだが、先にリビングへ戻ってきたお母さんの手によってそれは阻止され、今現在はおそらくお母さんがお父さんに寄り添っていることであろう。あの二人のことだ、膝枕でもしながら話をしているかもしれない。
「……」
「颯君、どうしたの?」
そんなことを考えていると無意識にめぐりの太ももに目が行ってしまい首を傾げられてしまう。
彼氏なんだし、頼んでもいいよな?
「めぐり、膝枕してくれるか?」
「えへへ……。恥ずかしいけど、颯君ならいいよ」
そう言ってめぐりは恥ずかしがりながらも膝を差し出してくれる。
「そんじゃ、お言葉に甘えて」
めぐりの太ももに頭を乗せると、何とも言えない充実感と幸福感が身体の奥底から溢れてくる。
おぉ……。こりゃ、くせになりそう。
真上を見上げると笑顔でこちらを見ているめぐりの顔がある。
「颯君が甘えてくれるなんて珍しいね」
「そうか?俺は意外と甘えるの好きなんだぞ?」
「じゃあ、もっと普段から甘えてくれていいのに」
「それは男としては格好付けたいわけで」
男としては甘えるのに相当な勇気がいるわけで、しかも好きな相手となれば格好良いところも見せたい。男とは面倒くさい生き物なのだ。
「じゃあ、今日は?」
「そういう気分だったんだ」
「そっか。そういう気分なら仕方ないね」
そう言ってめぐりは笑顔を崩さないまま頭を撫でてくれる。
普段は頭を撫でる方が多い俺だが、こうして撫でられるというのも案外悪くないものだ。好きな相手に触れられるということがこれ程までに幸せなことだとは思わなった。
「なあ、めぐり」
「何?」
「さっき、お父さんにめぐりとの結婚を許してくださいって言った」
「ふぇぇ!?」
「いってぇ!」
いってぇ!マジいってぇ!めぐりのやつ、驚きすぎて髪思いっきり引っ張りやがった!
「あぁ!ごめん!大丈夫?」
「お、おう。はげるかと思った」
「もう……。それで?け、結婚って?」
恐る恐る続きを促すめぐりにお父さんとの会話を簡単に説明した。
「……颯君」
「ん?」
全てを説明した後、めぐりは俺の手を握りながら俺を呼ぶ。
「私もずっと一緒に居たい」
「嬉しいよ」
「……うん。でね?颯君がそうやって一生懸命私のことを考えていてくれたのがすごくうれしい。こんなに幸せでいいのか不安になっちゃうけど、颯君が愛しいって思う気持ちがどんどん溢れてきちゃうの」
めぐりは手の握りを強め、言葉が尻に向かっていくほどその声に震えが増していく。俺はその震えをなだめるようにめぐりの頬に握られていない方の手を伸ばし撫でる。
「それで、その……私も!颯君とけ、結婚したいって、思ってるよ?」
「そっか、じゃあ両想いだな」
「……えへへ。うん、両想い。早く迎えに来てね?」
「ああ、わかってる」
そう言って俺達はお互いに手を握り合い、離れないように固く結んだ。
どうもりょうさんでございます!
本編では年も明け、そろそろエンディングが近づいてきております。頑張って完結まで行きたいと思っておりますので、応援していただけると嬉しいです!
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