「てなわけなんだけど、どうしたらいいかな?」
「……知らん」
「八幡つめたーい!」
「うるせぇ。いきなり押しかけておいて冷たいも何もあるか……」
八幡は俺を見ると溜息を吐きながら額を押さえる。
平塚先生と別れた後、俺とめぐりは優雅に紅茶を飲みながら談笑をしていた奉仕部へとやってきていた。
目的は勿論、悪魔の笑顔で俺達を待っているであろう陽乃さんにどう会えばいいのか、という相談をするためだ。まあ、案の定良い答えは返ってきていないが……。
「あはは……。ゆきのんのお姉さんの対応はあたし達よりお兄さんの方が慣れてるんじゃないかな?」
「そうね、少なくとも私よりは慣れていると思うわ」
「あはは、そうだね。対等……まではいかないけど、話を聞いてもらえる可能性は一番高いかもね……」
女性陣&めぐりの答えもそれほど良いものではない。
まあ、確かに平塚先生や双葉さん以外で対等に近い対応ができるのはおそらく俺くらいだろう。
「……てか、今回はめぐりも当事者だからな?なに他人事みたいなこと言ってんの?」
「うっ!現実逃避くらいさせてよ……」
あー、うん、ごめんね。
めぐりが現実逃避をしているのを苦笑いで見つめていると、ガハマちゃんの横で一生懸命携帯と格闘している雪ノ下さんが目に入る。
「雪ノ下さんが携帯いじってるなんて珍しいね」
「ええ、自分でもそう思うわ」
「ゲームでもしてるの?」
「いえ、えっと……由比ヶ浜さん、このアプリなんていったかしら」
ギリギリのところで名前が思い出せないのか、ガハマちゃんに助けを求める。
「んー?ああ、LUNEだね」
「へぇ、雪ノ下さんにもガハマちゃん以外に連絡を取る子がいたんだね」
「その言い方は少々癪に障るのだけれど……そうね、最近は良く話すわね」
これまでの雪ノ下さんであれば、こんな風に誰かと無料通話アプリなどを使って連絡を取り合うなんてことはなかったであろう。奉仕部で活動していく上で雪ノ下さんにも少し変化があったのかもしれないな。
しっかし、雪ノ下さんと気軽に連絡を取り合える子がいるなんて初耳だ。心当たりがあると言えば、奉仕部と親交のある戸塚君や川崎さんだろうか。
「やっぱ恋バナとかするの?」
「……」
「あれ?雪ノ下さん?」
俺の質問が悪かったのかな?気のせいかもしれないけど、雪ノ下さんの目が呆れたような目になっているんだけど……。
「……それあるー」
「……!?」
雪ノ下さんが小声で発した言葉に俺は心の底から驚いてしまう。
雪ノ下さんが発した言葉は間違いなくかおりの口癖。ってことは……。
「クリスマス会の後にあんなことがあったなんて知らなかったわ」
「かおりぃぃぃ!」
何勝手に話しちゃってんの!?確かに初めて会った時に仲良くしましょう!って言ってたけどさ!まさかメールする仲になってるとは思わなかったよ……。
「安心して頂戴。かおりさんの愚痴は全て聞いたから、あなたに飛び火することはないわ」
「それ、君は全部知ってるってことだよね?安心できないんだけど!」
「うるさいわね。殴るわよ?」
「罵倒が直球するぎる!なんかキャラ変わってないですかね!」
なんか初めて雪ノ下さんと会った時と随分キャラが変わってきてないか?いやまあ、悪い変化じゃないとは思うけどさ、俺に対しての扱いがどんどん雑になってきているのは少々不満なんだが……。
「あはは……。でも、かおりちゃんって話してみると意外に面白い子だよねー」
俺と雪ノ下さんの様子を見ていたガハマちゃんが苦笑いを浮かべながら呟く。……ん?
「ガハマちゃん?なんかガハマちゃんもかおりと親しそうに聞こえるんだけど気のせい?」
「え?あたしも最近かおりちゃんと連絡とってるよ?この前遊びに行ったし」
俺は思わず頭を抱えてうずくまってしまう。
なんか着実にかおりと奉仕部の仲が深くなっているのだが……。
「えっと、八幡は?」
「……」
え、なんで無言なの?真っ先に否定しないの?
「……ちょくちょくメールが来る」
「お、おぉう……。なんか、かおりのコミュ力を改めて思い知ったよ」
いろいろあって忘れてたけど、あいつのコミュ力は常人を超えてるからな……。きっかけがあればこの短時間で仲良くなるなんてこと造作もないんだよなぁ……。
「そうね……。最初は押しの強さに若干引いてしまったけれど、話していくうちにかおりさんの雰囲気にのまれてしまって、時間を忘れて話してしまっていたわ。よくあれだけ話題が出るものだと逆に感心したわよ」
「確かにあいつといると話題が尽きないからな。小町とは一日中話しても足りない位だし」
「ああ、そういえば朝から晩まで話してたな。ちゃっかり晩飯まで食っていったし」
八幡もあの時を思い出したのか若干引いた笑みを浮かべている。
まあ、あの時の小町は凄く楽しそうだったし八幡も俺も悪い気はしなかったけどさ。
「ほぇー、折本さんってすごいんだねー」
「まあな」
「颯君、今度会ってみたいな!」
「まじで?」
「まじまじ!」
すげえな、めぐりの奴。普通、相手がどんなに良い奴であったとしても元カノに会いたいとは思わないと思うけどな……。
まあ、それはめぐりの凄いところというべきか。
「そうね、会う会わないはともかく、かおりさんとはもう一度会った方がいいわ」
「そうなの?」
「ええ、けじめをつけて会わないというのもいいかもしれないけれど、あなたとかおりさんにそれは似合わないわ」
別にそういうことは考えていなかったけど、俺から一方的に別れを告げたうえに告白を断ったわけだし、会うのは少し躊躇われていた。
しかし、雪ノ下さんの言い分は違うらしい。
「あなたは恋愛的な好感を持っているわけではないけれど、友好的な意味での好意を持っていないわけではないでしょう?」
「まあ、そうだね……」
「なら、深く考えなくても良いのではないかしら」
そう語る雪ノ下さんの目は優しく、俺の心にしっかり伝わる芯の通った尚且つ優しい声だった。
「颯君、私もそう思うよ」
「めぐり?」
「私のことは気にしなくていいよ?だって、颯君が折本さんと会ったとしても颯君の中での一番は弟君や妹ちゃん、そして私だもん」
めぐりの目は慈愛に満ちていて、何と表現したらよいのだろうか……。
そうだな……正妻の余裕が一番合っていた。
「ふふ、未来の奥様に許可がいただけたようね」
「お、奥様!?ゆ、雪ノ下さんってば!もう!」
雪ノ下さんの軽口にいつものように慌てふためくめぐり。
「そうだな……。ありがとう、雪ノ下さん、めぐり」
「ふふ、私は友人の為を思っての行動をしただけよ。……これ、見なさい」
「ん?……はは」
俺は雪ノ下さんが差し出した携帯の画面をのぞき込み、思わず小さく笑みをこぼしてしまう。
『颯太先輩が悩むなんて珍しいねー、ウケる。別に悩むことなんてないと思うけどねー!颯太先輩は颯太先輩らしく、正々堂々と向かっていけばいいのに!それが颯太先輩の得意技っしょ?雪乃ちゃんもそうおもうよねー!』
雪ノ下さんの携帯の画面にはそう記されていた。
差出人はもちろん折本かおり。
「さて、行くか、めぐり」
「うん!いこ!」
「雪ノ下さん、ありがとうって送っといてくれる?あと、たまには連絡してきてもいいんだからね!とも」
「気持ち悪いわね」
「気持ち悪い上等!当たって打ち勝つボンバーだ!」
「意味が解らないわ……」
「はは、じゃあね!ありがとう、奉仕部のみんな」
勢いよく立ち上がった俺の言葉に雪ノ下さんは微笑み、ガハマちゃんは大きく手を振り、我が愛弟は手元の本を軽く振る。
よし、覚悟は決まった。
待ってろよ!魔王様!
「いらっしゃい。待ってたよ、颯太、めぐり。ね?お母さんっ」
「ええ、お待ちしておりました。久し振りですね。比企谷君、城廻さん」
「オーマイゴッ……」
待ち構えていたのは魔王だけではなく、大魔王も一緒でした。
俺、生きて帰れるの?はちまぁぁぁん!こまちぃぃぃ!
どうもりょうさんでございます!
随分とお久しぶりになってしまいました。待っていてくださった方には申し訳ない気持ちでいっぱいです。
不定期更新ではありますが、長い目で見守っていただけると嬉しいです!
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