やはり俺の弟と妹は可愛すぎる。   作:りょうさん

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だれしも患う病は存在する。

 「ちわーっす」

 「あら、こんにちは」

 「ふぇ、お兄さん?」

 今日も今日とて奉仕部部室へと訪れた俺を迎えてくれたのは、当然のように挨拶を返してくれる雪ノ下さんと驚いたような顔をしたガハマちゃんだった。

 「ガハマちゃんじゃん。何、奉仕部に入ったの?」

 「いいえ、入部を認めた憶えはないわ」

 「あ、そうなんだ」

 なんだ、あの依頼をきっかけに入部したのかと思った。あの日も一緒に昼飯を食う約束をしていたみたいだし。

 「じゃあ、ガハマちゃんはなんでここにいるの?」

 「ゆきのんとご飯を食べるため?」

 んー?と考える仕草を見せながらガハマちゃんは答える。

 なんで疑問形なんですかね。自分でもわかってないの?

 「由比ヶ浜さん、何にでもクエスチョンマークをつけるのをやめなさい。アホにみえるわ」

 「アホ!?ゆきのんひどっ!」

 「雪ノ下さん、ガハマちゃんがアホなのは今に始まったことじゃないよ」

 「お兄さんまで!?てか、お兄さんの方がひどい!」

 ガハマちゃんは可愛い声を張り上げながら俺達に抗議してくる。

 一挙一動が非常に面白い子だ。まあ、雪ノ下さんや八幡はこういうタイプの人間が苦手そうだけどな。それでも、面白そうにガハマちゃんをいじる雪ノ下さんを見ていると、意外とそうでもないのかと感じてしまう。なかなか二人の関係は良好らしい。

 「それより、あなた達知り合いだったのね」

 「ああ、うん。まあ、いろいろあってね」

 「うん!私とお兄さんはお友達だよ!」

 俺の煮え切らない答えを聞いたガハマちゃんは嬉しそうに答える。

 果たして友達と呼べるのかは曖昧だが、知り合いであることは変わらない。まあ、ここで肯定しても面白くないのでひとまずからかっておこう。

 「え?俺達って友達だったの?」

 「え?違うの?」

 あ、うん。そこまではっきり言われると俺も悪い気はしない。

 俺はどちらかといえば小町のようなタイプであり、友達がいないわけでもないし、愛想が悪いこともないのだが、あまり群れることを得意としているわけではない。

 八幡は小町のことを次世代ボッチと称していたし、多分俺もそうなのだろう。八幡に言ったら即否定されそうだが……。

 その為、俺は興味を持った人間としか基本付き合わないのだ。最小限の会話をする人間は多く存在するけどな。

 それも災いしてか、俺のことを友達だとハッキリ言ってくれるのはめぐりくらいだ。だからガハマちゃんの言葉は素直にうれしかった。今現在も顔がニヤけているくらいには。

 「気持ち悪い顔をしないでちょうだい。その顔はなんだか比企谷君に似ていて不愉快だわ」

 雪ノ下さんは眉を吊り上げてこちらを睨んでくる。

 いないところでも罵られる八幡って……。流石八幡だな。まあ、似ているというのも兄弟故なのだろう。

 「はっはっは!もっと言ってくれ!八幡に似ているってのは俺にとっちゃあ褒め言葉だからな!俺が八幡に似ているってことは、八幡が俺に似ているってことだろ?すなわち!俺を見て育ったということだ!真似したということだ!くっそう!俺の真似をする八幡だと……可愛すぎるぞこの野郎!」

 「お兄さんが壊れた!?」

 「しまったわ、まさか地雷を踏んでしまうなんて……」

 その後、俺は昼休憩終了まで八幡の可愛さを熱弁してしまった。八割方雪ノ下さん達は聞いていなかったような気もするが。

 

 

 「破壊的につまらん……」

 「……ん?」

 風呂上がりの俺を出迎えてくれたのは気だるげな顔をした八幡だった。手には分厚い紙の束が握られている。中身をちらっと見た限りでは小説の原稿のようだ。

 八幡がかなりの文学少年だということはよく知っている。ライトノベルはもちろん、純文学にも精通している幅広い文学少年だ。家でも本を読んでいる場面をよく見かける。しかし、原稿を読んでいるところは初めてだ。編集者でも始めたのか?

 「はちまーん!それなんだ?」

 「ん?ああ、兄貴か。知り合いに読んで感想をくれと頼まれた」

 「八幡って知り合い居たんだ」

 「おい、傷つくだろ。失礼なこと言うな。友達はいなくても知り合いは沢山いる」

 何故か胸を張って答える八幡を愛おしく思いながらも、俺は八幡の次の句を奪う。

 「相手は知ってるか知らないけど?」

 「先に言うなよ。何?俺は灰皿で頭叩く人なの?」

 八幡ってばなかなかいいネタを放ってくるなぁ。でも、最近の子はその人知ってんのかな?俺は結構好きなんだけどな。

 「ははは!すまんすまん」

 「ったく、ちょうどいい。兄貴も読んで感想くれよ」

 「よし任せろ!」

 俺は八幡から原稿を受け取り読む。

 ふむ、ジャンルは学園異能バトルものか。主人公覚醒系の王道だな。服がやぶけたりなどの意味不明なお色気要素も含まれている。漢字とルビが超絶的に合っていない技名もある。

 ハッキリ言わせてもらうと。

 「これってなんのパクリ?」

 「奇遇だな兄貴。俺もそう思った」

 「なあ、八幡。この子は雪ノ下さんにも感想を頼んだのか?」

 これが一番心配だ。まだ小説投稿サイトやスレなんかの方が優しい評価をくれる。俺なら絶対に雪ノ下さんに感想を頼むなんてことはしない。

 「ああ」

 「その子は精神が強いのか?」

 「弱い」

 ダメじゃん。明日、その子精神崩壊しちゃうよ!ズタズタに叩きのめされちゃうよ!

 「俺もそのことで明日が心配なんだ」 

 「ま、まあその子に伝えておいてよ。ほかの本を多く読んで、その人の書き方や表現方法を研究してみてくれって。何事も研究が大事だからね」

 「わかった。まあ、文章のことなんかは雪ノ下が言うだろ。俺はとどめを刺しておく」

 おいおい、とどめを刺してどうすんだよ……。それただの死体蹴りじゃないか。

 「その子ってどんな子なんだ?」

 そういえば小説のことばかりで本人のことを何も聞いていなかった。学年すら知らないし、性別も知らない。多分、というか絶対男の子だろうが。だって、八幡の知り合いだもん。

 「中二病」

 「は?」

 そんなもん全部ふっ飛ばしてきましたよこの子。

 しかし、思えば小説を見てみてもわかる気がする。この妙なルビも何か昔抱えていた闇が蘇ってくるような、そんな感じに襲われる。

 やべえな。なんか無性に胸がざわついてきた。このままだと悶え死んでしまう。

 「名前は材木座。俺と同じ二年で、ボッチだ」

 「なんだ。八幡の同類か」

 「あいつと同類にしないでくれ。寒気がする」

 ひっでぇな……。

 まあでも、材木座君とは少しお話がしてみたくなった。八幡に小説の感想を頼んでくるほど八幡のことを信頼している子に会ってみたくなったのだ。

 「どうやって知り合ったんだ?」

 「一度体育で組まされたってだけだよ。よって友達でもなんでもない」

 よっぽど友達と思われたくないんだろうな。

 しかし、八幡は材木座君と友達にはなりたくないみたいだが、嫌いというわけではないらしい。もし材木座君のことが嫌いなら八幡は本当に材木座君を突き放すだろう。だがそれをしていない。

 おそらく材木座君は中二病で、うざくて、小説の感想を求めてくるような奴だが、それほど悪いやつではないのだろう。

 これから先、どこかで八幡から助けを求めることになるかもしれないな。

 「材木座君に伝えてくれよ。今度、小説書いたらまた見せてくれって」

 「本当に見せに来るぞ?」

 「構わないよ」

 「兄貴ってほんと変わってるよな」

 「ははは。そうか?」

 そんなことはないと思うんだけどな。ただ、この子に興味を持った、それだけだ。

 「お兄ちゃん達さっきから何見てるのー?小町にも見せてー!」

 俺と八幡の間から小町が顔を出す。風呂上がり特有の良い匂いが俺と八幡の間を通り抜ける。

 いい匂いだなぁ。抱いて寝たい。

 「ほら」

 「ほー」

 八幡に原稿を手渡された小町はそんな声を上げながら原稿を読んでいく。

 「飽きたー」

 「早いな。もっともつかと思ったんだが」

 どうやら小町には合わなかったようだ。

 まあ、小町はもともと本を読むことをあまり好むタイプではないしな。それでも教科書はもう少し読んでほしいが。

 「んー、なーんか、えっとー。つまんなかった」

 「一番辛辣だな」

 「ははは!それでこそ小町だ!」

 

 

 「材木座君どうだった?」

 翌日の夜、ソファーに座っていた八幡に報告を求める。

 「撃沈してたけど、また見せに来るって言ってたよ」

 「意外に強いじゃん」

 「みたいだな」

 「あ、兄貴の言ってたことをすべて話した」

 「なんだって?」

 「今度大将とお話がしたいでござるって言ってた」

 「んー……。また今度ね……」

 いつになるだろうね……。


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