プロローグ
飛行船が空を舞う。
瓦の屋根の建物が建ち並び、着物を着た人々や異形の者が町を歩く。
そして、目の前に建つ建物には「万事屋銀ちゃん」の看板。
記憶が戻って10年くらい過ごしてきたが、いやはや長かったような短かったような。
攘夷戦争終了後、気まぐれに
巨大エイリアンと勝負したりガチモンの「
地球に戻ってからは仕事を引き受けながら日本中をふらふら、たまに海外進出。
かぶき町に留まり始めたのは数ヶ月前だ。あるときは外、あるときは安宿に泊まり、そろそろ本気で不動産屋を探そうと決断したのが数分前。
しかしこれが中々見つからない。ので、これをきっかけに、そろそろ万事屋さんに挨拶するかー、と思い立ってこの「万事屋銀ちゃん」の看板を見つけるまで30分。
どうせすぐに見つかると思っていたのがいけなかった。
例えるならドラマなどでやっている戦闘シーンを見るのと現実で実際行う戦闘は全然違う、という感じだ。まぁ職業柄、この世界での戦闘も大分慣れたが。
いや、しかし長い道のりだった。
さてと依頼だ。常時金欠の万事屋さんには良いイベントだろう。
別にそこらを歩いている人にでも訊けば済む話なのだが、どうせなら中心人物と関わりたいと思うのは、転生者なんてものであるが故か。
階段を上がって、玄関前に立つ。
やや緊張しながらインターホンのボタンを押すと中からメガネ風ツッコミ系男子の返事が聞こえる。なんとも不思議な感じ。
「どちら様ですかー」
「依頼人でーす」
「……え?」
耳を疑っている。どうやら今は相当な金欠状態とみた。
しかし構わず現実を突きつける。
「不動産屋の場所、教えてくれないかな」
表情はもちろん営業スマイルで――何事も、第一印象が肝心なのだ。
*
転生してからかれこれ20年は経ったと思うが、幼少の頃の記憶が曖昧なもので年齢についてはまぁとりあえず成人はしている、というくらいの認識だ。
これといったチート能力なし。
おそらく特典的なものは原作知識の定着、くらいのものだろう。
「そ、粗茶です」
女性に対する免疫が少ないぱっつぁんこと志村新八君、ガッチガチに緊張しておられる。
たかが道を教えるだけでしょうに。私なんかにドギマギされてもこっちがやりにくい。
「君一人なの?」
「あぁえっと……他にも二人いるんですけど、生憎今は買出し中でして……すみません」
なるほど、今の時間は物語の幕間、つまり日常風景的な位置にあるのか。
確かにアニメでも原作でも万事屋の丸一日、細かく全部を描くことはない。これこそ間近で、現実で見られる、転生のメリットといったところか。
「じゃあ、早速依頼なんだけど。不動産屋さんの場所教えてください」
「は、はいっ」
ばさっと机に地図が開かれる。
新八の説明を聞き、とりあえずここから一番近く、評判の良い不動産屋を紹介してもらった。
……物事が滞りなく進んでいる。いや、問題児達がいないとこんなにも平和なんだなぁ。
「ありがとう。これ報酬ね」
「いえ、単に道を教えただけですし……」
無視してとりあえず机に適当な量の札束を置く。
それを見て一瞬固まるメガネことぱっつぁん。
「え、ちょ……っ」
「ありがとなー親切なメガネくーん」
「いやいやいやいや、ちょ、こんなに受け取れませんって! ただ道教えただけですよ!?」
騒ぐ新八を置いて玄関、靴を履いて外に出る。
「遠慮すんなって。リーダーさんによろしくね」
「いやでも、」
ったく、人の親切は素直に受け取れってのに。
これなら家賃5ヶ月分は返せるし、それをしなくても少しは食費の足しになるだろう。
このまま付いてこられても困るので「じゃあなー」と、手すりから飛び降りる。
「ちょっと!?」
足に負担がかからないよう地面に着地し、後ろは振り返らず、ただ手をヒラヒラさせて教えて貰った通りに道を歩き出す。
するとそのとき、聞き覚えのある二つの声が後ろから聞こえてきた。
『だからってなぁ、酢昆布買いすぎだろ。もう2、3袋減らせばあと一つ何か買えたってのによー』
『銀ちゃんはいつもいちご牛乳しか買わないアル。それなら酢昆布買ったほうがまだマシネ』
『マシって何だ? 一体どういう基準でものを言ってるんだコイツはぁ?
――って、何だ新八。そんなところで何して、』
『あ!? オイ新八、その金どうしたアルか!?』
『いや、これは、えっと……』
『おいぃ!? 何だその大金!? どっから盗ってきたァ!!?』
『ち、違います! ちゃんとこれは依頼の、道案内の報酬で……!』
『たかが道案内でこんな大金が手に入ったら苦労しねーわアアァ!!』
どんがらがっしゃーん、と何か色々物が壊れるような音が聞こえたが無視する。
犬の鳴き声が聞こえないところからすると、まだペットは飼っていないらしい。
「さってと」
本日も青天なり。
まずは――――住民登録用の名前でも考えるか。