銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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親子

 浮遊しているのは神楽ちゃんが乗り込んだであろう宇宙船。

 しかし現在、それにはえいりあんと思われしき巨大なモノがひっつき、異様としか言い表せない光景になっている。

 

 

「……どーすんのアレ。戦うの? マジで?」

 

 今までどんな修羅場をくぐってきたとしていても、流石にあんな巨大生物と戦うなど常軌を逸している。

 ガチモンの星砕だろーが、私は一介の用心棒に過ぎないし、宇宙でえいりあんを倒したことがあるといってもターミナルのエネルギー吸ってパワーアップした化物とか戦おうとも思わない。むしろ生き延びるだけで精一杯である。

 

 人をずるずるとここまで引っ張ってきた新八は、取り付けられていた梯子(はしご)を登り、大声で神楽ちゃんの説得をしていたが、今さっき船がバランスを崩し、壁にぶつかった衝撃で上から落っこちてきていた。

 なんとか受け止めはしてやったものの、やっぱり来るんじゃなかったと後悔する。

 ……今更、ここまで来て帰ろうとは、素直に思えないが。

 

 

「――てめーら、何しに来た?」

 

 声のした方を見ると、そこには星海(うみ)坊主さんが立っていた。

 新八は気絶したまま――てことはここは私が答えなきゃいけないのか。

 

「別に。私はただ引きずられてきただけですよ。アンタ、娘さんはどうしたんだ」

 

 他人事のようにそう問いかける。

 自分から勝手に境界線を引いてそこから先は絶対に踏み込まない――職業病。別段、克服しようとも思わない。

 

「……アイツのことだ。他の連中を気遣って船に残ってるかもしれねェ」

 

 船はターミナルを突き破り、機体の一部が外に出てしまっている状態だ。

 内部であるここもじきに、船に巻きついているえいりあんに呑まれるだろう。しっかしあの触手ホントに気持ち悪いな。

 

「おい、しっかりしろ坊主」

 

「……アレ、花畑じゃなくて焼け野原が見える……」

 

 誰の頭が焼け野原? と永遠に花畑で楽しく過ごさせてやろうかと拳を握る星海坊主さん。

 新八も復活したようだ。後は主要メンバーで何とかしてくれればいいのだが――

 

「さっさとお前らも逃げろ。死ぬぞ」

 

「僕も行きます。神楽ちゃんは……ほっとけない」

 

 真直ぐな瞳でそう言う新八。

 確かに、万事屋は3人いてこその万事屋だ。もう家族のようなモンである。

 

「邪魔だ、帰れ。テメーらみてーなひ弱な生き物にいられたら迷惑なんだよ」

 

 ここは俺達の居場所だ、と告げる星海坊主。

 その眼はまさしく、幾多の戦場をかいくぐってきた本物の猛者のもの。

 だが同時に、戦を好む狂気もはらんでいるようにも見える。

 

「……でも、」

 

 口を開きかける新八――その瞬間、私は動いた。

 背後に忍び寄っていたえいりあん。

 本来ならば星海坊主さんが気付いて倒すハズだったモノ。しかし、気付く前にほんの少し速く動き、腰にあった妖刀を抜いて一気に切り裂く。

 

「あっぶねーなオイ。もうちっと周り気をつけろよメガネ」

 

 ドシャッと地に落ちる禍々しい生物の一部。

 ……こんなものが大量にいる場所にこれから行くってか。結構ハードだなぁ。

 

「テメェ……それ本当に木刀か?」

 

「一応は。坊主さん、貴方の言いたいことはお察ししますけどね、今はとっとと娘さん探した方がいいですって。あんな状態の船、中で何が起こってるか分かりゃしませんよ」

 

 今頃は、一人でえいりあんと戦っているか、バカ皇子とそのお付きを助けるために動いているか――行ったってもう遅いかもしれないが、ここでグダグダ話していても仕方ない。

 

「すみません……僕が連れて来たせいで巻き込んでしまって……」

 

 その台詞を言うのは今更だぞ新八君よ。

 ずるずると引きずられる前に、こっちは昨日の銀行強盗から巻き込まれてるようなものだ。

 

「助手は……まぁ比較的安全そうなルートをどうにかして見つけろ。私は親父さんに借りを返さなきゃいけない」

 

「借り? 俺ァ、何もした覚えはねーぞ」

 

 ……確かに、ここまで巻き込まれてばかりだったが、この人はきちんと前払い(・・・)をしてくれている。

 報酬は最後に受け取ると決めているが、今回はその順番が逆になっただけだ。今までとやってきたことと何ら大差はない。

 

「一飯の恩だよ。パフェ、奢ってくれただろ」

 

 金はいらないと言い、報酬には食料を受け取っていた日々。

 安定した生活を求めず、生きることだけに執着していた時期。

 

 金でも食料でも、一日生き延びることができるなら用心棒としての仕事は敵が何であろうと引き受けた。巻き込んだ謝礼のパフェでも当時の私にとっては十分過ぎる報酬だ。

 今は――用心棒というより、えいりあんはんたー紛いのことをしようとしているのだろうけど。

 

「パフェ一つでアレと戦う? オメー、死ぬつもりか」

 

「誰があんなのと戦うなんて言ったよ。私がやるのは迷子捜しだけだっての」

 

 どちらにしろ、アレと戦うハメにはなるだろうから星海坊主さんの指摘は正しいのだが……死ぬつもりなど毛頭ない。せいぜい、私が行うのは主人公(ヒーロー)が登場するまでの時間稼ぎである。

 

「――……勝手にしろ」

 

 心底呆れたような声色で呟く星海坊主さん。

 話は決まった。なら、さっさと片付けよう。

 

 

 *

 

 

「えいりあんがなんぼのもんじゃーい……って、こりゃ流石に無茶か……?」

 

 次から次へと襲って来る触手の束。

 それを斬ったりかわしたりしてなんとか道を拓く。

 外まで出ることはできたものの、未だ赤いチャイナ服を見つけられていない。

 

 原作での出血量、滅茶苦茶痛そうだったもんなぁ……せめて、大まかな流れは変えられなくとも、あの傷をもう少し軽くしてやることはできないだろうか……?

 しかし既にどこかで倒れてしまっているのなら、まずは例のバカ皇子でも――

 

「「わああああ!!」」

 

 噂をすればなんとやら。

 喚くバカ皇子とそのじい発見。

 ということは――神楽ちゃんが近くにいる、という証明でもある。

 

「早く! こっちアル!」

 

 ハッキリと聞こえた声。

 見ると、二人を助け出すため、足に巻きついた触手を傘でぶち斬り、えいりあんへ突進する神楽ちゃん。

 おかげでバカ二人の方は間一髪、化物からの猛攻から逃れるも、囲まれた彼女はここで手傷を負う。

 

 本来なら。

 

「――ぃ、」

 

 胴体に衝撃があった。

 脇腹から血が滲んでくるのが分かる。掠めたか。

 

 だが構わない。矢継ぎ早にえいりあんの攻撃をさばいていく。少しは休ませろというのが本音だ。

 向こうのペースが徐々に落ちていくのを確認し、完全なる休息の場ができあがると一息吐く。

 

 神楽ちゃんは……気絶している。私ができたのは、せいぜい攻撃の衝撃を削いだだけだ。まぁそこまで血が流れていないので、原作よりは軽症で済んだらしい。目的達成。

 

 狙い通りの結果だったのはいいが、少し動きにくくなってしまった。

 保護者たちは一体いつ来るのか。坊主さんの方はともかくとして、今頃の銀さんは散々カッコつけた末、えいりあんに定春共々呑まれているだろうし――

 

「あー、クソ」

 

 束の間の休息というのはこのことだろう、またもやうじゃうじゃと例の触手が集まってきた。

 

 今回の私の仕事は「迷子を捜して見つけ出す」こと。

 つまりその迷子を護る、までは含まれない。

 ならば私自身が勝手に場所を移動して勝手に戦えばいいだけだ。迷子は見つけ出したので後は保護者さん達の到着を待ちながら、帰りの道に邪魔な奴等を葬っておこう。

 

「おい係長。もしもこのチャイナと似たおっさんが来たらコイツ預けといてくれ」

 

 隅で体育座りとして縮こまっているバカ皇子達に一方的にそう告げると、えいりあんの攻撃が始まる前にすばやく移動する。

 

 ――傷の痛みは、もう感じていなかった。

 

 

「神楽ちゃァん! どこ行ったァ!? お父さんはここだぞォォ!!」

 

 ――ふと、どこからか星海坊主さんの声が聞こえた。やっと来たか。

 

「……おっと、」

 

 危ない危ない。少しでも気を抜くとまた怪我が増える。

 これ以上この相手に不利になるのはヤバい。

 

 

「神楽アアアアア!!」

 

 

 待ちに待ったヒーローのご登場。

 触手に捕われ、呑み込まれようとした神楽ちゃんと、その口を破って出てきた銀さんと定春。空中で手を伸ばす銀さんと神楽ちゃんだが、届かない。

 それでも定春の背からえいりあんの触手へと飛び移る銀さん。続いて星海坊主さんも触手にしがみついた。

 

 互いを罵り合いながらえいりあんを次々とかっさばいていく。

 その様を見ていると、やはりあの保護者二人は規格外だということを改めて思い知らされる。

 

 とりあえず私も最後の舞台に向かうとしよう。

 松っちゃん砲……正直不安だが、少しは時間を稼げるだろうか……?

 

 

 *

 

 

 爆音がした。

 おそらくは肥大化し、えいりあんの「核」が船底を突き破ったものだろう。

 空の方を見ると、既に幕府の軍艦が迫ってきている。

 松平さん、下手したらアンタの手駒も木っ端微塵ですよ。

 

「今撃ったらもれなく国際問題だぞォ!!」

 

「たった5分でいいから待てって言ってんだよォ!!」

 

 お、核んトコにメガネと定春とバカ二人みっけ。

 皇子を人質にしたか。いい考えだとは思うが、いかんせん相手が悪すぎる。

 

「あ、ソラさん! って、その傷……!」

 

「そこらで引っ掛けただけ。それよりチャイナはどこいった?」

 

 訊くと、今は銀さんが助けに向かっているとのこと。

 というかこの核の中。神楽ちゃん達が出て来る前に、私は私で時間稼ぎしといてやりますかね。このままじゃ私も死ぬ危険性あるし。

 

「? どうしたんスかソラさん。携帯なんか出して……あっ」

 

 新八君はどうやら察したようだ。頭の回転が速い。

 携帯に登録してある番号を選ぶ――といっても、あるのは1件だけだが。

 

 

『なんだァおい。こちとら仕事中だぞ』

 

 

 数回のコール音の後、破壊神・松平片栗虎様が応じてくださった。

 まだスイッチ押してないよね? 大丈夫だよね?

 

「長官どのー。ちょっと今撃つのやめてもらえます?」

 

『あん? その声は絶条か。オジさん今忙しいんだよォ、話なら後にしてくれや』

 

 後にしたらこっちが死ぬんだよ……

 何のためにわざわざ電話したと思ってるんだ。

 

「いや私もエイリアンのトコにいるんです。撃ったら手駒よばわりされてる私も人生おじゃんなんですよ」

 

『はアァ? なーんでここでテメーが出て来るンだよ。早く帰れや』

 

「帰る前に死にそうだからこうして電話してんでしょーが。ちょっと待ってください。最低あと5分ちょいでいいんで。変なボタンとか押さないでくださいよ?」

 

『いや、5時から娘の誕生パーチーあるから……』

 

 パーチーが何だってんだ。本当にこの人も親バカだな。

 

「行くのは時間ちょっきりよりも最後チラッとサプライズ的な感じで出てきたほうがいいと思いますよ。プレゼントもコッソリ枕元に置いておくのがいいんじゃないですか」

 

『それクリスマスのだろうが。もういい? 5分経ったっしょ』

 

 早い早い早い!

 待て、待ちやがれ松平。何、スイッチに手ェ触れてないよね! 押すなよ!? 絶対に押すなよ振りじゃないからな!!

 

「ストップストップ! ちょっと待……!!」

 

 ピッ、という音が電話の向こうから聞こえた。

 すると船の大砲にエネルギーらしきものが充填されていく。それを遠い目で見つめる私。

 

「……アレ、なんか……撃とうとしてない?」

 

 その通りだよバカ皇子のじい。

 あぁ……あんな無茶苦茶な人を説得するとかいうのが無理な話だったんだ……

 

「……ソラさん、まさか……」

 

 嘘でしょ? と言いたげに顔が真っ青な新八に私はこう告げる。

 

「生きとし生ける者全てに祝福あれ」

 

 棒読みで聖書に書いてありそうな言葉を呟き、ピッと明後日の方向を向いて通話終了のボタンを押す。なす術なし。さようならセカンドライフ。

 

「ってことは、失敗したってかァァァ!!? ねぇソラさんンン!?」

 

 ツッコミが痛いぜ新八……なんなら一回だけでも長官さんに会ってみろというもの。出会い頭に発砲してくるヤバい人だから。警察ってよりヤクザな方だから。

 

 

「――それ私の酢昆布ネェェ!!」

 

 

 と、核から赤いチャイナ娘と銀髪の侍が飛び出してきた。

 形としては、神楽ちゃんが銀さんを殴ってそのままぶち破ってきた、みたいな。

 衝撃で周りの奴等が吹っ飛んだが、運よく私は電話をする際、隅っこにいたので事なきを得た。

 あれ? こんなん前もなかったっけ?

 

「いくぜェェ!! お父さん!」

 

「誰がお父さんだァァァ!!」

 

 銀さんと星海坊主さんが核に攻撃を入れる。

 おかげでえいりあんの動きは鈍くなったが、今一番心配すべき問題は……

 

『早く逃げろォ! おっさん知らないよ、おっさんは一切責任とりまっせん!!』

 

 スイッチ押した張本人が何か言っている。

 

 新八は本体であるメガネを探しているし、神楽ちゃんはまだ意識が戻ってないようで銀さんを蹴飛ばしたり殴ったりして暴れまわっている。あ、星海坊主さんの毛根が死滅した。

 

 そこまで見届けた直後。

 

「……あっ」

 

 

 次の瞬間、視界が白く染まる。

 ターミナルに巣くっていたえいりあんが消し炭にされる音。

 何より鼓膜を刺激するのが真っ向から放たれた砲撃による轟音。

 

 今までこんなにも死を身近に感じたことはあっただろうか。

 私が覚えている限りの記憶では、おそらく前世の――――、

 

 

 視界が開けたときに見えたのは、髪も衣装もボロボロな星海坊主さんの背中。

 周囲のものは焦げ、あちこちから煙が上がっている。

 

「俺も焼きがまわったようだ……他人を護って、くたばるなんざ、」

 

 グラリと身体が揺れ、その場に倒れこむ。

 本当に――傘一本でアレを止めたのか……

 

 銀さんと新八が坊主さんに駆け寄って呼びかける。

 私の傍らには意識がなく、眠ったままの神楽ちゃん。

 二人共、他人を護って気絶する辺り、やっぱり親子だな。

 

 物語終息の気配を感じながら、そんなことを思った。

 

 

 

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