勧誘
「あ、絶条さァーん。そんなトコで何やってんですかーぃ」
突如かけられた間延びした声。
きょろきょろと辺りを見回していると「下ですよ下ぁー」と言われた方角を見ると川に赤いアイマスクをつけているサディストが流れていた。
えーと、このシーンは……ちょっと前にニュースで巨大化した定春が映ってたから、その後……銀さんの隠し子篇か。
相変わらず予想外の場面に遭うなー……どういう反応すればいいんだこれ。
「散歩だよー。お前は何だ、そのまま海にでも行くつもりかー?」
「別に行きやせんよー。どうやって陸に上がろうかと考えてたところでしてー」
「へぇーそうなんだー頑張れよー」
相手が誰だろうとどんな状況だろうと私には関係ない。
そそくさとその場を離れようとした――のだが。
「俺から川の脅威を退けてくれた暁には何か奢りますぜー」
分かりにくいからそこは普通に「引き上げるのを手伝って欲しい」と言え。
「ハーゲン3つな」
引き上げるや否や、びしょ濡れの依頼人に対して報酬を要求する。
コイツのことだ、下手をしたらいつの間にか報酬未払いで姿を消されるかもしれない。
「
濡れた上着の裾をしぼり、せめて1つ、と交渉を持ちかけてくる沖田総悟。
まぁ別に、報酬が貰えればそれでいい。
「しっかし、まさか橋の上から釣り上げられるとは……縄はともかくとして、竿の部分はどうしたんですかィ? まさか女一人の力で俺を引き上げたわけじゃねーでしょう」
「橋の手すりをよく見ろ」
言うと、沖田はナルホドと納得の声を上げ、縄が括りつけられている手すり部分を確認し始めた。
私も上から覗き込んでみると、そこには若干ながらヒビのようなものが――
「……用心棒サン、これって器物損壊……」
「お前も共犯だろ」
とりあえずその場は、人命救助という名目と報酬のダッツの支払いで、二人共何も見なかったことにする方針で決まった。
別にいいよね、あの橋これから何度も壊れるし!
「アンタ、用心棒って割には何でもやりやすねェ」
「私はただ川の脅威から依頼人を護ってやっただけだよ。昼寝すんならもう少し場所を考えろ」
「ありゃ違いやすって。万事屋の旦那に投げ捨てられたんですよ」
……川に投げ捨てられるなんて事態、日常では起こらないのだが。
もはや一つの事件である。
投げ捨てる方も、投げ捨てられる方も、尋常な人間じゃないのが伺える。
「なんでも旦那の奴、隠し子がいたそうで。ホント、クリソツだったんでさァ」
聞いてもいないのにペラペラと喋る。
なるほど、こうやって色んな誤解を生み、事件が起こるから銀魂の世界はいつも騒がしいのか。
きっとこの世界で主要人物とされている者は、事件の種を知らず知らずの内にまいてしまう奴のことを言うのだろう。
「隠し子ねぇ。あんなダメ侍に相手なんていたっけ?」
「相手までは分かりやせんけど、あの死んだような目なんて瓜二つでしたぜ。旦那もスミにおけねーや」
……銀さん本人が聞いたらまた川に投げ落としそうだな。
ていうかそういう台詞を吐いたから投げられたんじゃなかったか。
「んじゃ、俺も公務に忙しいからこれで。あと橋についてはご内密に」
わーってるよと手を挙げて見送る。
アイマスクつけてる時点でサボりだろうに、白々しい。
*
「おや、こんなところで会うとは奇遇だなブルジョワ殿。さては貴様も国を変えんがため、攘夷活動を――」
「しねーよ。あとブルジョワって呼ぶのヤメロ。絶条だ、絶条ソラ」
あえてブルジョワというのは否定しないでおく。
警察の次は坊さんに変装したテロリストか。銀さんは――まだ来てないのか?
「おい、ヅラ! ――っと、テメーは……」
現れたのは子守り狼こと、腕に
「……腐ってんなー」
私が発した言葉に一瞬キョトンとする。
しかしすぐさま、
「いやいや違うって! 俺の子じゃねーって!!」
と、激しく首を振り全力で否定。
事情は知っているものの、誤魔化すにはハードルが高い。
「どうした銀時。というか貴様いつの間に子を……」
尋ねる桂さんに、銀さんはなるべく手短くこれまでの経緯を語った。
見知らぬ赤子、それを追う橋田屋の名を口にする連中――もうじきここにも来るので、少し隠れさせろ、という要望。
「絶
「絶『条』な。そしてお前は缶という容器についてもう少し考えろ」
桂さんが差し出したのは「みかん」と書かれた缶詰だった。
バカだ、やっぱバカだよこの人……
銀さん、勘七郎君と共に、路地を塞ぐ形で置かれている壁の裏側へ隠れ潜む。
横にいる二人を改めて見比べる。やっぱりクリソツ。
「どこへ行った!?」「向こうを探せ!」
追っ手らしき者の声とその足音が壁越しに聞こえてきた。物騒。
音が遠のくと、桂さんから行ったぞ、との合図。
行ったぞと言われてもなぜだか即座に出ようという気がしない。一応の間を取ってから、としばし壁にもたれかかる。
「……行ったと言っている」
二回目の声を聞いて外に出ようと立ち上がるが、外を見ると桂さんが先ほどのみかんの缶に向かって「行ったと言ってるだろうがァァ!」と叫んでいた。
続いて「んなトコ隠れられるかアア!!」と銀さんがツッコむ。仲良いなこの人達。
桂さん曰く、先の追っ手はおそらく攘夷浪士とのこと。
そしてその雇い主が銀さんソックリの赤子と関係ある人物……て、いや全部知ってるケド。
……この事件、「人斬り
本格的に動き出す時期は紅桜篇。赤子回が今日ということは、事が起こるのはそう遠くないだろう。
似蔵と面識を持つのは今じゃなくてもいい。そもそも鬼兵隊と関わるのは紅桜篇からでも十分間に合うし。
溜め息を吐き、その場から離れようと足を踏み出す。
「む? もう行ってしまわれるのか。攘夷はいいのか攘夷は」
「だからやんねーって。何でアンタそんなに勧誘してくんの」
攘夷だのJOYだの、私はそんな面倒なことはやらん。
というか警察庁長官と繋がりのある奴が攘夷志士になったりしたら色々問題だろ。
「何を言うか。貴様もかつては我々と戦を共にした者であろう?」
――――……はい?
これぞまさしく絶句。あえて浮かんだ感想を言うならそんな馬鹿な、である。
何だ、新手のボケか、それとも
……確かに、前世の記憶が戻る前のことはあやふや……というか覚えていないといっても過言ではないのだが。
しかし、花見のときに思い出したもっさんこと坂本社長の声。
攘夷戦争と無関係とは言い切れないのも事実だ。
「ちょっとちょっと!? ナニお前、何マジになって考え込んでんの!? おいヅラ! 人の記憶まで勝手に改ざんしようとしてんじゃねぇ!!」
「銀時、お前覚えてないのか? まぁ俺も最近思い出したことだから無理もなかろう。この
「どこまで話作り込んでやがんだよ! コイツはただの用心棒! 攘夷志士じゃねーって!!」
そう、銀さんの言う通りである。
私はただの用心棒であって攘夷志士ではない。
たとえ、記憶が戻る前に攘夷志士と繋がりがあったとしても、今更攘夷に加担することなどは考えない。
……私としては、坂本が連れてきた、の部分がものすごーく気になるんですけれども。
もしかすると全てヅラの妄想かもしれない――本当かもしれない……かもしれない……
深く考えるとキリがない。一旦思考を止める。
「――さて、私は面倒事に巻き込まれる前においとましますよ。子育て頑張れよお父さん」
「だから違うっつってんだろうが! なんで俺の周りには話を聞かねー奴ばかりなんだ!?」
それはアンタも話を聞かねー奴だからです、と原作での沖田の台詞をパクる。
過去については気になるところもあるが、ひとまずその件については保留だ。
詳しくは坂本さんに聞こう。あの頭カラの人が覚えてるか分からないけど。
そもそも宇宙にいるから会える機会なんてまず少なすぎると思うけど。
――しかし時を待たずして、かの坂本辰馬に会えるとはこの日の私は知る由もなかったのだった。