銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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妖刀

 既に日が落ちた頃、食料の買い足しにコンビニへ向かう。

 

 報酬で金を貰ったのは確か松平さんが始まりだったか。

 貰った当初はなんとか前世の記憶をほじくり返して金の使い方を思い出し、値段の計算も転生してから全くやってなかったから慣れるまでは苦労した。

 

 ……自分が何かをする代わりに何かを貰う。

 「与えて与えられる」、これも坂本さんのおかげで得られた知識か。流石は宇宙を股に掛ける大商人(あきんど)

 

 

「あれ、ソラさん? 奇遇ですね」

 

 

 声の発生源へ目を向けると新八がいた。

 やはり予想外のところで出逢う。今度は何だ、つか今日は一体何のイベントだ。

 

「小腹がすいてな、あんぱん買いにきた」

 

「あんぱん好きなんですか?」

 

「好きじゃねぇよ」

 

 即行で否定するとえぇ……? と釈然としないさそうな表情をする。

 別に毎日食ってるわけじゃないが、何か食べたいと思うとなんとなくあんぱんに手を伸ばす。原因はきっと……というか完全に山崎だろう。彼が食べているところを実際にまだ見たことはないが。

 

「助手は何してんの?」

 

「いやぁ、ちょっとおつかい……的な? コロッケパンあります?」

 

 コロッケパン……てことは紅桜篇か。

 おつかい、ってかパシりだろ。

 

「もう売り切れてるよ。というか私ので最後だ」

 

「ええっと……それを譲ってくれる、とかは……」

 

「断る」

 

 流石の私もあんぱんだけ大量に買うなどというマネはしないし、あんぱん以外のものも食べる。

 一方の新八はじゃあ似たようなのでいっか……とやきそばパンをカゴに入れていた。

 ……どうせ焼きそばパンもコロッケパンも食べることはないんだけどね。

 

 

 *

 

 

「ソラさん、最近巷で噂の辻斬りって知ってます?」

 

 コンビニを出ると新八がそう切り出してきた。

 案の定、内容は桂さんが辻斬りに襲われたかもしれない、というもの。

 新八とエリザベスはそれを調べるため、辻斬りに話を聞くとかなんとか。

 ……かなり危険だろう、それ。

 

 なんて説明を聞いていると、いつの間にかエリザベスが待っているという路地裏に着いていた。

 

「ちゃーすエリザベス先輩! 焼きそばパン買ってきましたァ!!」

 

『俺が頼んだのはコロッケパンだ』

 

 ちらりと新八がこっちを見てくるが無言を貫く。渡すつもりなど更々ない。

 

「でも、やっぱり無茶じゃないっスかね。まだ犯人が辻斬りと決まったわけじゃないし……」

 

 言いながらエリザベスの元に歩いていく新八。

 するといきなりエリザベスが振り向いたかと思うと、刀を振り回してきた。

 

「なにすんですかァちょっとォォ!!」

 

 抗議の言葉を叫ぶ新八。

 振り返ったエリザベスの頭に巻いていた鉢巻には「打倒辻斬り」の文字が書いてある。殺る気満々じゃねーかエリゴサーティーン。

 

『俺の後に立つな』

 

「うるさいよ! どっちが前だか後ろだか分からん身体してるクセに!!」

 

 それは言えてる。

 

 

「オイ」

 

 振り向くと提灯(ちょうちん)を持った奉行所の人が立っていた。

 傍らでビクッと肩を揺らした新八だったが、正体が分かるとホッと息を吐く。

 ……安心するなよ新八君。

 

 役人が注意を促す――しかし、その言葉は唐突に途切れた。

 

 

「辻斬りが出るから危ないよ」

 

 

 ソレ、辻斬り(本人)が言うことか。

 役人が斬られ、悲鳴を上げる新八に対し、私は何を考えることもなく自然と身体が動いていた。

 

 相手を確認したと同時、近くにあったゴミ箱を思い切り蹴り飛ばす。

 ……一瞬聞こえた呻き声には聞こえないフリをする。すまん主人公。

 

「おっと……突然危ないじゃないか」

 

 全然危なくなさそうに避ける辻斬り――岡田似蔵(おかだにぞう)

 転がって行ったゴミ箱は後ろに設置してあった手すりに激突。

 壊れなくてよかった……でもアレ、絶対中にいる人は気絶してるな。

 

「人斬り似蔵……! (くだん)の辻斬りはアンタの仕業だったのか!?」

 

「知り合いか助手? 随分と物騒な友達持ってんのな」

 

 自分で言っておいて何だが、コイツは物騒では済まない。

 

 腰にある木刀を抜く。

 妖刀VS妖刀。

 星砕(ほしくだき)紅桜(べにざくら)

 ……勝敗は使い手の腕次第か。

 

「ほォ、何者かと思えば……女か。にしては変な気配だねェ」

 

 それは一体どういう意味で言っているのだろう。

 私の気配がそうなのか、それとも転生の――、

 ……ま、魂が見えるという岡田なら勘付いてもおかしくはない。

 

「アンタ、辻斬りなんだろ? 最近、名の知れた攘夷志士と()り合わなかったか」

 

「桂のことかィ? 奴ならもう斬っちまったよ。知り合いだったなら、すまんことをした」

 

 せめて形見だけでも返すよ、と桂さんのものと思われる黒髪を差し出す。

 ……死体の確認はちゃんとしたのかね?

 

「ソラさん、気をつけてください。そいつ居合い斬りの達人ですよ!」

 

 それは知ってるけど……うわー、近寄りたくない。特に刀の方。

 

「俺は強い奴を捜してるんだ……アンタはどうなのかねェッ!?」

 

「――ッ!」

 

 ガキンとぶつかった刃同士の音が反響する。

 路地裏近くじゃ逃げ場がない。一旦、路上に出るか。

 

 似蔵の足を蹴って隙を作り、その間に軽く跳躍して移動――した瞬間に襲ってきた刃を紙一重でギリギリかわす。

 

「逃げるだけかィ?」

 

 逃げるだけ――てーか、こっちから攻撃したら紅桜の経験値にされてしまう。思うように動けないというのが実際のところである。

 

 その時、奥で先ほど蹴り飛ばしたゴミ箱からうぞうぞと銀色の何かが動いているのを確認した。

 意識が戻って来たか――ならば後は任せよう。

 

 一歩で似蔵の懐へ入り込む。

 間合いに入るのはかなりのリスクを伴うがそれを理解(わか)っている上での行動。

 ここで倒れてしまっては今後の展開に支障をきたす相手なので、力加減には注意しながら木刀で胴体を叩く。

 

「――ッ!?」

 

 怯む似蔵だったが、紅桜の方はそうはいかない。

 紅色に輝く刃からは以前、ターミナルで戦ったえいりあん並に気色の悪い触手が(うごめ)いた。

 

「危ねっ」

 

 傍から見ればそこまで危なくなさそうな声を上げながら触手――というかコードのようなものを慌てて斬って引きちぎる。

 こんなのもう相手にしてられない……つかしたくない。そう思いながら刃を紅桜が乗っ取っている右側の肩甲骨付近へ突き刺し、力任せに後ろへと押し返す。

 

「ッ――女にしてはやるねぇ、アンタ」

 

「そりゃどーも」

 

 私というよりは、星砕の方が凄いのだろう。

 本来なら既に吹っ飛ばされているところを、この木刀が衝撃をも粉砕し、使い手の私を立たせてくれている。

 木刀を抜き、その上さらに胴体へ一撃――と、いこうとするがそこで紅桜が動いた。

 

「いッ!?」

 

 咄嗟に後ろへ跳ぶ。

 斬られたかと思った腕は無事。

 せいぜい衣服を掠っただけか。しかし反応が一瞬でも遅かったら……

 

 私が怯んだのを好機と見たか、紅桜を使ってさらに攻め入る似蔵。

 だがこちらも扱っているのは同じ妖刀――反射的な行動で相手の刃を防ぐ。

 紅桜の攻撃を防ぎ切り、全く折れる気配を見せないからか、似蔵が訝しげに眉を潜めた。

 

「……おかしいねオイ。アンタそれ、本当に木刀かィ?」

 

 質問に答える気はない。

 ここでの台詞は――

 

 

「おかしいねオイ。アンタらそれホントに刀ですか?」

 

 

 似蔵の背後から、銀色の侍が姿を現した。 

 振り返ろうとした人斬りだったが、その前に銀さんが設置されていた手すりごと川へ叩き落とす。

 満を期して主人公登場! ……と言いたかったが、遅れた理由が私なので何も言わないでおく。

 

 ……てか、結局似蔵と銀さんの立場入れ替わっちゃったな。

 紅桜さん、なんとか仕事してくれるといいんだけど。

 

「ったくよー、なんであそこで蹴るかね。おかげで出遅れちまったじゃねーか」

 

「なんだ、死体でも入ってるのかと思ったけどアンタだったのか」

 

 白々しい、と皮肉気に言う銀さん。

 いやこの人が言うのだから皮肉以外の何物でもないだろう。

 

「銀さん……何でここに!?」

 

「目的は違えど奴に用があるのは一緒らしいよ新八君。ったく、妖刀を捜してこんな所まで来てみりゃ、どっかで見たツラじゃねーか」

 

 川へ落とした似蔵を見ながらそう言う銀さん。

 相手の方といえば、銀さんの姿を確認するとにやりと笑う。

 

「嬉しいねェ、わざわざ俺に会に来てくれたってワケだ。桂にアンタ……そしてそこの()()お嬢さん。こうも強者(つわもの)を引き寄せてくれるとは、紅桜(コイツ)は俺にとって吉兆を呼ぶ刀かもしれん」

 

「……下がってろ。アレの相手は俺がやる」

 

 アレの相手は通販で買った妖刀(紛い物)でも無理があると思うのだが――

 

「あ、そう?」

 

 だがここはお言葉に甘えて下がっておくことにした。面倒なことを代わりに引き受けてくれる奴がいるのならそいつに任せればいい。

 決断早ぇのな……と呟く銀さん。悪いなホント。

 

「えぇ!? ちょ、ソラさんん!?」

 

 そこは共闘とかじゃないんですかー! と新八。

 だってここで私が手ェ出したらシナリオどーりに銀さんが気絶してくれないもの。ま、死なない程度には手伝うつもりではいるけれど。

 

 

 *

 

 

 夜のかぶき町の片隅で、剣戟の音が響き渡る。

 銀さんと似蔵による攻防戦はしばらく続いていたが、銀さんの木刀が紅桜の触手によって捕らえられたところを見ると、どうやら原作の展開に戻ることができたらしい。

 

 ……私が紅桜にあんまり攻撃するなよとアドバイスしていたら、もう少し話も変わっていたのかもしれないな。

 

 ついに木刀が折られ、銀さんは壁へ打ち飛ばされた。

 

「銀さああああん!!」

 

 叫んだのは新八。

 態勢を立て直そうとした銀さんだったが、いつの間に斬られたのか胸板から血が吹き出る。

 そこへさらに追撃しようとする似蔵、否、紅桜の剣先。

 ……本日第二の介入は、この辺りか。

 

「――あん?」

 

 怪訝な声を出す似蔵。

 それは斬れぬものはないと断言されるほどの紅桜が、またしても一本の木刀の前で止まったからだろう。

 

「気をつけろよ。私のは……いや、私のも妖刀(ガチモン)だからな」

 

 ビシッ、と紅桜の剣先にわずかながらヒビが入る音を聞く。

 ……これ修理されるよね? 大丈夫だよね? 鉄矢さんマジよろしく頼むよ。

 

「なッ……」

 

 思わぬ事態に後ろへ後ずさろうとする似蔵。

 だがそれと同時に上から跳んできた新八が似蔵の腕を叩き斬る。

 ひゅー、かっこいいぞメガネー。

 

「……腕が取れちまった。酷いことするね僕」

 

「それ以上来てみろォォ! 次は左手をもらう!!」

 

 じっと両者が睨みあっていると、頭上で笛の音が鳴った。

 

 うるさいのが来た、としっかり紅桜を回収して逃走する人斬り。

 銀さんは……気絶してしまったようだ。

 新八は必死に呼びかけているが、この人は明日になるまで起きない。しばらくは主人公の休息期間であろう。

 

 

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