それは日も暮れて、月が出てきた頃のこと。
俺は仕事帰りにコンビニへ寄り、今週発売のジャンプを取ろうと雑誌売り場に手を伸ばした――
「「ん」」
手はもう一つあった。
またいつぞやの銀髪野郎かと顔を上げると、そこにはどこにでもいそうな一般人のお嬢さん……いや、腰に木刀を差している。あいつのファンか何かか?
「……一冊しかないですね」
「……そーだな」
最初の一言は至って普通だった。
さて、ここで俺は男らしく初対面のお嬢さんにジャンプを譲ってやるべきところなのだろうか……
顔は悪くない。ただし目付きにはどこか鋭さがあり、「一般人」という括りに入れていいものなのかと一瞬迷ってしまう。
パッと見はただの一般人だ。
しかし木刀とセットで見るとなんとも奇妙な雰囲気が拭えない。
「どうします? 私もうかれこれ7、8軒は捜しまわったよーな気がするんですけど」
真顔でどこぞの銀髪と同じような台詞を吐きやがった。
あーもうコイツ絶対にアイツの知り合いだな。木刀といい、初対面の男にこの態度といい、こりゃ確定だ。
「いや、俺も10軒くらいはまわったかな。今週はギンタマンが表紙だからかなぁ、どーりで売れてるわけだ」
「私、ギンタマンの大ファンなんですよ。だからもう必死に捜して――あ、あれ入れたら15軒はいってますね、うん」
……全く引き下がる気配を見せない。
それどころか幕府指定有害図書のギンタマンが好きと断言し、あまつさえまわった店の数を増やしてきやがった。
コイツ――できる!!
「……なぁ、もういっそのことジャンケンで決めねーか? グダグダ言い合っても仕方ねーだろ」
これ以上の長期戦は何が起こるか分からない。
今のうちに安全策を提案しておいた方がお互いのためになるだろう。
「会計お願いしまーす」
「何ィィィ!?」
まさかのガン無視!?
……いや、待て。
そうか――つまり相手もこれ以上の言い合いは不毛だと悟ったのだ。
今の状況はただその解決策がお互いにすれ違ってしまったというだけ。
向こうは無視したつもりなどない……が、ここで譲るわけにはいかねぇ!
「オイちょっと待……!」
「300万だっけ?」
ポンと財布からあっさり出したのは――
……え、何。札束アアアアァァァ!!?
ジャンプってそんなに高かったっけェェェェ!!?
フザけんじゃねーぞオイ、どこまで本気でジャンプ
「……いや、あの。できれば小銭で……」
顔を引きつらせながら言葉を発するは店員の男。
そうだよなぁ、突然目の前に札束置かれたら誰だって呆然となるわ!
つーか子供に夢を与えるジャンプが突然そんな高額雑誌になったら子供どころか誰も買わなくなっちまうだろーが!!
アレ、そうだっけ? と至って普通の動作で札束を財布にしまう木刀の女……いや、ブルジョワ女。
一体何者だコイツ……?
「――って、ちょっと待ったぁ!!」
慌てて女の支払いを引き止める。
札束に気をとられてしまったが、目の前でジャンプをそう易々と渡すわけにはいかねェ!
「……あり? 小銭が足りない……やっぱり札で――」
「ハァイ分かったぁ!! もう半分は俺が出してやるよこん畜生!!」
叩きつけるように小銭を出すと、えぇー、と嫌そうな声を上げる女。
しかし全く引く気のない俺の姿勢に諦めがついてくれたのか、もう半分の小銭を払う。
なんとか滑り込んだ……こんな奴にジャンプを渡してたまるかってんだよ。
「だから私が今日読んで明日アンタに貸すって」
「貸すって何だお前。俺も勢い余って金出しちゃったんだぞこんにゃろー」
ミシッ、メキッと音を立てるほどジャンプを掴み、全く譲る気なしの大人二人がコンビニ前で睨み合っていた。
……ここからどうする。前みてーな二の舞を演じるのはごめんだぞ。
「――ん? あぁ、ちょっと失礼」
突如、相手の携帯電話のバイブ音が言い争いを遮った。
これによってしばしの間、相手はジャンプから注意が離れるはず……と思って両手で引っ張ってみるも取れない。どんな握力してやがんだこのアマ!
「はいはい、どちら様――って、あぁ長官?」
は? 長官?
長官って……いや、まさかな。そんなハズ……
「……了解しました。いつものトコですね」
パタンと折りたたみ式の携帯を閉じ、あっさりとジャンプを離す。
するとこちらに見向きもしないで場を立ち去ろうとした。
「え、ちょ、どこ行くんだ?」
「ちょっとキャバクラまで」
何故ここでその単語が出て来る。
キャバ好きの長官……? いやいやまさか。
「女がキャバ行ってどうすんだよ。客のもてなしか?」
「いえいえ、私はただの用心棒なんで。ちょっと護衛しにね」
「護衛って――誰の」
そこで一旦、何か考えるような間が空いてから。
「将軍だけど」
……耳を疑った。
しかし待て。
どこかで聞いたような……
「ぁっそう……で、ジャンプはどーすんだ?」
「あー……いや、いいです。また別の場所捜しますから――、え?」
ジャンプを押し付けるようにして手渡してやる。
札束まで出しやがってたのにこうもあっさりジャンプを手放されると腑に落ちない。
「明日の昼だ。ちゃんと持って来いよ」
そう言って、その場から離れようとしたところであることを思い出し、足を止める。
「――そういや名前聞いてなかったな。俺は
「……絶条ソラ」
随分と変わった苗字だ――いや、これは偽名なのかもしれない。
絶条ソラか……調べてみる価値はありそうだ。