銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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優しさは時に凶器となる
病人


 ――お前さん、そりゃあ妖刀・星砕かィ?

 

 ――その切れ味……本物らしいねェ。

 

 ――一つ、爺の話を聞いてかないかい。なーに遠慮することァないさ。報酬のついでだよ。

 

 

 ――いいかい、この星には「龍脈」と呼ばれるものがあってな――

 

 

 *

 

 

 ――行き倒れていた。

 

 何の脈絡も文脈もないのは許して欲しい。

 一つ明らかになっているのは用心棒の仕事帰り、空腹が極まって倒れてしまったということだ。

 

 頭上からザワザワと人の話し声が聞こえる。

 「おーい生きてるかー?」などの呼びかけ、「救急車呼びます?」という心配する声。

 生きてます。救急車はいらないから食料寄越せ。

 

 

「すみません、何かあったんですか?」

 

「姉上、余計なことには首突っ込まない方が……」

 

「そーちゃんは警察でしょ。困ってる人がいるなら助けてあげるべきよ」

 

 むぅ……と息詰まるような声。

 あれ、誰だっけこの声……そーちゃん? 姉上? 警察――?

 

「おーい用心棒さん。生きてますかィ?」

 

「…………オォ、こんな所でどうしたサディスティック星から来た王子よ……」

 

 未だぼんやりとしている頭でなんとか声の主を思い出す。

 

 あぁ、そうか。

 ミツバ篇――とうとうそんな時期がやってきてしまったのか。

 

「話す気力くらいは残ってんですねェ。何で金持ってるはずのアンタがこんなとこで生き倒れてやがんでィ」

 

「……ショクリョウ」

 

「は?」

 

「一週間くらい前から水しか飲んでねーんだよ……だから、早く、食い物……」

 

 限界だった。

 ――そこで意識が暗転する。

 

 

 /

 

 

「用心棒さーん。起きてくだせェ。アンタが待ち望んだ食料ですぜー」

 

 身体を揺すられて目を開けると、まず感じたのは凄まじい空腹感。

 次に食料と思しき匂い――が、したところでガバッと起き上がる。

 ……そこで今までテーブルに突っ伏した状態だったということに気がついた。

 

「……?」

 

 テーブルの上には何やら()()()()()()がふりかかっている料理が並んでいた。

 しかし料理を用意した相手が何者なのかも毒の警戒もしない。

 空腹。

 ただそれだけが、「彼女」を料理に喰らいつかせる理由になっていた。

 

「ば、馬鹿な……姉上特製の激辛フルコースを物ともしないなんて……!?」

 

「あらあら、良い食べっぷり。そーちゃん、この人とはお知り合い?」

 

「いや、まぁ……」

 

 隣りに座っている男と向かいの席に座っている女が何かを話しているが、「彼女」の耳には届かない。

 ただただ目の前に広がる食料で飢えを満たし、一息ついた頃には全ての料理を完食していた。空き腹にまずい物なしとはよく言ったものである。

 

「初めまして、用心棒さん。私、沖田ミツバと申します」

 

 にこりと笑って話しかけられ、思わず彼女は目の前の女性が言った言葉(なまえ)を復唱する。

 

「…………()()()……?」

 

「はい。こっちは弟の……そーちゃん、ご挨拶」

 

「……沖田総悟。けど姉上、奴ァもう僕の名前は知っていると思いやすぜ?」

 

 あら、やっぱり知り合いなの? と首を傾げるミツバだったが、当の「彼女」はたどたどしい口調で単語(なまえ)を復唱する。

 

「……()()。沖田、総悟」

 

「何でィ、初対面みたいなツラして。用心棒さん、気絶してる間に何かあったんですかィ?」

 

「――、」

 

 ……それっきり、「彼女」は黙り込んで目を伏せる。

 こういう状況――つまり助けられたとき、何と言えばいいか分からないのだ。

 言う言葉は知っている。だが、礼の言葉を言うタイミングが判断できないくらいに、彼女は内側に閉じこもり過ぎていた。

 

 故に、そこで()()()()()

 

 

 /

 

 

「……ハッ!」

 

 意識が覚醒する。

 いや、今まで()()()()()()()()()のだが……いや、どこだここ。レストラン?

 

「『ハッ!』じゃねェでしょーや絶条サン。やっぱりアンタ、どっか打ったんじゃ――」

 

 顔を上げると隣りにはサディストこと沖田総悟、向かいにはその姉――沖田ミツバがいた。

 あ、そうだった。行き倒れてたんだっけか。

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

「……イヤ、結構ぼんやりしてたような……まぁいいや。姉上、もうこの人復活したらしいんで、」

 

「絶条さんっていうの。そーちゃんのお友達?」

 

「姉上ェー!!」

 

 ……ミツバさんのスルースキルが冴え渡っていらっしゃる。

 弟には最強だなこの人。

 

「あー……いや友達になった覚えはないですけど。ご迷惑をおかけしました。拾ってくれてありがとうございます」

 

「いいんです。辛いの、お好きなんですね」

 

 辛いの……? そういえば、口ん中が妙に熱い気が……

 

 もしかして食った? という視線を総悟へ向けてみれば、「そりゃあもう無我夢中に」と強く頷かれた。

 ……空腹時の勢いって、凄まじいな……

 

 

 *

 

 

「――ははぁ、じゃあ嫁入り先に挨拶も兼ねて江戸へ?」

 

「本当ですか姉上。嬉しいっス!」

 

「フフ、私も嬉しい」

 

 ……なんだかんだ、気がつけば雑談に入っていた。

 

 最初こそタイミングを計って出て行こうとしていたのだが、予想以上にミツバさんの口が利き、あまつさえ総悟から「テメー姉上の言う事聞けねーのかオイ」的な殺気を受けたので滞在せざるを得なくなってしまった。何この姉弟(きょうだい)怖い。

 

「でも僕心配です。江戸の空気は武州の空気と違って汚いですから……」

 

 見てくださいあの排気ガス、と総悟が窓の外へと指を差す。

 

 ――あ、このシーンは。

 

 思い出すと同時、サッと両手で耳を塞いでテーブルへと突っ伏した。

 ミツバさんの視線が外に向けられた次の瞬間、遠くの席から覗き見していた山崎と原田を総悟がバズーカで攻撃する。容赦ねぇなおい。

 

「! まァ……何かしら。くさい」

 

「ひどい空気でしょ。姉上の肺に障らなければいいんですが」

 

 オメーがやったんだろォがアアア!! ……という台詞は総悟からのギロリと向けられた視線によって呑み込むこととなった。空気を読むって大事よね。

 

「皆さんとは仲良くやっているの? いじめられたりしてない?」

 

「うーん、たまに嫌な奴もいるけど……僕くじけませんよ」

 

「じゃあお友達は? あなた昔から年上ばかりに囲まれて友達らしい友達もいないじゃない。悩みの相談ができる親友はいるの?」

 

「…………」

 

 横目でこちらを見てくる総悟。

 しかし私は構わず「チョコレートパフェくださーい」と無関係を装った。

 

 

 やがて。

 

「大親友の坂田銀時く……」

 

「何でだよ」

 

 席に座るや否やガシャンと総悟の頭をテーブルへ叩きつける銀さん。

 現在、座席は私がミツバさんの隣へ移動し女性陣と男性陣に分かれていた。

 

「オイいつから俺たち友達になった? つーかコイツ(ソラ)がいるなら俺いらなくね?」

 

「旦那、友達って奴ァ今日からなるとか決めるもんじゃなくいつの間にかなってるもんでさァ。用心棒さんの方はただの成り行きで……」

 

「あっそう。そしていつの間にか去っていくのも友達なんだぜ総一郎くん」

 

「すいませーん、チョコレートパフェ3つお願いします」

 

「あとイチゴパフェ1つお願いしまーす」

 

 総悟の注文に乗っかって2品目のデザートを要求する。

 銀さんはそんな声を聞いたからなのか即行で席に戻った。なんてちょろい。

 

 

「友達っていうか、俺としてはもう弟みたいな? まァそういうカンジかな総一郎くん」

 

「総悟です」

 

 銀さんの方にはチョコパフェが3つ並んでいる。

 私はというとひたすら頼んだイチゴパフェを黙々と食していた。まだなんだか食い足りない。

 

「まァ、またこの子はこんな年上の方と……」

 

 ……この世界、登場人物の平均年齢高いからなー。

 何気に私も総悟より年上だし。

 

(旦那、頼みますぜ。姉上は肺を患ってるんでさァ。ストレスに弱いんです。余計な心配かけさせたくないんでェ。もっとしっかり友達演じてくだせェ)

 

 ヒソヒソやってるけど私には大体話してる内容は分かるぞ総一郎くんよ。

 

「――ん? 何してんのアンタ」

 

 銀さんのチョコパフェがあと一つ、となった頃。

 ミツバさんがその残りのチョコパフェを手前まで持ってくると、タバスコをかけ始めていた。

 

「そーちゃんがお世話になったお礼に私が特別おいしい食べ方をお教えしようと思って。絶条さんもかけます?」

 

「えー……あ、あぁ……お願いします……」

 

 聞くんじゃなかった。こうなることくらいは予測できたというのに……!

 ここで断って咳き込まれても困るのでおとなしくタバスコをかけてもらう。

 アレ、何か多くね? そんなにいらねーよ、もういいからお姉さん!!

 

「やっぱりお好きなんですね、辛いもの」

 

「ハハ……まぁ、食べられなくはないです……」

 

 イチゴパフェが真っ赤に染まっていた。

 食いたくねー。けど気を失ってたときは大丈夫っぽかったし……いやでも怖い。

 

「え、ちょ、マジで? お前いくの? 本当にいくの?」

 

「坂田さんもどうぞ」

 

「イヤ、パフェ2杯も食べたからちょっとお腹が一杯になっちゃったかななんて」

 

 ゲホゴホと咳き込むミツバさん。

 諦めろ銀さん。あと総一郎くんは刀を収めろ。

 

「いっただっきまーす……」

 

 こんなにテンションの上がらねーいただきますは初めてだ……

 ……ん、アレ、いけるぞこれ。味覚もう狂っちゃってんのかな私。

 

「みっ……水を用意しろォォ!!」

 

 そう叫ぶ銀さんだったが、飲むなと言わんばかりに血を吐くミツバさん。

 本気過ぎやしねぇか。病人がやるもんじゃねーよ。

 

「姉上ェェェェ!!」

 

「んがァァァ!!」

 

 総悟が叫び、銀さんがパフェを飲み干す――うわ、火ィ吹いた。

 

「姉上! 姉上! しっかりしてくだせェ!!」

 

「あ、大丈夫。さっき食べたタバスコ吹いちゃっただけ」

 

 ガクゥ! とそのままテーブルにダイブしようとする銀さん――を、木刀で横へ吹っ飛ばしてテーブルの破壊を止める。

 ……残念ながら幻聴は聞こえなかった。当たり前か。

 

 

 *

 

 

 ――そこからは原作通りにレストランを出て町を歩くこととなった。

 

 ちなみに支払いは総悟の奢りかと思いきや、自分で食べた分は自分で払ってくだせェ、との声がかかり、私はカードで済んだが、銀さんには現金を少し借りられた。

 ……取り立て日はいつにしてやろうか、と考えようとして止める。今はそんなことに構っている場合じゃない。

 

 

 記憶にない攘夷戦争、紅桜篇の桂一派……そして「用心棒」の仕事で護った人々。

 それくらいなら原作に大きな問題はない。

 

 しかし、沖田ミツバは沖田総悟の姉という重要ポジションのキャラだ――生存なんてさせたら、この先のイレギュラーは必須。下手をすれば、病気で死ぬより最悪な結末が訪れる可能性だってある。だが――

 

「なるようになる、か……」

 

 何か起これば私が動けば良い。それだけの話だ。

 

 

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