銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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怨念

「――というワケで先月分と先週分、返して貰おうか」

 

「まぁ待て、話せば分かる。人間、こういう時こそ言葉を使って対話という道をだな――」

 

「そうか、じゃあ一つ覚えとけ。私は借金されたら必ず取り立てに来る奴だってな。そしてもう一つ学んでいけ。金を借りる相手は選べ」

 

 きっぱり言い放つと、銀さんの動きがそこで止まる。

 大方、頭の中で必死に策を講じているに違いない。部屋には澄ました顔をしているが、冷や汗を流す神楽ちゃんもいる。二人揃って変に連携とって、ボケとツッコミが存在するカオス世界に引き込まれる前に、とっとと回収しなければ。

 

「お宅のチャイナ娘がねだった分、お前がパチンコ屋の前で懇願してきた分だ――覚えてるだろ?」

 

「なァオイ聞いたか神楽、お前がねだった分だってよ。覚えてる?」

 

「私知らないネ。銀ちゃんこそ懇願した分覚えてる?」

 

「知らん」

 

「その銀髪、毛根から引っこ抜いてやろうかテメェ」

 

 さっと素早く銀さんが頭に手を乗せる。冗談に聞こえなかったのだろうか。

 

「つ、つーかさ……どうせお前、全然金に困ってないじゃん? 俺らが返してもそう大した額には……」

 

「あん? 折角人が二桁になる前に取り立てに来てやったのにか? それとも何か、このまま三桁狙ってみる?」

 

「どんだけ貸し作ってアルかオメー。私なんかどーせ素昆布パック十セット分アルよ?」

 

「惜しい。実は総計二十だ」

 

「ッ……!!」

 

 感覚無くなってたんだろうなぁ、これは……いや、だからといって同情する気はさらさらないのだが。そもそも胸張って言うもんでもない。

 

「……まぁ、流石に銀さんの方は詳しい金額は言わないでおいてやるけどさ……」

 

「お、お、お、おう…………」

 

 とはいえ、多少の配慮はする。

 私だって鬼じゃない、今回は積もり積もった金を返して貰いに来ただけだ。何も社会的地位まで叩き落すつもりはない。

 

「……その、なんだ。おとなしく払ってくれたらスグ帰る。別のトコに借金するか、臓器売買でもしてくるか、銀行強盗でもしてくるか、この際手段は問わないでやるから金を用意しろ」

 

「さりげに犯罪の道を用意するのやめろよ。何で選択肢にそんな真っ暗闇行きなの入れる? ていうか、アンタの物言いの方がよっぽど強盗らしいよソレ?」

 

 おかしい、善意で言ったのに何かズレてしまったようだ。

 しかし、ここで見逃せば間違いなく連中は借金を重ね続けるだろう。手遅れになる前にサクッと解決してしまいたい。

 

 沈黙の空気が重くなってきた頃、ふと玄関の方からインターホンの音が聞こえた。

 

「――いらっしゃいませェェェエ!! じゃあな俺ちょっと出てくるわ!!」

 

「ズルいネ銀ちゃん! 私も行くアルー!!」

 

 音速で問題児二人が玄関方面へと走り去った。

 その速度、肉眼で捉えるのがやっとか。相変わらず逃げ足だけは速い。だから今日、直接出向いてきたというのに……!

 

「オイ、アンタ等なッ……!」

 

 と叫びかけ、ふと玄関から聞こえた会話に耳を傾けた。

 

『……そのですね、銀さん。何かこの人、チョットおかしくなってるっぽくて……』

 

『――あ? 何、オタク……え? 土方……さんですよね? ホントに……』

 

『何を言ってるんだよォ、坂田氏。この通り、正真正銘の土方十四郎でござるよ?』

 

『ござる!?』

 

 …………なんか今、玄関口からただならぬ来客の気配を感じたような。

 まさか、おい、今日だった……だと!?

 

「どうしよう」

 

 ……以前、人助けとはいえ、一人の人間の運命を捻じ曲げてしまったばかりである。その影響が、どこで出るかは一切不明。完全に放置するより、関わっておいた方が前兆も見えるかもしれない。

 

「――動乱の気配を察知」

 

 誰に言うまでもなく、一人そう開幕の宣言をした。

 

 

 

 

「何が起きてるんだよこれ……?」

 

「知らねーよ、こっちが聞きてーよ。つか帰れよお前」

 

「300円硬貨と1万円紙幣が等価値なら負債なんて言葉はいらねぇ」

 

 チッと舌打ちする銀さん。

 

 現在、万事屋メンバーとトッシーがテーブルをはさみ、向き合う形で椅子に座っている。

 私は万事屋側の後ろで佇み、いつでも徴収ができるよう準備を整えておいた。

 

 現在、万事屋は2つの問題を抱えている。

 まず一つは借金取り――私の存在。自業自得だ。

 そして二つ目、新八が連れて来たトッシーと化した土方十四郎。一体何があった。

 

「……あの、すいませんでした。まさかあんな所にあなたがいると思わなかったもんで……」

 

 どうやら原作通り、新八と土方さんはオタクサミット関連の番組で会ったらしい。

 内容は確か、アイドルオタクとアニメオタクがひたすら討論するというもの。その中で乱闘が勃発して新八は土方さん、否、トッシーに殴りかかってしまったらしい。

 

 ……そりゃ、真選組・鬼の副長と呼ばれる人物が、そんな番組に出演しているなど誰も予想だにしないし、考えようともしないだろう。いたらきっとその人の種族はゴリラか何かに違いない。

 

「あの……仕事はどうしたんですか。昼間からこんな所ブラついて」

 

 新八の問いにキョトンとした様子のトッシー。

 鬼の副長の面影が全くない。誰だこれ。

 

「ああ真選組なら――クビになったでござる」

 

 一瞬、その場が凍りついた。

 ……ずっとトッシーの状態でいたらそんなことにもなるだろうよ。侍のさの字もないんだから。

 

「ええええ!? 真選組を!? 真選組やめたの!?」

 

 ガタッと思わず立ち上がる新八。

 しかしそれにあくまでフツーに対応するは土方さ……否、トッシー。

 

「まァこのご時勢、働いたら負けでござるよ。とりえず今は、働かないで生きていける手段を捜してるってカンジかな~」

 

 戻って来い。鬼の副長戻って来い。

 

「そうだ! 考えたら君らもニートみたいなもんだろ」

 

「誰がニートだ! 一緒にすんじゃねーよ!!」

 

 万事屋――確かに働いてはいるから無職ではない。

 ならやはり金があるはずだ。はよ借金返せ。

 

「どうかな。僕と一緒にサークルやらないか」

 

 トッシー曰く、今はとある少年誌の同人本を描いているので、ジャンプに詳しい銀さんと今年の夏コミで荒稼ぎしてみないか、ということらしい。

 しかし出してきたサンプル本を見る限り、売れないであろうことは容易に想像できた。

 副長、描力はないらしい。

 

「じゃあ絶条氏は? 絵は描ける?」

 

 突然話を振ってきやがった。

 絵、は……いや、まぁ、描けなくはないけど……売るほどの価値はないだろう。

 

「やらねーよ。一人でやってろ」

 

「……そっか。参ったな、貯金をほとんどフィギュアで使っちゃってね。もう刀でも売るしかないかと」

 

「最低なんですけどこの人! フィギュアのために侍の魂売ろうとしてんですけど!!」

 

 だが、もう何度も売ろうとはしているらしいのだがどうしても手放せないとのこと。

 そりゃあ……そもそもトッシーの人格が出てきたのそれが原因だし……

 

「店の人が妖刀とか言ってたけど、まさかね」

 

 

 *

 

 

 そのまさかである。

 大体予想通りなので驚くことはない。

 

「間違いない、村麻紗(むらましゃ)だ」

 

 そう断言したのは万事屋の知り合い――というか、紅桜篇に出ていた鍛冶屋の鉄子さんである。

 室町時代の刀匠、千子村麻紗(せんこむらましゃ)によって打たれた名刀。そして人の魂を食らう妖刀としても知られいるものだそう。

 

「妖刀って……一体どんな妖刀だっていうんですか」

 

「母親に村麻紗で斬られた引きこもりの息子の怨念が宿っているらしい」

 

「つーかどんな妖刀ォォォ!!?」

 

 村麻紗を一度腰に帯びた者はその怨念に取り憑かれ、ヘタレたオタクになってしまう……か。

 本当にどんな妖刀だよ。引きこもりの息子の怨念、恐るべし。

 

「コイツが正真正銘本物の妖刀村麻紗なら、最早その男の本来の魂は残っていないかもしれない。もう、本来のそいつが戻ってくる事は――」

 

 鉄子さんがそう言いかけた時、どこからかもくもくと煙が上がってきた。

 振り返ってみると、そこにはトッシー……否、煙草を吸う土方さんの姿が在る。

 

「やれやれ。最後の一本吸いに来たら、目の前にいるのが……よりによってテメーらたァ、俺もヤキが回ったもんだ」

 

 しかしワラだろうが何だろうがすがってやる、と言う。

 それはつまり、土方さんがそこまで言うほどの事態が今起きている、ということでもある。

 

「てめーらに……最初で最後の頼みがある……」

 

 煙草が落ちる。

 掠れた声で、土方さんは言葉を紡ぐ。

 

「頼……む、真選組を……俺の……俺達の真選組を、」

 

 護ってくれ、と。

 ――それが、最後だった。

 

 

 

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