真選組動乱篇。
……そうかー。ここでかー。
まさか取り立てと重なるとは。一体いつから始まっていたのやら。
とはいえ、しかし、
「自分でやれって話だよなぁ」
「まァ何が起きてようが起きてなかろうが、俺達には関係ねーだろ」
銀さんの言葉には筋が通っている。
今回の件は万事屋も一介の用心棒である私も関わる理由はない。警察庁長官と知り合い? いや、あれはただの仕事上の関係であって、依頼が入らない限りは赤の他人だ。
「おめーももう帰れ。お互い、これ以上の深入りはよそうや」
「借金」
「ぐっ……い、イヤ、それはまた今度……」
今度っていつだ。何年後になるんだそれ。
何にせよ今返してもらわないと一生返して貰えない気がする。
「――ん、失礼」
突如、携帯がバイブ音を鳴らした。
……何か、嫌な予感がする。気のせいであってほしい。
しかし、画面を見ると知らない番号が表示されている。こんなタイミングで一体何だというのか。不穏でしかない。
「……もしもし」
おそるおそる出てみると、電話の向こうからは聞いた覚えのある声――転生してからは、聞き覚えのない声が応えた。
『……ふうむ、なるほど。絶条だけに絶望的な音でござるな』
げぇ、と思った。
別にござる口調に引いたわけではない。
タイミング的にも、そして何より相手がかなり厄介な者だと知っていたからだ。
「イタズラ電話なら切りますけど」
『失敬。いや初めましてでござる、用心棒殿』
身元バレてる。
切りたい。今ここで会話を終了させてしまいたい。
……てかホントどこまで広まっちゃってるんだ携帯番号。後でメアドも変えとくか……? いやいっそ機種変した方が平和になるか……?
「今日はオフなんで依頼ならまた今度――」
『鬼兵隊、
「…………、」
話聞けよ。ヘッドフォンしてんの?
しかし相手の身分、名前を聞かされてしまった以上、もう無闇に電話を切ることは許されない。
せめて鬼兵隊を敵に回す事態になるのは回避したいところだ。紅桜篇の乱闘は、桂一派に紛れてやってたから大丈夫かとは思っていたのだが……どうやら甘かったらしい。
「……そりゃどーも。ご用件は?」
『何、ただの
ただの――じゃ、ねえよ。
どういう意味の忠告だよ。アンタが言うから余計こえーわ。
『――沖田総悟の姉。名は……沖田ミツバといったか』
「ッ――!」
思わぬ言葉に呼吸が止まる。
何故ここでその名前が出て来る……!? いや、原因は間違いなく私だ。人の運命を変えるとロクなもんじゃない。
そこで完全に意識を切り替え、相手の話に耳を澄ませる。
「どういうことだ」
『言ったであろう、紅桜での乱闘は見事でござったと』
分かりにくい。ストレートに結論を言って欲しい。それだけじゃ分かるもんも分からんわ。
『しかし今回の件、原因はこちらの不手際もあるでござる。まこと、申し訳なんだ』
「謝られても分かんねーよ。ハッキリ言ってくれ、何がどうなってる」
『おぬしに恨みを持った
………………。
…………。
……訊くんじゃなかった!
「おまっ、それ……不手際って……」
『元々の原因は拙者たちの同志を斬りつけたぬしであろう。恨みを持った者達の怒りを鎮められなかった……それがこちらの不手際、でござる』
……くそぅ、正論だし向こうが変に実直だから何も言い返せない。情報を流してくれているのは、侍として最低限の義理、ということか?
『ターゲットと親しい仲の者は人質として最良。もう手遅れでござろう。何せ、沖田ミツバは既に
「はははは――冗談にしては悪質な」
無論、冗談じゃないのは分かっている。だが現実逃避したくなる私の心も分かってほしい。とっくに事態はクライマックス直前ですよと言われたようなものなのだから。
――私のできること全てを行い、最善を尽くして救出する。
道はそれしかない。天運全てを賭けてでも、ミツバさんを生きたまま取り返さなければならない。
それが、運命を変えてしまった者の責任というヤツだ。
「場所は?」
ダメ元で聞いてみる。
元はといえば、向こうからかけてきたのだ。教えてくれる可能性は十分にある。
……嘘ということもあるかもしれないが。
『そういえば、犯人が先頭車両へ乗り込むところを見たと言う者がおったな。それでも、救出できる結末など万に一つの可能性だろうが』
うるせぇ。
内心そう舌打ちしつつ、頭の中で先頭車両への辿り着く手段・ルートを組み上げる。
だがそこでもう一つ思い出す。確か、そこの近くって総悟が爆弾仕掛けてたようなぁ……?
「――ご親切にどうも。じゃあ頑張ってみるよ」
『フッ……せいぜい人質と共に爆殺されないよう気をつけるでござるよ?』
言葉から聞き取れるのは、此方に対する微かな期待と嘲笑だ。そりゃあ見てる側からすれば、これほど面白い見世物はないだろう。
今回の件は完全に想定外ものだ。原作の描写だけが全てと思っていては、きっと失敗する。
ミツバさんを攫った攘夷浪士たちの狙いは、私へのうさ晴らしだろう。木刀の正体を知らない者からすれば、私は女の身で男共を斬り倒していった人間だ。……や、その気になれば、鍛え上げた技量はそこらの者には負けない自信はあるけれど。
今は関係のない話だ。こうしている間も、ミツバさんの身が危ないことには変わりないのだから。
「そうですか。あ、あと――次の曲、楽しみにしてますよ。
『なっ、おぬし――』
うろたえた声を聞けたところで通話を切る。
とりあえず最後の台詞で万斉にそれなりのダメージは与えられただろう。ざまぁみろ、というものだ。
……ま、お通ちゃんの曲はアニメで放送されてたものくらいしか聴いてないけども。
ミツバさんが、それも自分のせいでこの事件に関わってしまったというなら、話は別だ。
動乱篇……参加せざるを得なくなってしまったな。
*
「副長ォ! ようやく見つけた!!」
携帯をしまい、恥や外聞を覚えないトッシーを踏みつける万事屋一行と丁度合流した時。
すぐ傍にパトカーが停まり、中から隊士たちが降りてきた。
「山崎さんが――何者かに、殺害されました!!」
大丈夫だ、奴はきっとラケットを携えて戻ってくる。
……という余裕は、知識ある者ならではだろう。現実に生きている者からすれば、情報が事実なら楽観できるわけがない。
「とにかく! 一度屯所に戻ってください!!」
「え……でも拙者クビになった身だし」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! さっ早く――」
無理矢理に手を引かれる土方さんの周り、するりと隊士たちが刀を抜いた。
「――副長も、山崎の所へ」
瞬間、銀さんがトッシーの襟首を掴んだ。
パトカーを踏み台に、全員揃って近くの路地へと逃走を図る。
だが進んでいくと、出口の方からもう一台のパトカーが攻め入ってきた。よくもまぁ、こんな細い道を走る根性があったものだ。
「ふんがアアアァァ!!」
それに迎え撃ったのは夜兎族の力を活かし、素手でパトカーを押し留まらせる神楽ちゃん。この世界の住人の、こういう咄嗟の判断と行動には目を見張るものがある。
トッシーが何か騒いでいるが聞いている者はいない。
銀さんが運転手を木刀で窓を突き破って叩き落し、素早く全員で車内に乗り込む。
運転は銀さん。助手席には神楽ちゃん。後ろには私、新八、土方さんと3人。
路地から抜け出すためとはいえ、無理矢理出た震動で揺れまくって狭いことこの上ない。
「あーあー、こちら3番隊こちら3番隊。応答願います、どーぞ」
繋がれていた無線を使い、銀さんが情報収集へと移る。
すると聞こえてきたのは『土方は見つかったか?』という問い。
無線を面白く感じたのか、今度は神楽ちゃんが無線機を銀さんから奪い取って口を開く。
「アル」という口調は一瞬不審に思われたが、相手はいちいち気にするような人ではなかったらしく、勝手にベラベラと計画を話し始めてくれた。
『近藤暗殺を前に不安要素は全て除く。近藤、土方、両者が消えれば真選組は残らず全て伊藤派に恭順するはず』
暗殺――とは、また随分と物騒な単語が出てきたものだ。
事件の細かいところはまではもうあまり覚えていないが、今の私の目的はとりあえず列車に辿り着くことである。ミツバさんのことは、私一人で片をつけると決めた。いや、私が片をつけねばなるまい。
『近藤の方は既に成功したようなもの。伊藤さんの仕込んだ通りだ。隊士募集の遠征について既に列車の中。つき従っている隊士は全て
近藤の地獄行きは決まった――と。
親切に現在の状況まで知らせてくれた。口が軽すぎるぜ隊士さん。
「おい、トッシー」
「僕はしらない僕はしらない」
ガクガク震えていらっしゃる。
今はヘタレ状態……震えるのも無理ないが、早く元に戻って欲しい。
「しっかりしてください土方さん! このままじゃあなたの大切な人が……大切なものが全部
「……知らない。僕知らない」
「こりゃもうダメかね」
新八の説得も虚しく、怯えた表情でそう言い続けるトッシー。
だが、煽るように言った私の言葉には、ピクリと僅かに反応したような気がした。
「銀ちゃん、どうするアルか?」
「…………、神楽。無線を全車両から本部まで繋げろ」
「あいあいさ」
……神楽ちゃん大丈夫なのか。いけるのか。
少し不安に思ったが、なんとか繋げられたらしい。再び銀さんが無線機を持つ。
「あー、もしも~し。聞こえますかーこちら税金泥棒」
相変わらず気の抜けた声。
だが、伝えるべき事柄はしっかりと伝える。
「今すぐ今の持ち場を離れ、近藤の乗っている列車を追え。もたもたしてたらてめーらの大将首取られちゃうよ~。
――こいつは命令だ。背いた奴には、士道不覚悟で切腹してもらいまーす」
『イタズラかァ!? てめェ誰だ!!』
「てめェこそ誰に口きいてんだ。誰だと?」
そこで一際、大きく息を吸い込むと。
「真選組副長、土方十四郎だコノヤロー!!」
そこまで言い終えると、叩きつけるように無線機を戻す。
結局、最終的にはキレていた。まぁ銀さんらしいといえばらしいけど。
「ふぬけたツラは見飽きたぜ。いい機会だ、真選組が消えるならテメーも一緒に消えればいい。墓場までは送ってやらァ」
「冗談じゃない! 僕は行かな……っ」
「てめーに言ってねーんだよ。そもそも、てめーが人にもの頼むタマか」
反論しようとするトッシーの胸倉をガッと掴む銀さん。
運転を離れた影響でぐらりと車内が揺れる。神楽ちゃんが頑張ってハンドルを握るが、何かにぶつかったのか車外に火花が見えた。事故ってる事故ってる。
「くたばるなら大事なもんの傍らで、剣振り回してくたばりやがれ!
それが
そう叫び散らすと、明確な変化がそこで起きる。
――土方さんが、銀さんの腕を掴んだ。
「……ってーな」
「あ?」
――お?
「痛ェって、言ってんだろーがアアァァァ!!!!」
瞬間、銀さんの頭をわしづかみ。
そのまま無線機などが設置されているところへと、勢いよく叩きつけた。