「御用改めであるうぅぅ!!」
「てめーらァァァ! 神妙にお縄につきやがれ!!」
バズーカの引き金が引かれ、傘からは弾丸が放たれる。前者は銀さん、後者はもちろん神楽ちゃんによるものだ。
二人の総攻撃により、辺りを走り回っている敵の車は次々と蹴散らされていく。
「おいおい、あんま揺らしてくれんな。事故らせちゃうぞー」
「おわアアアア! ソラさん冗談に聞こえないからヤメテェェエ!!」
ハンドルを握っているのは私である。大昔に運転免許は取った覚えがあるが、果たして最後に更新したのはいつだっただろうか。
……というか現在の運転難易度はハードすぎる。敵の攻撃を避けつつ此方の砲撃を当てさせるのだ。今はほぼ身体と自身の直感に任せていると言っていい。
一方、肝心の土方さんはパトカーの上に乗り、副長らしい風格を漂わせていた――が。
「痛ィってェェェ!!」
「てめェェ!! 少しの間くらいカッコつけてられねーのか!!」
ガサリという音から察するに木の枝か何かにぶつかったらしい。原作の流れが起きたので、茂みから車をやや離して行く。
結局、彼は銀さんを殴るときだけ復活して、すぐトッシーの状態に戻ってしまったのだ。亡霊の恨みほど怖いものはないぞ、と主張しておく。
「奴ら攘夷志士かァ!? ったく、どうやら事は内輪モメだけじゃねーらしいな!」
……全く、銀さんの言う通りだ。
その攘夷志士の中で、私に恨みを持つ奴が動くなんて考えもしなかった。おかげでミツバさんは……いやいや、諦めるのはまだ早い。
「で、あのゴリラ局長はどこにいる」
「アレアル! 離れた位置を走るあの車両!! 敵がみーんなあそこへ向かっていくネ!」
「……だそうだ土方氏。あとは自分で何とかしろォ!」
ドカッと銀さんがトッシーを蹴り飛ばす。
土方さんは衝撃で開いたドアに何とか掴まるが、身体が半分引きずられる形になっているだろう。ギャグの流れでほいほい命が危険にさらされる。
「ちょっと待ってよォ坂田氏ィィ!! こんなところに拙者一人を置いていくつもりかァァァ!!」
「――副長ォォォオオ!!」
と、そこ後方から他のパトカーが追いついてきた。銀さんの放送で駆けつけた味方の隊士たちだろう。
「副長だァァ! 副長が無事だったぞォォォ!!」
「無事じゃねーだろコレどーみても!!」
「ようやく来やがったか。もうお守りはたくさんだ。さっさとコイツ引き取ってくんな。ギャラの方は幕府からこの口座に入れとけっ……」
「伊藤の野郎ついに本性を表しやがったか!! だが副長が戻ってきたからにはもう大丈夫だぜみんな!!」
銀さんの話を無視して騒ぐ原田。スルースキル高っけぇな。
……で、銀さんの持ってる紙に口座番号が書かれているのか。なるほど。
「オイ万事屋、その紙寄越せ。そっから借金の分と出張料合わせて引き出しておいてやるからよ」
「お前だけには絶対渡さねぇ!! 出張料って何だ、それこそ真選組の連中が払うべきモンだろーが!!」
「副長、敵は俺達が相手します! 副長はそのスキに局長を救い出してください!!」
「オイ、待てコノヤロー!! てめーらの副長おかしな事になってんだよ! きけェ、ハゲェェ!!」
しかし、やはり無視されていってしまう。
もうギャラは諦めるべきだぞ銀さん……そしておとなしく借金を返すのだ。
*
敵も味方もバズーカを撃ち合い、辺りは焼け野原になっていく。
今回の件で、一体どれだけの隊士達が死んでいくのだろうか。組織の内輪モメほど面倒なものはない。
――車を線路に乗せる。近藤さんが乗っているという車両まであと少し。
『トシぃぃぃぃ!! なんで来やがったァ……バカヤ、』
列車の中で泣き叫ぶ近藤局長が見えたが、躊躇なく銀さんはバズーカを放った。
「近藤さーん? 無事ですかァー?」
「ダメネ。いないアル」
「何すんだァァてめーらァァァァ!!」
「あっいた。無事かオイ、なんかお前、一丁前に暗殺されそうになってるらしいなァ」
「いや今されそうになったよ! たった今!!」
軽い調子で三途の川を渡りそうになるこの世界。
シリアスはもちろん、ギャグでも気は抜けない。
「お前等まさかトシをここまで……って、ありえなくね!? お前らが俺達を……」
「遺言でな、コイツの」
今までの経緯を銀さんがざっくりと説明する。
近藤さんの様子を見る限り、真選組をクビになるまでの土方さんの行動に何か思い当たることがあるらしい。そりゃそうか。
「俺達の仕事はここまでだ。ギャラはてめーに振り込んでもらうぜ」
「……振り込むさ。俺の貯金全部。だが万事屋、俺もお前達に依頼がある。これも遺言と思ってくれていい。――トシ連れてこのまま逃げてくれ」
近藤さん曰く、こんなことになったのは自分の責任であり、戦いを拒む今の土方さんを巻き込みたくないとのこと。
伊藤に気をつけろという副長の助言も拒み、更に些細な失態を犯した彼を伊藤の言うがまま処断してしまった――大馬鹿者だと。
「全車両に告げてくれ。今すぐ戦線を離脱しろと。近藤勲は戦死した。これ以上仲間同士で殺り合うのはたくさんだ」
そこで、隣りにいたトッシーがおもむろに無線機を手に取り、口を開いた。
『あーあー、ヤマトの諸君。我らが局長、近藤勲の救出は無事成功した。勝機は我等の手にあり。局長の顔に泥を塗り、受けた恩を仇で返す不逞の輩は――あえて言おう、カスであると!』
冷や汗を流しているところから察するに、相当勇気を振り絞って言っているのだろう。しかし生憎、オタクっぽさは未だ抜けていない。
『オイ誰だ! 気の抜けた演説してる奴は!?』
『誰だと? ――真選組副長、土方十四郎ナリ!!』
そして銀さんの時のように乱暴に無線機を戻す。
ガチガチに緊張していたためか呼吸は荒い。トッシーにしてはよくやった方である。
「近藤氏、僕らは君に命を預ける。その代わりに、君に課せられた義務がある――」
それは死なないこと。
何が何でも生き残る……近藤さんがいる限り、真選組は終わらない。
「――近藤さん、あんたは真選組の魂だ。俺達はそれを護る剣なんだよ」
タバコをふかし、そう告げたのはトッシーではなく、土方さんの方である。
ようやく戻ってきたようだ。が、私の用件はむしろこれからだ。
「一度折れた
土方君、君とはどうあっても決着をつけねばならぬらしい」
パトカーの後ろ、バイクに乗る伊藤鴨太郎と運転している万斉が現れた。
……あれが伊藤。今回の主犯。
奴の運命に介入する気はない。今、私がやるべきことはもう決めたのだから。
「剣ならここにあるぜ。よく斬れる奴がよォ」
リアガラスを破り、刀を持って土方さんはそのまま外へ飛び出していく。
「万事屋アァァ! 聞こえたぜェ、テメーの腐れ説教!! 偉そうにベラベラ語りやがってェェ!!」
村麻紗を握り、刃を抜こうと力を入れる。
だが呪いのせいなのか、なかなか抜けない。
「何モタクサしてやがる。さっさと抜きやがれ」
口を挟む銀さんに「黙りやがれ」と返答する。
かなり固く収められているようだ。トッシーの怨念恐るべし。
「てめーに一言いっておく! ありがとよォォォ!!」
「オイオイまた妖刀に呑まれちまったらしいな。トッシーか、トッシーなのか?」
ガッと鞘が動く音。
それと共にギシギシいっていた力む音も止む。
「……俺は、真選組副長、土方十四郎だァァァァ!!」
*
自力で妖刀の呪いをねじ伏せた。
トッシーとしての人格はもういない……少なくとも、今は。
「ワリーなゴリラ、残念ながらてめーの依頼はなんぼ金積まれても受けられねェ。
「万事屋、仕事はここまでじゃなかったのか」
「なァに、延長料金はしっかり頂くぜ」
近藤さんがパトカーへと移る。
そして、万斉が運転するバイクがこちらに迫り、剣を抜いた伊藤と土方さんがぶつかり合う。
「土方ァァァァ!!」
「伊藤ォォォォ!!」
バイクがすぐ横を通り過ぎる。
その瞬間、伊藤の肩から血が噴き出したのを認識した。
「――ん、おお!?」
同時に、下からガコンという音と共に車内のバランスが崩れる。おそらく、タイヤが外れたものとみた。
するとパトカーの外にいた銀さん、土方さん、神楽ちゃんまでもが反動で後部座席へ転がり込む。此方は必死にハンドルを握っているが、どうにも動く気配がない。むしろ――
「オイ後ろォ!!」
「チィ――――!」
先頭車両が近づいてきているのは分かっている。
だが、ここで車ごと抜け出すのは至難の技だ。運とか経験とか関係なく、物理的にただ潰される結末が待ち受けるのみ。
「あっぶ……! ぅぐォォォ!! 早くなんとかしやがれェ!!」
そこで咄嗟の行動か、土方さんが車と列車の間に入り、なんとか時間を稼ごうとする。
空中ブリッジのような体勢だ。キツくないすかそれ。
「チャイナ娘ェ! 今こそその怪力を役立てろォ!」
「仕方ないネ。ソラもふんばるアルよー!」
神楽ちゃんも車外へ出ると、土方さんを踏み台にする形で列車を止めようとする。
が、直後に接近してきていた攘夷志士が、彼女に向かって刀を振り上げ――
「近藤さん、さっさとこっちへ移ってくだせェ」
途端、蹴破られた列車の扉によって、浪士が吹き飛ばされていく。
中からは血にまみれている沖田総悟。その車両内は反乱した隊士達の血で真っ赤に染まっている。粛清、だったか。
「ちぃと働き過ぎちまった。残業代出ますよねコレ」
「俺が、是が非でも勘定方にかけあってやる」
土方さんがそう告げると、そいつぁいいや、と総悟が零す。
「ついでに
「待ってくれ、トシを置いて俺だけ逃げろいうのか!!」
「
全員土方さんを橋のように扱っている。順応が早いというかノリがいいというか、信用が変な方向に働いている気がしなくもない。
「モタモタしてんじゃねーよ、さっさと――、ッ!?」
そこで銀さんの言葉は途切れ、衝突してきた万斉のバイクで遠くへ飛ばされていく。
……あっぶねぇ、本当に気を抜いたら即死するぞこの状況。
「銀さんんん!! うわああァッ!?」
車の外へ出ていった新八の声で、離れていた先頭車両が遂に追いついてきたことを理解する。
慌てて新八と神楽ちゃんが総悟のいた車両へと避難していくのを合図に、私も運転を放棄し、先ほど土方さんが破ったリアガラスから外へ出た。
「おい、お前……!」
「私は私で用があるんでね」
こちらに気付いた土方さんへ、適当にそう告げる。
ミツバさんに関して知っているのは、おそらく私だけであろう。今回の動乱事件に乗っかり、私への報復を行うとは、随分と手の込んだ嫌がらせだ。
本当なら、先頭まで車両内を突っ切っていきたいところだが、後々の展開を考えるに、それでは到底行けそうにない。
だから、
『ソラさあああん!!』
『ソラァ、生きてるアルかー!?』
……パトカーが縦に潰され、高さが届くと判断した瞬間に列車上へと飛び移る。
新八と神楽ちゃんには、妖刀で車両を叩いて無事の返事――聞こえていればいいのだが。
「さぁーて」
時間はもうない。
なんとしてでも、ミツバさんの死亡フラグを叩き折らなくては。