銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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救出

 ――風圧が身体を襲う。

 しかし止まっている時間はなく、ただひたすらに走り、前へと進んでいく。

 

「くっそ……キツいなこれ……」

 

 足を滑らせたら致命傷を負うのは免れまい。

 とにかく今は、爆弾が作動する前に何としてでも先頭車両へ追いつくことだけを考えろ。

 

 二両目、三両目と超えていく。

 谷に架かっている橋への距離は――やばい、もう差し掛かってる……!

 

「……いよっし、ここら辺、か!?」

 

 なんとか最後の車両上へ辿り着き、星砕で下――天井を壊して車両へ入る。

 ……一応、ドアから入った場合の奇襲に備えたものだったのだが……その心配は無用だったらしい。

 

 奥には手足を縛られたミツバさんと思しき人が転がっていた。

 人の気配はない……まぁ、ここにいたら自分達も爆風に巻き込まれる可能性あるしね。

 

「よっと」

 

 手足の紐を切り、ミツバさんを肩に担ぐ。

 幸いにも気絶している。これなら、自分の状況や戦場の血も見ることなく普段の日常に戻ることができるだろう。

 

 すぐさま座席を踏み台にして開けた穴から外へ出る。

 爆発はまだだ。これなら――

 

「うおおおォォ!?」

 

 噂をすればなんとやら。私から見て前方の方――列車の後方で爆発。

 吹き飛ばされないよう木刀を車両へ突き刺す。

 マズッ……原作通りなら先頭も巻き込まれて下に……!!

 

 ……が、いつまで経っても落ちるときの浮遊感は来ない。

 どうやら綺麗に爆発した箇所で途切れたようだ。今は伊藤や近藤さん達が色々動いている頃だろう。

 

「けど橋がなぁ……」

 

 車両もろとも、橋まで崩れてしまった。

 原作やアニメでなら、爆発はこれで終わり。しかし今回はミツバさんという人質がいる。

 私達が今いる車両のどこかにも仕掛けられていても、おかしくはない。

 

「――――」

 

 本格的にヤバイ。

 どうやって向こうへ行く? 跳ぶか? いやいや無理だろ。

 

 

 ――と、バラバラとヘリのプロペラ音が聞こえてきた。

 段々と煙は晴れ、壊れた車両内の様子も見えてくる。

 

「あれは……」

 

 一番下に伊藤らしき人影。

 そして上でその手を掴んでいるのは近藤さん。さらに上を確認していくと、それぞれの足を捕まえ、ぶら下がっている総悟、新八、神楽ちゃん。

 ……向こうもギリッギリだな。今にも落ちそうだぞ。

 

 ヘリにいる攘夷志士が伊藤を始末しようと銃を撃つ。

 真選組の裏切り者は手を組んでいた者達の裏切りによって消える――実によくできたシナリオだ。

 

 

「何してやがる!! さっさと逃げやがれェェ!!」

 

 

 列車上にいた土方さんがヘリの上へ飛び降り、刀でプロペラを切り離す。

 ……よくあんなアクロバティックなことできるな。私にはせいぜいこうして列車上に飛び移ることくらいしかできないよ。

 

「おおおおおおッ!!」

 

 ヘリは墜落していき、土方さんは伊藤達がぶら下がっている列車へ跳んでいく。

 伸ばした手は――届いた。掴んでいるのは伊藤。

 いずれ自分が殺してやるから、こんなところで死ぬな……だったか。

 

 ……ここで、伊藤は自分の欲しかった(もの)にようやく気付いたのだろう。

 大切なものは、見えにくい。

 

 

「――さて、私はどうしようか」

 

 いつまでもここで突っ立っているわけにはいかない。

 土方さんみたいに跳んで、皆に助けてもらうか――? いいや、跳ぶには距離が開き過ぎている。何かこう、「背中を後押しするもの」が欲しいところだが……

 

「あ」

 

 ……ある。あるぞ、背中を――いや、身体全体を後押しするもの。

 だがそれもある意味アクロバティックな行動。

 ていうか完全に命がけ…………でもここで死ぬよりは、マシなはず。

 

「……、」

 

 車両の先へ近づき、足に力を込める。

 あと何秒で起きるかはさっぱり分からない――が、とにかく今は自分の勘を信じる他ない。

 私はやる。私は行く。なせばなる。燃えろ私のコス……いかんいかんいかん。

 

 

 ――カチリ、と時計の針が動くような音がした。

 

 

 刹那、私は思い切り列車上から跳躍し、向こう側を目指して空中へ身を投げる。

 背後では爆音。狙ったのはその爆風の威力。

 

「――ッ、――――!!?」

 

 叫びたい気持ちをこらえ、迫った車両へ木刀を突き刺して場所を固定する。

 絶対にミツバさんを離さないよう腕に力を入れて爆風が止むのを待ち――収まると大きく息を吐く。

 

 ……やっぱり仕掛けられていたか、爆弾。

 まぁ何はともあれ救出には成功だ。けれど地に足をつけるまでは安心しない。

 

 

 *

 

 

「ぅ……」

 

 着地した車両の天井を星砕で突き破り、中に設置されていた座席を足場として確保したときのこと。

 

 ピクリと、肩のミツバさんが動いた。

 それを確認した瞬間、素早く肩から降ろし、首を叩いて再度気絶させる。

 爆音で流石に意識が回復したのだろうが、ここで起きられては困るのだ――せめて、全ての事件が終わるまでこの状態でいてほしい。

 

 ……近藤さん達はもう上――地上に行っているだろう。

 私が今いるこの場所は斜面こそゆるやかとは言えないが、座席を足場に、何でも斬れる、突き破れる木刀を片手に這い上がっていけば、やがては辿り着ける……と思う。

 

 再びミツバさんを肩に担ぎ、上を目指す。

 ……銃声が聞こえた。動乱篇ももう少しで終わりを迎えるか。

 

 

 次の車両は若干傾いているものの、なんとか立てるくらいの傾斜だった。

 やっとこれで歩いていくことができ――いや。

 

「……誰だ?」

 

 質問するまでもないことだが、一応口には出す。

 次の車両への入り口から、ぞろぞろと数人の攘夷志士が出てきたのだ。

 感じるのは敵意と殺気。既に皆、腰の刀を抜いてこちらに斬りかかる準備はできている。

 

「もしかして、誘拐犯?」

 

 答える気はない、という顔。

 人数は7、8人といったところか。誘拐犯にしては多い――ま、それだけ私は恨みを買ってしまった、ということだろう。

 

「きっついなぁ……」

 

 手元にある武器は妖刀一本。

 それに加え、肩には決して傷をつけてはならない人が一人。

 あと使えるものは……今いる傾いた車両、設置されている座席、その他散らばっている瓦礫など。

 

 自分が置かれている環境を確認し、木刀を握る手に一層力を込める。

 人一人担ぎながら戦うのは困難だが――原因が自分なだけにやるしかない。

 

 

 そして、目前の敵が斬りかかって来るよりも早く、私の足は地を蹴った。

 

 

 /

 

 

 視界に映るのは赤色。

 まず確認したのは倒れ伏し、片腕が消えている男性。

 右を見れば、座席に座って腹に刀を突き刺されている者。

 

 左からは朝日が差し、向こうとして目を細める。無論そこにも血に沈んだ人間がいた。

 後ろには積み重なった数体の屍。と、そこで肩の違和感に気付く。

 

 握り締めていた木刀を腰に差し、落とさないよう横に抱き上げてみると、記憶にある顔――沖田ミツバ。

 その顔には傷一つ、血しぶきさえもついていない。

 

 改めて外を見ると、そこでは何やら黒い集団が輪になって集まっていた。

 一瞬、何かの雄叫びが聞こえた後、輪の内側から赤い血らしきものが噴き出す。

 

 それは伊藤鴨太郎を裏切り者としてではなく、武士として、仲間として死なせるため、真選組が執り行った土方と伊藤による決闘だったのだが――誰かと誰かが斬り合った、としか「彼女」は認識しない。

 

 兎にも角にも、自分はまずミツバを安全な場所へ届けなければ、という結論に達した彼女は車両の扉へと一歩、足を踏み出した。

 

 

 *

 

 

 外に出てすぐ見えたのは、3人の人影。

 足音で気がついたのか、ほぼ同時に全員がバッと振り返る。

 

「お前……!」

 

 怪我をしているのか肩を抑え、驚いたように目を見開く銀髪の男。

 

「ソラ! 生きてたアルか!」

 

 こちらを見るや否や嬉しそうに顔を綻ばすオレンジ色の髪をした少女。

 

「よかった……あれ、その人は……?」

 

 ホッと安堵の息を吐き、ミツバについて尋ねてくるメガネをかけた黒髪の少年。

 

 列車を飛び降り、押し付けるようにして少女と少年にミツバを預ける。

 慌てたように二人が受け取るのを見、それから気になっていた銀髪へ目を向けた。

 

「……これはどういうことだ。なんで沖田んトコの姉ちゃんがここにいる」

 

「鬼兵隊」

 

 それだけ告げると、息を呑む気配。

 これで大体の察しはついただろう――と、銀髪の男にぶつかるようにしてその場を後にする。

 

「オイ!」

 

 声をかけられ、少し離れたところまで来ると歩みを止めた。

 ……今、彼女が持っているのは黒い財布。先ほどぶつかった時に掏ったものだ。

 後ろからでは見えないだろう、それに入っている札だけを全て抜き、適当に懐へ押し込める。

 

「……ん、あれ!? お前、俺の財布を!」

 

 ようやく気付き、近づいてきた銀髪の頭へ乱暴に財布を投げつける。

 その際に聞こえたあべし!? という悲鳴は聞き流し、夜明けで青みがかかってきた空を仰ぐ。

 

 

 ――「ソラ」ならここで、動乱篇終了、とでも言うに違いない。

 

 ぼんやりとそう思ってから、絶条ソラ、否、「絶条空(かのじょ)」は意識を手放した。

 

 

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