銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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警護

 ――結論から言おう。日輪太夫は良い人だった。

 

 そりゃもう、この時代に合わせていうなら、天女かと思うくらいには。

 彼女の近くにいると、普段硬い表情をしている人間も自然と顔を綻ばす。

 光のない吉原において、日輪という太陽の存在の影響は大きい。多くの女たちは彼女を敬慕し、あらゆる男たちは彼女に恋慕する。

 

 とはいえ。

 

「用心棒さん、握り飯食べないかい。いっつもそんな隅にいてもつまらないだろう」

 

「――ご厚情痛み入ります。しかし現在、この身は貴方様を護るために在り、いついかなる時も警戒を解くわけには参りません。食事なら早朝に済ませてあるので、お気になさらずとも結構です」

 

 それはそれ、これはこれ。

 仕事中は、とりわけ位の高い人物の護衛中は私情を切り捨てる。

 日輪さんが良い人なのはこの短期間でよく分かったが、それは別に、仕事に手を抜く理由にはならない。

 たとえ誰が敵に出てこようと、雇われた以上、私は任された任務を全うする。前世の記憶がどんなものであろうと、役目は果たさなければならない。

 

「……真面目だねぇ、あんた」

 

 肩をすくめるも、出してきた握り飯を片付ける気配はなかった。曰く、「お腹が減ったら食べるんだよ」とのことだ。天女のようだとは言ったが、こうまで来ると母親のような包容力を感じる。

 

 そうやって今日も黙って陰で護衛を続けていると、やがて客寄せの時間帯がやってきた。といっても彼女は足が悪いということで、ただ高台でじっと下を見下ろしているだけだ。だが、たったそれだけのことでも、十分美しさが映えるというから、極上の花魁はやはり格が違う。

 

 ……客寄せということもあり、流石にこんな薄汚れた護衛が近くにいるわけにもいかない。よって、この時ばかりはやや離れた場所で警戒を続けている。それでもここは、遠距離からでも近距離からでも十分反応できる位置だ。本気を出せば、まぁ数十メートル離れていようが一瞬で傍にいけると思うが、わざわざそんな効率の悪いことはしない。

 

 けれど今日は、珍しく私に客人がやってきた。

 

「何の御用でしょうか」

 

「……ふん、わっちの気配を察知できるだけの腕はあるようじゃな」

 

 背後の闇から出てきたのは、吉原自警団「百華」を率いる死神太夫。――月詠(つくよ)だ。

 後にツッキーとも呼ばれている。

 

「ぬしが鳳仙の雇った用心棒か。まさか外の世界にも、こんな女がおったとはな」

 

「ご用件をお伺いします」

 

「……用件も何も、ぬしは何者じゃ。鳳仙が突然外の者を雇い、しかも吉原一の花魁の警護を任せるなぞ前代未聞。自警団の頭としては、とても安心なぞできぬわ」

 

 安心も何も、アンタ日輪の番人の位置を横取りされて嫉妬してるだけでしょうが。

 ――などと、確実に当たっているであろう推測はさておき、さてどう説明するべきか。

 というかどこから。妖刀の下りはいいとして……一言でいうなら、宇宙で名が通っている用心棒?

 

 ……それで納得するだろうか。しない気がする。

 多分、今この人が求めているのはそんな事実じゃない。私という人間がどんな奴なのか、試しているのであろう。

 ならば、此方も相応に応える必要がある。

 

「――ああ。私としても、この状況にはビックリしているところだよ。お偉いさんの考えることはいつも分からん。ま、いつまでもこんな目が悪くなりそうな場所には留まらないさ。鳳仙との契約期間が終わったら、さっさと地上(うえ)におさらばさせて貰う」

 

「――――、なんじゃ、ぬし。いつもの態度は営業モードじゃったのか」

 

 呆気に取られた表情の月詠に、当たり前だ、と言い放つ。

 

「けどま、引き受けた以上、仕事はきっちりこなすタイプなんでね。いつもは、ちょっとスイッチを切り替えてるだけだよ」

 

 言って、再び己の内で仕事人モードに切り替える。

 答えは返した。あとは彼女の判断次第だが――様子を見る限り、ひとまず僅かばかりの信用を得ることはできたらしい。

 

「仕事熱心で結構。わっちの杞憂であるなら文句はない。――ただ、一つ訊いておく」

 

「何でしょうか」

 

「……ぬし、もしも()()()()()()()と言う者が来たら――どうする?」

 

 日輪に会いたいと言う者。

 そんな人間は吉原でもごまんといる。だがおそらく今の月詠さんは、日輪の息子である晴太君のことを言っているに違いない。

 返す言葉に考える時間は、長くなかった。

 

()()()()()()()()()()()()。日輪様に近づく不埒者を追い払う、という役割を担っているのなら、相手が誰であろうとお引取り願うのみ。雇い主からの許可が出たのなら、それに従いますが」

 

「――そうか。いや愚問じゃったな。時間を取らせた」

 

 平たい声を最後に、月詠さんが闇に紛れて去っていく。

 すまない、という謝罪の言葉がなかった辺り、どうやら障害認定されたようだ。

 

 そりゃあ気持ちは分からなくもない。

 私が言ったのは、つまり相手が将軍様だろうと実の息子だろうと、()()()()()()()()()()()()容赦はしない、ということなのだから。

 

「……腹括っとくかな」

 

 どうかそんな面倒な事態にはならないことを祈りつつ、今宵も朝が訪れない街で警戒を続けていた。

 

 

 *

 

 

「――あり? どっかのブルジョワ用心棒じゃねーか。女がこんなトコで何やってんだ?」

 

 最初に弁明しておこう。別に私は一時の休息時間のつもりで団子屋に来たつもりではない。

 

 というかその逆。日輪さん護衛中は、基本扉の前で待機しているのだが、定期的に鳳仙からの命令によって引き離されるのだ。私たちが親交を深め、私が日輪さんを外に連れ出す――という展開を防ぐためなのかもしれない。ここら辺は、“仕事は仕事としてきっちりこなす”、という私の特性を向こうがまだ信用していない証拠だろう。

 

 それか過去に、似たような事例があったのかもだ。一部の「百華」の人間も、基本は扉から離れた場所――日輪さんと言葉を交わせない距離――で待機していたし。

 

 では状況説明に戻ろう。別に私は団子が食いたくて団子屋に来たわけではない――単にちょっと歩き疲れて、椅子に座っていただけなのだから。

 そこで出会った。出会ってしまった。そう、つまり、本日こそ、メインシナリオ進行の日だったということだッ……!

 

「……仕事だよ、仕事。ちょっと上の地位にいる若殿の護衛にね」

 

 ほーん、とあまり興味のなさそうな声と共に、横に銀色天然パーマが腰掛ける。

 それと同時に立ち上がる。

 

「ん? おい?」

 

「じゃーな。知らねー内に奢らされてるなんて展開になる前に私は帰る」

 

「いやッ……そんなことしないって! おいあれ、チョコかけ団子とか美味そうだぞ!!」

 

「店員さん一つ」

 

「はいよ」

 

「早ェェエよ!! あらゆる決断が音速だよ! さては甘味主義者だなテメー!?」

 

 やかましい。

 というか、甘味主義者なら銀さんだって負けてないと思うのだが。

 

「――じゃ、俺も団子二つで」

 

「おう待て。何私より多く注文してやがる。そして何故私の注文に乗っかるようにして言った? なぁ?」

 

「細けェこと言ってんじゃねーよ小金持ち。庶民の一人や二人の食費くらい奢ってくれてもいいじゃねーか」

 

「それを言うならまず借金を返してから言えよ。また前にみたいに取り立てられたいか」

 

「……前、ねぇ……」

 

 そこで何か思い出したのか、僅かに相手の雰囲気が変化する。コメディパートはこれにて終わり、ということだろうか。

 

「お前――沖田の姉ちゃんに何かしたか?」

 

 単刀直入だった。

 ここまでの思い切りの良さは逆に関心する。が、至って向こうは真面目な顔だ。変にあやふやな答えを返したら、それこそ怪しまれるってものだろう。

 

「さて。ここんトコは会ってないからな。何か、と言われても見当がつかない」

 

「はぐらかしてんじゃねぇ。沖田の姉ちゃんは至って元気一杯だよ――()()()()()

 

 ……銀さんが言いたいのはこういうことだろう。

 病弱だった人間が、突然調子が良くなってきている。それも病院の治療をさほど必要とせずに、だ。

 異常がないのならそれでいい――というわけではない。本人含め、周りの人間は首を傾げることだろう。

 長年、苦戦してきた病気が突然なりを潜めた。何かの前兆か、それとも単に身体の機能が回復しただけか――どちらを疑うかは明白だ。

 

「……知らないよ。身体が良くなったのは、単にミツバさんが頑張ったからだろう。それとも、本人は前みたいに戻りたい、とか言ってるのか?」

 

「それは――」

 

「ならいいじゃないか。生きてるなら、人生は堪能するべきだ。病気が再発しないか、いつまでも怯えていたって仕方ないだろう」

 

 そう、ミツバさんが元気になったということは、つまり、本当にミツバさんの身体が頑張った、と言う他ない。似たような言葉を言うのなら――適応した、というところだろうか。

 

 ……彼女の身体に注いだ、一滴ともいえない程度の星の生命力。

 並の人間が下手に触れたら拒絶反応を起こすどころじゃない。まず死ぬ。普通に死ぬ。

 けれど、私はその力を極限にまで絞りこみ、ミツバさんの身体に込めた。結果、彼女の身体はそれを受け入れ、元の流れ(げんさく)よりは寿命が延びた――というところだ。

 

 とはいえ、所詮は人の身体。力に適応し、延命が成功したとしても、その効果は短期間のもの。彼女の伸びた寿命は、せいぜい数十年くらいであろう。

 

「おまちどおさま」

 

 と、そこで注文していた団子群がやってくる。かけられたチョコソースが魅力的なことこの上ない。

 

「いったっだきまーす。……おいこら、どうした食えよ。私の金で食う有りがたい団子だぞ、食えよ」

 

「……お前、なんか雰囲気変わった……?」

 

「あ?」

 

 何をワケ分からんことを。

 そりゃ確かに――まぁ、以前よりは()()()()()()()()()、吹っ切れた、という感じはあるけれど。

 

 ……あぁいや、事実吹っ切れたのだろう、私は。

 この先、何も得るものがなかろうと――“それでもいい”、と思えてしまうくらいには。

 

「――というか、だ。万事屋さんこそこんなトコで何やってんだよ。人様にたからないと団子も食えねー貧乏人が色街に何の用だ」

 

「ぐっ……あーいや、それはだな……!」

 

 下手ないい訳を発表される前に団子を完食し、茶を喉に流し込む。

 まぁいいや、と心底どうでもいいような調子で言葉を吐き、立ち上がる。

 

「そんじゃーな。せいぜい、そっちも頑張れよ。――死なない程度にな」

 

 そうして軽く不穏な応援メッセージを残して、一旦彼の物語から退場した。

 

 

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