銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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用心棒

「氏名、絶条(ぜつじょう)ソラ。年齢、42歳。生年月日は平成18年4月4日。職業は『用心棒』やってまーす」

 

「フザけてんのかテメェ! 外見と年齢が合ってねぇ上に元号がおかしいじゃねーか!! つか"ヘイセイ"ってなんだ、聞いたことねぇぞ!?」

 

「あ、間違えた。それ約150年後辺りのやつだったわ、ごめんごめん」

 

「150年て何だ! どこからきた!?」

 

「ところで名前が偽名だということはもうお見通しですね?」

 

「どこまでボケ倒せば気が済むんだテメェは!!」

 

 マトモなのが日付しかねーぞ!

 と、目の前で突っ込みまくっているのは真選組、鬼の副長でおなじみの土方十四郎。

 ちなみに今言った生年月日はアニメ銀魂が放送された日なのである。ここテストに出るぞ。

 

 絶条ソラ。全部を漢字で書くと絶条空。偽名。

 絶望の「絶」に条件の「条」、と書いて絶条。もちろん思いつきである。他にもう少し良いのはなかったのか、私の頭。

 ソラ、というのはゴリラ原作者様から頂きました。安直。

 

「なぁなぁ、さっきから気になってたんだけどなにコレ? 食べ物?」

 

 この取調べ室に入り、お前は桂の仲間かという質問を受けた時から机に用意されたのはこれでもかというくらいにぶっかけられたマヨネーズ。下はカツ丼か?

 実際に見てみるとインパクトが凄い。すぐに食べようとは到底思えない代物だ。

 

「土方スペシャルだ。ありがたく食え」

 

「なるほどヘビースモーカーの上にマヨラーか。随分とキャラが立ってるね」

 

「うるせェこちとらドラマの再放送が特番に緊急変更されてただでさえイラついてんだ。言動には注意しろよ、ぶった斬るぞ」

 

「うわー、怖い。本当に警察か? 瞳孔が開いてんぞ、多串くん」

 

 誰が多串くんだ! と椅子から立ち上がり刀に手をかける土方さん。

 しかし私が土方スペシャルならぬ犬のエサに手をつけると、どこか関心したようにスッと戻る。

 

「微妙に普通。そしてマズイ」

 

「どれだよ! っつーか日本語おかしいぞ!!」

 

 なんだか延々とマヨネーズの味がして飽きる。

 これはカツか? とするとこの細かいのは米か。もう少しマヨの量減らしたらどうなんだ鬼の副長。

 

「……で、結局どこの誰なんだお前。(さと)は? 出身地はどこだ」

 

「東京。嘘、スカンディナヴィア」

 

「斬る」

 

「待ってくだせェ土方さん」

 

 割ってきたのは資料らしき紙束と携帯電話を持った沖田総悟。

 第三者がやってきてくれたおかげか、あぁ? と土方さんの動きが止まる。

 ……やれやれ、ようやく来たか。

 

「そこの女はつい最近、かぶき町に住み着き始めた新入り。けどその前から『用心棒』と称して金稼ぎしてたらしいですぜィ」

 

「それが何だ」

 

「その仕事……どうやらお偉いさんの方にも依頼されたことがあるらしく――」

 

『斬ったら首ィ飛ばす』

 

 最後は電話からの声。

 松平片栗虎。破壊神の異名を持ち、幕府の治安組織を束ねる警察庁長官。

 意外な人物だったからか、土方さんからとっつァん!? と声が上がる。

 

『手ェ出すんじゃねーぞトシ。そいつは俺の手駒だ。使い勝手が良過ぎて俺に散々金巻き上げさせた(・・・)凄腕のカツアゲ犯だ』

 

「ちょっと言い方」

 

 カツアゲじゃないからな。ていうかアンタにカツアゲなんかしたら殺されるわ。

 きちんと依頼こなして手に入れてますからね私。

 

『それと攘夷志士でもねえ、白だ。解放してやれ』

 

「……、」

 

 本当か? と疑いの眼差しを向けてくる土方さん。

 が、空になった土方スペシャルの器を見せると納得したように頷いた。まさか仲間認定か? 一体どこまでマヨネーズ主義者なんだこの人は。

 

「すげぇや……アンタも味覚がおかしいタチですかィ?」

 

 さらりと失礼なことを言う。

 

「食えるもんなら、食っとかないと損だろ」

 

 味はビミョーだけど、という言葉は呑み込んでおく。

 下手をしたら今度こそ斬りかかられるかもしれない。

 

「……じゃ、疑いも晴れたことだし、取り溜めしてたドラマ見たいんで帰りまーす。それと長官殿、この前の分ちゃんと振り込みました?」

 

『おうよ、報酬はきっちり。また頼むぜぃ』

 

 そこで通信は途切れ、後はツーツーという音。

 ……いやはや、コネを作っておいて正解だった。報酬も振り込まれたみたいだし、これでまた安定した生活を続けられるだろう。

 

 

 *

 

 

 二度と来んな、という台詞を貰って屯所を出る。

 言われなくても来たくねー。土方スペシャルなんて人生で一回食べればたくさんだ。

 特に行くアテもなく、今日も今日とて青い空の下を歩き出す。

 

 ……さて、何をしようか。

 あの爆弾事件が終わり、取調べを受けてから一日半。

 肝心の主要人物、万事屋一行はあともう一日半待たないと取調べ室から出てこないだろうし、いずれにせよ出てきたら出てきたらで即行、寺門通ちゃんのライブに行くことになるし。

 定春はまだ来ないし。

 長谷川さんはまだマダオじゃないし。

 

 あーあ、イベント始まるまでの待機時間って本っ当に暇だな。

 

 

 □

 

 

 

 

「オ~イ、そこの嬢ちゃん。金に困ってねぇか。ちょっとオジさんの頼みごと、聞いてくんないかなぁ?」

 

 

 顔を上げると片手に拳銃を持ち、サングラスをかけたいかにも「ヤ」のつきそうな人が立っていた。

 しかしその服装はまごうことなき特殊警察部隊・真選組の制服。

 よくよく見るとその背後には真っ黒で高級そうな車が停めてあった。中に誰かいるらしいが、顔は暗くてよく分からない。

 

 

 ……地球に帰ってきて約5年。

 目立つと分かっていてもフードつきのマントを着て顔が見えないようにしているのは、宇宙を旅していた時の名残だ。

 とりあえず馴染みある祖国をぶらぶらし、昔のように借金取りに追われているだとか暴力団に目ェつけられているだとか、とにかくそういうワケありの人間を探し出して自分を雇わせる。

 もちろんそんな連中に金なぞ期待できないので代わりに生きていくため、必要最低限の食料を報酬として受け取る日々を送っていた。

 人間、金はなくても水と食料があれば生きていける。人としては色々問題があるだろうけど。

 

 かぶき町にやってきたのはほんの気まぐれ。 

 まだ原作が始まるまで2年はあると分かっていても、ほんの少し覗いてみたかっただけだ。この鉄の街を。

 

 丁度良い公園を見つけ、雨風がしのげる遊具に入って野宿生活。

 朝になって、近所の子供らが遊びに来る前にさっさと次の野宿場所を探す。

 一般人はおろかヤンキーさえも近寄ることのない、ぽっかりと空いた空き地を見つけ出し、空腹はこの間報酬で貰った食料を小分けにして少しずつ消費することで誤魔化し、今日もどうにか生き延びる。

 

 

 そんな折に見つかった。

 日が沈み、辺りが薄暗くなってきた頃のこと。

 ……私の姿を見ても、早々近寄るどころか話しかける奴さえいないと思っていたのだが。

 

 ――だが、しかし。

 

 私は目の前――正確には1、2メートルほど離れている場所――に立っている人物を()っている。

 何よりの確証、今こめかみを銃弾が掠めていった。唐突かよ。

 

「ねぇちょっと聞いてる? 無視するなんてひどいなぁ~」

 

「用は」

 

 私が口を開いたのに驚いたのか、それとも声が女だったのが意外だったのか――どちらにせよ、そこでその人、松平片栗虎は銃を下ろした。

 

「……お前さん、最近耳に聞く『用心棒』ってやつだろ? 相当腕が良いって話じゃねぇか。少し興味が湧いてな、わざわざウチの部下使って調べ回させたところ、ここにいるって聞いてオジさん会いに来ちまったってワケよ」

 

「用は」

 

「急かすなよ。別に急がなくちゃいけねぇ理由なんてないだろ? ……なに、報酬は弾むさ。何せこの国のトップなんだからぁな」

 

 この国のトップ――てことは。

 

 松平の背後の車の後ろ扉が開かれる。

 今まで車の座席に座っていたのは。

 そしてそこから出てきたのは。

 

 

「征夷大将軍、徳川茂々。そちが腕の良い『ようじんぼう』、という者か」

 

 

 将軍かよオオオオオオオオ!!!!!!

 

 ……などとという、お決まりの台詞を胸の内で叫び散らす。

 いやぁ、大体の予想はできていましたが。

 松平とセットになる人なんてかなり限られてくる。そしてあの高級感溢れる漆黒の車。

 つーか将軍。アンタ用心棒くらい漢字変換して言え。言い慣れてないと思うけど、なんか馬鹿みたいに見えるから!

 

「………………用、は」

 

 色々な感情を押し殺した声で言う。

 正直ここで叫んで一気にギャグ空間を展開させたいけれども、ここまで平静を保ってきた態度はあまり崩したくない。

 

「だからよぉ、『用心棒』になってくれや。成功した暁にゃぁ……弾むぜ?」

 

 クルッと輪を作ってみせる松平。大人って汚い。いや私も一応成人はしているのだろうけど。

 

「――――、」

 

 しかし。しかし、だ。

 私は別に金というものは好きっちゃ好きだがそう執着はしていない。

 「お金」、という物自体は好き。ただしその意味はあまり求めていない。

 どれだけ大金があろうとなかろうと、水だけあれば人間という生物は一週間は生き延びられるのだ。……そんな生活は地獄だが。

 

 ――だが、まぁ、金があれば生活は安定する。

 いちいち野宿場所を探さなくとも金があれば宿にも泊まれる。

 食料や水だってそうだ。金があれば好きなときに食べられる。

 つまりは生存率アップ。毒でも盛られない限り死ぬことはないだろう。

 そんな、合理的思考の後。

 

 

「――……引き受けた」

 

 

 私は基本、金より自分の命を優先する。

 誰を護ろうが護るまいが、それも全て自分のために行っていることであり、いつでもどこでも生存本能全開なのだ。

 

 

 □

 

 

 小腹が空いたのであんぱんを食らう。

 うまい。土方スペシャルを食ったあとだと数千倍うまく感じる。

 

 ……松平さんの依頼は、あれからふっと思い出したようにやってきた。

 大抵は将軍のお忍び時の護衛役。

 基本、将軍も変装しているからか狙われることも少ないが、ある時は本当にある。

 私は将軍に傷がつかない程度に火の粉を払い、犯人は警察の方に丸投げ。たったそれだけでも、フツーに1年2年は遊んでくらせそうな金がざくざく入ってきた。

 

 だからといって、別に住みかを高級マンションにしているわけじゃない。

 基本節約派なので数日前に住み着いた家も家賃は結構低い方だ。ちなみに2LDK。

 

「暇だなー」

 

 イベントはまだ始まらない。

 ともあれそれが、一番平和なことなのかもしれないが。 

 

 

 

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