銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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生存報告

 ――常夜だった街に、太陽が昇っている。

 

 鳳仙との戦いは幕を閉じ、吉原は救われた。

 そうすぐには街は変わらないだろう。けれど、こうして陽の光が出た以上、人もきっと変わっていく。住人が変われば、街だって変わっていけるはずだと、銀さんは言っていた。

 

「それにしても、あの刀は結局何だったアルか。最後の最後でぶっ飛ばしてくるなんて、とんだ傍迷惑なピッチャーもいたもんアル」

 

 月詠さん達が経営を始めた茶屋の椅子に腰掛け、神楽ちゃんがそう口を開く。

 彼女が言っているのは、鳳仙との戦いの直後――より正確に言えば、彼女のお兄さんが立ち去ろうとした直前の出来事だ。

 

 どこからともなく、屋敷の奥から剛速で一振りの真剣が飛んできた。

 速度は放たれた矢のように。ただし直撃した衝撃は大砲を思わせるそれ。

 

 標的はおそらく、神楽ちゃんの兄である神威さん。

 まぁ刀そのものは瓦屋根に突き刺さり、神威さんも既に屋根から飛び降りかけて宙にいたので、当たることはなかった。しかし一瞬振り返った彼が、僅かに目を見開いていたような気がしたのは僕の見間違いか。

 

「あの刀も気になるけど、番人……ソラさんも大丈夫かな。結局、屋敷や吉原のどこを捜しても見つからなかったんでしょう?」

 

 ……ソラさんがあの屋敷にいたのは、全てが終わった後に知ったことだ。

 女の用心棒で、木刀使い。そんな特徴を兼ね備えた人物、僕らの中では一人しか心当たりがなかった。

 

「さァな。甘味が恋しくなったら、ひょっこり出てくるんじゃねーの。……とはいえ、あの出血量だ。今頃はどこぞの病院か――それとも、」

 

「それともじゃねーよ。そんなに死んで欲しいかコノヤロー。まぁいいけど」

 

 バッ!! っと三人同時に飛び退いた。

 銀さんの席の背後、見慣れた銘なしの木刀を立て掛けて座っている彼女の姿が、そこにある――――

 

「ソラさん!?」

 

「ソラァ!! 生きてたアルか!!」

 

 姿を確認し、迷いなく神楽ちゃんがソラさんに飛びつく。が、瞬時に出された団子を口の中に叩き込まれ、がふぅっ、という呻き声を上げてその動きは停止する。

 

「なんじゃ、ぬしら知り合いか」

 

 煙管をくゆらせ、そう言いながら来たのは月詠さん。

 吉原が解放された今、彼女はこの茶屋を経営する日輪さん、晴太くんの世話をみることを決めたらしい。元々、日輪さんの下で働いていたとも聞いているので、当然といえば当然の結末である。

 

「まーな。とはいえ、ここにいるとは思わなかった。それとも何か? まさか万事屋(あんたら)が夜王を倒したのか」

 

「いや、それは皆さんの応援もあったからで……っじゃなくて! ソラさんこそ、大丈夫なんですか!? 怪我は!?」

 

「怪我ぁ? あぁ、真面目に死にかけたがこのとーり。二度と老いぼれ問題児の依頼なんぞ受けんがね」

 

 ……そう簡単に流していい問題なのだろうか。屋敷にあった血痕を見た限り、致命傷だったのは明らかだ。どこか、無理をしているのでは――

 

「……正直、俺ァどっかでくたばっているモンかと踏んでいたんだが。存外テメーも悪運が強いらしいな。今までどこに居やがった?」

 

「そりゃあ仕事に失敗したんだ、手痛い仕打ちが来る前にずらかったんだよ。けどその後の吉原の情報を集めてみたら、あの夜王が倒されたって聞いてな。様子見がてら、お呼ばれがてら――もう一度来てみたんだよ、この街に」

 

「……? 誰かに呼ばれたんアルか、ソラ?」

 

「私だよ」

 

 その時、店の奥から日輪さんが車椅子をこいでやってきた。現在その膝には、おぼんに酒と団子を乗せたものがある。

 

「初めはダメ元で連絡を取ってみたんだけどね。これがあっさり繋がったものだから、この変わりつつある吉原を見て貰いたいって、誘ってみたんだよ」

 

「いやぁ、やっぱり明かりのあるなしは大きいですよね。大分雰囲気も変わってますし」

 

 それは、まぁそうなのだが。

 少なくとも、鉄の空に覆われていた頃より、今の吉原の方が活気はある。かぶき町と変わらない、どこにでもある街だ。

 

「というかどうやって連絡を――?」

 

「あぁ、名刺渡してたから」

 

「名刺ィ!?」

 

 いつの間にそんなものを、いや、よくよく考えれば、ソラさんは警察庁長官をお得意様にするほどのプロなのだ。そりゃあ名刺くらい作るようになるのも当然か。

 

「日輪太夫は吉原一の花魁だしな。それも、将軍でもなけりゃ会えねーっつー特上の花。そんな最高クラスの太夫の警護あたるなら、そりゃ自己紹介くらいするだろ?」

 

「ってことは……ソラ、電話番号変えたアルか!? 道理で繋がらない筈ネ! 教えろヨコラー!!」

 

「無駄だ。携帯は既に機種変更して家に置いてきた」

 

 ……それ、携帯の意味を為していないような…………、

 

「あと機種変ついでに家も変えた。宇宙海賊なんてのに関わっちまったからな、何があるか分かったもんじゃねーし。ちなみに高級マンションの最上階」

 

「いきなり金遣い荒くなったよこの人。致命傷ついでに金銭感覚もイカれたんですか」

 

「……は、何か怖かったからヤメた。今はとりあえず、松平のおっさんの紹介で、ご近所にあった江戸――……お城の片隅に寝床を用意してもらったよ」

 

「全然誤魔化せてねぇよ!! むしろ言っちゃってるよ! 城!? まさか将軍家!? ホントにどこか狂っちゃったんじゃないですかソラさん!?」

 

「ん? いつから狂っていないと錯覚していた……?」

 

 ニヤリ、と口角を上げると、運ばれてきた団子を頬張るソラさん。

 ……あれ。なんかこの人、何か憑き物でも落ちたような……そんな、どこか清々しい表情をしているような気がする。気のせいだろうか?

 

「……ソラ、いま宇宙海賊って言ったアルか?」

 

「うん? あぁ、何かあぶねー三つ網み兄ちゃんに出会っちまってな。凶暴さにおいては鳳仙を上回っていたと思うぞ、あれ」

 

「――――っ」

 

 そこで、やや神楽ちゃんの顔が曇る。

 ……無理もない、なにせその三つ網みは、神楽ちゃんの実のお兄さんなのだ。それが、ソラさんと戦った――今でこそ平気そうな顔しているが、屋敷に残されていた彼女の血痕を見れば、どんな戦闘だったのかは想像に難くない。

 

「……戦ったのか、アイツと」

 

 銀さんの問いに、ソラさんが頷く。

 

「久しぶりに世界……いや、宇宙の広さって奴を実感したよ。最後の最後に奇襲だけ仕掛けたけど、結局まともな傷は与えられなかった」

 

「奇襲――待て。まさか最後の一刀、あれはぬしが……」

 

 全てが終わった直後、放たれてきたあの刀。

 ……予想していなかったといえば嘘になるけど、本当にソラさんが投げていたものとは。刀って一応、侍の魂なんだけど。用心棒のソラさんに言っても仕方ないかもしれないけど、あれ僕たちの魂なんだけど。

 

「……ウチのバカ兄貴が世話になったアル。侘びに今度は私が酢昆布奢るネ」

 

 すると、やや驚い……いや、神楽ちゃんの反応が予想外だったのか、ソラさんが僅かに目を開く。既に、彼女は戦った相手の正体には薄々勘付いていたらしい。

 かぶりを振って、ソラさんが返答する。

 

「いや、謝る必要はない。私も、あいつとの戦いを愉しんでいたのは事実だしな。むしろ自分の力量を計るいい機会だった。……礼こそお前に言うのは筋違いだけど。あれはあれでいい経験になったよ」

 

「……ホントアルか? 隠れて義手義足つけてないアルか?」

 

「ねーよ。正真正銘、私の手足だよ」

 

 証明するかのように、軽くソラさんが手を振る。

 ……深手は負ったのだろうが、まさか互角に渡り合ったのだろうか。

 思えば、ソラさんの実力は未知数だ。警察庁長官や、あの鳳仙までもが彼女を雇っている。今でこそ妖刀を携えているが、昔は宇宙を旅したこともあったと聞いた。それはつまり、妖刀を持つ前――元から、それなりの技量はあるということで…………

 

「ともあれ、無事ならそれでいい。だが、何かあったら言え。手ェ貸してやるから」

 

「――――」

 

 ジロリと銀さんの方を見るソラさんに、一瞬また借金のことを持ち出されるかと思ったが――珍しく素直に言葉を受け取ったらしい、一度目を伏せてから、静かに口を開いた。

 

「……そうだな。どうしようもなくなったら、アンタ等を餌か囮に使わせてもらうよ」

 

 いや、違う、やっぱり捻くれていた。やっぱりソラさんはどこか根性が捻じ曲がっているというか、腹黒いというか……こう、素直さは絶妙に入り混じっているんだけど、どうにも信用ならない部分の比率の方が大きい。

 

「ごっそさん。んじゃあ、私はこれで」

 

 団子の串を皿に置き、妖刀を持ってソラさんが立ち上がる。

 それを日輪さんが引き止めた。

 

「おや、もう行っちまうのかい? もう少し留まってもいいんだよ」

 

「いえ、生憎と新しい住居を捜さなくちゃいけないので。…………もう牢屋はご免だし」

 

 ……城の片隅ってそういう……?

 ま、まぁこうして無事も確認できたし大丈夫だろう。根性こそ曲がっているが、ソラさんはそう無闇に嘘をついたりしない人だ。先の銀さんへの返答も、彼女の本心……だと信じたい。

 

 茶屋から出た後姿を追いかけるように、遅れて僕も建物の影から外へ出る。

 徐々に小さくなっていくその背中に声をかけ、

 

「ソラさん、本当に無理しちゃダメですよ! 気をつけてくださいね!」

 

「――ああ、ありがとう」

 

 背を向けたまま、片手を振る彼女を見送った。

 

 

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