修行
「強く……」
「なりたいんです……僕たち……」
真っ昼間の公園で何かが始まろうとしていた。誰か助けてほしい。
目の前には何やら覚悟を決めたような、神妙な面持ちをしている神楽ちゃんと新八くんがいる。これアレだ、確か修行篇……っぽいやつの導入のアレだ、たぶん。
「……えーと」
ひとまずベンチに座ったまま、くわえていた串焼きを食べ終える。
久方ぶりの出番で調子が掴めない。
なんかちょっとぼーっとしてる間に年号変わって原作もアニメもFINAL迎えてしまって四半世紀にも及ぶ決着も付いてしまったような気がするが――まあ今はそんなことはどうでもいい。
遠い世界の話だ。
転生して二次元入りした私には関係ない。
ええ、こっちでは一年だって経っていませんとも。
目を閉じ、息を吐き、二人に向き直る。
「何て?」
「強く……」
「いや、繰り返さなくていいよ。ええと、うん。なればいいんじゃないの? 強く。頑張ってね?」
「そうじゃないネ! 修行アルよ修行! ソラなら何か、強くなる方法、知ってるんじゃないアルか!?」
助けを求めて新八くんへ目をやる。
どうしよう。まさかこれ、本当は銀さんの方にこの話がいくはずなのに、なぜかその立場が私になっちゃってる、って感じじゃねーだろうか。
「その、すみません突然……万事屋に行く途中でソラさんを見かけて、参考に聞いてみようって、神楽ちゃんが」
やっぱり立場変わっちゃってるじゃねーか。
どうしようコレ。どうすんのコレ。軌道修正を求められてるこれ? 下手に返せば、本当にこの二人の「修行篇」とやらに捕まってしまうのではないか……!?
「修行ったって……それなら銀さんに聞けばいいんじゃないの? 他にも二人の人脈なら、強い人なんて沢山いるでしょ」
「それはそうだけど、私はソラの修行が知りたいネ! 今まで全然本気出してくれたことないけど、今日はそうはいかないアルよ! 洗いざらい、全部吐くアル!!」
なんだか取り調べじみてきた。
前から薄々感じていたが、相手側もこちらに段々と遠慮が無くなってきている気がする。こうやってツッコミ役もボケ役も関係ないカオス空間に引き込んでくるのだ。それが万事屋流だ。
「こう、いきなり強くなるー! って方法が無いのは分かってるんですけど……コツみたいなのはないのかなぁ、って……」
……とはいえ、新八くんの言葉は真剣そのものである。
「ああ……要するにアドバイスね。インストラクターでも雇ったら?」
「いきなりぶん投げたよこの人。回答する気まったくないよ」
いや、だって仕方がない。
原作の流れはこうだ。二人に助言するのは、私以外の大人たち。しかし彼らは二人に、あえて適当な助言を送り、それを受けた二人は、最終的に「自分たちで修業法を探す」という結論をもって、この話は決着を迎えるのである。
と、そこまで考えて思った。
――最終的に至る結論が同じであれば、あまり過程は問わないのかもな、と。
「銀ちゃんや姉御、マダオとかヅラにも聞いたけど、まるでアテにならなかったアル。あと頼れるアテはソラだけネ。何か教えてほしいアル」
いきなり推測をぶっ壊された。もうシナリオはなぞった後かよ。
――そこで、何か視線を感じた。
横目で周囲の――公園の端にある茂みを見ると、そこにはどっかで見覚えのある銀髪天然パーマや着物の女性に、サングラスの人影と黒髪ストレートの人影が隠れていた。
「…………、」
ええ……
ってことは何だコレ。ダメな大人四人に助言を求めた直後、偶然見かけた私に白羽の矢が立った、って状況なのか。
もしかすると、今の二人は、彼らの言葉を中途半端に受けた時点で見切りをつけ、「じゃあ次はソラさんに聞いてみます!」な感じなのだろうか。
原作介入のしわ寄せがこんなところにまで。
確かに二人の交流関係の大人の中には、当然私も含まれているのだろう。
やばいぞコレ。責任重大だぞコレ。
今ここで二人を、原作の結論にもっていかなければ、今後の展開に歪みが生じかねない……!
「……まあ、そうだな。人はいきなり強くはなれない」
「……!」
「ソラさん……! やっとまともなアドバイスを……!」
状況が状況だ。仕方がない。
今回は、私がこの疑似修行篇のオチ役として抜擢されたらしいのだから。
これも現世の修行の一環だろう。
「まず程良い山に篭るだろ?」
「山アルか! やっぱり山アルね!? それで熊を――」
「いいや」
目を閉じ、若干周りの空気をシリアス風味にしてから、私は言った。
「滝行だ」
「滝行」
「あと山は空気が薄いところがいいな。んで毎日頂上から下まで走って降りる。罠もそこそこ設置するといいだろう。それから真剣一本で大岩を斬れるところまで行けば、」
「待って! 待ってください! なんかソレ、この前読んだジャンプに同じようなことしてた漫画ありました!!」
なんだと。
「もうパクられていたとは」
「パクったのアンタ! ちゃんと真面目に答えて下さいよ!?」
「えー、じゃあ」
今度は
「まず地球から出るだろ?」
「宇宙進出!?」
「宇宙生物の討伐を生業にする団体とか組織とか、まずそこに入れ。そしたら下級の危険生物の討伐依頼とかこなしていけば、二年後あたりにはアラ不思議。そこそこ名の知れた宇宙生物ハンターになってます。ね、簡単でしょ?」
「二年も待ってられないアル! こう……上手く数か月ちょいで強くなれる方法はないアルか!?」
「その向上心をなー。もうちっと計画性の方に活かせたらなー」
そう言っていると、だんだん二人の面持ちが微妙なものになってくる。
よしよし、いいぞ。そのまま私に見切りをつけて、自分で方法を探す旅に出――
「……なるほど。宇宙生物の討伐隊なんてあったんですね……メモメモ」
「あれっ? やる気?」
「いや、やっとそれっぽいアドバイスが出たので。実行するかはともかく、メモっといて損はないでしょう」
「……いやいやいや、アレだよ? 宇宙なんてキケンいっぱいだよ? 残機二億くらいないとヤバイよ? ちょっと人間やめるか卒業しないと危ないよ?」
「宇宙行きを勧めた口で一気に引き留めに来ましたね。でも僕らは本気ですよ。今の僕らは超強くなりたいモードなので。ってか残機二億って何すか。ソラさんは人間でしょう?」
「いや私は不死だからいいんだよ。死にゲー感覚でゴリ押し戦法通るし……」
「傲慢の権化!? 自分の強さをそういう風に例える人初めて見ましたよ!!」
「何にせよ宇宙行くのも帰ってくるのにも時間がかかるネ。効率良い方法、他にないんアルか?」
そうは言われてもなぁ。
うーむと視線を公園の端にいる四名の人影にやると、事の顛末を緊張した面持ちで眺めている銀さんたちと目が合った。
『サラサラヘアーになりたいです』
『(謎に神々しい天使の画)』
『全テ灰ニナレ』
『(謎の甲羅を掲げている)』
全員が全員、何やらスケッチブックや甲羅やらを掲げて何かを伝えようとしていた。
何をしたいんだかサッパリわからん。
まあ、まともな助言なんぞ求める方が間違っているのかもしれないが。
死んだ目で見つめていると、今度は持っていた携帯が震えた。
『やっほう☆
暇だからメールしちゃった☆
部下のノブたすからドーナツの差し入れ!(^^)!
ギザうます☆☆
P.S ほしかったらメールしてネ』
無言でガラケーをねじり砕いた。
二秒前の記憶を削除し、携帯の残骸をポイ捨てし、さて、と足を組み直す。
「それで――修行法だっけ?」
「いやスイマセンごめんなさいッッ!!」
「正直舐め腐ってたネ私たち!! お手軽な修行なんて無いアルネやっぱり!!」
「……? なんだ、急に聞き分けがいいじゃないか。もう修行の方針が固まったのか?」
「ハイいやもうそれはサッパリ!!」
激しく慌てふためく様子の二人に首を傾げつつ、茂みにいる頼りにならない四人衆へと目を向ける。
『やっぱ天パでいいです』
『(綺麗に着色された天使の画)』
『灰ニナッテキマス』
『(甲羅をつけたインストラクターを背負っている)』
また意味不明の光景が並んでいる。そして何故か四人全員、懺悔のポーズのような姿勢になっている。この数秒であの四人に何が起きたのだろうか。
「で、ででででもっ、ソラの話はスゴク参考になったネ! 私たちもガンバルアルー!!」
「あ、ああ、ありがとうございました! もう誰にも頼りません、強くなる方法は自分たちで見つけてきます!!」
更になんだかよくわからない内に、此方の話もまとまっていた。
何があったか知らないが、これでひとまず原作通り……でいいだろう。
何かから逃げるようにして早足で去って行く万事屋二人の後ろ姿を見届けると、茂みの方にいた四人分の気配も消えていた。忍者かあの人たちは。
とまあこんな感じで、今日も私はこの世界を生きていく。
おひさー