銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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商人と一人

「――用心棒、か?」

 

 聞こえた声に、内心やや首を傾げながら振り返った。

 そこには編み笠を被った人影が一つ。

 顔は見えない――が、背格好や今の声からして女性だろう。いや、編み笠を見た時点で、もう察しはついているのだが。

 

「貴方は?」

 

 しかし、質問する。話の流れを守って。

 

「……自己紹介が先じゃったな。わしは快援隊副艦長の陸奥(むつ)。ところで、この辺りで頭がカラのモジャ毛を見んかったか?」

 

 江戸町内、とある路上。

 今生における恩人・坂本辰馬――その副官と邂逅した昼下がりだった。

 

 

 *

 

 

「放浪癖ある上司を持つと大変っすねー。人捜しなら、その道の万事屋(プロ)にでも頼んだ方がいいんじゃないですか?」

 

「そうしたいのは山々じゃったが、珍しく居らんかった。他の仕事でも入っとったんじゃろう」

 

 まぁ、あの人たちは頼まれたら、浮気調査から裏組織の潜入まで何でもやる。流石に新八くんや神楽ちゃんに犯罪の片棒担がせる真似はさせないと思うが、割とあくせく働いているというのは本当らしい。

 

「しかし付き合う必要はないと言うとるのに。さては暇人か、貴様(きさん)

 

「特に予定も入っていないので。それに、坂本さんに会える機会だって早々ありませんし」

 

「……? なんじゃ、奴に用件でもあるがか」

 

 用件というか、彼にとってはそう大したことではないかもしれない。

 だが、それでも伝えたいことができたのだ。エンカウントできるこんな貴重な機会を逃すなどありえない。

 ――彼には返しても返しきれない恩があることを、最近ようやく思い出したのだから。

 

「いやなに、一言お礼を言いたいだけですよ」

 

 そう言うと、僅かに首を傾げる陸奥さんだったが、それ以上踏み込んでくることはなかった。

 ともあれ、カミソリ副官と会えたのは僥倖だった。これで坂本さんとの再会は確実なものとなっただろう。後は、彼が何かしらの事件に巻き込まれていないことを祈るだけだが――

 

「おまんのことは坂本から聞いておった。曰く、食料に目がない用心棒だとな」

 

「紹介の仕方に悪意を感じるんですけど」

 

「安心せい、奴の頭はカラじゃ。他意はなか」

 

 だとしても他に言い方あっただろーがと突っ込みたい。

 

「……獲物は木刀一振り。出身も種族も分からん女が、地位やその種族関わらず、用心棒を果たしているという。攻撃性の危険えいりあんをもろともせずに、ただ各星を放浪している変わり者――それが六年ほど前、宇宙の隅でまことしやかに囁かれていた噂じゃった」

 

「へー……」

 

 一部でとはいえ、そんな評判が立っていたとは。

 宇宙に行ったのは、まあきっかけこそ気紛れだったが、戦闘経験など得たものは多かった。そこらへん、ばっちりモノにしてるのは「彼女」の方だけども。

 

「すると? 貴方はその変わり者を値踏みするために、私に声をかけた、と?」

 

 やや皮肉混じりにそう返すと、陸奥さんが失笑する。

 

「おまんがわざわざ地球を出た理由を詮索する気はない。わしは単に、大昔に奴が(たぶら)かした奴を見てみたいと思うただけじゃ」

 

「誑かした、って……」

 

 まぁ……確かに食料で人一人の人生を変えた手腕は、並の商人ではない。あの人は、気質は商人でも方法がサギ師じみているのである。

 

「実をいうと、わしも海賊よりタチの悪いサギ師に騙された身でな。同じ人間に誑かされた者同士、さてどんなものかと会ってはみたが――なんてことはない、ただの同業者じゃったな」

 

「――――」

 

 同業者――同業者と、きたか。元々、生きるために人斬りをしていたこの私が。

 しかし、生憎と私は識っていた。彼女……陸奥さんもまた、宇宙海賊という身から快賊――商人という生き方を示された者であることを。

 

「……言うなれば坂本さんは、商人製造機ってことですかね?」

 

「商人ならば、利益を生み出せと言いたいところじゃがな」

 

 そんな会話をして、お互いにクッ、と軽く笑い声を零す。

 

「そういえば、おまん、名は――」

 

 陸奥さんが言いかけた直後、道の向こうから爆音が轟いた。

 

「――カーツラァァアアアアアアア!!!!」

 

 けたたましく鳴るサイレン、飛び交う怒号、逃げ惑う一般住民。

 一瞬にして平和だった午後が戦場の雰囲気になりつつあるのを感じ取りながらも、目の前で繰り広げられている騒ぎの景色を二人揃って平静に眺める。

 

「相変わらず騒がしいの、この町は」

 

「まー、それが特徴っていえば特徴なんですけどねー」

 

 油断していると偶にバズーガが飛んでくるくらいには賑やかである。

 実際、かぶき町では月に四、五回くらいはどこかで爆音が響く。それはつまり、あちこちに攘夷志士がいるという事実でもある。

 まぁ、最初に聞こえた怒号を聞く限り、今のは死人が出ないタイプの騒ぎだろう。

 

 と、そこで土煙の中から此方へ向かって、二つの人影が飛び出してきた。

 

「――むっ!? これは用心棒殿、こんなところで再会するとは奇遇だな! こんな攘夷日和には是非とも攘夷志士オリエンテーションを開催したいところだったのだが、生憎と今の俺は逃亡の身。追って期日と場所を伝えるから、採用試験はまた今度……」

 

「ねぇよ! なんで私が攘夷志士志願者みたいな話になってんだよ!!」

 

 まだ諦めてなかったのかよこの勧誘……!

 桂さんとは久し振りに会ったが、ここまで勧誘の意志がブレていないと一周回って尊敬の念を抱く。神経図太すぎだろ。

 しかし逃亡中、足踏みしてまでこんな勧誘メッセージを送るとは、まさか攘夷志士って人出不足なのだろうか……? 入る気は更々ないが。

 

『桂さん、早くしないと』

 

「うむ、そうだなエリザベス。真撰組の連中が混乱している間に一刻も早くここを離れなければ。それと、くれぐれもそのモジャ頭は落としてくれるなよ? そんなのでも、れっきとした俺の友なのだからな」

 

「――オイ待て貴様(きさん)。それはもしや……」

 

 白い怪物、エリザベスが抱えているのは気絶している様子のモジャモジャ頭。その毛色は銀ではない――茶色であった。

 

 陸奥さんが声を上げかけ、そこで遠方からバズーカ砲が飛んでくる。

 それを引き抜いた木刀で素早く斬って処理すると、再び逃亡のため走り出していたテロリスト二人組が振り向きながら、

 

「ではな用心棒殿! より詳しい攘夷活動の説明はまた後日ッ!!」

 

『バイビ~』

 

 古すぎるネタを放ちつつ、そのまま彼らの後姿はどんどん小さくなっていく。

 ――無論、抱えられていたモジャ毛もろとも。

 

「追えェェェ!! 待ちやがれカツラァァァァ――!!」

 

 そこへ、一台のパトカーが恐ろしいスピードで此方の真横を通過しようとやってくる。

 どうしようかと考えかけた時、平坦な合図が聞こえた。

 

「跳ぶぞ」

 

 えっ、と返す暇もなく、気付いた時には首根っこを掴まれて宙にいた。

 ガシャン! という音を立てつつ着地したのは車の上。襲い来る突風で飛ばされないよう、咄嗟に屋根へ木刀を突き刺して身体の位置を安定させる。

 

「オイィィィ!! なんだテメェ等! 勝手に乗ってんじゃねェぞ!!」

 

 下から聞こえる声は土方さんのものである。どうやら木刀を刺したことで、此方の存在がバレてしまったらしい。

 まぁそれはともかく、

 

「ぐふっ……! あの副官殿、首っ、首がとれる……!」

 

「辛抱せい。それより、さっさとあのバカ共を止めるぜよ」

 

 嗚呼、やはり貴方もこの世界の住人ですね……! などと思いながら、前方の景色に目をやった。

 確か向こうには川……と、よく破壊被害に遭う橋があった気がする。あの“逃げの小太郎”のことだ、あのまま川に飛び込んででも逃亡するに違いない。

 

「フン、芋侍が。パトカー如きでこの俺に追いつけるとでも思うたか!」

 

「やべっ――」

 

 車の進行方向の先で、走りつつ、桂さんが懐から出した小型の爆弾を地面に放る。

 車両が轢けば爆裂は不可避。上にいる私たちもろ共吹き飛ばされるだろう。

 

「行くぞ」

 

 しかし瞬間、再び陸奥さんが動いた。無論私も掴まれたままで。

 

「ちょっと待ァ――――ッ!?」

 

 いや、待つ筈がない。彼女はもう跳んでいる。

 

 そこでこの後、彼女が起こすであろう言動を直感的に察知した。

 桂さん達との距離は約二十メートルほど。加え、陸奥さんは()()夜兎族。こうして人間一人軽く掴んでいる時点で、地球人とはかけ離れた怪力の持ち主であろう。

 それらの情報を統合し、思う。

 

 ――飛び道具にされるッ……!!

 

 それが結論だった。それ以外に有り得なかった、この状況。

 

 だが時既に遅し。

 結論に至ったその瞬間、案の定投げ飛ばされた。

 

「グォおおアアア――ッ!?」

 

 為す術なく、脳天から白い的へと直撃する。

 ゴッ!! という鈍い嫌な音と、直後に走った激痛により、一瞬だけ意識が遠のき――

 

 

 意識が 切り替わる。

 

 

 

 

「ああァっ!!? エリザベ――――ぶほォぁッ!?」

 

 「彼女」の視界に映ったのは、陸奥が桂小太郎に跳び蹴りを入れた場面だった。

 そのまま飛ばされた桂は、エリザベスと巻き込みに遭い、そのまま川へと落ちていく。

 

「――」

 

 身体が動いたのは反射的なものだった。

 エリザベスが抱えているモジャ頭――もとい坂本辰馬こそ、今回救出すべき相手だ。このままでは、テロリスト二人と落下の一途を辿るだろう。

 

「――せぇ、」

 

「のぉッ!!」

 

 即座に体勢を整え、川へ飛び込みかけた坂本の足を、陸奥と「彼女」はガッと片足ずつ引っつかむ。

 直後、同時に手前へ引き抜き、回収した彼を勢いよく地面へと転がす。土まみれになったものの、坂本が動く気配はなかった。初めから気絶していたらしい。

 

 同時に、炸裂音が背後から聞こえる。爆弾にぶつかり、先のパトカーが臨終した音である。

 しかしそこは流石の真選組か。彼女らが振り返ると、とっくに車内から脱出していた土方副長と隊士たちは、桂追跡を続行しにかかっていた。

 

「あーあ、川に飛び込まれちまった。良い蹴りでしたけど、逃亡の手助けだったなら、事情聴取させてもらいやすよ?」

 

「……人質回収」

 

 木刀を投げてよこした沖田総悟に、彼女は転がっている坂本辰馬を指し示す。陸奥副官がはよ起きんか、と容赦なく蹴り倒してもまるで意識を取り戻す気配がない。

 

「まァ、一応アンタはとっつぁんと繋がってるし、報告したところで、最終的にはモミ消されるでしょーね。土方さんが無事に桂を捕まえられたら、感謝状が送られてくるかもしれやせんけど」

 

 投げかけられる皮肉に、しかし今の彼女はそれが皮肉とさえ分からず、何の反応も示せない。

 

「……で、こちらの御仁は?」

 

「快援隊商事の者じゃ。地べたのこれが社長で、わしはその副官じゃき」

 

 そこで陸奥が、でっち上げ込みの大まかな経緯を説明する。坂本と桂の関係――特に昔、攘夷戦争での戦友だった……ことについては曖昧にし、攘夷志士の口車に社長が乗せられて……という、完全に桂を悪役に仕立てたものだった。事実らしいので弁護のしようがなかった。

 

 そういえば、と彼女――もとい「絶条空」は思う。あの謎の白生物エリザベスは、坂本辰馬が地球に輸入した生物だったか、と。

 己の知る由もない知識。

 己が知る事もない、未来の記憶。

 前世の人格が持つ記憶の一部を、彼女も時折目にすることがあった。

 今の自分が修羅に堕ちていないのは、坂本辰馬との出会いはもちろんだが――この荒唐無稽な、しかしそう跳ねのけるにはあまりにもはっきりとした記憶と知識もあるおかげだと、彼女は考える。

 

 でなければ、こうしておとなしく人里のただ中にはいなかった。

 

「情報提供に感謝します、っと。んじゃあ、俺はこれで。あ、そういえば絶条サン、姉上が会いたがってましたよ。暇な時にでも、顔見せてやってくだせェ」

 

 空は、おそらく彼女(ソラ)ならこう返すだろうと考えて口を開いた。

 

「そうか。善処する」

 

「日本人らしい曖昧な答えじゃの」

 

 沖田が去っていき、後には空と陸奥と、転がったままの坂本辰馬が残った。

 現在、絶条ソラの意識は、一時的に空の深層へ落ちている。

 坂本辰馬に礼が言いたい、とソラは言っていたが、その気持ちが空にはまだ分からない。解るのは、彼と出会った事実が、今の自分に影響しているのだろうということだけだ。

 

「……ところで、なのじゃが。おまん――今さっき、絶条と言ったか?」

 

 陸奥のやや険しい表情を、不思議がることもなく空はうなずく。

 

「――おまん、投資とか、しちょるか?」

 

「トウシ?」

 

 金というものはまだよく分からない。

 しかし以前、ソラの方が色々やっていたことを彼女は思い出す。

 せめてもの恩返し、と言いつつ。

 定期的に、快援隊へ有り余る金を叩き込んでいたような。

 

「あぁ……偶に」

 

「そうか――そうか。……これはまた、久し振りにやらかしてしもうたようじゃの……」

 

 陸奥さんの呟きに彼女は首を傾げる。

 そんな様子に構わず、そこで陸奥はガッと空の肩を掴んだ。

 

「――――行くぞ」

 

「?」

 

「トップの救出に得意先の手を煩わせたなぞ、快援隊の面目が立たんぜよ。だから黙ってついて来い、飯奢っちゃる」

 

 呆然とする彼女の手を引き、また空いている片手で気絶艦長を引きずりながら、陸奥が歩き出す。

 一人の用心棒は、今はただ、世界の流れに身を任せる。

 この状況を楽しんでいることに、本人も気付かぬまま。

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