銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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故事と一人

「地雷亜ァ? 誰それ?」

 

「まぁ、だろうな」

 

 茶屋で団子を食べていた。

 解放された吉原は、全体的に明るい。遊郭としての賑わいではなく、ただの、どこにでもある町と同じような活気に包まれていた。

 

「そいつがどうかしたのか」

 

「ついさっき、俺が引きずってきた天パをやった奴だよ。興味ねぇのか」

 

「ないなー。全く」

 

「……あっ、そう」

 

 意外だな、とでも言う風に、みたらし団子にかじり付いているのは服部全蔵。

 時は少しだけ遡る。といっても、事は先ほど全蔵が言った通りだ。

 朝方、気まぐれに吉原の様子を見に来ると、ボロボロの銀さんを引きずって歩いていた全蔵にバッタリ出くわした。

 全蔵とは偶に、ジャンプを貸し借りする仲である。お互いの行き着けの店にジャンプがなかった際は、一緒に探し回ったりする程度の関係だ。

 

「てっきり俺ァ、アンタもあの天パの勢力の一人だと思ってたんだがな」

 

「心外だな。私にとって、あいつらはただの債務者だぞ」

 

「そういう発言をする奴に限って、遠くない内にレギュラーメンバーに抜擢されるのさ」

 

「あいつら超友達です!!」

 

「手の平返すの早すぎない!? その友情安すぎない!?」

 

 全蔵の戯言を聞き流しながら、今回の流れについて考える。

 章題、紅蜘蛛篇。ざっくり言うと、三日後に吉原が物理的に炎上する話である。

 銀さんが意識不明で運ばれてきた、ということは現在、月詠さんもどこかに捕まっている、ということだ。

 とはいえ助けに行く気はない。そういうのはヒーローの仕事である。

 

「追加の団子、おまちどー」

 

 振り返ると、そこには追加の団子を乗せた盆を持った晴太くんが立っていた。

 二人で一本ずつ手に取り、もぐもぐと食べていく。

 

「……ま、要するにだ。お前さんも気をつけるこったな。剣の腕こそ、そんじょそこらの奴らとは比べるまでもねぇけど、女ってだけで突っかかって来る輩はいるからな」

 

「私を誰だと思ってるんだ。昔は宇宙人とひょいひょい渡り合ってきたんだぞ? 簡単にやられるワケねーだろうが大丈夫だ私は最強だからな……!!」

 

「なァんで秒でそんなに脱落フラグを建てるマネすんだテメェは! お前っ、発言にはマジで気をつけろよ!? テメーみたいに訳知り顔してる奴からやられるって俺はジャンプで学んだんだからな!!」

 

「死なないからヘーキヘーキ」

 

「……あん?」

 

 どこか、釈然としなさそうな声を上げる隣人を尻目に、三本目の団子へとかぶりつく。

 原作――恐らくは、世界の本筋、とも言うべき知識は、私のアドバンテージだ。しかし私が「ここにいる」という事実、そして「干渉」行動によって、果たしてどこまでこれが価値を保っていられるのかは分からない。

 

 陳腐な例えだが、「私」という存在は、池の中に放り込まれた小石のようなものだ。

 現状――少なくとも、生み出している波紋はごく小さなもの……だと思いたい。というかまぁ、既にブン投げられている岩石たちの波紋が強すぎて、全然影響できていない、というのが近いかもだが。

 

 ともあれ。

 今は、まだ――平和だ。平和そのものだ。

 私ごときが未来を憂うことなど愚かしい、と思えるくらいには。

 

「隕石がどうだか知らないけど。アンタたちも、カラスにならないよう気をつけてよ。油断大敵、寝耳に水、青天の霹靂! 何が起こるか分からないんだからさっ」

 

「なんだ小僧、覚えたてみたいな言葉をひけらかしやがって。カラス、ってのはあれか? 『鴉の天災』か」

 

「カラスの……天災?」

 

 ……昔ながらの、例え話のようなものだろうか?

 聞いたことのない名前である。

 

「知らないの、ソラ姉? 寺子屋じゃ、一度は聞くような話だけど……」

 

「うん、知らん。教えてー」

 

「えーとね……まず、この話には旅人と鴉が出てくるんだけど――……」

 

 その教訓話は、至って単純な構造をしていた。

 

 かつて、とある旅人がいた。

 歩いていたところ、旅人は地上を塞ぐほどのカラスの群れと出くわした。回り道をしようにも、目的の場所へ行くための道は、ここにしかない。

 どうしてカラス達は、こんな道の中央で立ち往生しているのだろう?

 疑問に思った旅人は、よくよくカラスたちの足もとを確認してみた。するとそこには――

 

「死体の山」

 

「ホラーかよ。にしてはもう一捻りなかったのかよ」

 

「ここらだ、ここから」

 

 戦場跡だったのか、そこには多くの亡骸が溢れていた。そう、地上に降りていたカラスたちは、それらをついばんでいたのである。

 その光景を認めた旅人は、次の瞬間――――

 

「邪魔だからといって、一羽ずつ叩きのめしていきました」

 

「……なにを?」

 

「聞くまでもねェだろ。――鴉を、だよ」

 

 そして出来た道は、真っ赤な血と、暴れ回った鴉たちの羽で彩られていましたが、旅人はそれらを一切気にすることなく、意気揚々とまた旅を続けていきましたとさ。

 

「――っていう話。聞く度に思うけど、これ、かなりグロテスクだよね……」

 

「昔話なんてそんなもんだろ」

 

「だから『鴉の天災』か。あくまでも、視点は鴉なんだな」

 

「まぁ、不意打ちには気をつけろ、って話さ。寺子屋では、『この時の旅人はどんな気持ちだったのか』とか『死体はなんだったのか』とかって、わざわざ考察させられたりしたな」

 

「オイラもやったよ、それ。でも、最初に寺子屋で聞いた話では、死体の山が花畑になってたり、旅人は鴉を追い払っただけ、ってことになってたんだよね」

 

 旅人に――鴉。

 旅人は邪魔だからといって、鴉たちを叩きのめした。

 旅人は、自分の道を遮る鴉たちが邪魔だったから、叩きのめした?

 

 ――否、否、否。

 

「……旅人は……どんな気持ちだったんだろうな」

 

「ん? だから、邪魔だったから潰したんだろ」

 

「そうかなぁ。オイラは、死体の名誉を守るために退けたんだと思うけど」

 

「おいおい、旅人は一人で旅するような奴だぞ? いちいち死人のことまで考えるか、っての」

 

「違うってば。旅人の正体は、実は徳の高い僧侶で、亡霊の成仏を手助けするためにやったんだよ!」

 

「ここにきて新解釈かよ。僧侶がいきなり大量虐殺とかするかねぇ……?」

 

「違う――違うよ」

 

 記憶の風景がザッピングする。

 旅人じゃない。僧侶でもない。先に、手を出したのは。

 

「――鴉、だ」

 

 そうだ。

 あの時。その時。

 旅人は――彷徨っていたそいつは、鴉に出くわした。

 故に。だからこそ。

 

「鴉がいたから、嫌っていたから……殺したんだ」

 

「ほお? こっちでもまた新しい解釈か。考察のしがいがあるねぇ」

 

「ソラ姉は鴉敵対派かぁ」

 

「あ、いや」

 

 軽く頭を振り、意識を切り替える。

 残りの団子二本を一気に口の中へ叩き込み、完全な覚醒を促していく。

 

「……はぁ。晴太くん、団子おかわり」

 

「まだ食べるのッ!?」

 

 三本指を立てると、心底ドン引いたような顔して晴太くんが奥へと引っ込んでいく。

 少しずつ空腹状態は解消されてきたが、どうにも物足りない。聞くところによれば、かぶき町の大食いエースという噂も立ってきているらしいし、そろそろフェードアウトしていきたいところではあるのだが。

 

「お前、大食いキャラだったのか。実はあのチャイナ娘と仲良いな?」

 

「一緒にするな。私は必要な分だけ食べてるだけだぞ」

 

 心外である。それに好きで大食いしているわけじゃない。

 茶を飲み、ホッと一息ついていると、全蔵が思い出したように口を開いた。

 

「――そういや、これはあくまでも噂なんだがな」

 

「?」

 

「今の話。『鴉の天災』には、元になった実話があるらしい」

 

「……というと?」

 

「この旅人にあたる奴には名前があってな。一部の地域じゃ、『羅刹』だとかって呼ばれてるんだと」

 

「羅刹? 人喰い鬼っていわれる、アレか」

 

 羅刹天。人を惑わせて喰らう悪鬼。

 確か、前世の記憶(ちしき)では、インド辺りの神話に出てきていたような気がする。

 元は魔物の側面が強調されていたが、仏教が入ってきた後は、毘沙門天に仕える鬼神になったのだったか。

 魔物から、破滅と滅亡を司る神様へと。

 

「そ。話の中では、あくまでも潰されたのは鴉だったが――もしかすると、実話じゃ人間だったのかもな、ってこと」

 

「どこまで行っても嫌な話だな……」

 

 晴太君の聞いた話が、マイルドになっていた理由が少し分かった気がする。

 

「つまり、代々伝えられてきた教訓話は、実は本当にただの虐殺話だったと」

 

「多分な。まー、どっちにしろ鴉共はやられてるから、犯人は永遠に闇の中だが」 

 

 所詮は言い伝え。昔話。

 実話があろうとなかろうと、現代にまで関わってくることはない。

 その話が形作るまでに、一体どんな事柄があったのだとしても。

 

「……けど、鴉たちが被害者だったなら、そいつらは羅刹を恨んでいるかもな――」

 

 最後に全蔵が呟いた言葉が、酷く遠くに聞こえた気がした。

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