カタナを入れ替えてカナタ。やっぱり安直だが悪くない名前だ。
てなわけで。
どうも皆さんこんにちは、今回の実況役の絶条ソラ改め彼方です!
今回はなんと! かぶき町四天王の会合に参加する、華陀様の護衛を仰せつかって来ております! すでに会場の方の空気は戦場と大差ありません! 隠れている此方も見ているだけで肌がピリピリしてきます! これで本当に会議なんてできるのか! 華陀様は本当にこんな空気の中、無法の町にルールを敷くことなんてできるのか――!?
……などという茶番はさておき。
仕事の時間である。
『彼方、そちには泥水平子の監視を命ずる。これより奴がかぶき町で起こす騒ぎの数々、しかと目にし、わしの元に伝えよ』
――茶番の通り、てっきり定例会議にでも連れて行かれるのかと思っていたが、予想が外れた。というか彼女、用心棒なんていらないくらい配下は多い。
既に身の周辺を任せている者たちがいる手前、新参者の私は便利よく使われる感じというか。
しかし平子の監視とは。
華陀様は言ってなかったが、平子も今回の事件の黒幕の一人である。
孔雀姫と泥水次郎長――平子の親父さんは、長らく敵対関係にあった。そこへやって来た平子が、華陀様と手を組み、このかぶき町の均衡を瓦解させ、最終的には次郎長に天下を取らせようというのが、大雑把な話の流れだ。
「……そうなんだ」
ハイそうです。あと私の言葉に返事をするな。
……私が何をやっているのか? それはまぁ、最初の茶番と関りがあるのだけど。
そう、今回の私は実況役。第三者視点。読者側。観客側。そんな立ち位置にいる。
言っている意味が分からねーと思うが、つまり、ゲームプレイ画面を実況しているような様子を想像してくれると分かりやすい。
本日は身体の主導権を「彼女」――改め、絶条空に押し付けているのだ。
そんな感じだ。
なにせ私たちの状態は二重人格とかいう面白おかしいことになっている。
一つの身体に人格が二つ。
今までは私が身体を操作して原作に介入していたが、本来の持ち主、
というわけで、実験である。
片方が行動している間、片方は身体の中でのんびり実況。
元々戦闘能力は空の方が数段上だ。万が一、次郎長クラスと渡り合うことになんてなったら、私では対処の仕様がない。そんなことで華陀様に「斬!」されたくはない。
それにこういう
私一人で進むだけじゃこの先、対処し切れない問題も出てくるだろうし。
ちょうどフードファイターなんて異名で顔を出し始めた彼女も、ここらで一回、世界に挨拶しておくべきだ。
長篇という名のメインルートに参加する形で。
「……」
……とまぁ、こうして押し付けてみたはいいものの。
困ったことに、「空」の思考は何一つとして読み取れない。食欲とか睡眠欲とか、生物の本能的なものは感じとれるが。
私は以前にもあったように、映画館の観客席に座っているような感覚で、彼女の目を通した外を眺めることしかできない。ちゃんと起きたまま、彼女としての行動を記憶できるのは、大きな収穫だが。
更にこの状態になって、はっきりと分かったことが一つある。
「……ごはん」
*
「この度万事屋一家末弟に加わりました。
背後で、そんな声が聞こえていた。
振り向かないまま、空はカラになったお椀を差し出していた。
「おかわり」
「……どうしちまったんだい、アンタ。食欲旺盛なのはいいけど、これじゃあそこのチャイナ娘と大差ないじゃないか」
やれやれ、と肩をすくめながら、カウンターでご飯を盛ってくれているのはお登勢さん。
もぐもぐと、口一杯にご飯を食べているのは、何を隠そう今は肉体の主導権を握った絶条空である。
……いや、こんなことある?
主導権押し付けた私が言うのもなんだが、まさか初っ端からメインキャラの本丸で飯食い出すとか思わないよ!?
「しかもそんな物騒な
「今は無い」
見りゃわかるよ、とお登勢さん。
カウンターに立てかけてあるのは、いつものあの超絶最強便利妖刀・星砕ではない。
真剣である。
廃刀令のご時世に。
木製妖刀は現在、華陀様預かりにされてしまっている。反逆を防ぐためだろうが、こうなると本当に彼女の狙いは「用心棒」ではなく、私の人脈の方らしい。
あくどい、さすが華陀様あくどい。流石は悪の華。自分で勝手に枯れるけど。
というか華陀様にとっちゃ地球人扱いだしな、私。信頼されないのも無理はない。ま、獲物が変わったくらいで空の戦闘能力が低下するとは思えないが。
「ったく、勘弁してくれよ。ドチンピラ子にフードファイターって、一気に押しかけてくんのも限度があんだろ。特にそこの用心棒! 今更大食いキャラ付けても遅ぇんだよ! いくら出番が少なかったとはいえ、大飯食らいになっただけで、レギュラー出演とかできると思わないこったな!」
いやはい、今回は本当に実況役なので出番ないです銀さん。
というか今までは代打だったというか、ほぼ成り代わりな状態だったというか。ようやく本物が出てきて本編開始ってカンジと言いますか。今がレギュラー出演中というか。
「おかわり」
「無視か!」
「そこのお姉さんもアニキの
「違うネ。奴ァ、ここ最近最強フードファイターの名をほしいままにしている鬼木刀アル。でも……」
「……なんか、様子おかしいよね。もしかしてアレ? フードファイターモードってヤツなのかな。ご飯食べると人格変わる的な感じなのかなアレ」
勘がいいんだか悪いんだか。
いつもの私ではない、と万事屋の面々は気付いている様子だが、妙な推測でこんがらがっているようだ。ってかフードファイターモードって何。
「ソラァ、妖刀どうしたアルか? 落としたアルか? 奪われたアルか? それとも間違って食べちゃったアルか?」
「食べちゃったは無いでしょ神楽ちゃん。でも、何かあったんですか? ソラさん」
横から神楽ちゃんが心配そうな顔を出し、新八も問いかける。
すると一旦、空は箸の動きを止め、顔を上げると。
「
「えっ……え? 何この人、まともに口を開いたと思ったらなんか怖いこと言い出したんですけど……」
「カラスに妖刀食われたアルか!?」
「どんな生体だよ。ってか鳥にどんな恨みがあるんだよ、お前?」
銀さんの質問に、空は短く答える。
「私の故郷、烏の胃の中。万死に値」
静かな声色で。
殺意と憎悪を込めながら。
機械じみた単調な響きのまま。
「死すべし烏、
それだけ言って、再び食事を再開する。
そんな此方の様子を、万事屋三人衆は黙って見つめ――
「あ、あのォ……ソラさん、やっぱ過去になんかあった人なんすかね……?」
「女には秘密の一つや二つあるものヨ。無闇に踏み込んだらいけないネ」
「つーか様子おかし過ぎるだろ今日のアイツ。いつもならヘラヘラしてんのに、今日は仏像みてーにずっと無表情だぞ。悟りの修行でもしてんのか?」
バレてます空さん! バレます空さん!!
そりゃあ別人格だもの、違和感ありありに決まってるよね! いやバレたらバレたで、それはいいよ! しょうがないよ! こっちはそれを承知で主導権押し付けたからね! でも今から言い訳考えても、妖刀の呪いです的なアレしか案がないよ! トッシーよろしくお祓いされちゃうよ!! 本丸に乗り込むの早過ぎたよ君!!
そんな此方の悲鳴が届いたのか。
「……烏は殺しても美味しい」
などと、彼女はフォローにもならない下手な補足を付け加えた。
「食ってるよォォ! あの人烏食べちゃってるよ! 絶対何か悪いモン食べてますよアレェ!!」
「食欲もここまで来ると暴食だな……っつーワケだ、もっさり娘。俺たちはこれから、こいつの食生活をケアしに行かなきゃならん」
「そんなぁ! 一緒に暗黒面に堕ちましょうよアニキ! お願いします、わしにはもう行く所がないんですぅ~」
「……アンタ、極道モンかい」
聞いたことがある、とお登勢さんが話し始める。
平子の素性。次郎長と商売でモメてた植木蜂一家、抗争となるや女だてらに一騎当千の働きを見せる、とんでもない暴れん坊――ついた異名が、人斬りピラコだと。
「人斬りィ!? このもっさりしたのが!?」
「こんなもっさりっ
銀さんと新八の驚き様に、そんな大層なものじゃないんですぅ、と平子が言う。
そんな一方で、
「おかわり」
空は黙々と、スナックお登勢の飯を爆食し続けていた。
……遠慮の気配がまるでない。吉原での一件以降、やたら空腹になる時が多いと思っていたがアレだろうか。
さすがに一回でも死ぬと、それなりに代償があるということか。
「……行く所がねーって、その一家とやらはどうしたんだよ」
「次郎長一家のだましうちにあって、今はお花畑しかありません。だからココに来たんですぅ、次郎長のいるこの街に……お花を飾るために。――かぶき町を、まっ赤なお花畑にするために!」
なんと紛らわしい言い方か。一つも嘘を言っていないところ、余計にタチが悪い。
確かに彼女の一家は次郎長に潰されたものの、組長から組員にまでピンピンしている。現在は皆で紅花園なる農家をやっているとか。
がしかし、そんな事実を知らない万事屋からしてみれば、今の平子の言葉は爆弾発言でしかない。
お花畑にする、は血の海にする、と同義にしか聞こえず。
銀さんの力を借りて、次郎長親分に復讐をなそうとしている娘にしか思えない。
「ヤバイ……ヤバイですよ銀さん。とんでもない
「ごちそうさまでした」
「あっ! 待つネソラ! ちゃんとカラス吐き出さないと身体に悪くなるヨ!!」
「もうお前ん中では烏食ってる前提なの……? ああでも確かにアイツ、ダークマターも恐れぬ胃袋の持ち主だったな。暗黒物質の食い過ぎで、別側面でも表出したのか……?」
「どこに行くんですかアニキ~。わしと一緒に、暗黒街のボスの夢追いかけましょうよ~。きっとアニキを日本一の大親分にしてみせますってェ~」
「テメーはまずその暗黒面を一切忘れろォォォ!!」
がやがやと騒がしく。
波乱の予感に満ちた四天王篇が、ここにスタートした。