引き続き実況していきます、絶条空の別人格兼第二人格、彼方です!
孔雀姫華陀の依頼を受けたはいいものの、妖刀没収されるわ悪役側につきそうだわと心労で胃痛が収まりません! しかも主導権を握らせたもう一人の自分は、任務開始早々に万事屋陣営で飯を食い始める始末です! 一応「平子の監視」という華陀様の命令は現場で遂行中ですが、それはそれとして万事屋側が此方の真相、「絶条空二重人格説」に辿り着きそうな気配を漂わせています! このまま万事屋はキャラクター個別ルートに行くか、メインシナリオ・かぶき町四天王篇に行くのか、必見です! こうご期待!!
「おかわり」
『おかわりだァァァ! 鬼木刀、ここにきて四十皿目のケーキのおかわり! 小麦粉はまだあるか厨房! と、対抗するように店主、持ってきたのは――ホールケーキだァァァァ! ここで鬼木刀の勢いを削ぐ作戦か! がしかし鬼木刀、臆することなくホールケーキを食べる食べる食べる! はたしてその胃袋に底などあるのかァ――!?』
ノリノリで叫んでいる司会者は、どっかで見たグラサンマダオ。
夜兎にも負けない大食っぷりを見せる空の傍ら、万事屋メンバーが死んだ目で突っ立っていた。その横で、監視対象・平子は空がおかわりを出す度に拍手を送っていた。
「ごめん! ケーキ屋とか入った俺らの判断ミスだった! お願いだから食べるのもうヤメテッ! ヤメテェェェェ!!」
銀さんの悲痛な声が虚しく響く。
どうやらメインシナリオを進めながら、同時に新キャラ二人のルートを攻略するのは無茶すぎたようだ。
*
「……どうすんですか銀さん。ソラさん、相変わらず僕らからしてみれば違和感バリバリですけど、もうフードファイターとしてこの町には溶け込みまくってますよ。むしろ溶け込もうとしてた僕らの方が全然溶け込めてなかったですよ」
「なんであんな堂々としてんのアイツ。用心棒からフードファイターにジョブチェンジしてたの? だから妖刀から真剣になったの? お前の仕事魂その程度だったの……?」
後ろからそんな声が聞こえるが、気にする空ではない。
緊急開催された大食い大会を切り上げ、しかしテイクアウト用のケーキを食べながら彼女はかぶき町内を歩いて行く。
ちなみに廃刀令で持ち歩きを心配していた真剣だが、今は万事屋の計らいで布に包んでもらったものを帯刀していた。ありがたい。アンタらのそういうところ、嫌いじゃないよ。
「おいソラ、テメー本当にどっか悪くなったんじゃねェのか。暗黒面に堕ちてテメーの矜持も忘れちまったら人間シメーだよ」
と流石に真面目に問題を解決しに踏み切ったのか、そう銀さんが此方の肩を掴んで呼び止めた。
「……? 矜持?」
「そうだよ。今まで用心棒やってただろうが。食にかまけて仕事の誇りっつーもんも消化しちまったんじゃねぇのか?」
銀さんの言葉は割と的を射ていた。
そう、元々彼女は金より食料を優先して用心棒を務めていたのだ。潤沢した生活によって、その在り方に変容があったとしたら――それは間違いなく、ソラとしての私の責任だろう。
「……人斬りでは獣のままだと言われた」
はぐ、と最後のケーキを飲みこみ、彼女は言った。
「用心棒は『人』らしいから私はその道にした。
「……えーと、つまり?」
「人になれるなら職なんて用心棒以外でも別にいい」
「バナナの皮に包んで喋れェェェ!! じゃあ何!? 用心棒って仕事にはこだわりなかったのお前!?」
銀さんが見事に私の心情を代弁してくれている。
だが考えてみれば、彼女は坂本さんに示された道が用心棒だった、というだけなのだ。下手すれば人斬り以外の道だったら、割となんにでもなったのかもしれない。
「でも、私は剣を鍛えたかった。護ることで強くなる剣もあると知ったから、この生業を続けてた」
いつもの私らしからぬ、静かな声で彼女は喋る。
おそらくは、嘘偽りない本心を。
「傷つける武器で何かを護ることは難しい。護る対象が多ければ多いほど尚更に。
だから
……お、おお……。
「……お前、そんなことも言える奴だったんな……」
「……正面から言われると正直、反応に困っちゃいますね……」
「ソラ……私の知らない間に、いつの間にこんな立派になってたアルか……」
「あれあれ~? アニキたち、もしかして照れてるんですか~?」
「「「違わいッ!!!」」」
からかうような平子の言葉に、三人の声が仲良く揃う。
……アンタら、チョロすぎないか。攻略する側が攻略されてどうすんだオイ。
そんなだと空さんの個別解放ルートなんて夢のまた夢だよ? 万事屋陣営に引き入れられないよ? 今のままだと絶条空、確実に快援隊陣営行きだと思うぞ。OPとEDにしか出てない人たちに追い抜かれちゃっていいんか。
でも空の方もアレだよ? 凄く良いこと言ってたけど、明日には一番護るべきだったお登勢さんがやられるから、かなりカウンターダメージ負うよ彼ら? まさかそれも織り込み済みの計算か?
「っあ~、とにかくだ。お前はこれからは用心棒としてではなく、暗黒フードファイターとして生きていくって感じでいいのか? そのためならキャラ変もいとわないと」
「そんなの困るアル! 前のソラの方が酢昆布たかりやすかったネ! 今のソラは酢昆布たかっても逆に食われそうアル!!」
「いやどういう例えなんですか二人とも。素直にいきなり変わるのはびっくりするから止めてくれ、って言えばいいじゃないですか」
キャラに関しては二重人格だから仕方ないんだぜ、ぱっつぁん。
――なんて思っていたら、視界には乾いた昆布が映っていた。
「……カワイイ?」
「カッサカサに乾ききってます~、イヤンカワイイ~」
「なんで乾物屋!? 女の子らしいスポットなんですか乾物屋!?」
「オィィィ人の話聞けやコラ! 結局お前はダースベイダーなのかジェダイなのかどっちなんだァァ!!」
「バーちゃん酢昆布!」
そろそろ場がネタのカオスじみてきた。
というか空、何気に私の知識を活用しているようだ。いやアレが素なのか演技なのかは分からんけど。
そんな光景を眺めていると、平子にいかつい男が軽くぶつかってきた。
「あっゴメンなさ……」
「ぎゃっぎゃあぁぁああ!!」
「どうしたんすかアニキぃいいい!!」
平子が謝ろうとした矢先、男が勢いよく地面に倒れ込む。
その子分らしき別の男が、これまた大げさに騒ぎ立てる。
モノホンの極道サンが来てしまったらしい。
平子をどうにか人斬りの女の子から、普通の女の子に抑えようと努力していた万事屋の男二人が、青い顔をする。
「今折れたァ! ぶつかったショックで完全に腕折れたァァ!!」
「どう落とし前つけてくれんだァァァ!?」
平子に吠えたてる極道モンらしきモブ男二名。
それに対し、私の背後で冷や汗垂らす万事屋二人。
「……この後は?」
囁き声に近い空の問いかけは――ああ、私にかけられたものだろう。
応えるように、覚えている記憶映像をザザーッと思い出す。
この後、いさかいに介入した銀さんだが、結局相手側を殴ってしまい、次郎長陣営と敵対する羽目になってしまうのである。
とはいえ、結局なんやかんやでお登勢さんは無事だし、万事屋メンバーの絆も強まるし、平子の元にも次郎長が戻ってきて、感動の結末を迎えるのが、この長篇なのである。
「……成程」
視界が動く。
見えたのは、今まさに、銀さんが騒ぎ立てる男を止めようと、その肩に手を伸ばしたところだった。
――刹那。
「ダースベイダァーッッ!!」
ガゴッ!! と空の――私の――膝蹴りが、銀さんの顔面に直撃した。
妙な断末魔を上げ、ゴロンゴロゴロと地面に転がっていく銀髪頭。
唐突な展開に、周囲の人間は完全に硬直している。私も実況を忘れて停止していた。
「銀さアアアん!! ちょっ……ちょっとォォォ! ソラさんんんん!!?」
「遂に目覚めたアルかソラの暗黒面が! 新八、アレはもう私達の知るソラじゃないネ、闇の力に呑まれてしまった暗黒フードファイターアル……ッ!!」
「いやどんな設定!? どういう展開!? そ、ソラさん、一体何を――ぶげらっ!?」
「しんぱっ……ッ!!」
邪魔者死すべし慈悲は無い。
と言わんばかりに、秒速で新八を殴り倒す。続いて防御しようとした神楽ちゃんを叩きのめし、地面に転がした。
ギャグみたいなノリで万事屋、壊滅。
こ、コイツ――舌の根乾き切る前に尊敬してる奴らぶっ飛ばしたァアア!!?
精神的にも肉体的にも攻略完了しやがったァァこの暗黒卿!! お前もう立派なダースベイダーだよ! 今まで私が保ってきた脇役という属性をかなぐり捨てたよご本人!! シナリオ崩壊まった無しですよ空さ――ん!!?
……え? この後どうすんのコレ。どうなるのコレ。予想不可能の事態すぎてもうこの精神世界で一生実況役やっていきたい気分なんだけど!!
「お……おお、ネーちゃん、やるじゃねぇ――ギャホォッ!!?」
「あ、アニキィィィィ――ぐぎゃらっ!?」
暴走はそこで止まらず。
引きつった笑みで近づいてきたモブ男二人を、空は容赦なく腹パンで気絶させる。
周囲には五人の人影が倒れ伏している。
その中央で佇む私――空は、どこからどう見ても誰が見ても、
「あれあれ~? いいんですかァ、こんなコトして。貴方、ただじゃ済みませんよ~?」
唯一魔の手から逃れたらしい――いや恐らくは空があえて見逃した――平子は、相変わらずのニコニコ顔だったが、動揺した様子を隠し切れずにいた。
うん、今から全力でこの場から逃げ出したいよね、君。
あえて声をかけるその度胸、流石は次郎長の娘だよ、君。
ほんとごめんね、なんでこうなってるんだろうね…………?
「喧嘩両成敗」
「建前ですか? 言い訳のつもりですか~? 何にせよ、これで貴方はかぶき町の敵。明日にはこの町を追われることになりますよ~?」
そうだよね、やっぱりそうだよね。
万事屋との敵対を避けるどころか、万事屋一家に爆弾叩きつけたようなものだよね、コレ。
しかも次郎長一家の連中もノックアウトしたしね、コレ……
「だったら、追われる前に全て片せばいい」
「正気ですか~? 暗黒面だか何だか知らないけど、かぶき町四天王を敵に回して、生き延びられるとでも……っ」
空が拳を突き出したのはその時だった。
鉄拳はそのまま、平子の顔面を殴り飛ばすかと思いきや、
「おうおう、ウチのモンに何してくれとんじゃワレェ。お嬢に手ェ出すモンは、たとえ女子供だろうと、この黒駒の勝男が許さッ――――」
カッコよく庇うようにして間に入って来た、七三分けの男の顎を吹き飛ばした。
「――これでよし」
空さ――ん!!
クラス・アヴェンジャーからクラス・バーサーカー兼ボクサーにジョブチェンジしたっぽい空さ――――ん!!!!
「……貴方一体、何者なんですか。何が目的で……」
「絶条空。今は孔雀姫の用心棒」
驚いたように平子が目を見張る。
そうだよね、びっくりだよね。
これじゃあ華陀様、自分の敷いたルールで破滅することになるもんね!!
「――筋書きがどうだったのか、これからどうなるかは知らない。けど、あの店のご飯は美味しかった。だから、これから起こることを知った上で、それを放置するのは
「……そんな理由で暴れたって言うんですか~? 貴方一人でこれからどう動こうが、戦争が起きるのは避けられません。それに今度は、貴方が華陀様に消される番なんじゃないですか~?」
「そう。だからこれから、全て片す」
すると空は、平子を無視し、起き上がろうとしていた人影の元――坂田銀時の前へと歩いて行く。
「今晩。夜八時に、また」
「ッ、待ちやがれ……!!」
手を伸ばした銀さんに、一方的に言い捨てて。
踵を返し、地獄のような惨状の場から、彼女はあっさりと退場した。
……未来の事を知っている上で何もしない、傍観者に徹する。それは――人として、致命的に何かがズレている。
たとえ、全てが解決に導かれる未来を知っているとしても。
そう、私は大方そういう風に生きてきた。ただし起こした例外もある。それこそ、本来死ぬ人間を延命させてしまったあの一件だろう。
対する彼女は、ただ傍観する在り方が気に入らなかった。故に多少強引にでも介入した、と…………
……まあ。
それら諸々を理解した上で、一つだけ言わせてもらうとだ。
誰がかぶき町四天王篇