かぶき町四天王篇。
それは坂田銀時の元に、元人斬りの平子がやって来たことで幕を開ける銀魂長篇の一つだ。
この話で生まれた名場面、名台詞も数多い。
もしも私が未だ、絶条ソラとして動いていたら、やっぱり脇役根性で舞台の端にいて、出てくるのは終盤辺りで華陀様を連れ去るとか、その程度だっただろう。
この長篇で大事なポイントは、大きく分けて三つ。
一つ、これまで以上に万事屋の絆が強くなること。
二つ、かぶき町が一丸となって敵に立ち向かうこと。
三つ、平子の元に次郎長が戻ること。
他にも細々とした重要エピソードはあるが、まぁ大体こんな感じだろう。
それが、たった一人の人間の暴走によって、大幅にスキップされてしまった。
この長篇はかぶき町にとっても、万事屋にとってもターニングポイントに関わる。
一体どんな跳ね返り――バタフライ・エフェクトが飛んでくるか分からない。
だが生憎と、時間泥棒はこの時間軸に存在しない。
セーブポイントはなし。やり直しは許されない。
故にどんな展開がこの先に待っていようと、私は飛び込むしかなくなった。
けれども、思うことがある。
今まで、こんな来世の自分がいた世界――つまりは、絶条ソラという人格が生まれる前のこの世界は、本当に原作の筋書きの通りに進んでいるのかと。
……他にもなんかやらかしてねーだろうな、この娘。
私の人格出来上がる前に、なんかビックバン級のやらかしやってねーだろうなァァァ!!?
*
――ホラー映画でも観ている気分だった。
明かりがチカチカと点滅している城内。広く、迷路のような造りをしているこの場所は、孔雀姫華陀の居城である。
その謁見の間。そこには一人の人間を囲い込むようにして、無数の白黒の衣装に身を包んだ軍団――城の主・華陀の配下である傭兵と、精鋭たる辰羅たち全てが揃っていた。
床に、壁に、天井に。
四方八方を完全に封じられた人間に、逃げ道など存在しない。
「殺せ」
孔雀姫の命令は短く。
裏切者――絶条空に次の瞬間、凶刃の群れが襲い掛かる。
鮮血が大広間に滴り散っていく。
死がもたらされた空間を、束の間、静寂が包み込む。
だが、その静寂は偽りのものだった。
もたられた死は、彼女にとって、飽きるほど経験してきたものだったのだから。
「な、何ッ……?」
玉座に座る孔雀姫の顔色が変わる。憤怒から驚愕へ。驚愕から、恐怖の色へと。
ズシャリ、と「彼女」を刺し殺した兵士たちが崩れ落ちる。
動揺が走ったのは、孔雀姫だけではない。周りにいた他の兵士、精鋭と謳われた傭兵たちもまた、眼前の光景に目を疑っていた。
「貴様、なぜ……」
「――」
白刃が閃く。
赤が吹き上がる。
命が一つ、二つ、三つ、次々と失われていく。
『人の剣じゃないと、斬れないものがあるから』
――人の剣って、何だろう。
『護ることで強くなる剣もあると知ったから、この生業を続けてた』
――護る剣って、何だったんだろう……
疑問に答えてくれる者はなく。
私は精神世界の観客席で、ガタガタと膝を抱えて、震えることしかできなかった。
「な、なんじゃ貴様は、何だ、貴様は――ッ!!?」
また、孔雀姫の問いにも、彼女が答える事はなく。
再び斬り落とされた腕を、足を、肉体を
「ば、化物めぇええぇぇェッ!!」
孔雀姫・華陀の悲鳴が城内に響き渡り。
――無慈悲なる鏖殺劇が、ここに幕を開けた。
というわけで。
どうも皆さんこんばんは!! 今回の実況役、彼方です!
私が絶条空を名乗るなんておこがましい、思い上がりも甚だしい! これからは絶条彼方でいきます! いきますっつったらいきます! 誰がこんなベルセルクになれるかァァァ!!
目の前の画面――視界には――血しぶきを上げて、次々昇天していく傭兵部隊さんたちがいます。あ、華陀様が辰羅たちを連れて広間から逃げ出しました。もちろんそれを逃がす空さんじゃありません。
現時刻、午後七時半! 銀さんに約束した時間まであと三十分! それまでに主人公たちはこの鏖殺劇に終止符を打つことができるのか!? いや無理ですハイ。確信をもって言います。これは
……さて恒例通り、前回のおさらいから行きましょう。
転生したらしい来世の私、絶条空さんは、肉体の主導権を握った瞬間、原作シナリオ崩壊モノの暴挙をやらかしてくれました。
華陀様に雇われた身でありながら、万事屋陣営に喧嘩を売り、更に次郎長陣営にまで喧嘩を叩きつける! 無論拳で。
で、華陀様に見つかった後、冒頭の通り彼女は処刑されました。
無数の精鋭部隊に無数の刃。か、勝てる気がしねぇ……
なんて、それは普通の人間の場合です。彼女なら大丈夫。だってなぜなら――
「何故、何故だ! 何故
そう、彼女は――
不死である。
変異体である。
故に、死にゲー感覚でゴリ押し戦法ができる。
チート能力は持ってないと言ったな。あれはまぁ、言っていた当時は、嘘じゃなかった。
だって知らなかったし。風邪とか全然ひかない健康体だなー、とか、傷の治り早いなー、とかは思ったことあったけどね!
それに実際、「私」が持ち込んだのは原作知識くらいだった。再生能力なんて禁止級のモノ、マジで神楽ちゃんの兄貴と戦うまで知らなかった。落とされたはずの左手が起きたら再生してたり心臓が蘇生してたりした時点で気付いたのだ。マジで。
不死者による無限斬殺。
地獄でしかねぇ。
誰だよ監督、あんなのに主役任せたの。
ハイ、私です。
もうダメだぁ……オシマイだぁ……
華陀様の城内には、それはそれは綺麗な真ーっ赤なお花が咲き乱れている。
絶景ですね。
絶望的な眺めという意味で。
で結局、「絶条空」はここに来るまで何をしていたかというと。
四天王陣営に喧嘩のバーゲンセールして、然るべきところに連絡して、怒った華陀様に捕まって処刑されて、でも不死者だから死ななくて、現在無慈悲を搭載して殲滅中というわけです。ブルータスもびっくりだよ!!
「や、やめろ……わ、わしを誰と心得る! 宇宙海賊『春雨』、第四師団団長の華陀であるぞ!! こんなことをして、春雨が許すとでも――!」
無駄っす華陀様。ソレブラフって私も彼女も知っちゃってるから。
というわけで空さん、無言の追撃。華陀様の護衛たちが、これまた綺麗な赤いお花を咲かせていく。
青ざめた顔色が白くなっていく華陀様。
それでも気絶せず逃亡を続けているのは、偏に彼女がこれまで築いていきた地位とそれに付随する自信故か、それとも生物としての生存本能が故か。
でもね華陀様。
気絶しておいた方がよかったことも、あるんだよ。
「来るなァァァ化物!! 貴様なぞ、貴様なぞ――!」
次々命潰えていく配下の光景を前に、半狂乱になりながら叫び散らす孔雀姫。
ごめんね華陀様。怖いよね華陀様。だが慈悲は無い。
「あ」
とそこで、華陀を追っていた空が、行き先を変えた。標的の方は振り返ることなく、上の階段へと逃げていく。当然。
空が足を止めた部屋は武器庫のようだった。そしてそこには――見慣れた、あの妖刀・星砕があった。
「回収」
ア、ウンアリガトウ。
もしかして武器を持ち替えるのかと思ったが、妖刀は帯刀するらしい。……どういう基準で得物選んでんだろうか、コイツ?
武器庫を後にし、再び単独ボスによる進行が始まる。
当たり前のように武器庫の前には、伏兵さんたちが居たが、それらも容赦なくぶった斬っていく。
「ヒ、ヒィィイ!!」
黒衣に身を包んだ兵士――華陀さまの配下の一人が腰を抜かした。目以外のほとんどを覆い隠す衣装であっても、その恐怖は見て取れる。
得体の知れぬモノを見る目。
死を前にして、どうすることもできぬ絶望感。
うんうん、怖いよね。もう戦いたくないって顔に書いてあるね。
だがスマネェ、華陀様の駒という時点で、この殲滅は避けられねーのである。彼らがどんなに命を乞うても、どんなに足掻こうとも、全滅するのはとっくに確定事項なのだ。
このシナリオ崩壊が決まった時点で。
ゆっくりと空が向き直ると、兵士は悲鳴を上げながら背を向け、逃げ出そうとする。だが何のためらいもなく、空は刃を血に染めた。
援軍にやって来たのか、奥から出て来た別動隊たちが、その光景を見て足を止める。
恐怖は伝播し、全ての感情は絶望に染まっていく。
空が一歩足を踏み出すと――遂に立ち向かう者と、逃げ出す者とに兵士が分かれ始めた。
「うあああああああァァァアア!!」
「た、助けてくれ、命は、いやだ、やだやだ、死にたくないィィアアア!!」
きっつい……
皆さんの断末魔きっつい。心にクる。
ホラー映画、いやこの場合はスプラッター映画か。にしたってキッツイ。
というか空の歩き方が一番恐怖をあおってる。殺した兵士引きずって、
戦い慣れてるし、殺し慣れてる。まるで戦い方に、彼女がこれまで歩んできた人生が表れているようだ。
木造建築の廊下が血の絨毯に彩られていく。
徒歩でスタスタと、無表情で突き進む斬殺犯は、もう完全にラスボスの風格だった。
「と、止めよォォォ!! 春雨が名にかけて、この化物の息の音を止めよォォォ!!」
戦場は原作にもあった畳屋敷へ。そこにもまだまだ、華陀様自慢の精鋭たちが待ち構えていた。
第二ラウンド開始、といったところだろうか。ちなみに野生のラスボスのHPにはまだまだ余裕があるぞ。だって不死だからね!
最悪か。どこのクソゲーだよ。
「――、」
飛び込んできた白い衣の兵士――辰羅の一人が、その身に刃を受ける。
血飛沫が舞う。だが同時に、空の刃が初めて止まる。斬られながらも、兵士はその手で真剣を捕えていた。
これこそこの傭兵部族ならではの集団戦法。隙を逃さず、周囲の敵兵たちが一体の化物へと襲い掛かる。
瞬間、空が柄から手を離す。体勢を低くし、最も速く斬りかかって来た者の懐へ入り込み、武器を奪うや否や、周囲の敵兵たちを一息に斬り殺した。
鏖殺は続く。
全ての命が此処に果てるまで。
「化物……化物、め……ッ!」
最後の傭兵を斬り殺したところで、露台にいた華陀様が膝から崩れ落ちる。
ベランダの向こうには月が見えた。その明かりが照らす室内は赤く紅く染まっており、息絶えた死骸ばかりが転がっている。
空が孔雀姫へ近寄る。
いよいよ気絶しかかった華陀を前に――ふと、彼女は足を止めた。
「来た」
――そんな一言と共に、背後の戸が蹴り破られた音がした。
そこに居たのは、遅れてやって来た、この舞台の主役たちだった。
「一足遅かったのか間に合ったのか……だが、どうする銀髪の
「ビビッてんのかガングロジジイ。どんな相手だろーが、たとえ暗黒卿だろーが、