銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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原作

「ワン」

 

 目を開けるとそこには白い何かがいた。

 犬と思われる息継ぎの音。しかし、犬にしてはデカすぎる。

 

「……あー?」

 

 白い。白くて、デカい。犬。

 まさか――

 

「定春メーッ! そいつは食べちゃダメアル、都合の良い金ヅ……ぶ、ブルジョワ様ネ!!」

 

 今絶対に金ヅルって言いかけた。つかもう前に一回堂々と言われたことあるからもういいよ。

 はなれてー! とグイグイと私から定春を引き離そうとする神楽ちゃん。

 最初は一体何の寝起きドッキリかと思ったが、なるほど今日は……いや、今日()定春回か。

 

 眠気が残り、未だ重く感じる身体を動かして定春の背後を見てみると、そこには地面に這いつくばった銀さんと仰向けに倒れている新八の姿。

 そういえば昼間、公園に来たときからの記憶がない。

 ベンチに座ってあんぱん食べて……そのまま寝オチか。

 幸い、掏りには遭ってなかったらしく、財布の中身は無事だった。

 

 

 例の爆弾事件から数日。

 その間、結構「イベント」とやらは起きたらしいが、私はほとんどそれには関わることはしなかった。

 しいて挙げるなら、夕暮れの橋下でボッキリ刃の部分が折れた「洞爺湖」と刻まれた木刀を発見したくらい。

 妖刀の紛い物とはいえ、もう少し丁寧に扱ったらどうなんだ主人公。

 

 

「アン!!」

 

 うぉぅ、こんな近距離で吼えないでくれ定春。耳がキーンとくる。

 

「あの、万事屋さ……えー、坂田さん? この犬どうしたんですかー」

 

「あぁ……いやちょっと飼い主探しをだな……」

 

 蚊の鳴くような声だった。

 ここまで銀さんを消耗させるとは、やるな定春。

 

「定春はどこにもやらないアルよ銀ちゃん!!」

 

「だから……それは無理だと一体何度……」

 

 ぐふっ、と今度こそ力尽きる銀さん。

 あれ、ベンチも壊れてないのになんで銀さん達が倒れてるんだ?

 

「やっぱり金の匂いアルな……公園に来て真っ先にブルジョワんトコ行ったアル。ほら、早く金渡せよブルジョワー」

 

「渡さねーよ。っつーかブルジョワブルジョワ言ってたらなんでも許されるとでも思ってんのかチャイナ娘」

 

 金欠生活がヒロインをここまで金に執着させるように仕立て上げたのか……万事屋って本当にギリギリやってるんだな……

 そのとき、ぐわっと定春が口を開けた。

 いかん、食われる。

 

「待て」

 

 ピタッと髪の毛先が口に触れる直前で止まる。

 ダメ元でやってみたが、少し威圧して言うといけるらしい。

 

「さ、定春?」

 

 困惑した声の神楽ちゃん。

 その理由は、定春が今まで他人の言うことを聞いていなかった、というのが大きいだろう。

 はっはー、もしかしたらこれいけるんじゃね?

 

「お手」

 

 スッと右手を乗っける定春。肉球がいい。

 

「おすわり」

 

 ズシン、と重量を感じさせる音と共に地面に座る定春。

 そこで、とりあえずもう一度待てと言っておく。

 

「なかなか賢いじゃねーか。犬種なに?」

 

「そ、そんな……定春が……」

 

 ガーンとショックを受けた効果音が聞こえてきそうにふらっと後ろへ下がる神楽ちゃん。

 ……やりすぎただろうか。しかしこの犬、案外言うこと聞いてくれる。一体何が原因なんだろうか。

 

「……やっぱり金アルか。流石はブルジョワ殿!」

 

 ザッと膝をつく。え、なにこれ。

 つかどんだけ金に正直なんだよ。

 

「お、オイ……定春に留まらず神楽もしつけてんじゃねー……天才かぁー……」

 

 やはり力なく掠れるような声の銀さん。意識が戻ったのか。

 

「やっぱすげーっすよこの人……お金なんですかねー……僕等には持っていないものを持っていらっしゃる……」

 

 続いて新八。生きてたのか。

 

「馬鹿言ってんじゃねーよ……所詮は金だろ? 金で何でも買えると思ったら大間違いだぜコノヤロー……」

 

「けど実際猛獣2体をしつけちゃってんじゃないですか……定春、この人に引き取ってもらえれば……」

 

「て、オイ。流石にこんなデカい犬、ペット可能なマンションでもアパートでも絶対苦情くるぞ。それにエサ代ハンパねーじゃねーか。責任持ってお前等が飼えー、そうしなかったから今そんな状態なんだろ」

 

 正論……と呟く新八にぐぅ……と唸る銀さん。

 いい加減認めてやれ。ま、どっちにしろ認めることになるんだけど。

 

「そうアル! こんなにかわいいのに、放っとくなんてできないアル!! 定春、こっち来るアルよ~!」

 

 ……そして、原作通りの神楽ちゃんと定春による追いかけっこが始まった。

 復活した銀さんと新八が隣りに座る。ありゃ、これじゃ神楽ちゃんの席がないぞ。いや私のせいか。

 

「僕らにはなんで懐かないんだろうか新八君」

 

「なんとか捨てようとしているのが野生のカンで分かるんですよ銀さん」

 

 原作通りのやりとりである。

 さて、早く離れないと巻き添えをくらう。とっとと行くか。

 

「あ、ブルジョワさん……じゃなくて、名前なんでしたっけ?」

 

 新八の問いかけに足が止まる。

 そういやまだ万事屋には名前……もとい偽名を言ってなかった。

 

「絶条ソラ。もう金ヅル呼ばわりはやめてくれよ万事屋さん」

 

「ゼツジョウ? 随分変わった苗字してんのなアンタ」

 

「偽名だからな」

 

 悪びれずそう言うと公園を後にする。

 ベンチが壊れるような音が聞こえたが、気のせいではないだろう。

 

 

 *

 

 

「あ」

 

 黒服の2人組を発見。

 うち片方は瞳孔が開いている多串君である。

 さらにもう片方は――なぜか首輪らしきものを持っていた。

 いやなぜかも何も、理由は知ってるんだけどさ。

 

「お、この前の用心棒さんじゃないですかィ。丁度よかった」

 

「……何がだよ。その首輪なに」

 

「ただの来日したどこぞのお偉いの顔色伺いのためでさァ。さっ、語尾は『ワン』ですぜ」

 

 ナチュラルに首輪を差し出して来る沖田の頭部にゴッ、と拳が入る。多串君こと土方さんだ。

 

「何してんだテメェは! 誰彼構わず首輪つけようとするんじゃねぇよ!」

 

「だから適当なものを見繕えば格好はつきまさァ。土方さんが断ったからこちらの絶条さんに――」

 

「いや、私そういう趣味ないんで」

 

 ピシッと丁重にお断りするとえー、という子供のような声を上げる沖田。

 なんでそんなに残念そうなんだよ、どんだけ首輪つけたいんだよ。

 

「どうしますか土方さん。さっきの犬も結局引き取れなかったし、あとはもう土方さんしかいねェですぜ?」

 

「何で俺なんだよ。やらねぇからな!?」

 

 犬……というのは定春か。

 原作通りに事は進んでいるらしい。

 今頃はバ……ハタ王子の車と定春が事故ってるところだろうか。

 

「付き合わせて悪かったな。オイ、行くぞ総悟」

 

 舌打ちをして土方さんの後をついていくサド王子。なんだあいつ怖い。

 

 

 *

 

 

 夕暮れ時。

 何か暇を潰せるものはないものかと万事屋の近くを通る。

 ……しかし、まだ帰ってきていないのか、それともイベントが終わって今日はもう特に何もなしの平和な日なのか、万事屋からは人の気配を感じない。

 

 諦めて帰るか、と(きびす)を返したところで、

 

「アンッ!」

 

「ぐふォッ」

 

 ドスッ、と背中からもふもふした重い何かが()し掛かる――定春だ。

 そこでガァッと頭部付近で口が開かれるのを察知し――――

 

()()

 

「…………クゥン」

 

 あ、しまった、と慌てて殺気をそっと収める。

 敵意も殺気もなく、ただ無垢な感情で突撃してくる動物の気配は感じ取りにくい。……もしかすると、定春は動物本能的に、私の本質を見抜いていたのかもしれない。

 

 動きを止めた定春の懐から抜け出し、できだけ優しく頭をなでる。

 世の中、強ければいいというものではない。私自身、別に他人を無闇に怖がらせたいわけではないし。

 

「定春~!! どうしたアルか、突然走り出して――あぁっブルジョ」

 

「絶条ソラだ。その呼び方やめろ」

 

 正直周囲の視線が痛い。

 ……そして、今がイベント終了の時間帯か。定春は無事、万事屋のマスコットキャラクターとして加入することができたようだ。やっと主要メンバーが揃ったな。

 

「コイツを飼う許可は貰ったのか?」

 

 確認のため、一応尋ねる。

 

「おうヨ! 銀ちゃんもとうとう観念したネ!!」

 

 ――きちんと話は進んだらしい。

 バカ皇子にとっては災難極まりなかっただろうが。

 

 

「あれ、お前……」

 

 

 そのとき、現れたのはやはりボロボロな銀さん。

 しかしその隣りに新八の姿はない。

 

「ん? 坂田さん、ツッコミ役はどうしたんです?」

 

「あぁ、車にはねられて足の骨折れたから今は病院だ。とりあえず家にあるいちご牛乳持って行けばなんとかなる」

 

 ならねぇよ。銀さんや神楽ちゃんが頑丈すぎるだけである。

 

「いでっ!」

 

 なにやら左手からガリッと嫌な音がし、激痛が襲う。

 ……やめようか定春くん。骨折れてない? これ大丈夫?

 引き抜いてみると案の定、血が流れていた。というか手が真っ赤だった。

 

 やはり純粋な、「遊びたい」という感情には反応できない。動物の思考回路も分かる筈がなく、こういう突発的な行動は回避しづらい。

 

「お、お前な……」

 

 もう一回殺気出してもいんだぞ、と一瞬思うが、ここではやめておいた方がいい。戦場を駆けていた銀さんは、とびきり()()()()()()には敏感だろうし。

 

「だ、大丈夫アルかソラ!? 血ィ出てるアルよ!」

 

 定春! と叱り付ける神楽ちゃん。

 しかし分かっていないのかただ首を傾げるだけの定春。今の時間軸じゃそこまで人語を理解できないらしい。いや人語を解する時点で色々ハイスペックなモンだが。

 

「ったく、コイツは……おい、ウチで手当てしてけ。包帯くらいはある」

 

 ……普通そこは慰謝料とか出るんだけどなー。

 自宅で手当てするって……いや、銀魂の一ファンとしてもう一度万事屋の敷居をまたげるのは喜ばしいことなんだけれども。

 けどこのままじゃ血のおかげで逆に目立つ。ここはお言葉に甘えるとしよう。

 

 

 *

 

 

 慣れた手つきで包帯を巻く。

 とりあえず、骨が折れていなかったのは不幸中の幸いだった。

 

「見舞いって何持って行けばいいアルか。酢昆布でいいよネ銀ちゃん」

 

「知らねーよ。カルシウム入ってればなんでもいいだろ」

 

 がさごそと音を立てながら台所の方からそんな声が聞こえる。おおよそ冷蔵庫でも漁っているのだろう。

 

 未だ2人は台所から出てきそうにないのでじっくりと万事屋内を観察してみる。

 ソファー、テーブル、テレビ、デスク………そしてそこら中に散らばっているジャンプ。

 そういえばギンタマンって実際にはどんなものなんだろう。

 前世では一部しか見られなかったし……折角の機会だ、読んでみるか。

 

 思った矢先、一番近くにあったジャンプを手に取る。この重み、この厚さ、なんだか懐かしい。

 目次を最初に開き、お目当てのものを探す――あった。

 これも転生のメリットだよなぁ、と思う。漫画やアニメでは詳細まで描かれない事柄を現実に見ることができる。これほどワクワクするものはない。

 

 

「――え?」

 

 それ(・・)を見て、思わず息が止まった。

 

 銀魂、がある。

 もう一度目次を見てもそこには「ギンタマン」というタイトル。

 漫画を見返す。次に目に入ったのは見慣れた銀髪天然パーマの主人公の絵。

 

 ちらっとソファー裏で寝ている定春を見る。

 違和感なし……か。

 

 どういう仕組みだ?

 確かに転生してから週間少年ジャンプは読んだことはなかったが……待て、これ何話……否、何訓目だ?

 

 

『第一訓 天然パーマに悪い奴はいない』

 

 

 まさかの第1訓。

 待て、そもそもこれはいつの週の――

 

「あれ、ソラもジャンプ読むアルか。けどそれ今週号のじゃないヨ?」

 

 こっちこっち、いつの間にか戻ってきていた酢昆布をくわえる神楽ちゃんが差し出したジャンプをバッと文字通り目にも止まらぬ速さで奪い取る。

 

「――、」

 

 間違いなく、それ(・・)も見間違えようのない、銀魂だった。

 しかし――なぜ――――

 

「……ギンタマン? そんなの好きアルかソラ?」

 

 ぐっと横から覗き込んでくる神楽ちゃん。

 ……どうやら神楽ちゃんには「ギンタマン」に見えるらしい。

 

 

 私にしか見えない、そして読めない漫画。

 転生の関係か何かで私の脳に定着しているこの世界の「知識」。

 大体ではあるが未来(ストーリー)も知っている未来人モドキ。

 

 ……まさか、この現象は未だ前世の世界で連載している銀魂(げんさく)の情報を更新するためのシステムだろうか。まぁ、貰えるモンなら貰っときますけどね。

 

「ンだよ、もう無くなっちまった……オイ神楽。俺ちょっとこれからコンビニでいちご牛乳買ってくるから。留守番頼むぞー」

 

「じゃあついでに酢昆布と定春のご飯もよろしくアル!」

 

 ……ぱっつぁんの見舞いはどうなったんだ。明日に持ち越しか?

 へいへいとやる気のなさそうな返事をしながら玄関へ向かう銀さん。

 

 こちらも特に変わったことはない。

 いや、そもそも「外」から「現実(せかい)」を眺めている――眺められる(・・・)私が変なのか。

 

 いずれにせよ、私自身がこの世界に違和感なく溶け込めたと思えるようになるのはまだ先になるらしい。

 ……アニメの方はやらないのかな、ギンタマン。

 

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