銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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脱獄

 誰が考えただろうか、世界に挨拶どころか世界にビッグバン並のパンチ喰らわせていたとか。

 フラグブレイカーはどこまでいってもフラグブレイカーだというのか? 何で来世のやらかしに前世の私が付き合わなきゃならんのだ。今すぐ記憶喪失になってやろうか。つーか未来の事が分かる異分子とか、どっかで消されてもオカシくないと思うんですけど!!

 

「どうしたのさ用心棒さん。いきなり壁に頭打ち付けて。やっぱり正気、まだ取り戻してなかったのかい」

 

「正気なんて持ってると思うから発狂するんだ。つまり最初から発狂してれば問題ないんだ」

 

「なるほど、そろそろ狂っちゃったみたいだね」

 

 頭痛がする。精神的にも肉体的にも。

 もう何も考えたくないし、早く別の銀河系に亡命したい。なんなら異世界転生でもいい。こんなイカレたシナリオ世界から早く逃げた方がいいと本能が云っている。

 

 絶対に嫌な予感がするのだ。

 

 絶対に! 嫌な予感しかしないのだ!!

 

「ところでお姉さん、そろそろ教えてくれよ。どうやって俺と戦って生きていたのかをさ。あの時、間違いなく俺は貴方を殺したよ。この手で心臓をぶち抜いたはずなのに、どうして貴方はケロッとした顔で生きているのかな」

 

「……吸血鬼だからだよ」

 

「嘘が下手だね。だったら俺は十字架片手に貴方と戦えば良かったのかな。それとも日光の下でどちらかが灰になるまで戦えばよかったのかな」

 

「真面目な話をすると私は絶条空の代わりだからだよ」

 

「真実と嘘を混ぜないでよ。分かりやすく言えないのかな」

 

「蒼崎橙子的なアレだからだよ」

 

「さては真面目に答える気ないね?」

 

 背中に神威団長の殺気をビシバシ感じる。でも今は檻に阻まれてるから特に気にしない。奴が自由になるのは処刑当日である。まだ二日もある。

 そう、対策を立てるための時間はまだ存在する。別の銀河系に亡命する余裕はまだある。まだ間に合う。もう遅いかもしれないが私はこのシナリオ崩壊銀河戦線を離脱する。付き合ってられるかスットコドッコイ。

 

「変異体」

 

 そんな神威の一声が、空間を支配した。

 

「……星のアルタナを食って生き続ける不死者。アンタはそれなんだろう、用心棒さん」

 

 確信を帯びた声にゆっくり振り返る。

 柵の向こうの団長は、例のニコニコ笑みを消していた。

 シリアスの気配に、私も彼へ向き合うように座り直す。

 

「よく分かったな。身内にでもいたか」

 

「――、早いね認めるの。それとも、そうやって言えば俺がアンタを諦めるとでも思った?」

 

「いや別に。今も殺そうと思えば殺せるしな。ここ、地球じゃないし」

 

「って事は地球産か。道理でね……」

 

 神威に不死事情がバレるのは想定の範囲内である。

 なにせ彼とその妹の母親も、別惑星育ちの変異体だったのだから。

 ……というのはまぁ、とてもここで口に出せる情報じゃないが。

 

「……生まれてからどのくらい経つの?」

 

「知らん。覚えてない」

 

「死なないってどんな感じ?」

 

「便利。明日が約束されてるからな。絶対に来週のジャンプが読める」

 

「死ぬってどんな認識?」

 

「うたた寝と大差ないよ。ちなみに私は食事中に窒息死したことある。あん時だけは不死でよかったって思ったね」

 

「ええ……」

 

 素で引かないでほしい。

 ちなみに窒息死は空がやらかしたのだ。しかもフードファイターやってる途中で静かにコロッと。すぐに復活したけど。

 

「……ずっと生きるって、どんな感覚?」

 

「ヒマ。チョ~ヒマ。とにかくヒマ。ヒマすぎてヒマ。ヒマオブヒマ。趣味沢山持ってないと発狂する。趣味人はこの体質向いてるけど、そうじゃない奴は不向きだな。じゃないと苦しみとか死ねる連中への嫉妬とかで世界滅亡計画とかシャレにならんコト考えかける。故郷の星がある限り、生も死もないからな。人生楽しんでないとやってらんねーよ」

 

「自滅願望があるってこと?」

 

「根底的には。生きすぎも飽きるしなー」

 

「じゃあアンタ、今は何のために生きてるのさ」

 

「復讐。この世には絶対に殺さなきゃいけない奴がいる」

 

 その答えに神威が虚を突かれたような顔をする。こうして見ると年相応の不良少年のようだ。

 

「意外だね。アンタがそういうモノとは思ってなかった。何というか――」

 

 似合わないね、と。

 そう言われた。

 だが別に二重人格うんぬんの丁寧な補足説明を加えてやるつもりはない。

 

「死ねる連中は、憎い?」

 

「それに関してはもうどうでもいい。生物的に別種ってだけだし」

 

 もしも主要格キャラが事故死したら発狂モノだが。

 

「俺との勝負に本気を出さなかったのは、死なないから?」

 

「出さなかったっつーか、出せなかったっつーのが近いが……まぁ私も、別に殺されたい病にかかってるわけじゃないしな。条件さえ揃ってれば、ちゃんとあの時は戦ってたと思うよ?」

 

「条件って?」

 

「依頼の内容が変わってただろ」

 

 日輪太夫の警護から、悪童くん神威の排除へと。

 

「あの時、私が用心棒としての戦いで追い詰められてたら、本気を出してた。たぶんな」

 

「……随分と拘りがある仕事みたいだ。それはなぜ?」

 

「強くなるため」

 

 ピクリ、とそこで神威が微かに反応を示す。

 

「と言っても、それも手段に過ぎないけどな。さっきも言ったように、私の最終目標は()()()()()だ。どんな手を使ってでも、必ず殺す。そのためには強くなる必要があり、そのためには戦いの経験がいる。それだけさ」

 

「ふうん……じゃあアンタの思う『強さ』ってのは、その復讐対象を殺すことってことか」

 

「そゆことそゆこと」

 

 戦うことで手に入る強さ。

 護ることで手に入る強さ。――エトセトラ。

 とにかく絶条空にとって、「強さ」とは「武器」である。殺すための手札である。あらゆる経験、知識、技術を、最終的には「殺し」に注ぎ込んでいく。

 

 不毛な人生だ。

 だけどその道じゃないと晴れないものもある。

 

()()()()()()

 

 ばっさりと言い切った彼の言葉に。

 おっ、と今度はこちらが反応する番だった。

 

「理屈は通っているし、アンタが言いたいことも理解できる……けどなんだか腑に落ちない。だって実際、アンタ自身からは()()()()()()()。これでも俺は第七師団の団長として宇宙中の色んな強い奴を見てきたつもりだよ。その中にはアンタみたいに復讐を掲げて来る連中もいた。そいつらと比べたら、今のアンタから感じられる憎悪は部屋の埃より軽い。不死者のくせに。かといってアンタは、死ねる連中を憎んでないときた。それはもうアンタに、復讐対象がいるからかもしれないけど――」

 

 一旦言葉を区切り、彼はその結論を言った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……参ったことに。

 顔を伏せた自分の口角が、ニヤリと上がるのが分かる。

 それは看破されたことに対する懸念から来る焦りの笑いではなく。

 ――嬉しかった。ただただ嬉しかった。そう自覚すると共に、喜びの感情が胸にわき上がってくる。

 

「――パフェクトアンサーだ、神威団長。流石、戦闘狂のプロはちげーな」

 

 顔を上げてそう言い放った瞬間の気分は、筆舌に尽くしがたい。

 初めてはっきりと、自分の言葉を紡いだような。

 ずっとかかっていたフィルターが外れたような、そんな解放感を抱いていた。

 

「一度戦えば、相手のことは大体解るからね」

 

「はっはは、お見それしましたわ」

 

「じゃあインタビューを続けようか。どうせ暇だしね――君も何か訊く? 丁半遊びもそろそろ飽きたんじゃない?」

 

 神威の言葉に瞬きする。

 その物言いからすると、考えられる可能性は一つだけ。

 

「くだらぬ」

 

 冷めた返答が牢内にこだまする。

 その声は紛れもなく、奥の牢屋で、廃人になっていたはずの華陀様のものだった。

 

「猿一匹のことなど、わしの知るところではない。わしがそやつに求めるのは用心棒としての働きのみ。不死の化物であるなら尚更よ。そんな気色の悪い奴の中身を聞かされるくらいなら、身体を休めていた方がまだ有意義じゃ」

 

 ごそり、と寝転がるような布擦れの音がする。

 ……驚いた。まさか華陀様、アレですか。廃人のフリしてたんすか。マジ?

 

「ありゃりゃ、フラれちった。ん? どうしたんだい用心棒さん。もしかして気付いてなかったとか?」

 

「……春雨の団長ってコエー」

 

「あっはっは。囚われの身といえど、まだアンタだけは彼女の味方をしているからね。残る正気も理性もあったんだろう」

 

 はえー。恐れ入る。

 ていうか昨日、高杉くんが賭けに勝ったのは、華陀様が廃人の芝居打ってたのも要因だったんだろうか。

 イヤだわー。もう着実に原作崩壊の音が聞こえてくるわー。

 

「さ、俺の処刑まであと二日だ。冥土の土産に何か面白い話聞かせてよ、用心棒さん」

 

「……インタビューついでに例の侍の話、聞く?」

 

「聞く聞くー」

 

 こうして世にも奇妙な雑談祭りが開催された。

 実に二日間。

 しかしどれだけ会話を重ね、言葉を重ねても、私が話していたのは果たして第七師団団長だったのか、ただの近所の知り合いの迷惑兄貴だったのか。

 それとも、最強を目指して走り続ける一人の戦士だったのか。

 

 処刑日当日、彼が牢屋から姿を消した後になっても、それは分からなかった。

 

 

 *

 

 

 カラン、コロンとナットを転がす音が響いている。

 と同時に、船内の気配が妙に動いているのも感じていた――そう、まるで船内の気配のほとんどが、一ヵ所に集められているかのような。

 

 さて動くか。

 そう決めると同時、手足を縛っている枷を力任せに破壊する。常人なら決してできない芸当、まさに生物の理を逸脱している者だからこそできる諸行に、内心溜息をつく。

 ホントに変なところで便利だな、この身体。

 

 そのまま牢の入口へ足を向けると、すぐ外に牢番――ではない、何者かがいるのを察知する。

 

「鍵もなく脱獄か。春雨特注の拘束具もガラクタ扱いたァ、この牢はてめェにゃ狭すぎたようだな」

 

 予想外の人物に足が止まる。

 派手な柄の着物に、無地の黒羽織。その腰には黒い鞘の刀が一本。

 そして包帯が未装備。件の左目は前髪でメカクレしてやがる。

 

「……なぜここに」

 

「ただの野暮用だ」

 

「……あの、つかぬ事を伺うんですけど、貴方の両目の視力どれくらい?」

 

「二.○だ。てめェの動揺してる様子もよォく見えるぜ」

 

「へ、へー……へェー……ソウナンダァー……」

 

 畜生イイ声してやがる!

 いかん本音が。じゃなくて。

 ……顔を傾けた高杉の前髪が揺れる。覗いたその左目には、()()()()()

 

 ――予想していたことだが、まさか的中して嬉しくないことなどあったろうか。

 さらにこうなってくると、彼本人どころか、その周りにいたであろう、攘夷四天王たちの過去にも、私の知る筋書きと大きな乖離がある可能性だってある。

 一体目の前にいる彼は、どんな道を歩んできた「彼」なのか――?

 

 とその時、ガチャリと牢の扉が開いた。

 

「そら、出所だ。どうせそのつもりだったんだろう、とっとと行きな」

 

「……え? あの?」

 

「得物はこいつで我慢しろ。脱出ポッドの場所はここに書いてある」

 

「タカスギサンッ!!?」

 

「なんだ」

 

 怒涛の展開に頭が追い付かない。

 気付けば私は牢の外に出ており、手には真剣と地図らしき紙が一枚。

 

 待てぃ、待ってくれ。私はいつから一級フラグ建築士の資格を取得していた!? むしろフラグブレイカーの業が板についてきていたところだが!?

 いつどこでどんな場面でこいつの好感度上げてた!? まだ過去に二回しか顔見てないけど!? ここは鬼兵隊ルートだったのか!? そういう世界線だったのか!? いや知らん、私がさっきまで交友を深めていたのは宇宙の喧嘩師団長だったハズ!!

 

「ああ……てめェの護衛対象の事か。好きにしな。こっちで口裏は合わせておいてやる」

 

「高杉様! 高杉! 総督! 総督殿! 鬼兵隊指揮官殿ッ!!」

 

「無駄に叫ぶな。とっ捕まりてェのか逃げてェのかどっちだ」

 

 もたらされた手厚い処遇に、思わずその場に正座する。

 

「すみません、理由をお伺いしたいです。私達を春雨に売ったの鬼兵隊(アンタら)ですよね……?」

 

「ハ……成程な、そりゃ警戒もするか。だがどう思おうと、今の俺にはてめェを阻む気はねェよ。まァ最終的に、俺らと敵対するかどうかは、今後のお前の選択次第だが……」

 

「監督、推測材料足りなさすぎて何も納得できねぇっす」

 

「監督じゃねェ、総督だ。……いやこれはヅラの持ちネタだったか」

 

 こいつギャグを!? っていうかネタとか分かるんだ! ツッコミの概念は知らないのに! ツッコミの概念は知らないのに!!

 

「今は時間がねェ。詳しい話をする時間もな。とにかくお前らはここを脱出しろ。でなけりゃ何も始まらねェ」

 

「……、」

 

 立ち上がる。そうして足早に華陀様の牢の前へ行き錠前を斬り、扉を開けた。

 

「ほう、来たか。猿に借りを作るのは気に入らんが、よくやっ――」

 

「えいっ」

 

 手刀で素早く華陀様の意識を落とす。

 高杉がここにいるということは、本当に時間が無いのだろう。彼の野暮用はさっさと済ませてやるべきだ。

 

「……手荒い用心棒だ」

 

「スピード勝負と見たんで。何がなんだか分からないけど、ありがとうございます」

 

 華陀様を背負い、刀を帯刀する。

 自分がシナリオのどこにいるのかも不明だが、こういう時はとにかく見える道の方を走るしかない。

 シリアス筆頭キャラがこの時点でギャグを口走っている事とか。

 何よりも絶対にバタフライエフェクトの爆弾たる左目の事とか。

 訊きたい事は大いにあるが――それで何も始められないんじゃあ、話にならない。

 

 グダグダ言うのも焦るのも後だ。

 どうせ色々やらかしているのだ、今はその荒波に身を投じるしかあるまい。

 

 だが最後に一つだけ言わせてもらおう!

 

「高杉さんマジカッケェ! 私来世があったら鬼兵隊のスポンサーになりますわ! じゃっ!!」

 

 無駄に叫びながら全速力でその場を後にする。

 だから聞こえなかった。

 

「ああ――」

 

 彼が放った、別れの一言を。

 

 

「――()()()()()()()()

 

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