地図に書かれた脱出ポッドを発見し搭乗する。
この船は確かアレだ、原作ではアホ提督たちが最後に逃亡しようとした時に使おうとしていたものである。
「しっかし廃人の芝居とはやりますね華陀様。女優にでもなったらどうですか」
「たわけが。わしがそんな器に収まるような者に見えると?」
「美人ですしぃー、イケると思いますけどぉー」
「貴様、調子に乗るなよ。わしの部下を皆殺しにした咎、いかにして払わせようかわしは今真剣に考えておるんじゃからな……!」
「でも華陀様が頼れる相手って今はもう私だけですけど。貴方の部下はあの世に送っちゃいましたが、別に貴方を殺す気はないですよ?」
「……ええい、いいから早く船を出せ!」
「ところで船ってどうやって動かすんですかね」
「バカたれ、こうじゃ!」
華陀様がキレながら船のキーを操作する。
すると船のエンジンがかかり、徐々に動き出した。
流石華陀様、元団長の名は伊達じゃない。私も一応源外さんのところで機械については少しかじったが、本職の人がいると作業効率がまるで違う。
『まままっ、待ってくれ!! 乗せてくれェェ――!!』
そこでパッとモニターに、例のアホ提督となんか片手がフックな獣人が映し出された。
「発進」
「ラジャー」
カチッとボタンを押すと、船が宇宙へ向けて飛び出した。
さらば春雨。
いざ、先の見えぬ大航海へ。
*
航海はそれから三日、順調に進んだ。
春雨様様というか、船の中には食糧庫も搭載されており、華陀様によれば、およそ一月に渡る宇宙の旅が可能とのことだ。
まあ不死者にやる飯なんぞねぇ! と取り上げられたが。
「あ、華陀様華陀様。なんか星が見えてきましたよ」
航行する宇宙船のモニターには、黄金色の綺麗な惑星が映っている。
変装のためか、黒い着物姿になった華陀様が、もしゃもしゃとんまい棒を食べながら寄って来る。
オー悪の華。オフですね悪の華。でもそういうギャップ萌え、イイと私は思います。
「ようやくか。ここはまだ春雨の手が及んでおらぬ惑星じゃ。しばらくは此処を活動拠点とする。早急に着陸準備をせよ、彼方」
「あいあいさー」
この三日で叩き込まれた操縦技術を駆使し、惑星へ接近していく。
大分会話もフランクになってきた元孔雀姫だが、その警戒の色はあまり薄まった気配がない。つか部下皆殺し犯と一緒にいて、表向き平静を保っている精神力がおそろしい。
駒が一つでもあるとギリ大丈夫なんだな、この人。
ということは今、彼女は私のもたらす可能性に賭けているということでもある――とんだ博打だが、ややもすると、彼女は案外こういうのに向いた性質なのかもしれない。
とか言ってたら、後ろからブスッといかれそうだけどな!
「華陀様―。ここなんて名前の星なんです?」
「――金剛星。見た通り、ド辺境にあるくせにキンキラキンの自己主張が激しい惑星じゃ。観光スポットに、樹齢一万年を誇る大樹、金剛樹がある土地だったか」
「マジで」
マジ?
あの銀さんのパチモン妖刀の原産地?
なんかとんでもねートコに来てしまった気がする。
だが、そんな少しワクワクした私の気持ちに、元孔雀姫は容赦なく極寒の冷や水をぶっかけた。
「そしてこの星にはある宗教が根付いておる。星に巡るアルタナを信仰するその宗教団体の名を――
オイ、今なんつった。
*
星芒教。
星芒教っつったらアレだ。メインシナリオ最終幕を過ぎた二年後篇で出張ってきた、敵組織である。
その母体が、この惑星にあるということか。
……オォ、ジョニー。あたい疲れちまったぜ、もう眠らせてくれ。永遠に。
だが現実逃避している暇はない。
原作に星芒教が出てきたのは二年後だ。そしてその時には既に、壊滅した天導衆の残党がその宗教組織を乗っ取り、ラスボス復活のために動いていた。
であれば、今の星芒教は、まだ天導衆に改装工事される前のもののハズ。
金剛星の、なるべく人目につかぬ場所を選び着陸し、船を降りる。
地面に草は生えておらず、砂の地面が辺りに広がっている。景色で目を引いたのは、何よりもあちこちの住居の屋根を突き破ったりして生えている、黄金の葉をつけた樹木たちだった。
「……なんとまぁ、半ジャングル的な風景ですね」
「星芒教は金剛樹を神木とした宗教じゃったな。故にこの星での信者は多い。神木の根は惑星中を覆う程といわれる故、各地でアルタナを信仰する文化が芽生えたそうじゃ」
なぜなに華陀様の講義はかなり勉強になった。
しかもその神木、星のアルタナを養分にしているらしく、こうしてあちこちに樹が生えているんだとか。
星の見た目が金色だったのも、この金剛樹たちの葉の色だったんだろうか……
「てゆか華陀様、私たち思いっきり密航してますけど」
「海賊に密航も何もあるか。さっさと貴様は金を稼ぎ、わしに尽くせ。それが此度の貴様の贖罪じゃ」
「うぃーっす……」
あ、もうこの人、完全にこっちを利用し尽くす気でいるぞ。当然か。
しかし道を歩いて行くその足取りに迷いはない。更に、この一大宗教が根付いているという星で活動し始める、ということは――
「……華陀様、アンタ教祖の地位とか狙ってます?」
「ほう、頭の巡りは悪くないようじゃな。流石はわしの計画をズタズタにした張本人じゃ。さよう、この星の者に取り入るには、教団に入るが近道。さっさと貴様は教祖を暗殺し、その不死性をもって、教団の御神体になれ。ああ、もちろん貴様の所有権はわしのものじゃ。クク、これで地球も江戸もかぶき町もわしのものよ……!」
ククククク、といつ作り直していたのか、オシャレ扇子を手に薄ら笑いする華陀様。
コイツ――全然懲りてねぇ! まぁ私が色々やらかしたから、原作よりも? 多少こっぴどく「かぶき町に返り討ちにあった」という意識は薄いんだろうけども? にしたって、なんとしたたかな女王精神か。
つか、もう計画は成功したも同然な様子になってるところを見ると、もう彼女は野望へ向かって一直線なのだろう。ヤベーよ孔雀姫。私一生この人んところで飼い殺しにされちゃうわ。
「……あ、でも華陀様。その現教祖様ってどこにいるんすかね……?」
「それを探しに行くんじゃろうが。まずは旅行ガイドブックでも見つけて来い」
……地道だなぁ。
てゆーか、二年後篇じゃあ星芒教の本殿は、移動神殿九曜なる巨艦にあるんじゃなかったか。
現時点ではどうなってるんだろーか。
原作では天導衆という名の大工さんが、色々その技術力を底上げしてくれたよーな感じだったけど。
『――警報! 警報! 全地区の住民に警報! 教祖様が逃亡した! 即刻捕縛せよ――!!』
突然、街中に響き渡った文句に、華陀様と二人で首を傾げる。
「……え? 教祖様って?」
「……ほう、面白い。これでスグに貴様の暗殺対象が解るな。いやもっと言えば、この騒動に紛れ、とっとと教祖を始末するぞ」
「いきなり物騒な……ッ!?」
いや惑星レベルで鬼ごっこ仕掛ける教祖ってどんな教祖だ。
とか思っていると、街中の煉瓦造りの家々から、人が飛び出して来る。
それらの皆は一様に、
「教祖さまー! 何処におられるのですかー!」「教祖様を探せぇえ!」「教祖様! 嗚呼、教祖様! 貴方を見つけられぬ我らをお許しください……!」「教祖さまー! 俺の! 愛の歌を聞いてくれー!」「教祖様グッズ販売中! 今なら半額!!」「教祖サマァァァアア!!!!」
「ヤベーなこの星」
「おい声に出とるぞ」
ホントにアルタナ信仰しとんのかこの宗教。
なんかもう、アイドル教祖を信仰する感じの、そう、言うなればお通ちゃんの親衛隊を務めるぱっつぁんを見たようなあの感覚を覚える。
走り回る住民たちは、捕縛に典型的な縄や鎖、人によっては針や拳銃、虫取り網まで持っている。いや虫取り網はねーだろ。
なんか、本格的に「珍獣・教祖を捕まえろ!」みたいな番組に乗り込んじゃった的な場違い感である。
この光景、地球でネットに流したら人気になること間違いなしだぞ。
教祖の顔が描かれたビラも撒かれていたので手に取る。
だがその顔は、なんというかその。
黒い兜的なものを被った、黒コートを着た某暗黒卿みたいな姿だった。
「パクリかァァァァ!!」
思わず地面にビラを叩きつける。
「なんと目立ちやすい恰好をしておる。フ、これならば見つけるなど造作もないわ! 行くぞ彼方ァァ!!」
「カブト狩りじゃねーんだよ! ちょっと、華陀様―!?」
住民に混じって虫取り少年のテンションよろしく、華陀様が走り去っていってしまう。あの野郎、野望達成を目前にして落ち着きねーぞ!
慌てて追いかけるが、なにせあちこちには、教祖――ではない、アルタナを信仰する敬虔な教徒たちが忙しく走り回っているので、凄まじく動きづらい。
「華陀様―! ちょ、ちょっと!? 華陀様ァアー!?」
結果――当然ながら、その姿を見失ってしまった。
用心棒失格である。しかし依頼人と教祖を同時に探すなんてトラブル、実に万事屋向きではないだろうか。イヤマジで今、万事屋さんの力借りたいわ。なんでここ地球じゃないの、なんで私はグレートマザーから外に出てしまったの。
……おうち帰りたい。
「はぁー、ハァー……クッソどこ行きやがった……!」
建物の屋根へ跳び、上から探しても華陀様の姿は捉えられない。
あとやっぱ教徒邪魔。一斉にかくれんぼ大会とか、教祖は何してんだ。なんで逃亡? てかこの住民たちの順応感、よくある行事っぽい雰囲気なんだが!?
度々逃亡する教祖ってなんだ……星芒教、天導衆が関わる前はどんな宗教団体だったんだよ!!
ホントに謎すぎる銀魂世界。江戸はやっぱ最後の安息地だったのかもしれない。
「――すみません。迷子なのですが」
人混みを避け、息を切らしながら歩き回ること数十分。
路地を行き来していると、背後から、そんな声が聞こえた。
……この期に及んで、迷子の案内だと? そろそろキレていいか私。サブクエストとかフリークエストとか後でまとめてやるタイプなんだよ。
「あんだよ、こっちは忙し――」
――と言いながら振り返って。
言葉を失う。声を失う。表情を失う。思考を失う。
そこにいたのは、私より背の高い黒ローブの人影。身長は、坂本さんと同じくらいか。明らかに怪しい見た目だが、私が瞠目した理由はそこじゃない。
「あ、すみません言い間違えました」
耳に響く柔らかな声音。
人懐っこそうな柔和な笑み。
亜麻色の長い髪に、それと同じ色の両眼。
「もしかして、迷子ですか?」
松下村塾を開いていた男。
坂田銀時らを導いた恩師。
この世の始まりであり、終わりの人物。
そして本来なら生きている事自体、決して、絶対に、在り得ない人物。
「――用心棒さん」
吉田松陽が、そこに居た。