銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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 まだ映画みてません。


シナリオ会議は黒幕側の特権
ブレイクタイム


 吉田松陽(しょうよう)

 

 この人物が「銀魂」という作中においていかなる存在なのか? 知っている読者もいようが、一応のため初見さんにも分かりやすく一言で紹介させてもらうと────

 

 ()()()()()、である。

 

 と同時に。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 というかこの人が死んでないと銀さん万事屋やってないし。

 桂さんも攘夷志士なんか率いていないし、高杉さんも鬼兵隊なんて組織しちゃいない。

 坂本さんは……まぁどんな結末を辿るにせよ、どうせ快援隊はやってただろう。あの人だけが吉田松陽の因縁とは無関係の超人だ。

 

 故に。

 今、この地球から遠く離れた辺境の星で──

 

「聞こえてます?」

 

「────」

 

 吉田松陽の姿をした人物など──本来いるハズもなく。

 であれば。

 目の前にいる彼──黒い外套を着た、亜麻色の髪を持つ、和やかな表情をしている男──が吉田松陽でないのであれば、それに関係する重要人物──「吉田松陽」の“正体”に関係する者としか考えられない、のだが……、

 

 …………いや意味わかんねぇよ。情報がなさすぎる。

 

 とにかく。

 とにかく、何か、喋らなければ。

 人間には言葉がある。言語がある。コミュニケーションはきっとどこの異星でも大事なものだ。たとえ目の前の存在が私の幻覚でも本物の異星人だったとしてもッ!!

 

 対話を――しなければ!!

 

「あの……吉田松陽って人、知ってます?」

 

「ええ、私がその――」

 

「いやむかーし昔にね? ウチの親父が金貸したっきり、結局踏み倒していきやがった奴の名前なんだけどさ」

 

「えっ」

 

「まぁ踏み倒し犯にしては弟子に慕われてたようでさ? んでその弟子たちが代わりに払いますっつって誓約書まで書いていったんだけど、その後攘夷なんだか戦争に参加したっきり、そいつらも行方を眩ませやがってさぁ……」

 

「!? 知りません知りません! いや、ええと……いやいやいや! 知りません!! お金なんて借りたことありませんよ!?」

 

 あまりの事に私も冷静じゃないらしい。この口、息を吐くようにデマカセを喋りやがる。全然正気でいる気がしない。

 

「すいません……冗談です。ちょっと混乱してしまって」

 

「そ、そうですか……その、嘘はいけませんよ? ……それで本題なのですが――」

 

「じゃあ心当たりなさそうなので失礼しますわ。サヨナラ」

 

「えええ!? ちょちょ、待ってください!!」

 

 秒で踵を返すと、謎の男()が腕を掴んでくる。

 やや振り返りながら、理性が消えた私の口は自由に喋り出す。

 

「いや、だって……借金の心当たりないんでしょ?」

 

「いやさっき冗談って言いませんでした!?」

 

「アンタが親父の金借りた負債者じゃねーなら知り合いじゃねぇっす。人違いでした。ごめんなさい」

 

「借金のこと認めないといけないんですか!? 嘘ですよね、えっ、嘘ですよね!? 私本当に心当たりありませんよー!?」

 

「吉田松陽なのに覚えてないんですか?」

 

「……え、その、すみません、ホントに覚えてないです…………あっ」

 

 沈黙が場を支配する。

 まさに何とも言えぬ、妙な心地になる静けさだった。

 そして私は言う。

 

「――やっぱテメェ吉田松陽かァァアア!! 借金払いやがれェェエ!!」

 

「えええええぇぇー!!?」

 

 腕から相手の手を振りほどき、その胸倉に掴みかかる。

 どうやら実体はあるらしい。私の幻でも都合のいい錯覚でもないらしい。

 目の前にいる男は、紛れもなく本当に生きた存在――のようだ。信じがたいことに。

 

「だあああー!! イヤだよぉー!! 吉田松陽の弟子になるとか弟子でした的なのだったら嫌だァアー!! そういうハンドアウトは転生ん時に通達するモンだろがァァァ!! オリ設定があるって言っとけ運営担当ゥオオオオオァアアアア――――ッッ!!」

 

「ちょっ、待ってください。落ち着いて――」

 

「落ち着いてるよッ! 落ち着いてるからこうなッてるンだよッッ! あああマジで一体何やらかしとんじゃ過去のワレェエエ――ッ!! 百億回死んで転生し直せッ!! 転生できる身体じゃねェけどなァ!!」

 

「盛大な自虐ネタはやめてくださいッ!? 私にも流れ弾くるんですが!?」

 

 そこでふと、動きを止める。

 

「……アンタ、ツッコミ慣れてないだろ」

 

「いや……まさかここでツッコミツキルを求められるとは思わなかったので……」

 

 そうですよね、ごめんなさい困らせて。アンタボケ役だもんな……

 でも焦ってる様子、割と面白かったっすよ……

 

「じゃあ、とりあえず死ね」

 

「えっ」

 

 彼から手を離すと同時、ひとまず持っていた刀で仕掛けてみた。

 抜刀一閃。狙いはその首。完全に意識の隙を突いた攻撃は、しかし──

 

「いやいやいや、それは人違いですよ。『彼』がこんな星で馬鹿やってるわけないじゃないですか」

 

 普通に止められた。

 お箸でハエをつまむような手軽さで、指二本でしっかりと白刃取りされた。

 

 ……うわぁ……こいつマジモンじゃん……

 

「というか、私を『彼』と認識するということは、やはり貴方はあの“羅刹”さんで間違いないようですね。あの頃から随分と雰囲気が変わったようですが……良い出会いでも?」

 

 羅刹──?

 なんだそのネームド敵っぽい名前は。アレか、もしや「空」──私の今世の転生体である彼女にまつわる異名か、それは?

 

「どうも知らん間に変な名前がついてるみたいだな。誰がつけたんだよそれ」

 

「『奈落』ですよ。天照院(てんしょういん)奈落。組織が唯一恐れ、畏れた貴方の呼び名です。まあ……貴方にとってはどうでもいい事でしょうね。(わたし)たちを殺すことにしか興味がなさそうでしたから」

 

 そんなラスボス組織に敵対する事象存在じみたムーヴしてたのかよ私ィ!!

 ってか、そりゃそうだ。「空」が望むのは故郷を滅ぼした連中への復讐だ。道理でえげつない強さをしているはずである。

 

「こっちの事を知ってるなら話が早い。アンタは何者だ、吉田松陽。クローンか、亡霊か、オリ主か、バグか、何だ」

 

「おりしゅ……というのは分かりませんが、その中の概念区分で考えるのなら、『クローン』が一番近しいでしょうね」

 

「マジかよ……」

 

 なにその最悪の事態。

 ラスボスが分裂するとか聞いてないんですけど。

 

「で、本題はここからなのですが……()()()()()()()()()()()()? ここでいう私たちとはつまり、鬼兵隊(きへいたい)のことですが」

 

「──、」

 

 ……思い出す。あの宇宙海賊、春雨(はるさめ)の牢獄から助け出してくれた総督のことを思い出す。

 ノット隻眼、高杉晋助。

 例の言葉、「先生によろしくな」──

 

「……高杉晋助がオリ主的世界線……??」

 

「いや、その概念は分からないのですが……」

 

 違うのか……

 だったら、ちょっと面白そうだったんだけどな。

 

「そうですね……私のことについて説明するためにも、まずはついてきてくれませんか? 立ち話もなんですし」

 

「遠慮します。そういう『吉田松陽教』とか間に合ってるんで」

 

「……宗教勧誘じゃないですよ!?」

 

「間に合ってるんで、ホント。会費が今後の人生丸ごととか高すぎるし」

 

「闇商売的なアレでもないですから!!」

 

「いやぁー……」

 

 だってさぁ?

 だってですよ??

 天下の吉田松陽だぞ。

 触らぬ神に祟りなし、触らぬ松陽に悲劇なし。

 関わったが最後、弟子にされたり人生狂わされたりする、超がつくド級の運命流転爆弾ですよ?

 

 このシナリオはもう、そっとしておいた方がいいんじゃないだろうか?

 

「……コホン。その……このまま話が進まないようでしたら、私の必殺拳をお見舞いすることになってしまうんですが……」

 

「コエーよ。怖すぎるよ。普通にゲンコツって言ってくれや。出会い頭に頭蓋を物理的にパァーッンされるとかグロテスクすぎるわ」

 

 なぁにこの脳筋先生。動揺して精神がパニクッてるこっちの身にもなってほしいわ。さっきの醜態、アレでも自制した方なんですよ……? 理性溶けてたけど。今も溶けてるけど。

 

 しかし本気で怖いのは確かなので、そこで刀を引く。

 基本、ギャグが蔓延しているこの世界だが、決して敵対してはいけない人物はいるのだ。

 

「はあああぁぁぁぁ……そうかい。そうですか。まぁどこへなりとも連れて行けよ。こっちも色々と知りたいしな。でもその前に私、今仕事中だから護衛対象を探さなきゃいけないんだけど――」

 

「ああ、それならご心配なく。もう私の弟子が見つけたようですから」

 

 は? と私が声を上げた時だった。

 

 

「しっは――――っん!!」

 

 

 ドゴァアアアッッ!! と。

 声は背後から。轟音も背後から。

 振り返るとそこには光輝くビームの刀身(サーベル)

 一秒後、それが建物を横からぶった斬った光景だと気付く。

 

「おお、こんなところに居らしたか!! そっちが、噂の用心棒さんかのぅ!?」

 

 短い黄金色の髪。どっかの快援隊の社長を想起する、高らかな明るい笑い声。

 そしてその得物を見て、相手の正体を確信する。

 

 ――尾美一(おびはじめ)

 銀河剣聖(ギャラクシーソードマスター)の名を冠する、志村新八の兄貴分的存在が、そこに立っていた。

 

「Oh……ギャラクシィー……」

 

 ――私はもう、何が起こっているのか何も分からない。

 

 誰かこの世界のシナリオ資料をくれッッ!!!!!!

 

 

 *

 

 

「遅いわまったく。待ちくたびれたではないか」

 

「パフェ食って優雅に待ってたヒトらしい傲慢さっすねぇー……」

 

 ドッキリ生存野郎二名の案内を経て、私は近場のファミレスに来ていた。

 そのボックス席の一角には華陀(かだ)様がふんぞり返っており、ニコニコしながら松陽がその向かいに、その右隣に尾美一が座る。

 

「さ、用心棒さんも座ってどうぞ。何か頼みますか?」

 

「……水、二リットルで」

 

 そろそろと華陀様の左隣に座らせてもらい、ドカッと置かれた水を飲み進める。

 

「さて――ではまず、自己紹介といきましょうか。私は吉田松陽と申します。種族は地球出身の、そこの用心棒さんの同族にあたりますね」

 

「わしは尾美一じゃ! 面倒じゃったら尾美一(オビワン)と――」

 

「そっちの方が面倒なことになるじゃろうが。わしは華陀。今は、ただの華陀じゃ」

 

「……絶条空、もとい絶条ソラ、絶条彼方でも彼方だけでもいいです。用心棒っす……」

 

 なんだこの異分子オンリーメンバー。

 生存ルート入った奴が九割なんだけど。元の筋書きじゃあ、顔合わせることなんか絶対に在り得ない面子なんだけど。

 

「さて吉田松陽とやら。本題に入る前に、まずはいくつかの質問に答えてもらうぞ」

 

 スプーンを持ったまま、華陀様がそう告げる。

 松陽は笑顔のまま、「構いませんよ」と運ばれてきたオムライスへ手をつける。

 

星芒教(せいぼうきょう)の教祖とは――貴様か?」

 

「はい、そうです」

 

「アッサリ認めおるか……わしらをこうして、秘密裏に連れて来た目的は?」

 

「最終的には協力要請の話になります。しかしこれは、特に用心棒さん――彼方さんへ向けた側面が強いですね」

 

「ほう……わざわざ、わしに聞かせる価値があると?」

 

「強制はしませんよ。ここで席を離れ、彼方さんが貴方の護衛任務を終えた後、貴方と私たちは以後関わり合わない――そんな可能性も考慮しています」

 

「フン……まあよい。この星の教祖がわしの犬に用とあらば、飼い主として話くらいは聞く義務があろう」

 

 ありがとうございます、と微笑をたたえる松陽。その横では一兄さんが、がつがつと白米からラーメンまで、注文した品を食っている。

 さらに彼の外見上の特徴として――私の知識にある限り、その右半身、右の顔には、針の跡のようなものは見受けられない。五体満足、()()()()()()()()()()()である。

 

 更には正気の華陀様に加え、元気一杯の吉田松陽ときた。

 

 まさに原作ブレイクの特異点。

 この空間だけ異世界なんじゃなかろーか。聖杯探索でも始まるの?

 

「彼方さんからは、何か質問はありませんか?」

 

「……ありすぎて選別できないね。ともあれ、まずはアンタに何が起きたのか、過去に何があったのか――それを聞きたいですね」

 

「了解しました。では、その方向でまずは説明していきましょう」

 

 オムライスを完食し、松陽は姿勢を正す。なんだか、これから授業でも受けるような気分になった。

 

 

「ここにいる私、吉田松陽という人格は――(うつろ)から分離し、独立した存在です」

 

 

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