銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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ブリーフィング

 ファミレスで片手を挙げた。

 

「先生質問です」

 

「はいどうぞ」

 

「虚、別個体としているんですか?」

 

()()()

 

 ジーザス!! 吉田松陽生存ルートの確定ハッピーエンド世界線の希望も持ってたのに!! おのれ!!

 

「話を続けますね? 彼方さんは知っているらしいですが、私は多重人格の不死者です。虚とは、私の本来の人格ともいえる闇落ちした存在。ここからは私個人、虚という存在も含めての経歴となりますが――」

 

 そこで一旦言葉を区切り、

 

「まずは私という存在の特徴から話しておきましょう。その方が後の話がスムーズに理解できると思うので」

 

「特徴……?」

 

 多重人格とか不死性以外に、なんかあったっけこの人?

 首を傾げる私に、松陽先生はニッコリしたまま言う。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ――――ああ?

 

「未来じゃと?」

 

「はい。といっても、()()()()()()()()()()()()()()()()ですが」

 

 待て待て待て待ちやがれ。

 再び挙手する。

 

「――質問。解る未来の範囲って、どこまで……なんですか」

 

「私――虚が消滅する時点までです。最後はええと……どこかの瓦礫地帯の中で、龍穴(りゅうけつ)に身を落とすような光景なんですけど」

 

 それ最終決戦んんんんんん!!

 聞いてねェー!! ラスボスが実質二週目野郎とか、そんなクソ超絶ハードモードとか聞いてねェェェェエエエエ―――ッッ!

 

「そこから先は……見ようとしても、どうも曖昧で。複数の景色が入り乱れていて、とても把握の仕様がないんですよ」

 

 でしょうね! 二年後篇だものね! アナタが提供した不死の血、虚の因子が見る記憶もその未来予知に含まれてるってんなら、つまりその「景色のブレ」ってのは、別々の奴の視界から見た未来の光景が重なってるってことかなぁ!!?

 

 ――つまり、つまりだ。

 

 

 吉田松陽、いや虚は、実質……原作知識持ちの無敵個体ってことだ。

 

 

「……詰みだな!」

 

「ははは、お気持ちは解らなくもないですが――未来を知っていることは、別段自由にやれる、という事ではないでしょう? 貴方なら解るのはないですか、彼方さん?」

 

「……」

 

 ……頭の芯が冷えていく。

 彼は私の「同族」と言った。それはアルタナによる変異体、という意味も含めた、()()()()()()()()()()()――そんな意味も込められたものだったのだ。

 

「ですが、今ここにいる私自身の最期を、私は知りません。ただ、『虚』たる己が未来で何をしでかすか、その知識は保持しているので、こうして黙っているわけにもいかないのですが」

 

 ……。

 あぁなんか、この人があの「吉田松陽」っていうのが、今更ながら納得できた。

 

「たとえこの身は自由であれど、未来を知る以上、()()()()()が私にはある。なのでこの私の目的は、『()』が引き起こす惨劇を少しでも軽減しつつ、彼を消滅させることにあります」

 

 ……真っ直ぐな視線だった。どこぞの馬鹿侍を彷彿とさせる、眩いくらいの、確固たる意志。

 いや松陽先生、アンタ、間違いなく主人公の師匠ですわ。

 

「……一応、向こうの行動は基本的にその知識通り……なのか?」

 

「でないと知識を活かすこともできないでしょうしね。知っていたところで、縛られているのですよ、未来に。『虚』的にはやはり、『宇宙ごと全てを消し飛ばす』という結論になるかと。次こそ──()()()()

 

「不死ゆえの破滅願望、か。ドブにでも捨てろよそんな人外精神」

 

「とまぁ、私の長い自己紹介はこんなところになります。(はじめ)はなにか……って、寝てますね」

 

 松陽の隣では、ぐがー、と尾美兄さんが寝ていた。

 話が長いし込み入ってるからね。仕方ないね。

 

「では華陀(かだ)さんから、何か質問事項はありますか?」

 

「……頭からケツまで眉唾のオンパレードよ。だが入り組んだ事情があるのは解した。わしとしては、それこそドブに投げ捨てられるほどどうでもいい話じゃ」

 

「辛辣だけどまともな意見っすね華陀サマ」

 

「じゃが実際に不死というものを目にした身としては、全てを虚言と断じる気もない。不死とやらも興味を惹かれはするが──……」

 

 品定めするようなその目は私と、吉田松陽に向かう。

 不老不死。悪の華の権化のようなこの人が食いつかないはずはない。──のだが。

 

「……フン。そんな美味い話が易々と転がっていてたまるものか。ぬしら、本当に不老不死なのか?」

 

「厳密には違いますね」

 

「地球外では普通に死ぬらしいし?」

 

 確認の意を込めつつ松陽を見ると、そうですねと頷かれる。

 変異体が不死たる理由は、生まれた星のアルタナありきだ。逆説、その星がある限り、不死ということだが。

 

「それに不死というのは、存外デメリットの方が大きいですからね。人間の皮を被った異物として扱われ、権力者には利用され……仕方のない話ですが、死という終わりに至れない苦しみはキツイものがあります」

 

「体験談が詰まり過ぎだよ。重いんだよ」

 

「どうせそんなことだろうとは思った。では彼方? 今の貴様はわしの部下じゃ、そろそろ自己紹介くらいしてみせい」

 

 ですよね。そうなるよね。

 さてどう説明したものかなぁ……

 

「……あー、その前に確認なんすけど。松陽センセーは、『私』がイレギュラーってことは認識してるんで?」

 

「はい。貴方は私の知る未来には存在しない、唯一の異分子であり同胞です。なので貴方が何故、『筋書き』を知っているのか、何故私のことのみならず、銀時たちのことを知っているのか──是非ともお聞きしたいですね」

 

「返答によってはここで殺し合い、と」

 

「はい。私の目的を阻害するモノであった場合、排除行動をとらせていただきます。具体的には、地球より遠く離れた惑星に監禁、など」

 

「アルタナ枯渇で餓死るわ。平和的に見せかけてとんだ拷問刑じゃねぇかよ」

 

 やっぱエゲつないわー、松陽先生。作中一の暗部組織の元統領なだけはある。

 絶対に敵に回したくない。

 

「分かった。全部白状する。──その代わりに、注意事項を一つ」

 

「なんでしょう?」

 

「今から話すことは、不死よりも常識外れな、馬鹿げた事実がこの世にあることを念頭に置いて聞いてほしい」

 

「……ほう、気になる切り出しですね。いいですよ、どうぞ」

 

 笑顔の頷き。

 あーもうコワイなー。でもこれが最初の一歩だ。

 一つ息を吐き、覚悟を決めて私は言った。

 

 

「私は転生者。前世の記憶としてこの世界のことを知る──別世界から転生してきた魂だよ」

 

 

   *

 

 

「まさかジャンプ連載だったとは」

 

「センセー。メタいっす」

 

「私はちゃお派なんですが」

 

「少年誌ですらない!!」

 

 ──衝撃のエンカウント会議から、()()()()

 地球・江戸の一時拠点──からくり堂の地下に、私と松陽はいた。

 松陽は今週のジャンプを手にのほほんとしている。作中最強らしい余裕っぷりだ。弟子がアレなら師も師か。

 

「黒幕側ってのもヒマっすね。イベントが起きるまで待機とか」

 

「しかし主人公成長フラグとか、面倒な裏工作をする必要がないのはいいでしょう? 銀時はもうレベルマックス。宿敵とかライバルとか自分の師匠をぶちのめせばいいだけですからね」

 

「人の心ぉ」

 

「はっはっは」

 

 作中最強マジ呑気。

 それはそれとして。

 

「あいつの様子は?」

 

「見ての通りですよ」

 

 部屋の奥へと進むと、薄暗い空間の中に、「彼女」はいた。

 空間の中央に作られた、透明ガラスの培養槽の中。

 そこには、()()()()()()()()姿()()()()()()が、培養液に浸されていた。

 

「アンタが()()だって聞いて、できるかなとは思ってたけどさ……」

 

「複雑な気持ちですか? それともようやく自分の肉体を手に入れて、清々しました?」

 

「うわ、すっげー黒幕っぽい台詞……」

 

 黒幕だけど。

 彼だけではなく、私でさえも今は共犯だ。

 

 ──地球に戻ってから、まず私たちが着手したのは、「絶条空」という転生先の私──いわゆる今世の私と、この「私」との()()だった。

 

 そのためにまず頼ったのが、プラモデルから卵かけご飯製造機までなんでもござれ、平賀源外(げんがい)である。

 

「──イキナリ帰ってきたかと思えば自分のクローンを作れ、だぁ? 何をふざけてるのかと思ったが、いやマジでオメーどんな生態してんだよ」

 

 スパナを手にドン引きな表情をしている絡繰技師。

 そんな源外さんの態度も無理はない。なにせ分離の際の工程がアレだったからだ。

 

 まず、自分の心臓をぶち抜き──そこから肉体を再生して復活したのが、今のこの私である。

 

 で、心臓の方は培養器に投げ。

 そこから再生して出来上がってきているのが、あの絶条空である。

 

 ……もう私の中に、彼女の意識はない。清々しい、まるで部屋が広くなったような解放感がある。後は向こうが目覚めるのを待つだけだ。

 

「怪奇! 増えるオリ主かぁ」

 

「私と『虚』とが分かれた時の応用ですがね」

 

 ──そう。これは変異体であったからこそできた反則技。

 なんでも、松陽はかつて虚から己という人格を切り離した。心臓に一定量のアルタナを封じ、ブチ抜いて、龍穴に捨てることによって。

 

 無茶するなぁ。

 

 その後、「吉田松陽」のフリした別の虚人格が坂田銀時に処刑され、筋書き固定。その際の演技(エミュレート)が完璧だったのは、虚もまたもう一人の自分たる吉田松陽を知り尽くしていたからか。

 

 一方でこの松陽は、気が付けば別所の龍穴で肉体を再生して、これ幸いと別個体として動き始めた──という。

 

「いやぁ……晋助との再会は気まずかったらなかったですねぇ。ちょうどお世話になっていた家の炬燵でぬくぬくしていたもので」

 

「教え子に心配かけてる一方でその状況は殴られるだろ」

 

「殴られましたよ、普通に」

 

 そりゃそうだ。

 

「で、朧さんは向こうの虚の手引きで天照院に戻って、高杉総督はアンタについていって、後の地球には何も知らない原作準拠な銀さんと桂さんが残った、と」

 

 世界状況はそんな感じ。

 松下村塾についていた朧を、再び天照院に必要とした辺り、「虚」側も筋書きからの逸脱は望んでいないのだろう。或いは、自分を殺せるのは松陽(じぶん)のみと──期待してのことか。

 

「……『虚』が物理的に増えたりしたら嫌っすねぇ……」

 

「それはないでしょう。未来を知る者をやたらと増やせば、どんな変数が出るかは未知数です。私の存在が明るみになったとしても……私が彼の立場であれば、手は出しませんね」

 

「これ以上のカオスはあっちも望まないだろうしなぁ」

 

 ……この人、銀さんや桂さんと再会したらどうなるんだろうな? とりあえず殴られる未来だけは確定してそうだけど。

 

「さて。亡者と自認する貴方が、自分の肉体を得て晴れて『生者』となったわけですが」

 

 ジャンプを閉じて、松陽が言う。

 

「────これからどうしますか? 『来世』である己の人生を手助けするか。それとも“そっくりさん”……双子設定でもいいですね。そういった『別人』であるということにして、自由に動くか。今の彼方さんは完全に自由です。いっそ、別の銀河系にまで行ってみていただいても構いませんよ?」

 

 ……まぁ、つまり今の私の立ち位置はそういうことだ。

 

 本来のプレイヤー、転生者・絶条空もこれで、目が覚めれば己の復讐道を行くだろう。

 

 では私は? 転生者としてこの世界を知り、精神体として肉体を借りていただけの傍観者だった私は──こうして、「自分の体」を得た。

 

 変異体であることは変わらない。この先、一体どれほど長い時間を生きるのか、想像もつかない。

 あるいはいつか、虚のように壮大な自滅計画を立て始めるやも……とか。

 

 ねーな。

 

 んなクソ長いプランニング能力は私にはねぇ。

 

「そーうーだーなー……」

 

 やる気のない声をあげながら、考える。

 

 ──亡者ならば相応の振る舞いを。

 ──生者ならば相応の働きを。

 

「……『自分だけ』になってハッキリ分かった。私はこの世界が好きだ。ファンだ。だったら、その世界に、こうして晴れて、改めて『転生した』って言えるのなら────」

 

 結論は決まっている。

 意志なんか、ずっと前から決まり切っている。

 

 

「──最高の勝利と結末をこの手に。

 アンタの邪魔はしない。協力する。

 ()の目的は否定しない。応援する。

 主人公は好きにやってろ。助言する。

 私は私の『最高』のために、いかなる者の邪魔はしない。

 

 ただ──少しばかり、利用させてもらうけどね?」

 

 

 パチパチ、と松陽に拍手を送られる。

 

「今の良かったですね。とても黒幕っぽくて」

 

「いいことしか言ってないハズなんだけどなぁ……?」

 

「しかし悪い顔をしていましたよ。なんか、一回世界を滅ぼしそうな顔を」

 

 はっはっはー。

 そんなまさか。

 

 うーん、だってまあ、そりゃあまあ? 私の『最高』のため、理想のためにまず必要になるものは────

 

 

 ──()()()()()()、だしなぁ?

 

 

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