銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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ライフブレイカー

 さて、相変わらずからくり堂の地下で現状整理。

 前章──かぶき町四天王篇において、絶条空(わたし)は晴れて原作主人公陣営を裏切った。

 

 とても帰りづらい。

 だけども向こうのシナリオについていないと、介入がしにくい。

 なのでいったん、過去のことはナイル川に流して合流、もとい、仲直りする必要がある。

 

「オリジナルシナリオを組む必要があるということですね……!」

 

「わくわくした顔してんじゃねーよ松陽(ラスボス)

 

 だが一工夫いれなければならないのは事実である。

 まだバラガキ篇とか金時篇とか控えてる現状だ。一国傾城篇までいったら、そろそろ朧側との動向にも合わせなくちゃいけなくなる。

 

「……いや考えたけど無理があるって。あんな凶行RTAした奴をシレッと戻すのは無理があるって。原作版高杉サンをいきなりギャグ回で出すようなクラッシュ案件だろ。下手したら殺されるってマジで」

 

「え、晋助ってそんなに出番なかったんですか」

 

 そういえば松陽の原作知識は自分の身の周りに関することだけだったっけ?

 

「この時期も鬼兵隊の部下が勝手に年賀状出してたくらいで、あの人本人は終盤まで出番ないよ。悪役カリスマの株だけでほぼ単行本50巻以上楽屋待機組だったよ」

 

「シリアス役を一手に担っていたんですね……人気の方は大丈夫だったんですか?」

 

「必ず五位以上を維持してたよ。キャラブレしないってホント大事なのな」

 

 銀魂って77巻完結だぞ。その中であんな出番の少なさで大人気キャラって凄いというか異質だ。松陽も似たようなもんだけどさ。メインシナリオのメインエンジンとして超働いてるし。つーか機関長だし。

 

 閑話休題。

 

「戻るなら今しかないと思いますよ?」

 

 今、江戸はちょうどイボ騒ぎ(二年後篇)で混沌と化している時期が終わったぐらいだ。

 つまり現在、銀さん以外を始め、主要人物たちはイボ──実質、「もう一人の自分」に体を乗っ取られたという経験をしたばかり。

 

()()()()()。地上で流行っていたウイルスの正体は寄生型エイリアン。宿主の向上心を糧に、宿主になり替わる異星人です。そっくりさんを量産された事件の直後、彼らがよく知る空さん……いえ、彼方さんが現れたなら……」

 

「……『空が異星人(イボ)だった』、っていうご都合解決ができる……」

 

「本物の彼女が目覚めるまでの時間制限付きですがね」

 

 そういう事である。

 ……無理がある気がするなぁ!!

 

「それに()()()()()()()()、という理由付けが容易です。イボによる後遺症ということでゴリ押せます」

 

「そうかなぁ……」

 

 確かに江戸の町の適応力は目を見張るものばかりだけども。

 そこまで騙されるほどのバカか?

 

「あははは。ま、それくらいの『軽さ』があっていいでしょう。ギャグの中に伏線を仕込むのは定石です」

 

「漫画家?」

 

 そんなワケで。

 そういう事情(コト)になった。

 

 

 *

 

 

「ちーっす」

 

 場所変わって万事屋にやってきた。

 ガラッと引き戸が開き、閉まり、もう一度引き戸が開いて──再び閉まろうとしたところで片足を挟んで止めた。

 

「おいおい待てよ、なんだその態度は。あん? 借金そろそろ返してもらおうか?」

 

「……待てっつったいのはこっちの台詞だよ。はぁ? てめーどのツラ下げて復活してんの? 5年前のコト忘れたの?」

 

「何を言ってるんだかよく分かんないなぁ。おい、私の得物(妖刀)探してんだよ。探し物の依頼も引き受けないつもりかねこの店は?」

 

 厚い面の皮でそんな問答をしていると、引き戸向こうの銀さんが黙り込む。

 真顔を保っているが冷や汗が隠せていない。ナニコレ? ナニ? どういうコト?? という困惑100パーセントだ。当然だろう。

 

 次に会ったら鬼兵隊側の敵として出てきそうなくらいシリアスな退場した奴が、しれっと、日常回でしれっと再登場しているのである。さもありなん。

 

「い……いつ帰ってきやがった。つか、今までどこで何してやがった。春雨……華陀とかいう奴はどうした。鬼兵隊の連中もだ。いくら黒歴史だからって、暗黒卿時代を忘れてやるほど俺ぁ寛大じゃねーぞ……!!」

 

()()()()()()?」

 

 再度、念押しするように強く問い返すと、銀さんが押し黙る。

 こいつは何だ、偽物か──本物か!? という推理タイムが、さぞその脳内では繰り広げられていると思われるが──

 

「銀さーん? お客さんですか?」

 

 と、部屋の奥からぱっつぁんの声が聞こえてきた。

 一瞬で銀さんの手がこっちを押し飛ばし、ピシャン!! と再び玄関の引き戸が閉まる。

 

『い、いや! なんか記憶喪失の狂人だった……そっくりさんってやつだ! ははははは!!』

 

『えっ、記憶喪失!? だったらウチに依頼しに来たんじゃ……』

 

『いやそうじゃなくて、そっくりさんにしてはソックリすぎというかドッペルゲンガーというか、見たら死にかねないレベルの精巧さで……』

 

『何言ってるか分かりませんよ! 一体誰が来たんですか!』

 

『ちょおまっ……!!』

 

 銀さんを押しのけ、新八が引き戸を開ける。

 そして私と目が合う。

 

「よお」

 

 ピシャン!! と再び引き戸が閉められた。

 ……一体なんのコントだろうか?

 

『……ちょっ……ちょっとォォォ!! どういうコトですかアレェ!? え!? ほ、本人!? え!?!?』

 

『だぁーから言っただろ……野郎、この町で何しでかしたかも全部まるっと忘れたようだぜ。次郎長の番人の面目潰して、一人で江戸を救っちまった守護神になったことも知らずにな』

 

 そんなコトになってんすか?

 確かにここに来るまでの間、すれ違う見知らぬ人々に頭を下げられたりしたけど。

 

『次郎長さんは平子さんのこと、お登勢さんに「一人娘を放置するとはどういうつもりだ」ってどやされて旅に出ましたからね……銀さんもなんかグレーになって一人でソラさんを探しに行きかけてたのを僕らが殴って止めたし、一緒にいつか必ず鬼兵隊からソラさんを取り戻す、って決意してたのに……』

 

『おいやめろ馬鹿聞こえる』

 

 思ったより優しい世界か?

 そんなこっちは宇宙の果てで黒幕陣営に仲間入り、だ。いやぁ悪いね!

 

「……ソラ?」

 

 と、下から声がした。

 視線をやれば──定春を連れたチャイナ娘、神楽ちゃんだ。

 

 やあ、と片手をあげた瞬間、目を潤ませ、持っていた日傘を投げだし、一気にその脚力で万事屋の階段を駆け上がる、どころか飛び越えて──一瞬でドロップキックの姿勢になった。

 

「どのツラ下げて戻ってきてんだゴルァ──!!」

 

 心配したアルよ!! ──とも遅れて付け加えられながら。

 その鋭い足先が今、私の顔面に、

 

「おやおや」

 

 ──ぶつからなかった。

 ぱしっ、と神楽ちゃんの足を掴んでみせた手が伸びてきた故に。

 私のすぐ左横から。

 

 引き戸を開け閉めしていた銀さんも新八も気付いていなかっただろう。

 その人物に。その気配に。

 

「な……!?」

 

 空中で掴まれたまま神楽ちゃんの動きが止まる。その体勢でどうやって制止しているのかはまったく謎だが、夜兎族の身体能力の範疇だろうか?

 

「困りますね、私の用心棒さんを蹴り飛ばされるのは」

 

 ぱっ、と手を離され、神楽ちゃんの身が床に落ちる。

 少し開けられていた引き戸からは、銀さんと新八の顔が覗いている。そして新八はきょとんとした表情を、反して、銀さんは大きく目を見開いていた。

 

「…………は…………?」

 

 さもありなん。

 なぜならそこにいるのは。

 私の隣にいたのは。

 

「松……陽……?」

 

 亜麻色の髪をショートヘアーに切った、死んだはずの──自ら処刑したハズの、恩師の生き写しがいたのだから。

 

 

 *

 

 

 小さい爆弾と大きい爆弾、目立つのどーっちだ。

 大きい方に決まっているのである。

 

「『(みのる)』といいます」

 

 にっこり爽やかな笑みを浮かべる松陽。

 万事屋の居間に通され、ひとまず二人掛けの長椅子に座ってお茶を飲んでいた。

 対面席には、新八と神楽ちゃんと──松陽にヴーッと唸っている定春と、長椅子の裏手からこっちを警戒するように覗いている銀さんだ。

 

「実……さん。ええと、ソラさんとはどういう──」

 

「そ、ソラ……まさか彼氏アルか。私たちを放っぽいて、宇宙で彼氏作ったアルかぁ!?」

 

「ちょっと神楽ちゃん! そんなワケないでしょ!」

 

「今の雇い主だよ。用心棒より強そうなお人だけどね」

 

「はは、謙遜ですよ。彼方さんには何度も危地を救われましたし……」

 

「…………いやいやオメーおいどういう事だよ、隠し子? 親戚? 兄弟? いくら世界にゃ三人似た顔がいるっつってもだよ? 悪い冗談ってのがあるだろうがッ……!?!?」

 

「銀さんはさっきから何を警戒してんですか……実さんに失礼ですよ?」

 

「ッ……!!」

 

 銀さんはさっきから、青ざめたり具合が悪そうにしている。

 にこり、と実──いや松陽が微笑むたびに、トラウマでも刺激されているのか、苦虫を噛み潰しまくった顔をしている。可哀想。

 

「おい……実っつったか。個人的な質問になるから凄い軽い気持ちで答えてもらっていいんだが、──吉田松陽って名に聞き覚えはあるか」

 

 困惑と警戒を宿した銀さんの目が、まっすぐに松陽を見据える。

 まぁ避けられない質問だ──さて、どう答えるのか。

 

「吉田松陽……ええと、すみません。地球には最近来たばかりで、この星の芸能人には疎く……」

 

「違う違う違う芸能人の名前じゃねぇの! 俺のちょっとした知り合い! アンタの顔そいつにクリソツなの! 親類を疑うレベルでカップ焼きそば現象引き起こしてんの!!」

 

「焼きそばですか……すみませんが私はカップラーメン派で……」

 

「私カップラーメンはもう食べ飽きたアル。カップ麺ならそろそろきつねうどんが食べたいネ」

 

「いや二人とも何の話? カップ麺ならたぬき一択でしょ」

 

「流石にそこはカップ焼きそばでしょ。アレ丸かじりできて美味しいし」

 

「てめーら揃って何の話だァァァ!! チキンラーメンを忘れてんじゃねェェ!!」

 

 ピンポン、とチャイムが鳴った。

 このツッコミ不在の現状に来客だ。誰だろう。

 

「チッ、誰だこんな時に……!」

 

 足早に銀さんが玄関へ向かうと、しばらくして来客の声が聞こえた。

 

「銀時、遊びに来たぞ」

 

「帰れ!!」

 

「冗談に決まっているだろう。ホラ、茶菓子を持ってきた。真選組の者どもへの次なる策をそろそろ考えようではないか」

 

「俺んちでやるな!! いや待て、入るな! 今はお前だけは絶対入るな!!」

 

 ──どうやら桂さんがやってきたらしい。なんというタイミングの良さか。

 追い出そうとしたようだが、力づくで押し入られたのか、「釣れないことを言うな。俺とお前の仲だろう」などという言葉と共に、桂さんがリビングの襖を開けた。

 

「…………っえ」

 

 桂さんの目が松陽の顔を捉え、固まり、立ち尽くす。

 ちなみにその隣に怪生物・エリザベスはいない──既に蓮蓬(れんほう)篇の序章は始まっているようだ。

 

「せ、……先、生……?」

 

 そう呟いた桂さんに、松陽は白々しく、いや恐らく内心では若干ノリノリで、コテンと首を傾げた。

 

「ええと……? どこかでお会いしたことが……?」

 

「ぐはァァッ」

 

「ヅッ、ヅラ──!!」

 

 極大メンタルダメージ。

 血反吐を吐いてその場に桂さんが倒れ込み、それを銀さんが受け止めた。

 

「ば、馬鹿野郎、無茶しやがって……!」

 

「ぎ、銀時……その御仁はなに、何者だ……先生の親類か!? あまりにも、あまりにもォォッ」

 

「どっ、どうしたんですか桂さん!」

 

「何が起きてるアルか……」

 

 いやまぁ、アレだよね。

 そっくりさんとはいえ、世界一敬愛している相手に、「貴方だれ?」って言われたら、精神抉られるよなぁ…………

 

「つ、つかぬことをお聞きするが……そこの御仁、吉田松陽という名に覚えはないか!」

 

 床に這いつくばりながらも、そう吼える桂さん。

 銀さんとまったく同じ質問だ。さっきはボケに走ったが、この仕切り直しの問いには真面目に答える必要があるだろう。

 

「先ほど、そこの銀髪の店主さんにも同じ質問をされましたが……すみません。この身には生まれてこの方、(うじ)はなく、今は『実』という名で地球観光に来ているだけで……」

 

「実……──そう、ですか……いや、此方こそ初対面なのに失礼をした……」

 

 物凄く切なく残酷な場面だが、全部知っている側からすると手の込んだ最高の茶番劇だ。

 黒幕側も悪くないかもしれない。

 

「……おい用心棒。そいつとは一体どこで会った」

 

「いや、その前に! ソラさん! そろそろ説明してくださいよ! 華陀を裏切って、鬼兵隊と一緒になって……その後、なにがあったんですか!?」

 

「そうアル! 包み隠さず全部白状してもらうアルよ!!」

 

「そう言われてもな……」

 

「ちょっといいですか?」

 

 と、実……いや私視点では混乱するので松陽でいいか……が、片手をあげて彼らの追及を制止する。

 

「おそらく何らかの誤解が生じてると思うんです。彼方さん……いえ、この星ではソラさん、ですか。地球での最後の記憶を、憶えていますか?」

 

「……前に話した通りだよ。なんか気付いたら宇宙船っぽいトコにいて……そこで鬼兵隊の総督? だっけ? そいつに……」

 

「!? 高杉の野郎になんかされたのか!?」

 

「──ハリセンで思いっきりぶっ叩かれた」

 

「「「「は???」」」」

 

 皆の声が揃う。

 高杉晋助がハリセンを握る……そんな絵面を思い描けというのも無茶な話だろうし、というか丸っと捏造なのだが、ここは力押しだ。

 

「そこからぼんやりしてた意識がハッキリしてきてなぁ……で、用済みになったのか、ワケ分からんまま雑に宇宙に放り捨てられたんだよ。それ以前のことは、ちょっとよく思い出せないんだよな」

 

「……ハリセン……って……」

 

「……まさか……イボ……」

 

「先週まで流行っていたあの寄生型エイリアンか……」

 

「…………マジアルか……」

 

「イボ?」

 

「ッ!! い、いいやぁ、なんでもない!! へぇ~、ほ、ほぉ……そういう事かぁ……なるほどぉ……なるほどなぁ……?」

 

「(ちょ、ちょっと待ってくださいよ銀さん……じゃああの暗黒卿ソラさん、イボだったって事ですかッ!?)」

 

「(そう思うと様子がおかしかった辻褄も合うネ……私もイボに乗っ取られてた時のこと、よく思い出せないし……)」

 

「(マジかマジかよ、マジでそーゆー事で片しちゃってイイワケ!? イボに乗っ取られてたコイツにかぶき町、救われたってコトォ!?)」

 

 流石に無理があるか……

 話のオチとしてはギャグすぎるというか、予想外の真相すぎるしな……

 

「(でも、ソラさんがいなくなってから、地球でイボ……寄生型エイリアンが流行り始めたんですよ。これってもう、ソラさんが感染源だったんじゃ……)」

 

「(いやいやちょっと待てよ? 八割方それが事実だったとしてもだ、それでなんで高杉の奴がコイツを助けんだよ!? 怪しいだろ!!)」

 

「(え、でも、あの時のソラさんは、鬼兵隊に華陀を売ったんですよね? ってことは一応、あっち側からしたら味方……というか、使える駒として扱われてたんじゃ……?)」

 

「(高杉(アイツ)がンな殊勝なタマかぁ……? 使えると思ったらイボだったから捨てたってことになるぞそれ!)」

 

「(……でも、それ以外には……)」

 

「(……現状、これ以上の推理材料がないんですが……)」

 

「おいお前たち、ちょっと俺にも分かるように一から説明してくれないか。疎外感がハンパない」

 

「てめーは少し黙ってろ!」

 

 万事屋ファミリーと桂さんがずっとひそひそ話しているが、変異体の聴覚には丸聞こえである。

 もしかしていけるのか? この無茶な辻褄合わせとご都合解決が?

 

「あ、彼方さん、そっちのお茶菓子くださいます?」

 

「アンタさっきから食いすぎだろ」

 

 松陽がさっきから出されたお茶請けを爆食いしている。

 ついでに部屋の隅に積んであった古いジャンプ雑誌も手に取って、すんごい寛いでいる。

 黒幕の首領の姿か……? これが……?

 

「……オイてめー! さっきから人んちでダラダラダラ寛ぎすぎなんだよ!! それ俺のジャンプ!!」

 

「──諦めなよ銀さん。この人、ちょくちょくパチ行ったりする遊び人なんだからさ」

 

「「遊び人んん!?!?」」

 

 なけなしの松陽じゃないよアピール。

 尊敬する恩師のそっくりさんが自分のようにパチンコに出入りする様など、想像もしたくない光景だろう。

 

「き……き、貴様……いくらそっくりさんとはいえ、限度があるぞッ……!」

 

「お前……おまっ……その顔で……お前ェェェ!!」

 

「何キレてんですか銀さん桂さん! なんか今日変ですよ!?」

 

「ははははは、元気の良い万事屋さんですねぇ」

 

「ッ、ぐぉ……! この……!!」

 

 坂田銀時に致命傷級の精神ダメージ!

 というか松陽が「いる」だけで相当な負荷がかかっている──これなんて拷問なんですの?

 

「で、なんか作戦会議っぽいの終わった? そろそろ私の妖刀探し、してくれる?」

 

「え……えっと、ソラさんの妖刀はこっちに……」

 

 と、席を立ったぱっつぁんが、奥の部屋から妖刀を持ってきてくれる。

 やはり彼らが預かっていたか。助かるー。

 とはいえ演技を忘れない。

 

「えぇ? なんで万事屋さんに私の妖刀があるのさ? 窃盗容疑?」

 

「ち、違いますよ! ソラさん、覚えてないでしょうけど、その……貴方が地球を離れた時、結構大変な状況だったんですからね!?」

 

「そうアル! もう勝手に一人で行っちゃ駄目アルよ? これからはちゃんと相談してほしいネ」

 

「そうですよ。一人で抱え込んで突っ込んでいくのは、どっかのバカ侍だけで僕らはお腹いっぱいなんですから」

 

「いや、だから……何の話なんだよ……??」

 

「……とにかく、覚えておくネ!」

 

 はあ、という締まらない返事をしつつ、妖刀を回収。

 これで用件は済んだ。

 

「じゃ、これに免じて返済額はちょっと差し引いてやるよ。じゃーな」

 

「なんでそこは忘れてくれてないんですか……」

 

 席を立つと、クッキーを頬張っていた松陽も、では、と立ち上がる。

 こいつ、ずっとお茶飲んでただけだったな……

 

「あ、そうだ。これからは私のこと、ソラじゃなくて『彼方』って呼んでくれ。絶条もナシだ」

 

「え?」

 

「カナタ?」

 

「なーんか前の名前、裏社会に広まっちゃってるぽいからさ。定期的に名前は変えてるんだ。ご協力、よろしくね。あと、どういう経緯でこの妖刀が万事屋さんに流れ着いたかは知らないけど……預かっててくれてありがとう。本当に助かったよ」

 

 なんとも言えぬ表情の彼らは。

 これっきり、四天王事件のことについて、話題を振ることはなくなった。

 

 

 /

 

 

 用心棒と「実」なる男が去った後。

 坂田銀時、志村新八、神楽の三人は、居間で黙り込んでいた。

 

「……野郎……マジで何者なんだよ……」

 

「……同感だ。偶然にしてはあまりにも……」

 

「あの……銀さん? それに桂さんも。さっきから、どうしたんですか? 実さんに会ってからずっと変ですよ?」

 

「……、」

 

 新八の疑問に、銀時と桂は沈黙する。

 銀時はあまり自らの過去を語りたがる男でもない。それを新八も神楽も分かっていた。

 松陽。実。

 どうやら彼ら二人にとって、無視できない顔立ちの人物らしいが──

 

「……二重人格かドッペルゲンガーか。それとも他人の空似か……」

 

「いや、ソラさ……彼方さんの件は、たぶんイボ……」

 

「それもなんか怪しーんだよ」

 

 あの二人からは、なにかよからぬ気配がする。

 銀時の野生の直感だった。危機察知能力とも言うべきか。

 

「……おいお前ら、あの二人には注意しろ。どうも信用ならねぇ」

 

「!? 彼方さんが……鬼兵隊の一員になったって言いたいんですか!?」

 

「かもしれねぇって話だ。大体アイツの暗黒面の正体、イボだっていう確証がねーだろうが。あいつが元のあいつだって証拠もねぇ」

 

「銀ちゃん!」

 

「けど考えても仕方ねぇ。偽物にせよ本物にせよ、アイツはアイツだ。また暗黒面ヤローが出てきたら、俺らがなんとかすればいい。──そうだろ」

 

 ……結局のところ。

 絶条ソラであるにしろ、その皮を被った別の何かであるにせよ。

 用心棒の彼女に対する万事屋の方針は、何も変わらない。

 

「……私、しばらくあいつのこと見とくアル。丸々二か月たかり損ねた酢昆布、回収してくるネ」

 

「僕も……気を付けます。また勝手にいなくなられちゃ困りますからね」

 

「勝手にしろよ。俺ァ奴がもう借金のこと思い出さないよう祈ってるから」

 

「銀さん、それは思い出される前に返すべきだと思います」

 

 

 /

 

 

(気付かれてる?)

 

(半信半疑、といったところでしょうねぇ)

 

 ──そんな会話をしながら松陽と並んで江戸を歩く。

 といっても、実際に声を交わしているわけではない。普段の動き、歩きの中の呼吸、リズム、重心の傾き、視線の方向を組み合わせて、口を動かさずとも、互いの意図を交わしていた。

 

 江戸には奈落の目がある。

 こうして松陽は出歩いているが、向こうのトップもまた同一人物。原作知識を有している以上、早々仕掛けてくることはあるまい。

 

 松陽が表に出てきたのは、奈落への遠まわしな宣戦布告であり──主要人物、万事屋メンバーへのちょっとした挨拶だった。

 

 黒幕として。

 正面から。

 坂田銀時に危機感を抱かせるための。

 

(昔から勘は鋭い子です。確証があるまでは動かない……いえ、動けないでしょうね。今の彼には、護るべきもの、護りたいものが多すぎる)

 

(鬼畜。鬼。悪魔)

 

(指導者とは時に厳しいものです。心苦しいですね)

 

 失笑しそうになった。どのクチで。

 私も私だが、こいつもこいつで大概アレだ。人の心というものが解っていない……というか、感覚がズレている。

 

 自分の行いの影響を、良くも悪くも理解していない。

 己が「与えた」結果、それで教え子の人生がどうなろうと知った事じゃない。

 「奪う」よりは良い結果に繋がるだろうと信じ、結果、とんでもない事になる。

 

 人間を愛し、信じすぎている怪物だ。

 勝手に託すし勝手に約束するし勝手にいなくなる。

 

 天然のトラブルメーカー。

 

 人の人生無意識ブレイカー。

 

 関わりたくねー。

 

「アンタはマジで死んだ方がいいかもしれないなぁ」

 

「そう言われると返す言葉もありませんねぇ」

 

「そういうトコだ、そーゆートコー」

 

 なにはともあれ。

 用心棒は、こうして江戸に帰還した。

 

 

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