銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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アンデッドフレンズ

「本当にここは賑やかな街ですねぇ」

 

 街を歩きつつ、のほほんと言ったのは松陽だった。

 ……いややっぱ凄まじい違和感のある現状実況だな。矛盾と二次創作の権化が出歩いてるって、物凄い世界線のズレを感じる。

 

「実際に来てみてよく分かりました。ここには人の活気が溢れている。今を生き、未来を切り拓く人の営み……彼らが護ろうとするのも頷ける、とても良い町です」

 

「そうですかねぇ」

 

 その割には視線を感じるのだが。

 具体的に言うと二人ぶん。十中八九、というか気配を覚えたので、確実に銀さんと桂さんである。

 町を歩けば教え子が釣れる。

 なお片方は攘夷志士の模様。

 

「おや、こんなところに古本屋が。ちょっと見に行きませんか? 彼方さん」

 

「外にいます。五分でよろしく」

 

「ははは、手厳しい」

 

 と言って、寂れた古本屋の中へと消えていく松陽。

 周囲の気配が動いたのはその時だった。

 

「──ねえ、貴方。聞きたいことがあるんだけど」

 

 後ろから首筋に突きつけられる剣先の気配。

 声からして、相手は振り返るまでもない──見廻組の副長、今井信女だろう。

 

 松下村塾と関わりのない彼女がなぜここで食いついてくるのか? いや、松下村塾と関わりがなくとも、彼女個人は吉田松陽と関わりがある。見かけたら気になってしまうのは当然といえよう。

 

「なんですか。藪から棒に」

 

「あの男は何?」

 

「私の今の雇い主です。用心棒としての仕事ですよ」

 

「雇い主……ですって? 名前は」

 

「ミノルさんですよ。お知り合いで?」

 

「…………」

 

 困惑混じりの敵意。

 信女は天導衆の独立暗殺部隊・天照院奈落に所属していた元「奈落三羽」の一人だ。その幼少に、松陽の牢屋番をしていた関わりで、彼女も松陽から手習いを受けていた。

 

 よって彼女も松陽の正体──「虚」を知っている。

 そっくりさんのラスボスが呑気に町中を闊歩していたら、気になるのも当然だ。

 あいつやっぱ歩く爆弾だよ松陽。

 

「──彼方さん彼方さん! ここ〇witch2売ってますよ! 買っていいですか!?」

 

 その時、妙にテンションを上げた松陽が足早に戻ってきた。

 これはフリなのか素なのか? いや半分くらい天然で言っているだろう。

 

「買うなら私の分も買ってきてよ。型落ちでもいいからさ」

 

「待ッ……え……ゲーム……? え……?」

 

「もちろんです! カード決済してきますね!!」

 

 ブラックカードを預けると、わぁい、と子供のような笑顔で店へ引っ込んでいく松陽。

 キャラ崩壊も甚だしいことだが、これくらいやんなきゃ別人設定なんか通らんだろう。

 

「…………どうやら他人の空似だったようね」

 

 カチン、と刀を鞘に収める信女。

 見なかったことにする気らしい。賢明な判断だ。

 

「もういいんですか?」

 

「松陽はゲームなんて買わないし、カード決済しないし、やること全部に意味がなくちゃいけないの」

 

 どこのデンノコ悪魔構文?

 はあ、と返事をしている間に信女の気配が遠ざかる。職務の巡回に戻ったようだ。

 一方、ちょっと離れた物陰から、こんな声が聞こえた。

 

「……どう見る銀時。やはりあの御仁、先生にそっくりだぞ……」

 

「こっちが聞きてーんだよ……だが見た目はどうあれ、中身は別モンだぞ。本物ならs〇itch2じゃなく、まずプレステ辺りから攻めるハズだ」

 

「確かにな……いきなり得体も知れぬ機器に手を出すなど先生らしくもない……」

 

「お前まだファミコンを最新機種だと思ってる?」

 

 ファミコンは世代じゃないなぁ……

 もっというと「空」はこの世界ではしばらく人間社会と絶縁していたので、我が家ではDSが最古参だ。

 

「買ってきましたよ彼方さん! こちら、貴方のぶんのV〇taです」

 

 その鳩尾に拳をめり込ませた。

 ぐはぁッ、と松陽がうめき、その場にうずくまる。

 

「「先生ェェェ──!!」」

 

「オイ……今さら生産終了機体を買ってこられても困るんだよ。なんで無駄にボケる? なんで無駄金を使う? 私の金だぞ??」

 

「す……スミマセン。でも私だけゲーム機を買うのは不公平かなと……」

 

「要らない気遣いだよ。私は古来よりDS党だ。色違いで全国図鑑作るんだよ」

 

「そんな苦行に精神が保つんですかッ!?」

 

「お前が向いてないだけだよ……ホラ、Vi〇a返品してこい。ウチにはもうPS4があるんだよ」

 

 箱を押し付けると、とぼとぼと古本屋へ出戻りしていく松陽。

 マジで何のやり取りをさせられたんだ今。弟子をあぶり出す高度な作戦か?

 

「よお……用心棒の姉ちゃん」

 

「少し話を伺いたいのだが?」

 

 ……実際に出てきたようだが。

 背後を振り返ると、キレる一歩手前みたいな顔をした銀さんと桂さんがいた。師匠顔に暴行を働いたのが地雷だったのだろうか? 先生想いの良い弟子だなオイ。

 

「二人とも何の──」

 

「型落ちでも一部のゲームでは通信ができると聞く……! swit〇hくれ!!

 

「頼む!! 我が攘夷党でも抽選は全滅……! まだ手の届く型落ち版でもいい、俺たちにsw〇tchの恩恵をヲッ!!」

 

「なんだアンタら!! 単にswitc〇で遊びたいだけだろうが!!」

 

 クワッ!! と必死の形相で松陽の弟子×2がそろって謎の要望を叫んでいた。

 マジで何だ。なんなんだこの人たちは。松陽のことは松陽顔のそっくりさんで片がついたんじゃなかったのか。全然未練断ち切れてないんじゃないか。そりゃそうだろうけどもよ!?

 

「自分で買えよ馬鹿ども……! 人にタカるな、大人だろ!?」

 

「お前……俺たちにゲーム機をホイホイ買える金があると思ってんのかァ!?」

 

「大人だからこそ大きい出費は控えたいもの……武士たるもの、財布の紐はきつく縛っておくものだ!」

 

「他人の財布の紐狙ってる時点で終わってんだよ。諦めてファミコンで遊んでな」

 

「くっ……!」

 

「ダメか……!」

 

 なんでそんなに悔しそうな顔を……

 いや、アレか? 松陽顔がswit〇h買ったから、一緒に遊びたいとかそういうカンジ? 童心どころか子供以上の馬鹿さ加減の彼らならありえそうだ。

 

 だからってなんで私が買い与えなきゃならん流れになってるのが謎だが……

 というか銀さんは買ったところで神楽ちゃんや新八に渡るパターンじゃないのか? 積極的にゲームとかやる人だったっけ? いやまぁ、ラブチョリス篇とかはあったけど。

 

「……おや? 貴方たちはこの前の……」

 

「「!!」」

 

 と、店から松陽が戻ってきた。

 ビクーッ! と分かりやすく二人が反応する。別人だという認識は持ちつつも、とてつもなく複雑そうな面持ちだ。なんで来たんだアンタら。

 

「……待てお前。なんか荷物増えてね? 何買ったオイ?」

 

「あ、安売りとあったのでP〇Pを二台……彼方さんのお金には手を付けてませんよ! 私の自腹です。モンハンを買ってみたので一緒に……」

 

「……、」

 

 少し悩む。

 のち、ちょっと待てのジェスチャーをして無言で古本屋へと向かった。必要なソフトを二人分と、ついでにsw〇tch三台を購入して退店する。

 

「ちょっと買いすぎた。やるよ」

 

 駄目な大人二人に要望の品を与える。

 目を丸くする彼らの様子を尻目に、松陽のレジ袋にゲームソフトを突っ込んだ。

 

「彼方さん? これは……」

 

「私はゴッドイーター派なんだよ」

 

 さっさとその場を後にした。

 

 

 *

 

 

「よォ、息災そうでなにより」

 

 からくり堂に行ったら教え子その3がいた。

 高杉晋助である。

 派手な着物に黒羽織、ただしノー隻眼ノー包帯、特にキセルも吹かせていない鬼兵隊総督である。

 

 ……何この……何……? 誰かは分かるんだけど、トレードマークが削ぎ落とされすぎてコレジャナイ感が凄まじい。

 

「ここにいて大丈夫なのかアンタ……」

 

 ちら、と私が視線を向けるのは、奥の方でカラクリを弄っている源外さんだ。

 思い出してみよう、源外さん登場回を。彼は高杉によって復讐心を煽られ、息子の仇討ちのために将軍暗殺を企て、それを銀さんたちに阻止される──という話で登場したキャラだった。

 

 今や高杉も源外さんも指名手配犯の同類だが、事の元凶と顔合わせって……

 

「いちいち神経質なこったな。俺があのジジイの牙を研いでやった理由、今なら分かるだろ」

 

 ──まぁ分かる。

 平賀源外は万事屋、ひいてはかぶき町、いや銀魂世界になくてはならない開発技師。

 高杉の介入がなければ、源外さんを銀さん陣営に取り込むフラグが建たないのだ。

 結果、ものの見事に犯罪者の巣窟と化しているからくり堂だが、ここだけ治外法権が働いてると思うべきか。

 

「──で──今日のアンタらはなんだ、呑気にお買い物かい」

 

「switc〇2を買いました」

 

「……」

 

「そんな目で見るなよ。こいつが言い出したんだぞ」

 

「DSしか持ってねェ……!!」

 

「馬鹿野郎この原始人が。私の〇witchやるから元気だせ」

 

「えっ」

 

 と、声をあげたのは松陽である。

 私が高杉に差し出したswit〇hを見て、自分の機体を見、ちょっとだけ肩を落とした。

 

「うごァァァッ」

 

「晋助!? どうしました!」

 

「馬ッ鹿お前、馬ァ鹿!! 乙ゲの鈍感主人公か! 弟子の気持ちも考えろ!!」

 

「ハァ……ハァ……! てめェに気遣われるほど落ちぶれちゃいねェ……!!」

 

「殺気凄いんだけど!! ブッ殺されそうなんだけど!!」

 

 ギギギギギ……と刀を握り、軋む音が聞こえる。

 テメーを殺して先生を取り戻す、とか言われそうな気迫だ。私なんにもしてねぇよ!! 十割松陽が悪いだろ!!

 

 マジで吉田松陽は自分の弟子たちだけ見ててくれねぇかな……

 奴と関わったらその弟子たちが3人ぶんの姑と化すとか地獄すぎだろ。ふざけんな。

 

「分かった、待て。じゃあ松陽に後でDSを買う。これで和平といこうじゃないか」

 

「チッ、仕方ねェな」

 

「え、新しいゲーム機体ならPS5が欲し……」

 

「そこまでにしろォォ! テメーは戦争の火種しか撒けねーのかァァ!!」

 

 PS5……と高杉が遠い目で呟いている。

 お前、お前さ、師を慕うのは良いけど、もうちょっと手綱を掴んだ方がいいと思うよ……? 鎖か何かでグルグル巻きにして繋いどかないと原作みたいになるよ??

 

「……まったく、先生にも困ったモンだぜ。教師が娯楽にふけってていいのかよ。ゲーム機どころか携帯すらマトモに使いこなせてねェのに」

 

「これでも己が生き方を見直した結果なんですよ? かつての私は……終わらぬ生の苦しみ、殺戮と憎悪の連鎖をどう打ち止めようか、こんな自分でも何を与えられるのか……そればかりを考えていた。ですがこうして『虚』から離れ、一人の吉田松陽となった今……気付いたんです。今の人の世には──そう、時間を浪費する方法が潤沢に溢れているとッ!」

 

「ダメ人間ならぬダメ生物に覚醒したってワケか。まぁそうだよな。永劫の寿命がある知性体なんて最終的にニートになるしかないもんな」

 

 あ、高杉が額を押さえてうな垂れ始めた。

 師が楽しそうなのはいいけどこの方向でいいのか? 俺が正すべきか? みたいに悩んでいるに違いない。

 

 つまりこうだ。

 吉田松陽、はっちゃけた。

 

 ある意味、憎悪と殺戮マンの主人格・虚からの脱却を為した結果、人間として大いに成長したと言っていいかもしれない。人間側からしたら退化したようにしか見えんが。

 

 無情である。

 

 不老不死とマダオは紙一重なのだ。

 

「ところで高杉総督、後ろの段ボールの山はなんなんだよ。コイツへの土産か?」

 

 そう、実は部屋には見慣れない段ボールの山が形成されていた。

 他の鬼兵隊メンバーの姿はないが──十中八九、松陽へ持ってきた荷物だろう。

 

「先生の生活必需品だ。地球(コッチ)に留まる以上、余計な荷は船に乗せられねぇ」

 

「何が生活必需品だよ。地球上にいれば食い物も不要ならトイレにだって行く必要ねぇ生物だろ」

 

「それはそうですが、『余計なもの』こそ我々化物には大事なものではないですか? 彼方さん」

 

「存在自体が余計なんだよ」

 

 人の輪に溶け込めると思い込んでる人外ほど滑稽なモンはねぇよ。

 

「……晋助。晋助、ホラ、何か言ってやってください。私が言うと全部ブーメランになるので」

 

 えっ、と高杉が素で声をあげる。

 まるで授業中に当てられた生徒のようだ。

 隙あらば松下村塾を開校するな。

 

「が……ガラクタでも使いようはある」

 

「誰がガラクタだ」

 

「人をガラクタ呼ばわりするんじゃありません」

 

 ゴッ!! と松陽の拳骨が高杉の脳天に突き刺さる。

 一瞬で地中に首までめり込み、生きた晒し首状態だ。彼なら避けようと思えば避けられるハズだが、律儀に受けるのはなんなのか。師弟の力関係か。

 

「それから晋助。前にも言いましたが、師の友人にはいい加減に敬語を使いなさい」

 

「……ハイ」

 

「まったく、いつまで経っても悪ガキで困りますねぇ。実に指導のし甲斐があるというものですが」

 

「気づいちゃったんだけどさ、アンタってただの悪ガキ量産機なんじゃねーの」

 

「あぁ……」

 

「晋助?」

 

「何も言ってません」

 

 力関係が明白すぎる……

 拳骨成敗とかいう前時代的な指導法がまだ残ってる教師に、乞いたい教えもない。物腰柔らかなナリしといて、こいつ、根本的にやっぱ怪物なんだよ。脳筋っていうかさ。

 

「はぁ……なーんか、変な世界になっちゃったな」

 

「はは、不死者が四人もいれば世の理も乱れますよ」

 

「乱れてんじゃなくて狂ってんだよ」

 

 もう引き返しようのないほどに。

 

 

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