春である。
なのでお花見である。
「ハーイ、お弁当ですよー」
そう言いながらお妙さんが弁当の蓋を開けると、中にはなんだかよく分からない黒い物体。
「アート」だの「かわいそうな卵」だのと言った銀さんはお妙さんに無理矢理その物体を口に押し込まれていた。自業自得というのもあるが、お妙さんもお妙さんである。
花見回。
まさか自分がこの話に参加できるとは思っていなかった。
定春が懐いてくれていなかったら一体どうこの日を過ごしていたことか。
いや、今日は見つかるや否や圧し掛かられそうになって危なかったけど。
「ガハハハ、全くしょーがない奴等だな。どれ俺が食べてやるから、このタッパーに入れておきなさい」
突然のゴリラ。
一瞬の間の後、お妙さんによって殴られることとなったが、銀さん達が動じていないところから察すると、やはり既にこれも日常風景の一つになっているのであろう。
「うーん、微妙だな黒い卵焼き」
「ソラさんん!? 大丈夫ですか!? 大丈夫なんですか!?」
とりあえず口に入れてはみたものの、ジャリジャリだのガリガリだのおおよそ卵焼きとは思えない感触である。一体何を入れた。
「どうですかソラさん。おいしいでしょ?」
ゴリラを殴りながらそう笑顔で問いかけるお妙さん。
その
「んー、まぁまぁかな。もう少し砂糖を足して、あと火加減ももう少し弱くして焼いた方がいいと思う」
「全くブレないよこの人……金銭、味覚にアドバイスとあらゆる方面で最強だよ……」
おののきながらの新八。
それは私の味覚がおかしいと言っているのか。いや現にそう見えちゃうけどさ。
……ぶっちゃけると、これと土方スペシャルだったらマヨの方が幾分かマシだ。噛むたびに味も感触も変わるダークマターは正直料理としてどうかと思う。
「ねぇ、さっきから君のお姉さんに殴られてるあのゴリラストーカー何なの?」
「ゴリラじゃないっすよソラさん。つーかあの人が警察らしいです」
「世も末だな」
最後に銀さんがそう言ったところで、
「悪かったな」
と、背後からの切り返しがあった。
振り向いてみるとそこにはマヨラーこと土方さんが先頭に立ち、傍らにはサディストこと沖田総悟、後ろには大勢の隊士達――とどのつまり真選組が勢ぞろいしていた。今日は非番だろうか?
なんでも今私達が座っている場所が毎年真選組が花見の際に使う特別席だとかなんとかだったらしい。なるほど、怒る理由も分かる。だが席をとっていなかった向こうも悪い。
その要求に「俺たちをどかしてーならブルドーザーでも持ってこいよ」と銀さん。
続いて「ハーゲンダッツ1ダース」とお妙さん、「フライドチキンの皮」と神楽ちゃん、そして威嚇する定春に――
「来週号のジャンプ持ってこいよ」
乗っかった。
一度でいいからこういう集団ボケに混ざってみたかった……!
「案外お前ら簡単に動くな。ていうかソラさんハードル高っ」
そしてツッコミ役も完璧である。
ハードルなんて言葉は知らん。
土方さんが刀に手をかける。
血の舞う花見なんてもはや花見じゃない……と、そのとき沖田が陣地争奪戦に「叩いてかぶってジャンケンポン」を提案してきた。
花見らしく決着、と言っていたのに全く花見と関係ない。
勝負は両陣営代表によって行われることになった。
私の立場は中立的のよーな部外者のよーな扱いとされたので、野次馬に混ざって勝負を傍観することに。良い立ち位置だ。
審判は真選組側から山崎、万事屋側から新八。
勝った方はここで花見をする権利+お妙さんを得るとのこと。
プラマイゼロでしょーが! とツッコんだ新八に山崎は「+真選組ソーセージ」だと言う。山賊かこいつら。
「それでは1戦目。近藤局長VSお妙さん!」
……お妙さんは全てを終わらせる気でいるようだ。目が怖い。
ジャンケンはお妙さんの勝ち。ヘルメットを被る近藤さんだが新八は逃げろと叫ぶ。
そして何やらとても長い呪文のようなものを唱え出すお妙さん。『
で、肝心の勝負はお妙さんがヘルメットごと近藤さんの頭を強打してノックアウト。
ルールの意味なし。刃向かおうとした隊士達をも黙らせるこの人こそ真の最強じゃないだろうか。
局長が戦闘不能になったので
……あれ、「今の」?
「お妙さんにはもう一度勝負していただき、1戦目の勝敗はそちらで決めることにいたします」
ん? こんなのあったっけ?
っつーかもう一度勝負するって一体誰が――
「絶条さん、お願いしまーす」
「え」
*
なんでも、松平さんの手駒だとかなんとかで私はどっちかというと真選組側だから! という理由らしい。
……クソ、金稼ぎのためとはいえ警察に肩入れし過ぎていたか……? けど別に私、あのオッサンの手駒になった覚えはないんだけど。
「すみませんねソラさん。面倒なことに巻き込んでしまって……」
「いえ、そこら辺は別に大丈夫ですけど……」
怖い。
何が怖いってそりゃ相手がお妙さんというところだ。
ジャンケンで私が勝てればそこはすぐハンマーをとって軽く頭を叩けばいいのだが、叩くときもこの人の頭を叩くのは相当な勇気が必要である。爆発とかしないよね?
「ハイ! 叩いて被ってジャンケンポン!!」
全てはこれで決まる――しかし結果はお妙さんがグー、チョキが私だった。
素早くヘルメットを被る。通常ならそこで終了……だが、やはり向こうは何か唱え始めている。お妙さんの本気度が伺える。
――ハンマーが振り下ろされた。
先の対決のゴリラの敗因。
それはただ黙って攻撃を受けたからだと私は分析する。
ヘルメットがあるから当たっても大丈夫、という油断もあったのだろうが、かわすぐらいした方がよかったのではないかと思う。
などと。
ハンマーが振り下ろされるこの数秒で、私はこの勝負をいかに上手く切り抜けられるかを推測した。
――結論。
「ッ!!」
ハンマーの動きが止まる。
否、止められた。
「セーフッ」
白刃取りのハンマーバージョンである。
止めた瞬間、ハンマーを伝って到底女性とは思えない力を感じ、フワッと風がおこり髪が揺れたところからすると、相当な勢いだったのだろう。危ない危ない。
「えーと……ひ、引き分け! 引き分けです!」
ナイス判断だぱっつぁん。
お妙さんの方も「あら残念」と落ち着いている。
ナニが残念なの? 私の頭をかち割れなかったからなの?
とにかく、無事峠は越えられたので心の内でガッツポーズ。
……もうルールは意味を成していないな。
いや問題児共にそんなものを守れというのがそもそもの間違いか。
2戦目は既に始まっており、神楽ちゃんと沖田がとてつもない速さで対戦していた。
早過ぎてメットとハンマーを持ったままのように……違う、ずっとメットは被ってるしジャンケンもしてない。ただの殴り合いである。
ちなみに3戦目である銀さんと土方さんは仲間である2人について「真選組の中でも最強をうたわれる男だぜ」だの「絶滅寸前の戦闘種族〝
「よし次はテキーラだ!!」
「上等だ!!」
どうやら既に銀さんと土方さんは勝手に飲み比べ対決を始めてしまっていたらしい。
そして吐いてる。飲むのはえーよ。あ、新八がズッコケた。古典ギャグだな。
「ここはどーだ。真剣で〝斬ってかわしてジャンケンポン″にしねーか!?」
無茶すぎる。酔ったまま真剣を握った侍ほど恐ろしいものはない。
それなら普通に戦闘した方がまだマシってモンだ。メットの意味もない。
『いくぜ。斬ってかわしてジャンケンポン!!』
銀さんがチョキ、土方さんがパー。
とったァァァァ!! と、銀さんが「斬った」のは傍に生えていた桜の木。
一方の土方さんは定春とジャンケンしていた。ここで人語を理解し始めていたのか、定春……?
……重量のある音を立てて倒れた桜の後始末はどうするのだろう。
警察として真選組が始末書を書くのだろうか?
「一緒に飲みしょーか。グチを
いつの間にか山崎と新八が仲良くなっていた。
互いに面倒な上司がいる点で意見が合致したらしい。
飲むってーか……ザキはともかく新八は未成年ではなかったか……
先の殺伐とした(?)雰囲気から一転。
現在、新八は気絶している近藤さんの横でお妙さん、山崎と語らい、神楽ちゃんはというとまだ沖田と勝負を続けていた。
私もまぁ一応大人なので酒を飲めるが、この身体はアルコールにも強いらしく、酔ったりはしない。
ダークマターを食べて何の副作用もなかったのは、昔から食べられると認識したものは何でも食っていたからだろうか。あまり思い出したい記憶じゃないが。
「そういえば、ソラさんってホントに攘夷志士じゃないんですよね? この前の爆破テロで桂と一緒にいたって聞きましたけど」
口を開いたのは山崎
真選組の中でもう私の存在が知られてるのか……今まで関わりがあったのは松平さんくらいだったからなぁ。
「あぁ、違うよ。私も単に巻き込まれただけ」
「あー……その節はどうもすみません……」
頭を下げる新八。
いやいや、あれは原作通りだったから別によかったのさ。
……とはいっても、コネがなかったらどうなっていたか……
「もうその件についてはいいよ。ところで山崎さんは真選組で何の役割をしてるんです?」
「え!? えぇっと俺は……みっ、じゃなくて……ミントンかな!?」
密偵って言おうとしたな今。
けどミントンで誤魔化すのは無理があるだろ……
「ミントン? そんな仕事あるんすか?」
尋ねたのは新八である。
流石ツッコミ役兼の常識人。そりゃあ疑問に思うだろう。
「そ、そうだよ~。とっっても重要な役割でね! これ以上は言えないな~」
汗をダラダラと流し明後日の方向へ視線を向けるジミー。嘘は下手糞だな。
「えっと! そ、ソラさんはいつから用心棒なんて危険そうなお仕事を?」
誤魔化すように話題を転換してきた。
まぁこれ以上問い詰めるのも可哀想なので答えてやることにする。
……えーっと、用心棒をいつからやってた、か……
宇宙に飛び立つ前からやってたから――多分攘夷戦争が終結する前――結構昔だな。
「……10年前くらいかな?」
「じ、10年も!? ベテランですねぇ」
「きっかけとか、あったんですか?」
今度は新八からか。
きっかけねぇ……きっかけ……
『おまんはまず人を護ることを覚えるぜよ。刀をデタラメに振り回すだけじゃあただの獣と一緒じゃきー』
…………。
……アレ、なんか今もっさんの声が聞こえたような……
いやでも攘夷戦争に参加したような記憶は――ていうか前世の記憶を思い出す前のことは結構あやふやなんだよな。
知らない内に会っていたりしたのだろうか?
「うーん、よく覚えてないや。昔のことだからね」
とりあえずその場は笑って誤魔化しておいて。
日常の苦労話やグチなんかでその日、前世ぶりの花見は楽しいものになったのである。
ちなみに酔い潰れた末、主人公と鬼の副長は自販機に置いていかれたというオチは後日耳にすることになった。いや、花見開始前から知ってたけども。