銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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 しばらく介入の余地がないので結構飛ばしていきます。


チェンジリング

 カラッと晴れた蒼天!

 広がる雪のスキー場!

 空高く飛ぶ全裸のスノーボーダー!

 あれは鳥か? 飛行機か? いいや!

 

 将軍である。

 

「……スノボってあんな滑り方だったっけ」

 

 警察庁長官、松平片栗虎(かたくりこ)のおっさんが呟いた。

 原作時系列的には雪山遭難事件後。そのラストシーンである。

 真選組によるお守り旅行が一段落したため、今度は松平さんとその手駒たる私もスキーに誘われたというワケだ。

 

 といっても既に将軍はスキー場での振る舞いを会得しているようなので、好きに滑らせるだけだ。今も空中で服もスノボも置き去って、将軍はその身一つで雪を滑っていた。なんでああなった。

 

「アレが最近の滑走法なんでしょうか。何か知ってます? 絶条……ああ、改名したんでしたか。彼方さん?」

 

「訊かないでくださいよ。私だってスノボのことなんか知りませんよ」

 

 更にこの場には、真選組から仕事を引き継いだと思しき見廻組までいた。

 遭難篇の真選組が着ていた衣装を白にしただけの防寒服を着た、見廻組局長の佐々木異三郎。今日も携帯片手にメールを打ち込んでいるようだ。

 

 でもって現在スキー場では一般客に紛れて、副長・今井信女がスキーやっていた。完全に職務から解き放たれたスキーヤーだ。ほとんど遊びに来ている。

 良い速度の滑りを見せているが、そこにゴーグルをかけた謎のスキーヤーが追いついてくる。そちらも巧い。並んだ二名が競うように滑りを見せるが、信女がゴーグル選手に追い抜かれていった。

 

「ほう。スキー始めたてとはいえ、あののぶめさんが負けるとは」

 

 少し遠くのゴーグル野郎がこっちに向かって大きく手を振ってくる。

 佐々木の視線がこっちを向くのを感じた。

 

「お知り合いですか?」

 

「ツレです。ああ、もちろん将軍様のことは一切言ってないんで」

 

 ゴーグルの正体は松陽だ。あ、バランスを崩して倒れた信女に手を貸している。バレるぞお前。いやほとんどバレてるか?

 そんな二人の近くに、ブリーフ一丁の将軍がやってくる。サムズアップを向けると、三人で競争することにでもなったのか、一緒に再び雪山へ向かっていった。心なしか遠目でもキャッキャッしている。女子大生かな?

 

「てめーも行ってきたらどうだ用心棒。童心に返るのも人生にゃ必要な時間だぜ」

 

「運動苦手」

 

「嘘つけ。それは嘘つけ。てめーが今まで何度将軍の暗殺を防いできたと思ってる。あんな化物じみた反射神経を持つ奴なんざ、そこらの侍にもいやしねェぞ」

 

「冷静に考えたら足に二本の板だけつけて高速で滑るのって怖すぎません?」

 

「怖いだけだったのォ!?」

 

「やってみれば意外に楽しいものですよ。なんならのぶめさんについて貰っては?」

 

 なんでこんなに優しいんだこのおっさん達は。

 ……そういや、松平さんも佐々木さんも一人娘がいる父親キャラだったか。実年齢的にはこっちが遥かに年上なので、この扱いもなんだかなぁ。

 

 ──いや、そういえば佐々木さんの方は……

 

「……、なんか子供扱いされてるようで気持ち悪いんですけど。お二人とも、お子さんいるんでしたっけ?」

 

「おう、俺にはカワイー娘がいるぜ。佐々木にもいるけどな。オメー、離婚した嫁さんと娘さんにまだ養育費送ってるんだっけ?」

 

「私のことはいいでしょう」

 

「じゃあさっきから打ってるメールはなんなんだよ」

 

「アナタには関係ないでしょう」

 

 ……えっ? 生きてんの? 佐々木さんの妻子、生存してんの?

 ……ちょっと待ってェェェェ!? 確か、天導衆を騙くらかした報復で妻子が殺られちゃって、それがキッカケで幕府に恨みを抱いて、信女を傍に置くようになったんじゃないっけ!? アレェ!?

 

 え、この原作ブレイクは相当マズくないか……? 佐々木サンの倒幕の意志、低下してない? じゃあ待て、妻子が無事ならなんで信女が彼の傍にいる? おかしくないか色々と。

 

 天導衆=奈落=羅刹()の抹殺ターゲットとはいえ……

 じゃあつまり?

 あの娘、また知らんところで原作崩壊(ビッグバン)起こしてたってコトォオ!?

 

「…………、……。…………」

 

「彼方さん、そんなトコにいないで一緒に滑ってみませんか? おや?」

 

 そこで雪山スキーレースで将軍への接待もクソもなく、再び一番乗りした松陽がやって来たので、私もスキーに参加することにする。

 

 今はもう……なんか空に飛んで全てを忘れてェ!!

 

 

 *

 

 

 数日後。

 本日の天気は雨模様。

 

 ザーザーと予報にない雨音に混じって、外からは悲鳴が聞こえたかと思うと徐々に静かになっていく。その代わり、ガコッ、ガコッ、とまるでプラカードを出すような効果音が増えているように聞こえる。

 

「彼方さん彼方さん! 外、なんか凄いコトになってますよ!」

 

「はしゃぐな」

 

 現在の私の住まいはありきたりな灰色マンションの一室。

 一人暮らしで寝泊まりするだけの場所だが、ちょっと前から数百歳児が住み着いている。

 

 松陽だ。

 

 なんでだよ。

 

 ……とツッコみたいところだが……おそらくコイツは、私の監視をしているのだろう。

 実力こそ羅刹こと「空」には劣るものの、未来を知るイレギュラー。

 いざという時のため、「なにかやらかすなら私が出ますよ?」という暗黙の脅しに他ならない。

 

 その結果、奇妙な同居生活が導き出されている。

 ウン、やっぱおかしくね?

 

『えー、ご覧いただけているでしょうか! 雨に打たれた人たちが次々と仮面のような表情になり、プラカードでしか喋れない症状を発症しだしています! 江戸に何が起こっているのでしょうか!』

 

 つけたテレビにはそう言いながらエリザベス化した女性アナウンサーが映っている。

 現在、蓮蓬(れんほう)篇。

 今ごろ宇宙では地球を懸けた大商(おおあきな)い、原作者(ゴリラ)ワールドが存分に展開されるカオス回だ。

 

「あの顔は確か白い悪魔……その名を蓮蓬。茶吉尼(だきに)辰羅(しんら)夜兎(やと)の陰で暗躍してきた幻の傭兵部族では……」

 

「普通に知ってるんだ……」

 

「ええ、発声機能はあるのにプラカードを介してしか喋らない伝達能力の致命的な遅さから、天導衆でもまったく脅威とは見なされていませんでしたが……」

 

「うーん、真っ当な意見」

 

 宇宙の謎生物すぎるよな、エリザベス族。

 一応説明はされるんだけどな。

 

「しかし、銀時たちは一体どこで何を……」

 

「宇宙でUNOやったり超商船隊ロボカイエーン!! で蓮蓬の母星と戦ったりしてるよ」

 

「なんて?」

 

「宇宙でUNOやったり超商船隊ロボカイエー……」

 

「待ってください巨大ロボ戦ができるなら今後の戦略にも幅が出るのでは!?」

 

「世界のコンプラ的にダメです」

 

 虚VSカイエーン? ただのギャグの絵面だろ。

 というか、途中途中で敵の脅威がデカすぎて、主人公の因縁の相手じゃなかったら許されないラスボスだな?

 

「まさか文字通り星を相手取るようになるとは……銀時も随分と成長して……」

 

「あと桂さんや坂本さんもいた気がするけど」

 

「小太郎まで!? 坂本さん……というのは、攘夷戦争で彼らと戦った新しい友人ですね? ぜひお会いしたいものです」

 

 馬は合いそうだ。

 私も坂本さんの危機ならば、こんな奴ほっといて加勢しに行きたかったが……割と真面目に地球の存亡がかかった一戦なので、無闇な介入はできなかった。故に今回も傍観席だ。

 

 黒幕側ってやることねぇ。

 

 

 *

 

 

 ──それから更に数日が経過して、始まるのはバラガキ篇だ。

 警察組織の真選組と見廻組がぶつかり合い、そこに攘夷浪士側に潜入していた銀さんが巻き込まれる。

 

 これは真選組と見廻組、そして攘夷浪士が集まった暴徒集団さえいれば、つつがなく進行するため、やはり外野の私たちに出番はない。

 

 出番といえば、佐々木と密かに手を組んでいる高杉が、事の顛末を彼に聞きに行くぐらいか。原作版の佐々木さんは幕府に恨みがあるので、後々の最終章シナリオでは大いに活躍の機会があるのだが──

 

「佐々木さんがなぁ……」

 

「はい? どうかしましたか?」

 

「いや重要人物の家庭環境が大いに変わっててェ……大丈夫かなと」

 

「ふむ? まァ晋助のお友達なんですから、そう心配する必要はないと思いますよ? 大丈夫大丈夫」

 

 などと言いつつ、炬燵でミカンの皮を剥く松陽。

 かくいう私はその対面でDSを開いて色違いを探している。クソッ、ポケトレの連鎖が続かない……!

 

 ……不死者が揃って呑気だな……

 いかん、正気に戻ると馬鹿らしくなってくる。今は画面にだけ集中しよう。

 

 ピンポーン、とそこでチャイムが鳴った。

 無論、二人とも炬燵に入っているので出ていく意志など無い──そもそも寿命が地球と同じなので、感覚的には何十年も後回しにしたっていい気分だ。

 

 が、そんな此方の生態を読まれたのか、ガチャリと鍵の開く音がする。オイ、セキュリティ。

 

「おや晋助」

 

「先生、寄ったから顔見にきたぜ」

 

 ずかずか敷居をまたいできたのは高杉である。

 「寄ったから」、なんて言っているが週一の頻度で家に来ている。弟子というか面倒見のいい母親みたいに思えてきた。指名手配犯や主人公のライバルというプライドはどこへ行ったのだろうか?

 

「……オイ、ゴミはゴミの日に出せっつっただろうが。生活能力皆無かよ」

 

「私は別に何も飲み食いしてないから松陽の領分だろ」

 

「えぇ? 料理した時に出る生ゴミは彼方さんのせいじゃないですか」

 

「ダークマター寸前のモンを錬成して人の真似事に大失敗してる馬鹿はお前なんだよ。見てられるか」

 

「彼方さん、料理お上手ですよね。誰かから習ったんですか?」

 

「独学だよ。五百年もあったのにおにぎりしかマトモなもん作れないとか怠慢が過ぎるぞ」

 

「だってアレ、いざという時に持ち運びができて効率が良いですし……」

 

「ダラダラ話すなこの駄目人間ども!! 先生だって俺らと放浪してた時はそれなりに手ェ込んだモン作ってただろーが!」

 

「そりゃあ大事な教え子たちを飢えさせるワケにはいきません。真面目にやります。でも、まぁ、自分で食べるものを作るとなると、ちょっと冒険してみたくなってしまい……」

 

「マジで無駄な凝り性だろ。自殺するなら別惑星行けばいいだけなのに宇宙を道連れにしようとするラスボスと同一人物感あるぞ」

 

「ぐはッ」

 

「先生ェェ! おいてめェ、正論の刃を振りかざすのもそこまでにしとけよ!!」

 

「なんで私が責められてんだよ」

 

 ダメージを受けた松陽はミカンの汁混じりの泡を吹いている。それを抱きかかえた高杉が介抱しているが、マジでこの駄目っぷりは彼らの反面教師になってる説ないだろうか? 知らんけど。

 

「やれやれ、参りましたよ……自分以外の者を終わらせる方法なら、地球上の誰よりも知っている自信がありましたが、こうも的確に不死者としての精神を抉ってくる言葉の刃は受けたことがありません。過去に受けてきた迫害の全てが霞むレベルです」

 

「オイ、お前の弟子が私を殺しとこうか悩む顔してるからもうちょっと言い方を改めろよ」

 

「彼方さんと話していると知らない自分を知ることができますね……何かの扉が開きそう、とでも言えばいいのか……」

 

「先生やっぱこいつと暮らすなんてやめましょう俺が始末しとくんで先に戻っててください」

 

「お前らが出ていけェ!! そもそも此処は私んちなんだよ!!」

 

 クッソ、松陽が絡むと途端に面倒だな高杉晋助! なんだこの異様な殺意の高さ! あーあー、原作での態度って坂田銀時視点が主だったからアレで済んでたのかな! 赤の他人だとこうか! こうなるか! ボケがよ!!

 

「でも彼方さんのご飯、本当に美味しいんですよ。少なくとも晋助よりは上ですね」

 

「……………………」

 

「おい教師として残酷な評定を下すなよ。可哀想だろ」

 

「生徒の成績を白日の下にさらすのも教育者の役目です。ハンパな指導をするつもりはありません」

 

「…………くッ……」

 

「マジに本気で悔しそうな顔させてやるんじゃねぇよ。立派だよ高杉。アンタは本当に立派な侍なんだから料理の腕の一つや二つでそんな顔しなくていいってマジで」

 

 そこで松陽から離れた高杉がすっくと立ちあがった。

 そして玄関まで行き、背を向けながら言う。

 

「……これで勝ったと思ってんじゃねェぞ。先生、また来ます」

 

 扉が閉まる。

 ついでに溜まっていたゴミ袋も部屋から消えていた──ついでに出しに行ってくれたらしい。弟子として出来すぎだろ。

 

「松陽、アンタってさぁ……弟子にメッチャ恵まれてるよな」

 

「ふふ、羨ましいですか」

 

「いや、申し訳なさを覚えた方がいいと思う」

 

 ドサリと再び松陽が炬燵に突っ伏した。

 あっ、色違い出た。やったぜ。

 

 

 /

 

 

(……奇妙なもんだな)

 

 住居を後にした高杉晋助は、見てきた師とその同居人を思う。

 吉田松陽──言わずもがな、この世で最も敬愛する己の師。

 そして彼方……こちらは最近知り合ったばかりの、されど、師にとっては唯一無二といっていい相手。

 

 同族。同種。同胞。

 松陽には多くの教え子はいるが、対等な立場の()()はいなかった。

 察するに──永劫の時を共有し、不死の苦しみを分かち合う仲間も。

 

(羅刹……)

 

 曰く。

 松陽()のように数百年の時を生きてきた、天導衆「奈落」の絶対天敵。

 虚に果てしない憎しみを抱き、奈落を滅ぼさんとする意志そのもの。

 

 高杉が目にしたのは、一度。

 兄弟子の朧と共に、松陽の処刑の場へと駆けつけた時に見かけたのが最後だ。

 朧は何者なのかを知っていたようだったが、何も知らなかった当時の高杉は、意味が分からなかった。

 あの少女の背を目にした時、普段仏頂面の兄弟子が顔に浮かべていたのは恐怖と畏怖。師の居所を聞き出した際も、まるで命懸けの問答をしているようだった。

 

 だが今は、虚のように……彼女が生み出したと思しき別人格「彼方」と分離し、肉体を得たそれが師と同居している。

 

 提案したのは、当然ながら松陽だ。

 当然、即刻却下反対したのも高杉である。

 

『しばらく地球であの子の面倒を見てみようと思います』

 

『……いくら先生の願いでも聞き入れられねェな。今の話が本当なら、「彼方」って方には先生も知る未来の知識にしか価値がねェ。銀時やヅラとも知り合いみてぇだが、アンタが時間をかけてこっちに引き入れるまでもないだろ。奴らと関わりがあるってんなら、事が起これば芋づる式で参加するんじゃねぇのか』

 

『そうかもしれませんね。今の彼女は……“羅刹”だった時は異なり、とても人情的かつ友好的ですから』

 

『だったら、』

 

『ですが、私の勘では……恐らくあの()は──』

 

 その先を語った師の推測に、高杉は息を呑んだ。

 人の真似事、などと本人は言っているが、松陽の人を見る目……特に他人を見る目は一流だ。何百年もの間、さまざまな人間を見てきたが故に培われた観察眼。それが見たところによると、

 

()()()()()()()()()()()()()()……ねェ……)

 

 同じ顔、同じ挙動をする個体。

 それは原理的に区別がつかない。見分ける方法は、それこそ個々人の人格や優先事項、好悪や趣味が目印となるだろう。

 

 だが今、あの「彼方」と名乗っている者は、しかして「彼方」である証明ができない。

 

 虚と松陽の関係性は分かりやすい。前者は多くの人格を生み出し、後者はその派生が一つ。

 何より高杉ならば、目を見れば師か否かくらいハッキリ分かるほど、生物的にも差がある。

 

 けれどもあの少女──「羅刹」と「彼方」は、二つの人格しかない。

 何より、羅刹自身の人間性には多くの不明点がある。かつては特徴的な口調や、憎悪と怒りに満ちた気配で区別できたが、分離した今、()()()()()()()()()()()()()可能性があるのだ。

 

 そして恐らくその可能性は、本人が自認できない類のもの。

 間違いなく今の彼女には彼方の記憶があるのだろうし、自分を彼方だと思っているのだろう──しかしだ。

 

『懸念すべきは……彼女が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である可能性です』

 

 人は。

 記憶によって人格が構築される──決定する。

 松陽の場合は「多くの人格から一つを切り離した」だけで済んだが、彼女は「分裂」だ。

 その際、記憶領域に、思いがけない障害を起こしている場合がある。それを松陽は予期したのだ。

 

 ()()()()()

 ただし、()()()()()

 そんな可能性を。

 

『今、からくり堂の地下で肉体を再構築している方が真に羅刹であるのなら、私の杞憂で済む。ですが……』

 

『……もし今自由になっている奴が「羅刹」で、何かの拍子で本来の記憶を思い出した場合……』

 

『最速で()を狩りに行くでしょうね。恐らくは先代将軍が関わってくる戦で……奈落に扮し、最短速度で鴉の大虐殺を行ってもおかしくない。そうなればこの国は行き先を見失うか、或いは不死同士の戦いに巻き込まれ、銀時たちの準備もままならないまま、地球ごと滅亡するか』

 

『一応訊くがよ先生、だったら今のうちに奴を俺らで始末するって選択肢もアリじゃねぇのか』

 

『駄目ですよ』

 

 師は言った。

 いつものように、柔らかく微笑んで。

 

『彼女がどちらにせよ……恩人に剣を向けることは、侍としてあるまじき行いです。そうでしょう?』

 

 ──恩人。

 そう、人格がどちらにせよ、彼女という存在自体、既に大きく自分たちの運命を動かしている。

 

 吉田松陽は死ぬはずだった。

 朧という兄弟子は松下村塾にいないはずだった。

 そのように師は語った。そして師の言葉を、この弟子が疑うことはない。

 

『既に二度も奇跡をもたらしてくれた彼女に……私は報いたいのです。せめて、友人として』

 

 それが今の師の願いだという。

 ──ああ、ならば。

 溜息嚙み殺して付き合ってやるのが、良い弟子というものだろう。

 

「とっととはっきりして欲しいモンだが、ね」

 

 同門……坂田銀時や桂小太郎の顔を脳裏によぎらせ、彼は呟く。

 未だ、師を斬って生き延びていると思い込んでいる馬鹿ども。

 とっとと真実を明らかにして、背負う必要もない十字架を取っ払ってやりたいのだが──まだその時ではない。

 

 さてはて、一体どんな顔をするのかと……その日を待ち侘びながら、悪童は江戸の町を歩いていく。

 

 




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 欲深なので評価<ここすき=感想・コメントな感じで執筆の燃料になってます。感謝
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