これが許されるのはエンディング呼び出しとかラスボス撃破RTAとかだけだろ。
死地のただ中で、そんな事を思うのは呑気すぎる。緊張感がない。こんなのは余裕とは呼ばない。
怠慢と呼ぶ。
「天に仕えながら天に辿り着いた
「オイ……彼方。お前の長寿友達か何かか、アイツ」
信女が絶望しながらも敵の紹介をする中、最大の警戒心で木刀を構える銀さん。
口ぶりこそ余裕を持たせているが、体が緊張している。真っ向から戦いに行こうにも、虚には隙が見えないのだろう。それに私の存在で怯え腰とはいえ、奈落の手勢もある。
雑魚の方はこの後に来る警察集団に丸投げでもいいが……、
ひとまず今は空気を読んでシリアスにログインする。
「よくある仇だ。此処で殺した方がいい。でなけりゃ逃げろ」
「……ハ。冗談言ってんじゃねぇ。ババア臭ぇぞ」
「ガキが見栄張ってんじゃねーよ」
と言っても──坂田銀時が退くことはありえない。ここにいる彼らは
約束を放棄することは、ありえない。
そういう侍だ。
仕方ないので、彼の左横に立つ。
意外そうな顔をされた。なんだよ。
「死力を尽くして限界を超え続けろ。死んだら肉壁には使ってやる」
「ああ……それまで背中は任せたぜ。
言われてみたい台詞ランキングに乗ってそうな台詞言ったなこいつ。
そんな共闘の姿勢を見せる此方に、虚はク、と笑った。
「殿をお連れしなさい。あの者らは私が対処します」
その指示で一人の奈落が動く。頭部を隠す被りものをした兵だ。
奈落の幹部と首領が揃って総出ですか。なに? 「羅刹」の恐怖がしっかり染み付いて、そんなに慎重派になったのか?
ともあれ。
「「行くぞ」」
さぁ、一足早いラスボス戦だ。気張っていこう。
*
「貴方たちの剣が、私に届きますか」
銀時は見た。
戦意を向けた瞬間、虚の姿が消えたのを。
直後、眼前で火花が咲いた。音もなくすぐ目の前に立っていた虚の一閃を、彼方が弾いたのだ。
虚の左手が妖刀を握る彼女の腕に伸びる。その瞬間、銀時が動き出す。木刀で不穏な左手を打ち払い、彼方に届きかけた手が宙を掴む。
その僅かな隙に、彼方が斬撃を繰り出す。だが後退することで回避され、繰り出した斬撃は仮面の表面を掠めるに留まる。だがしかして、床を蹴り飛ばした銀時が一気に虚へ突っ込んだ。
「──ッ!!」
しゃらん、と。
その時、周囲の敵影が増える。階段の上から飛び降りてきた四人の奈落だ。
が、それらは一瞬にして即死した。首から、胴から、頭から、血潮を噴いて死体となる。──彼方だ。彼女が傍にいる限り、銀時へ立ちふさがる障害は何であろうと排除される。
よって彼の突貫が通る。
木刀を振り下ろす。相手の真剣と打ち合った。
弾き、受け、止め、かわし、衝突し、ギリギリで剣だけが反応する。
──どこかで知っている剣筋。
その結論に銀時が辿り着く前に、虚の左手が潰された。銀時の後ろから飛んできた奈落の長柄だ。
彼方による援護だと解るが、この剣戟の嵐の中で針に糸を通すような所業である。彼女は何処へ?
──上だ。
急転直下に白い死神が虚に迫る。その瞬間、虚は銀時の胴を蹴り飛ばした。即座に飛びさがる先は階段の上だ。それに伴い、得物が突き刺さった己の左手をなんの躊躇いもなく斬り落とす。直後、先ほどまでいた場所を突き刺すように彼方が着地した。衝撃で階段に亀裂が走る。
階段上と下で、化物たちの視線が交わる。
自ら落とした虚の左手が再生される様を、銀時たちは見た。
「──
緊迫した状況に、声を差したのは立ち上がった彼方だった。
「怠いぞお前。死ねよ。さっさと死んでくれよ」
「ふ……貴方こそ、
虚の軽口に歯噛みするのは銀時だ。
この僅かなやり取りで、敵に手傷を負わせたのは彼方の一撃のみ。単純な技量と経験の差が分からぬほど若くはない。
「彼らを護り切ったところで意味はありませんよ。いずれ全て滅びゆくもの。かつて我々に憎悪の刃のみを向けていた貴方の方が、まだ戦い甲斐があった」
その時、奈落の気配が増えていく。
階段上にも、下の階にも、影から
「貴方が彼らを護れたとして……貴方を護る剣はどこにもいない」
「……、」
「どんな約束も朽ち果てる。どんな記憶も忘れ去られる。そんな苦しみのただ中で、貴方は彼らに何を見出したのですか」
それは彼女の本質を問いただす命題だった。
生死のない輪廻。言葉通り、あらゆる生物の盛衰を見届けるだけの一生涯。
同じ種族の彼にしか口にできない、究極の問いである。
だがそれには答えず、彼方は思いついたように言った。
「万事屋、今から私とシフト変われ」
「……ハアッ!?」
「
端的に放たれた言葉の意味を、分からない彼らではなかった。
「私の仕事はお前に引き継ぐ。上様の友人の護衛をな。で、私がこいつらを留め置く。あぁ、死んだりするなよ。一応将軍命令だし。私の首が飛ぶから」
「ちょっと待て! お前一人でッ……!!」
その時だった。
轟音と共に、殿中に砲撃が炸裂したのだ。
新手──ではない。
「こんばんは。お廻りさんです」
「……見廻組!?」
硝煙から出てきたのは白い隊服の集団だった。
その局長・佐々木異三郎が殿中を把握すると同時に、その顔が僅かに歪む。
「おやおや……情報にない厄介そうな不審者がいますね。なんですかアレ、のぶめさん」
真っ先に彼の視線が向くのは、階段上に佇む虚だ。ただならぬ気配でも察知したのか。
そういえば原作でも彼らが邂逅することは無かったっけ、と考えるのは彼方だ。
「……あっちはそこの用心棒さんが片付けてくれるらしいわ」
「──、そうですか。ならば雑用はあちら任せという事で。我々エリートはエリートらしくエリートの仕事に集中しましょう」
「割り振りは決まったな。じゃあ新人バイトの坂田クン、後始末よろしく」
「誰がバイトだァ! てめーの給料から報酬上乗せしとけッ!!」
各自が軽口を叩けたのはそこまでだった。
虚が動いた。
「──────な」
誰かが、声を漏らす。
剣戟音などという生易しいものではなかった。
虚が彼方へ斬りかかった瞬間、彼女の妖刀が
アルタナのエネルギー収束波。
超高密度に圧縮されたエネルギーは、たとえそれを生命の糧とする不死者であろうとその身を焼く刃と化す。時代劇から完全に世界観をギアチェンジし、SFモノへと突入させた当人は、虚が弾き飛ばされていった殿中を見やり、
「じゃ、こっちはやっとくから」
──そう言い、唖然とする侍たちを置き去りにして姿を消した。
「……そういえば彼女、元えいりあんはんたーという話でしたね」
「アイツだけ絶対に世界観違くね……」
*
斬撃波が刻んだ痕跡を追うと、金色の大広間の奥に虚はいた。
先ほどの攻撃がイイ感じにクリーンヒットしたのか、被り笠も仮面も無い。一度だけ通じる切り札を切ったのだから、それくらいは当然として、
「──死ねない、か」
そこで剣を突き立てて虚が立ち上がる。
穏やかな薄ら笑みと赤い瞳。暗殺組織首領の衣服。
そして、吉田松陽と同じ顔。
……いや、逆か。彼が同じなのではなく、松陽が同じなのだ。
松陽を生み出したのは、紛れもなく、
ハイライトのない赤い眼のまま、虚が首を傾げる。
「なんですか? 今の」
「知らんのか。この世界にまだ存在しないもの──『必殺技』だ」
「成程。不死たる身には意味のないものですね」
“必殺”じゃないしなぁ……
ただのド派手な技にしかならない。威力がどんだけあろうと、高そうな城内をブチ壊そうとも、地球ことグレートマザーの加護がある限り、彼も私も死ぬことはない。
泥沼確定の泥試合。
不死同士の戦いとはそういうものになる。
「で、どうする?」
「?」
「私たちが戦ってもどういう
呑気極まる提案に、やや虚は名の通りに虚を突かれたような顔をし、少し考えるような間があってから言った。
「……私が憎いのでは?」
「え? 嫌いな相手と酒を飲んじゃダメな法律ってあったっけ?」
「…………、」
彼の眼が宇宙を見たようなものになった。
何を言ってるんだコイツ、みたいな困惑をひしひしと感じる。
……ああ、そうだろうな。そうだろうとも。
戦いといえば、彼に相対する者が抱くのは恐怖だ。恐怖と絶望。怒りと敵意。排除しようという意志の群れ。
だからそれに関する対応なら、彼は涼しい顔で受け流す。慣れているからだ。それでラスボスの格も保つ。
だがこうやって因縁の相手に飲みに誘われるというのは──ああ、気色悪いほどに奇妙な体験だろう。
「今までこの目で様々な人間を見てきましたが……ああいえ、貴方は人間ではありませんでしたね。なるほど、これが『同胞』というものでしたか。実に奇妙な気分です」
「もう面倒くさいしジャンケンで決めない? 痛いの嫌だろ。私も嫌だし」
「そういうワケにはいきません」
虚が剣を構える。
「
「それがお前の生き甲斐か」
戦闘回避失敗。
あぁ、楽をしたかった。適当に話つけて帰ってくれるほど優しくねーわ、こいつ。
「というか、さっきので人格も5
「え、そんなに威力あった? 主成分はアルタナだぜ?」
「その妖刀、他の
……わざわざ教えなくてもいい情報を教えてくれるんだもんなぁ……
それほど死にたいのか。殺されたいのか。
……まったく。
「あと何人だ」
「さぁ。殺し切ってみれば分かるんじゃないですか」
瞬間、虚が消える。残像が見える。
すぐ背後。
迫る刃を迎撃する。反動で押し込まれて床を滑った。追撃が来る。来た。胴に蹴りが入る。鈍痛と共に吹っ飛ばされ、何枚か襖を突き破った。なんかこういうアトラクションみたいだ。
「──そういえば、質問の答えをまだ訊いてませんでしたね」
何の話だっけ? と思う。
折れたらしい肋骨の再生を感じ取りながら、立ち上がる。
空間の向こうから此方に向かってくる足音と、虚の声が聞こえる。
「貴方はなぜ──
「……あー」
そうだった。そういう話だった。
答えなかったのは……そう。その問いに答えたら、
なんとなく、気付いている。
自分のことだから、よく分かる。
ここにいる己が、どんな存在なのかも。
虚の気配が同じ空間にやってくる。顔をあげる。
同じ問いが来る。
「彼らに何を見出しましたか。あの男……松陽と同じものですか」
「──
「はい?」
人間賛歌を歌い上げるつもりはない。
そういう青臭いことは人間がやっていろ。
「人間ほど醜悪な生物を私は他に知らない。美しいものなど何も無い。惰弱、脆弱、虚弱。人間を肯定するのは人間だけだ。馬鹿しかいない上に救いようがない。しかも無駄に数が多いし気持ち悪いときた」
「ではなぜ──」
「趣味だよ」
「……趣味?」
「弱っちい奴らが出来もしないことにチャレンジしてるのを見ると手を貸したくなるだろ。弱者がその身をもって強者に唯一与えられるものを知ってるか? ──優越感だよ」
最悪の答えだった。
最悪の生物ランキングなんてものがあるなら、間違いなく堂々第一に輝くほどの最悪っぷりだった。
「与える必要もない不死の血を与え、殺せるなら殺してみろと言い続けるお前と同じだよ」
「……」
「所詮、胡蝶の夢だ。
人間とは違う。
生物として、立っている境地が違う。
不死の主観とはそういうものだ。永劫の時間に囚われた感覚は、同胞同士でしか分かち合えない。
「どうせ夢なら、楽しい方がいい。それが私の見出した生きるコツってやつだ。終点に救済を求める限り、お前が私を理解できることはない」
「……なるほど。いえ、とても興味深い見聞でした。ともすれば、この血濡れの五百年間で最も価値のある話だった」
「そうかい。感想は?」
「楽しいんですか、彼らといるのが」
「そうだな。たぶんそうなんじゃないか? お前にはそういう奴はいないのか」
無意味な問いだと思った。
我ながら無駄な時間稼ぎをしている。
「…………………………」
「……虚?」
それは、奇妙な沈黙だった。
嵐の前の静けさでもない、ただの無。
経験から思うに、そう、この感覚はアレだ。
何か、遠い記憶を思い出しているような。
そんな感覚だった。
「……気になっていたんですよね」
「あ?」
「──貴方は一体、
……。
……待った。なんだ、その質問は。
「反応しましたね? では、生きているのですか。あの男は」
「……ッ!」
ヤバイ。
すまん松陽、お前の生存バレたわ。
「肉を切り分け、相応のアルタナを注ぎ込めば変異体の複製が作れる……はは、なんということでしょう。こんな事を聞けば天導衆の老人たちも黙ってはいまい。私の集団でも作りかねませんね?」
「おいマジでやめろ。絶対やめろ。シャレになんねーって」
血や因子による寄生増殖ではなく、本物の大量複製。
──どんな悪夢だ。本編がFINAL迎える前に世界がFINALするわ。ワールドエンドだ。全人類、虚エンド? ヤダよそれ、どこの鬱ゲーエンドだよ!!
「ですが察するに……貴方もそれを実行している」
「察するな」
「ですから気になったのです──貴方は『誰』なのかと。あの話に聞く羅刹か、それとも──違う方なのか」
一歩、虚が踏み込む。
その気になれば一気に詰められる距離。だがゆっくりと、歩いてくる。
……これは無理だな。
運命を悟る。後回しにしていた覚悟と決意を固め始める。
だがその前に、疑問があった。
妙な言い方だが、確信に近い疑問だ。問う前から、なんとなく答えを知っている疑問だった。
先の虚の奇妙な反応。
こいつはさっき、何かを想起した。私の疑問を斬り捨てず、答えなかった。沈黙を返したのだ。
その原因を──恐らく私は知っている。今の私なら知っている。
「……なぁ、虚」
「なんですか」
「
「──────、」
言葉に詰まった。
あの奴が。完全に。
誰とも繋がらず、誰とも交わらず、誰も受け入れる事なく、誰の中にも生きられない奴が。
……やっぱり私は私だな。
そっちも
*
斬首は一瞬だった。
彼方と名乗った少女は、最後まで動かなかった。
自らを絶条ソラと認識し、その記憶と思考で物を話していた彼女は、その死を受け入れた。
死神を前に、何の反撃もすることなく。呆気なく。
「……何のつもりですか……」
彼女は間違いなく己に匹敵する実力者だ。事ここに至って、何の策もなく果てるなど。
ありえない。
首と胴が離れて倒れた亡骸を前に、虚は警戒を強める。女の死体から数歩下がり、その蘇生の奇跡を見る。
ふと、床に落ちた彼女の生首を見る。眼に生気はない。完全に絶命している。
やがてそれは髪先まで結晶化し、砕け散って跡形もなく消えた。
(同じ変異体でも差異があるのか)
虚の場合、本体から切り離れた部分は基本的に死体として残存する。
だが彼女の場合、体内に貯蔵できるアルタナの量の違いからか、それとも生態的なものなのか……このように空気中へのアルタナへと自動還元されるようだ。
死体が立ち上がったのはその時だった。
「……」
……驚くことはない。予想できていた事だ。
女の首から、骨、肉、皮膚、髪から、脳、頭蓋、顔が再生していく。元通りになっていく。
己の血もなく、当然のように蘇生していく様を、虚は攻撃を加えるでもなく見つめていた。
奇妙な心地。
同胞がいるという感覚。
──それに似た感情を──昔──どこかで。
だがそんな珍しい郷愁にも似た念は、次の瞬間にも消え去ることになる。
「鴉 悉く 鏖殺す」
虚が防御に刀を構えた時、既に心臓を貫かれていた。
「ごッ──ぁ、貴方、は────」
「一殺多生。憐憫はあるが慈悲はかけぬ。だが怯えも恐怖もしないと約束しよう」
息のかかる至近距離で、無感情な死刑宣告を受ける。
己を見つめる相手は、紛れもない、死の
「
胴を蹴飛ばされ、解放された彼は己が心臓の再生が滞っているのを感知する。
あの光斬はすぐには発生できないらしいが、妖刀そのものは不死の力を阻害する凶器に他ならない。
「
さぁ足掻け不死の者よ。
お前の死神がやって来たぞ。