銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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ダブルブッキング

 虚には唯一純然たる自信があった。

 この地球上で誰よりも多くの人間に殺され、殺してきた者。

 故に人間を──自分以外の者を終わらせる技術に関して、自分以上に知る者はいないと。

 

 だがその認識は数度の剣戟を交えた時、間違いであったと気付く。

 

 いくら己が多くの人間を殺してきた専門家(エキスパート)であっても。

 己はまだ、自身を含め、己と同じ化物を殺したことは一度も無いのだと。

 

「死ね──」

 

 再び心臓が抉られる感覚で彼は目覚めた。

 だが死に慣れている。心臓が停止しようと頭が無くなろうと、()()()()()()()()()()()()技術程度は身についている。

 血を吐きながら蘇る。彼女の白閃が視界を遮り、かわした。下から刃を振り上げ、その右足を薙ぐ。それだけでも機動性において一瞬だけ此方が上を取る。が、

 

「ッ……!?」

 

 その身を掴もうとした手は空振りする。すぐ左頭上に、跳躍したらしい彼女の気配があった。

 ──今の一瞬でどうやって?

 死が迫る直前、彼の脳細胞は走馬灯を見せる。高速のトライ&エラー。今の一瞬の失敗を振り返り、欠陥を修正する。人間ならば一度しか出来ないことを、不死は何度でも試すことができる。

 

(……片足が持っていかれるのを察知した瞬間(とき)、重心をズラした……? それで残る体重分を咄嗟に計算、位置を調整し、此方が振り払った片腕に妖刀の柄を立たせ、一気に上へ跳んだ……)

 

 くるり、とまるでサーカスのような軽快さだ。

 するり、と虚は右から左へ、痛みもなく首に刃が通るのを感じた。

 

「……、」

 

 見事に断頭された。が、首に頭は乗ったままだ。

 動きを止め、やや遅い再生力で細胞が繋がるのを待つ間に、大広間で相手が距離を取るのが見える。そのまま先ほど足と共に落ちた自分の靴を履き直していた。呑気なものだ。

 

 ……が……余裕があるのはどちらも同じ。

 いくら斬っても、いくら死んでも、この戦いは終わらない。終わりがない。

 殺し合いにおいて、「死」という唯一の決着点が彼らには存在しない。

 この地球(ほし)にいる限り。互いに尾を食らい合う蛇のように。

 

「相も変わらず……お強いですね。奈落(われわれ)を葬る中で身に着けたんですか?」

 

「汝らの弔いを始める前、さる剣聖に五十年、指南いただいた。最期まで剣でしか物言わぬ御仁だった」

 

 不老の童に剣を教える奇人。

 人里離れた秘境。滝のある住処で、終生、一度も言葉を交わさなかった老骨の姿が、彼女の脳裏によぎる。名もなき強者というのは、歴史の中を探せばゴロゴロいるものだ。

 

 そんな日々さえも、不死の生の中では刹那の長さだ。

 問われてようやく、今ふと思い出した程度のもの。

 

「──ん」

 

「……揺れましたね」

 

 屋外から爆発音と、少しの揺れ。

 戦場の状況が変わりつつある。虚はそれを察知しつつ、

 

(ここ)は我々には少し狭いですね……外に行きませんか?」

 

「貴様が逝け」

 

 瞬間移動、としか思えぬ速度で羅刹が迫る。

 だが途端、彼女は頭上からの気配を察知した。

 ──天井から降ってきた奈落の増援である。

 

 

 *

 

 

「吉原へ参れ。そして──鈴蘭を殺せ」

 

 そう奈落へ命じた徳川定々の乗り込んだ飛行戦艦は、とうに銀時たちが押さえていた。

 船の動力炉が信女によって両断され、爆発炎上する中、銀時は騒ぎに乗じて、覆面を被った奈落の一人に背後から斬りかかる。

 

「相変わらずだな、お前は」

 

「──ッ!?」

 

 攻撃を、避けられる。

 いや、相手には船が大破したことへの動揺すらもなかった。異様な落ち着きと、覆面の下から聞こえた“声”に、銀時は微かに動揺した。

 

「この期に及んで国盗りとは、まだ戦気分か。変わらんな……お前のその目は」

 

「て……てめェ……」

 

()()

 

「!?」

 

 それは彼にとって懐かしい呼び声だった。師、吉田松陽と出会った時からその傍にいた兄弟。幼少期を共に長らく過ごした家族──

 

「隙が見えるぞ」

 

 直後だった。間髪入れずに相手の片手が突き出され、奇妙な衝撃が銀時を襲う。

 後ろへさがることで衝撃を逃がしつつ、銀時は相手を見る。覆面を外したその顔を。

 

「……(おぼろ)!? なんでお前がここにッ……」

 

 病的な肌の白さ、己に似た色の抜けた髪色の若い男。

 奈落の装束をまとっているが、それは間違いなく、共に松下村塾で習った兄弟子だった。

 

「そうか……そういえば何も言ってなかったな。俺のことも、先生のことも」

 

 懐かしむように目を細めるかつての兄弟子。

 いや、この世界では兄弟子というだけの関係ではない。松陽の一番弟子という立場から、松陽が拾ってきた銀時の世話もしていた上、攘夷戦争においては鬼兵隊と並ぶ隠密に特化した奇襲部隊を率いて軍を指揮していた。兄であり、家族であり、戦友の間柄となる。

 

 ただ──銀時が松陽を処刑した後、何処とも知らず離散していたが。

 

「なんで奴らの一員になってんだよ!?」

 

「『なった』んじゃない。元々『そう』だったのさ。俺も──先生もな」

 

「ッ……!?」

 

 そんな過去(コト)は初耳だ。

 息も止まりそうになる事実判明に瞠目する弟弟子を見ながら、朧は続ける。

 

「現職復帰、というやつだ。考えてもみろ、あれほど強いお人が、そこらの剣術道場の出だったとでも思うか? 無名のままで」

 

「そ、れは……」

 

「まぁ、それこそ昔の話だ。というか……高杉から何も聞いていないのか?」

 

「あぁ!? なんでアイツの名前が出てくんだよ!?」

 

 半ギレになって噛みつく銀時に、朧は肩をすくめ、やれやれと言った調子で首を振る。

 

「仲も相変わらずか。アイツが黙っているのなら、俺からも何も言うことはない。お前はなんか……昔からこう、事情を知ったら首を突っ込まずにはいられないものな」

 

「何? 遠まわしにバカだって言ってんの?」

 

「万事屋なんて稼業をやっているのが証明だろう」

 

 ぐ、と銀時は黙り込むしかない。

 こんなやり取りも昔からだ。口喧嘩で滅多にひけを取らない銀時が、唯一この兄弟子には口で敵ったことがない。

 

「お前……高杉と組んで何を企んでやがる。何を知ってる!!」

 

「何も言うことはない、と言っただろう。それが兄弟子としての言葉だ。ここからは──」

 

 そこで朧が小刀を構えた。

 その目はもはや銀時の知る「兄」のものではない。影に潜み血に濡れる、人ならざるもの(半不死者)だった。

 

「──天照院奈落三羽が一羽……朧として、お前を処断する。()()()

 

 戦場で睨み合う兄弟子と弟弟子。

 あまりにも残酷な死闘が、今始まろうとしていた。

 

 

 *

 

 

 真選組と見廻組は、徳川茂々を警護しつつ、江戸城の最上階へ向かっていた。

 逃亡を図ろうとしている此度の騒ぎの元凶・徳川定々との対談。彼らが将と仰ぐ茂々の望みを叶えるために。

 

「……ん?」

 

 ゴゴン、と城内に揺れが走った。

 また上で銀時たち(アイツら)が暴れているのか、と一瞬考えた土方だったが──

 

「……いや、来るな」

 

「総員警戒! 殿をお守りしろ!!」

 

 戦闘の気配が此方に近付いているのを察知し、近藤が隊員たちに指示を下す。

 即座に全軍の進みを停止し、茂々の周りが固められる。

 出てくるのは奈落の手勢か、それとも城内に残っていた幕府軍の集団か──そう予想した一同の予想は外れる。

 

 次の瞬間、進路方向の廊下に、左から一人の黒い影がぶっ飛ばされてきたのだから。

 

 刀を構えつつ、先頭に出てきた土方と沖田は眉をひそめる。

 手すりに寄りかかるようになったそれは、死体……のように見えた。

 頭から血を流している、からではない。どう見ても首が折れている。死んでいる。

 

「ッ!?」

 

 が、動いた。

 当然のように「死体」は滑らかに立ち上がり、長髪の男性の形をした「何か」は、ゴギリと首を元の位置に戻す。

 そしてその眼が──尋常ならざる赤い眼が、動揺を見せる土方たちを一瞥した。

 

「あ、こんにち──」

 

 気さくな挨拶は途中までだった。

 ドゴォォ!! と遮るように、それが飛ばされてきたのと同じ方向から、白い剣客が現れ、謎の人影を勢いよくぶっ飛ばしたからだ。

 

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

 

 聞こえたのは怨嗟の呪文。

 そしてそのまま土方たちに一瞥もくれることなく、ぶっ飛ばした人影を追っていく。

 

……何? 今の。

 

……なんか通った……

 

 用心棒(あの人)、何と戦ってんの?

 純然たる疑問を一行に与えたエンカウントだったが、土方たちが彼女らを追うことはない。

 将軍の警護が第一というのもあるが──普通に混ざれる気がしなかった。

 

「今のは一体……」

 

「トラックですよ、殿」

 

「トラックぅ!?」

 

 茂々も抱いた当然の疑問に、佐々木が言った雑な回答に近藤がツッコむ。

 ──が、土方と沖田も視線を合わせ、ここは佐々木のネタに乗るべきだと合意した。

 

「確かにトラックっぽかったなアレ」

 

「そうですよ近藤さん。ありゃ間違いなくトラックだ」

 

「え、いや、なんか生き返ッ……」

 

「自動修復付きのトラックくらい最近じゃ珍しくもねーだろ」

 

「なんか轢かれてましたしね。死ね死ね言って」

 

「死ね死ね言いながらトラック轢くトラックあるぅう!?」

 

「トラックでなければ……未確認生物、UMAでしょうね」

 

「ユーマぁ!?」

 

 彼らは知る由もないが、不老不死なのであながち間違っちゃいなかった。

 

「なるほど……UMAだったのか……初めて見た……」

 

 ──茂々がそう言って納得したので、そういう事になった。

 上の一声で事実はそのようになる。土方たちも記憶を改変し、“アレはUMAだった”と結論した。

 将軍様様である。

 

 

 *

 

 

「……終わりが見えませんね」

 

 もう何十回目の死から蘇りながら、虚は呟いた。

 不死者同士の戦いは、城内では狭すぎる。既に舞台は屋内から屋外へ。最上階の一つ下。天守閣の屋根を足場にして二人は相対していた。

 

 互いに衣装も肌も血濡れ。だが傷一つない。先の攻防で彼方(羅刹)もまた右腕を失っていたが、たった今、指先まで蘇生が完了する。

 

「が……我々はともかく、どうやら戦場の方は時間切れのようです。老人たちも定々公のため、ようやく重い腰をあげたようだ」

 

 一つ上の階層を見上げれば、そこには開いた屋根がある。

 そこに付けるように、天導衆の本船が航行していた。あの光景こそは、この一国傾城篇、シナリオ終了の合図となる。──転生者としての視点では。

 

「逃がすと思うか」

 

「追ってきてくれるのなら構いませんよ。ですが、言ったでしょう。()()()()だと」

 

「……!?」

 

 その時、頭上から崩壊音がした。

 見やれば、銀髪頭の侍と、それにトドメを刺さんと壁を駆け下りる朧の姿があった。

 中空で彼らの剣戟が交わされる。が、そちらの戦況に彼女の視線が向いた瞬間、虚の剣撃が肉薄した。

 

「止めますか」

 

「──、」

 

 ガィン、と完全な隙を穿った突きを、妖刀の柄頭で止められる。彼女の赤眼がギロリと虚を見た。

 今のはほぼ自動迎撃(フルオート)な動きだった。彼女自身の意識が逸れようと体が、剣が勝手に反応して対応するらしい。どれほどの研鑽の果てに至った剣の境地なのか、虚の内に敬服の念がおこる。同胞としての畏敬の念が。

 

「相変わらずの手癖の悪さだ。その手は食わんぞッ!」

 

「あッ! てめー!!」

 

 その時、頭上の騒がしさが増した。

 銀時の作戦を読んだ朧が、身を翻してかわしたのだ。そのまま銀時を蹴り飛ばし、屋根の外へ叩き出す。

 

 瞬間、羅刹は虚が放った蹴りをかわした。が、かわした先に虚の片手が突き出され、胴体の経穴を突かれて弾き飛ばされる。ごふっ、と吐血した。

 

「終わりです──、!?」

 

 虚は見た。

 血を吐きながら、彼女の左手が動く。背中から得物を取り出すような動き。いや、刀剣ではこの距離は届かない。──ならば投擲か、と一瞬で予測して、

 

 ()()

 

 弾丸が虚の頭を撃ち抜き、一殺される。

 

(──ここで銃器ですか──!)

 

 さんざん流麗な剣技を見せた後でコレ。

 まさに死神。まさに不死殺し。

 妖刀の力も、培った剣技さえも、しなやかな体術さえも囮。

 しかも、

 

「ごっ、ッ……!!」

 

 体内のアルタナが狂い、虚もまた吐血する。異星のアルタナ入りの銃弾か。

 ──この同胞は、知っている。不死(じぶん)の殺し方を知っている。

 考えたのか。どう殺せるのか。考えたのか。どのように自分と戦うのかを。

 復讐心のなせる技か。実にまったく──素晴らしい。

 

「お見事……」

 

 そう、賞賛の言葉を紡いだ。

 弾丸は確かに猛毒だが、地球にいる限り、虚にとっては海に毒針の一滴を垂らされたのと同義。とはいえ、長時間体内にあっていいものではない。これは後で体を再生(つく)り直す必要があるだろう。

 

 そこで虚は倒れる。此度の仕合は此方の敗北だと示すように。

 そして、

 

「危ない」

 

 羅刹は銃器を捨て、手を伸ばす。

 屋根の外へと落下してきた銀時だ。その右手をギリギリで掴み取る。

 

「なッ……」

 

 それに目を見開いたのは銀時だ。

 ガクン、と屋根の淵で彼女の腕一本が、彼の落下を防ぐ命綱となる。

 ──奇しくも。

 今の坂田銀時の視界では、屋根上にいる虚の素顔(吉田松陽)を確認することはできない。

 

 坂田銀時の命も、原作崩壊の危機も、ギリギリの状況だった。

 

「馬鹿ッ、離せ……!」

 

「……!」

 

 いや、それは決してできない。

 ここで離せば銀時は落下死する。彼がいなければこの先の展開の全てが崩壊する。

 

 そんな事情は知る由もないが、銀時とて必死だった。

 今の屋根上には、敵が二人いる。朧と、彼女が戦っていた敵。自分一人のために、ここで顔見知りが死ぬ姿など見たくはない。

 

「虚様……!」

 

 が、上から聞こえたのは朧の焦る声だった。

 銀時からは状況が見えないが、どうやら既に彼女は勝っていたらしい。

 

「……退きますよ。今回の祭りは……ここまでのようです」

 

 羅刹が横目で見ると、血濡れの虚に朧が肩を貸していた。

 潮時と見たらしい。羅刹としては、掴んでいるのが銀時でなければさっさと引き上げて、二人がかりでも彼らを潰したかったが、

 

「……、」

 

 殺意を、堪える。

 絶対にどう考えても、この時点で坂田銀時が虚の素顔を見るのはマズイ。

 時期じゃなさすぎる。

 あと実がどうとかも云々、バレると説明が非常にメンドくさい。

 デメリットの方が多すぎる故に、ここで殺意は封じた。でなければ迷いなく行っていたが。

 

「また会いましょう、用心棒さん……約束ですよ?」

 

「さっさと死ね」

 

「──銀時。あまり無闇に首を突っ込むなよ」

 

「っるせぇんだよ! オイ! 色々と説明しろぉ!! オイィ──!!」

 

 銀時の叫びは当然聞き入れられず、敵の気配は遠のいていく。

 完全に向こうが消えたところで、彼女は銀時を屋根に引き上げた。

 

「無事か」

 

「ああ、お陰さんでな……そっちは……って、ズタボロじゃねぇか! 傷は──」

 

「無い。そっちこそ……毒とか、食らっていない?」

 

「? いや、別に……なんともねーけど」

 

 確かに見た限り、銀時は流血こそ多少しているが、原作ほど重傷ではない。

 何より、経穴に刺されたような針がない。……加減したのか、朧が。

 

(……そうか。向こうも経歴が変わったから……)

 

 松下村塾の一番弟子となった朧。

 奈落の側として、容赦なく銀時と死闘を演じたらしいが……兄弟子としての甘さが見える。心底から虚についたワケではないのか? と羅刹は考察する。

 

「……野郎……なんで奈落に……いやそもそも先生もって……」

 

「……」

 

「……あ、悪ィ。こっちの話だ。えー……と……」

 

「……」

 

「……」

 

 気まずい沈黙。

 アレ? いっつもこいつとどうやって話してたっけ? と銀時はらしくない事を思う。

 

「な……なんか雰囲気変わった……か? ……何? 怒ってんの?」

 

 何も答えず、羅刹は屋根に落ちていた銃器を拾って回収する。

 一点モノの不死殺しだ。大切に懐に仕舞う。

 

「あ。あー、そういえば彼方さん? オメー俺に依頼したよな? シフト変われってやつ。報酬はもちろん……」

 

「払う。色は付ける」

 

「そ、そォ……じゃ、借金の方も……」

 

「ああ、もういい」

 

「え、あ、そう……ふーん」

 

 銀時はやり辛さを感じていた。

 この関わり辛さには覚えがある。そう──かぶき町四天王事件で、暗黒卿となった彼女の時と同じ感じだ。

 とっととその当人は銀時に背を向けて帰ろうとしている。そこに、

 

「おい」

 

 声をかけると、止まった。

 

「奈落に敵対してたとか……羅刹だの……虚って仇……どういうことなんだ?」

 

「昔の話はもうした。改まって話すことは何も無い」

 

「待てよ! お前……奈落に復讐してーのか」

 

 面倒なモードに入ったな、と羅刹は内心嘆息していた。

 坂田銀時だ。これぞ坂田銀時だ。気になったからって他人の事情にズケズケ入ろうとする。

 何かしたがる。助けようとする。

 ──自分の兄弟子のことも気になるだろうに、だ。

 

「質問を返すが」

 

「あ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 そこで完全に。

 坂田銀時の表情が、体が、動きが、(こころ)が、完全に停まった──ように見えた。

 

「な、にを……」

 

「私は多くの(からす)を殺してきた。あの日も殺し尽くした後、一人の囚人だけが残っていた」

 

「おい……待てよ……」

 

「そいつは矜持を見せて自害した」

 

「待てって言ってんだろーが!!」

 

 ガッ、と胸ぐらを掴まれる。

 よほど聞きたくないのか。いや思い出したくないのか? 否、違う。

 彼の眼は揺れていた。信じがたい希望(もの)を、見るように。

 

「そんなの……話が合わねーだろ……俺は確かに、」

 

「その後、二人の人間がやってきた。お前の知り合いか」

 

「ふたり──……」

 

 その時、銀時の頭に思い浮かんだのは、高杉と朧だろうか。

 彼女を掴み上げる手が震え、やがて離れる。

 どういうことだ、と困惑した表情(カオ)だった。

 

「そいつらと……何を話した。てめェ……一体何を知ってやがる……」

 

 ──その答えが、さっきまですぐ近くにいたのだが。

 さて、どこまでどう話すか、と彼女が考えたところで。

 

「銀ちゃぁあああん!!」

 

「銀さ──ん!! 無事ですか!?」

 

 タイミング良く。

 万事屋の仲間が屋根にあがってきた。夜明けの時だ。

 

(みのる)の奴と仲良くしてやれよ。私から言えるのはそれだけだ」

 

「なッ……!? おい待て!!」

 

 再び捕まる前に、彼女はそこから離脱した。

 人外の跳躍力で瓦屋根から飛び降り、地上へ降りる。

 ネタバレする時のさじ加減って難しいな、と思いながら。

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