銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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光陰矢の如し

「おや? 用心棒殿ではないか。奇遇だな」

 

 そう声をかけてきた桂小太郎はいつも通りの彼だった。

 傍に白いペンギンに似た謎の生き物・エリザベスを連れて、立ち食いそばをズルズル啜っている。

 

「今日は一人か? せん……、いや、実殿は一緒ではないのかとな。いや何、少し気になっただけだ。俺が昔世話になった知人そっくりな顔つきなものでな……もちろん別人だとは分かっている。だがこのところ、どうしても脳裏によぎって攘夷活動に上手く身が入らん。己の未熟さに辟易していたところだ。ブルー、というやつだな」

 

『桂さん……』

 

「何も言うなエリザベス。全ては俺の不覚。聞けば、世界には三人似た顔がいるという都市伝説があるという話ではないか。宇宙広しといえども、あれほど似た顔つきを見る奇跡は早々ない」

 

 店主に蕎麦を注文する。

 お、それを選ぶとは見る目があるな、と桂から謎の賞賛が飛んでくる。

 

「しかし……用心棒殿、しばらく見ない内に雰囲気が変わったな。旅でもしていたのか? 何? 缶蹴りをしていた? 一千年? ハッハッハ! 奇特な御仁だな。こんな所にいては鬼に見つかってしまうぞ──何? 鬼役は自分? ……だったら早く隠れている奴を探しに行ってやっては……え、どこにいるか分からないから諦めた? いやいやいや! それはちょっと可哀想だぞ! もしかしたら今この時も世界のどこかでスタンバっているやもしれん! 探しに行ってみては……いや、なるほど読めたぞ。まったく水臭い。初めからこの逃げの小太郎に助言を求めて此処に来たというわけか!」

 

 蕎麦を完食する。代金を置く。

 

「そうだな……この俺が選ぶ最強隠れスポットを紹介してもいいが、それは俺にとってもリスクのある行為。だが今なら特別に! この書類にサインするだけで採用試験ナシで攘夷党に一発合格! フフ、なぁに遠慮することはない。あの破壊神・松平公が重用する伝説の用心棒ともなれば、実力に不足なし。どうだ? 我が同志となるのであれば、缶蹴り最強の隠れスポットを伝授するのも吝かではないぞ! ──ん?」

 

 さらさらと書類にサインする。

 ……『彼方』、と。

 

「……な、何? 本当に入るのか? いや冗談で誘ったわけではない。ただ……どういう心境の変化だ?」

 

「私の名前じゃないよ。いつか、行くアテのなくなった同名の子がいたら入れてやって。腕前は保証する」

 

「む? それはどういう……」

 

「あぁそれと、近い内に江戸城(あそこ)で缶蹴り大会やるって。万事屋も真選組も交えた大規模交流戦だとか」

 

「何ィッ!? 聞いとらんぞ銀時ィ! まさか……俺を抜きに、勝手に過去編に入ろうとしているのではあるまいな!? 松陽先生が絡むエピソードならば俺が行かねば始まるまい! 用心棒殿、情報提供に感謝する! ──次は貴殿の名をサインしてもらいたいものだ」

 

 ──そう言って、桂小太郎は明日へ向かって走っていく。

 その後をエリザベスが「バイビ~」というプラカードを掲げながら追いかけ、往来へと消えていく。

 

「……傾城、終わったかなぁ?」

 

 なんとなし、空を仰ぎながらそんなことを呟いた。

 

 

 *

 

 

 ──羅刹が家に帰ると。

 

「おかえりなさい。ご無事で何よりです」

 

 ……数時間前まで死闘を演じていた相手と同じ顔が出迎えるので、非常に奇妙な気分となる。

 松陽だ。

 しかも割烹着(かっぽうぎ)

 印象の落差がエグすぎる。

 

「……ただいま」

 

 それが帰宅の礼儀だと、彼方の記憶で知っている。

 松陽がにっこり微笑み返してきたところで、とっとと伝えるべき情報を教えることにした。

 

「松陽」

 

「はい?」

 

「汝の矜持、見事である。感服し、畏敬し、敬意を表す。──だからもう、弟子の元へ帰るがいい」

 

「──、」

 

 その言葉で、意図は十二分に伝わっただろう。

 靴を脱ぎ捨てて、障子をあけてリビングに入ると、

 

「「「「あ」」」」

 

 ──知らないが、知っている顔が四人ぐらいいた。

 真ん中に炬燵で鍋を囲っている。

 河上万斉、来島また子、武市変平太、──神威。

 鬼兵隊の主要メンツと春雨の第七師団団長だった。

 

「どうも……でござる」

 

「お、お邪魔してるッス……」

 

「これはこれはどうも」

 

「やっほ~。用心棒さん、牢獄以来だね。久しぶり」

 

 しばらく謎の面子を眺めてから、羅刹は言った。

 

「……我が家が犯罪者の巣窟になってる……」

 

「これは人聞きの悪い。我らが総督、晋助殿が出入りしているという家を、我らが鬼兵隊で査察しに来ただけです」

 

「そしたらなんかァ……そこの人が鍋作っちゃってぇ……もぐもぐ。これうまっ」

 

「歓迎の言葉に甘んじて馳走になっていたでござる。かたけじない」

 

「まさか用心棒さんの家だったなんてね~。シンスケも隅に置けないなぁ」

 

 ごちゃごちゃ言いながら鍋に食らいついている主人公の敵陣営。

 はっきり言って異常空間である。特異点か? という半身ならではのツッコミが喉まできて、彼女は飲み込む。

 

「出てく」

 

「まァまァまァ、ここは紛れもなく貴方の家ですよ彼方さん。いえ──羅刹さん?」

 

 その呼び名で、興味を示したように炬燵一行が顔をあげる。

 神威に至ってはニヤリとしていた。殺意がある証だ。

 

「へ~……もしかして、別に牢獄以来じゃなかったり? 初めまして──かな?」

 

「? え、どういうことスか」

 

「確かに……音色も以前とは異なるようで」

 

「噂に聞く多重人格、というやつですかな?」

 

 察しの良い面子が揃っている。

 一つ嘆息して、彼女もこの奇妙な鍋パーティの一員になることを受け入れた。

 

 

 *

 

 

 共有情報1。

 虚が出てきてヤバい。

 

 共有情報2。

 これからの大雑把な展開について。

 

「茂々は放っといても勝手に暗殺される。あんまりそっちにかまけると、喜々が天導衆に抱き込まれて鬼兵隊と第七師団が切り捨てられた挙句、なんか天導衆()が春雨の十二師団の指揮権ゲットして、烙陽(らくよう)で暴れることになる」

 

「ちょッ……待っ……えぇぇ!?」

 

「……なぜ隊の中でも限られた者しか知らない極秘の暗殺作戦を知って……」

 

「いやいや、なんで天導衆が十二師団を持ってけるのさ。元老は?」

 

「虚がなんか潰す」

 

「「「なんかってなんだ」」」

 

 鍋を食いながら話すようなカロリー量ではなかった。

 ──が、混乱、困惑しつつも顔色を変えない男が一人。参謀の武市だ。

 

「なるほど……それが実際に当たれば、凄まじい価値の情報となりましょう。……問題は、口封じの利かない相手だということですが」

 

「おっと、食事時に流血沙汰はご法度ですよ?」

 

 松陽の笑顔の圧力がかかる。

 一瞬だけ好戦的な笑みを見せたのは神威だったが、松陽が拳を握ったところで仕方なさそうに両手をあげた。ここで()り合うつもりはない、という意思表示らしい。

 

「……晋助様はどうなるんスか?」

 

「生死不明エンド」

 

「なんスかそのフワッとした情報はァ! 武市先輩、やっぱこの人嘘つきっスよ、そこらの怪しい占い師と変わらないっス!!」

 

「まァ落ち着きましょうまた子さん。未来人とは往々にして未来を知るが故に具体的な情報は話せないもの。漫画でもよくあるでしょう」

 

 用心棒さん、と武市が改まって問いを作る。

 

「──貴方は我々鬼兵隊がどのように結成されたかご存じで?」

 

「!」

 

 それは鬼兵隊の古参メンバーしか知らない真実。

 一介の用心棒なら決して知る由もない彼らの過去にして原点だ。

 

「何でだっけ……鬼兵隊(アンタら)にあんま興味ないから覚えてないな」

 

「興味を持てェェェ!! 知らないよりも残酷だよそれ! モブキャラか! アンタにとって私らはモブキャラか!!」

 

「確かアンタが切っ掛けでどーのこーのあったってのは覚えてるけど」

 

「ッ……!」

 

 未だ信用は怪しい域にあるが──さらりと言い当てられ、また子は動揺を見せる。

 そう。一人の女の子を救うために生まれた組織。鬼兵隊にはその側面がある。結成メンバーしか知らない事実を、やはりこの用心棒は知り得ている。

 

「ふむ……ひとまず良しとしましょう。そんな深掘り回想エピソードが綴られていたということは、きっとこれから我々は晋助様と共に激闘を繰り広げること間違いなしですからね。その未来が知れただけでも収穫です」

 

「……なんかソレを聞くと、戦ってる間に『今ってもしかして回想挿入されてるかな?』って考えそうになるの、マジでノイズっスね……」

 

「ねーねー用心棒さん。俺は? 宇宙最強エンド?」

 

「シスコンが悪化する」

 

 本当に何の答えにもなっていなかった。死亡を予見されるより最悪な回答だった。

 すん……と神威は黙々と鍋に向き合い始めた。どうやら聞かなかったことにするらしい。

 

「しかしその未来視とやら、ぬしという異物がいる時点で正確性は損なわれておろう。このような一室で我らが鍋を囲う景色が、本来の歴史とやらにあったのか?」

 

「慧眼だ河上万斉。その通り、私が知っている未来は物語になる前のプロットか筋書のメモ程度の価値しかもう無い。今日の殿中での騒ぎがその証明だ」

 

「……虚の出現ですね」

 

 そうだ、と羅刹は言う。

 

「茂々暗殺には最後、天導衆と繋がった喜々が出てくる。私が知っている中では、高杉一派と将軍派、両陣営を前に撤退していったが、あそこに虚が出てくると面倒な事態になる」

 

「最悪……そいつ一人に全員壊滅させられるってワケっスか」

 

「でも用心棒さんなら、茂々がどこに隠れてるかも解ってるんでしょ?」

 

 神威の鋭い意見が場を沈黙させた。

 

「将軍の暗殺は失敗しない。こっちの大将が裏切る前に、俺らが先に将軍のクビ獲っちゃえばいいんじゃない? ──というか、アンタが潜り込めば連中の隙を突いてグサリも現実的でしょ」

 

 妥当かつ、当然の提案だった。

 今日の騒ぎにおいても、「茂々の友」に数えられている羅刹(彼方)ならば、暗殺篇においても駆り出されるは必然。万事屋陣営を裏切って、茂々の首を獲ることは容易だろう。

 

「それとも連中に嫌われるのは嫌? こっちの動きもあっちの動きも知りながら、アンタは何もしないで見ているつもり?」

 

「好悪以前の問題を提示していいか」

 

「?」

 

「──なんで自分が貴様ら雑魚社会の問題に首を突っ込む必要があるんだ」

 

 茶を一口飲みつつ、彼女は続ける。

 

「暗殺。倒幕。隣人。どれも私にとってはどうでもいい事だ。お前たちが将軍暗殺に乗り出そうとどうしようと、次の行動はもう決めている」

 

「へえ? 何をするつもりなの?」

 

「春雨十二師団を潰す」

 

『ッ!?』

 

 それは鬼兵隊一派への対立を公言するようなものだった。

 よりにもよって、鬼兵隊主要面子と第七師団団長がいる目の前で。

 

「虚が取り込む戦力を一つでも潰すのが先決だ。十二師団中、六師団の主戦力の程度は()っている。残る半分は虚に捨て駒扱いされる程度に過ぎない。()()()()()()()()()()

 

「……はは……あっははは!! どうしたの用心棒さん、アンタ前よりずっと面白くなってるじゃないか! いいね、やっぱりいつかアンタも俺の手で殺してあげるよ! なんなら今から()ろうか!」

 

「ちょっとアンタら何言ってッ……!」

 

「──アリですね」

 

「は? 武市先輩?」

 

 参謀のトチ狂った呟きが聞こえた気がして、また子は耳を疑う。

 

「裏切りの芽を予め潰しておく……戦とは下準備の段階で勝敗が決まるもの。何、十二師団全てを相手取る必要はないのです。ここで地盤を固め、本命に臨む。元老から離反しかけている者たちを此方側に完全に取り込んでしまいましょう」

 

「はっはー。いいねそれ。春雨の勢力図を頭っから書き換えるワケだ」

 

「そんなの春雨の元老院が黙っちゃいないっスよ!!」

 

「ですから、黙るしかない状況にしてしまえば良いのです」

 

「武市先輩!!」

 

 騒ぐまた子や謎に提案に乗ってきた面子を、羅刹は無表情に見つめていた。

 ……なんか便乗してきたぞ……

 

 

 *

 

 

「俺だってよぉ……頑張ってんだよォ!? なぁあ、アンタなら分かってくれるだろォ!? 用心棒さァん!!」

 

 おでん屋で酔い潰れている長谷川泰三はやっぱりマダオだった。

 一升瓶を抱えて、グチグチと世の理不尽さだとか、世界滅べだとか同じことを繰り返している。

 

「ここで珍しくアンタに出会ったのも何かの縁だ……今日は語り合おう! 俺のグチとアンタのグチで百物語しよう! 女だてらに用心棒っていやぁ、色々あんだろ!? 知り合いには言えないよーな事も……ここにいるのはただの無職さ。パァーっと話して楽になろうや! 遠慮しなくていい、この酒の礼だ。全部俺に話してみろよ……!」

 

 アルコールに酔ったマダオは謎にテンション高めで促してくる。

 今は遥か遠い入国管理局時代の上官らしさを出したいのだろう。そうっすね、と一つ言葉を置き。

 

「じゃあ昔の男の話でもしてみましょうか」

 

「お、アンタにもそういう相手がいたんだな……意外と言っちゃなんだが、想像つかねぇな」

 

「昔々のことですよ。()()()()とも言えますが。ねェ長谷川さん、もしも奥さんが手も届かない遠い場所にいて、それでも一度だけ会える手段があったらどうします?」

 

「そりゃあ行くよ。会いに行くさ。どんな手を使ってでも、国境の果てだろうが時空の果てだろうが、地べた這いずってでも会いに行く。そこに理由はいらねェさ……」

 

「流石。まぁ私の場合、アンタの言う通り、時空の果てにまで会いに行くことになりましたがね」

 

「ほお? なんか壮大そーな話になりそうじゃねーか。大将! もう一杯!」

 

 追加の酒が出てきたところで、語り始める。

 これまでのことを。或いは、これから起きることを。

 

「──私、一千年前に会いたい奴がいたんすよ」

 

 

 *

 

 

(十二師団とやり合う前に……確実にやっておかなくちゃいけない事が一つある)

 

 今後の方針について会議する面子を眺めながら、羅刹は考える。

 彼方の知識・思考は既に、脳のデータベースに記憶された。もう「彼方」としての人格を表出させることはできないが、転生者・絶条ソラの展望が今ならはっきり分かる。

 

(タイムマシン……()()()()()()()

 

 未だ、からくり堂の地下で眠る培養液の中の彼女。

 向こうの役割を理解した今、こちらもやることは決まった。

 

 「彼方」が知る知識において、時間泥棒が作成されるのは5年後の世界。

 だがそれは、一度世界が滅ぶ前提の上にある。そのような状況と、平賀源外と、坂田銀時の犠牲があってようやく作られる代物だ。

 

 けれども、別にそこまで待つ必要はない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ──この世界、時間にまつわる与太回すらも事欠かないのだから。

 

 

 

「三千世界時計」

 

 屋台に座る女は語る。

 とある用心棒と同じ顔つき、しかし数歳ほど成長した姿形の彼女は。

 

「そいつと、時の番人さんらに手伝ってもらって、片道切符のタイムマシンの作成に成功した」

 

 遥か遠い昔を想いながら、これからの未来に思いを馳せる。

 

「──それで()()()()()()()()()()()。世界に拒絶され続ける、たった一人の同胞を救いにね」

 

 1000年かけて一人を救う。

 ただそれだけのために歩み始めた旅だった、と。

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