銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

57 / 80
大炎上の映画面白かった!


道場訓練 ラスボス級

 現代で羅刹は立ち会っていた。

 新八の兄貴分、尾美(おび)(はじめ)の帰還を。

 

(はじめ)(にい)ィィ!! 生きてたんだね!」

 

「お~きくなったな新坊! 力も強うなった!! ワハハハハ!!」

 

 ──繰り広げられていたのは、そんな兄弟の感動の再会シーン。

 場所は新八の家。尾美の後ろで、羅刹と松陽はそれを見ていた。

 

「……え~っと、お宅らはどういう……?」

 

 松陽顔の実がいるからか、縁側に座っていた銀時の表情は微妙なもの。

 さっさとそこにいる用心棒に、先日の事の真相を聞き出したいのだが、実の前ではそれもためらわれる。

 

「そこにおる方はわしの命の恩人じゃ! (みのる)師匠(せんせい)といってのう!! ターミナルの転移事故でワープした時、たまたま近くにいったこの方がわしを庇ってくださってな……そこから辺境の惑星で二人旅が始まっての! 先生の剣の腕に、わしは心底惚れてしまって弟子にしてもらったんじゃ!!」

 

 省かれた尾美一と松陽の出会いの詳細はこうだ。

 松陽は当時、高杉の手引きもあって宇宙に身を隠そうとしていた。そこでターミナルの転移装置の爆発事故が発生し、近くにいた当時の尾美一を庇い、彼の代わりに半身をブッ飛ばされたという。

 

 が、そこはそれ、変異体。普通に死から再生し、それを目の当たりにしながら怯えもせず、むしろ感激した尾美一は松陽にスッカリ惚れこみ、剣の腕もあって師匠と仰ぎ始めたのだ。

 

 でもってあちこち星を移動している内に、あの星芒教があった惑星に辿り着き、蔓延っていたエイリアンを討伐したりしてたら教祖に収まり、通信手段をゲットしたところで高杉に連絡、教祖やりつつ、絶条ソラと出くわすまで尾美一に稽古する日々を送っていたという。

 

「……そうだったんだ……実さん、ありがとうございます。貴方のお陰で……」

 

「いえいえ、偶々居合わせただけですから。こうしてご兄弟、再会が叶って良かった」

 

「そうじゃ先生! 折角じゃし、新坊にも稽古つけてくれんかのぅ! 先生の剣術はまさに天下無双!! きっと侍として良い経験になる!!」

 

「ッ! お願いします! ぜひ!!」

 

「構いませんよ。私でよければ」

 

 ──と、そんな流れで、一行は道場に移動していた。

 道着に着替えた松陽が竹刀を構え、それに新八も竹刀を構えて向かい合う。

 立会人は尾美一。羅刹、銀時、神楽、お妙は観戦だった。

 

「……おい」

 

 と、羅刹の横で足を崩して座る銀時が口を開いた。

 

「いいのかアレ。一応お前の護衛対象なんじゃねぇの?」

 

「実の奴は指導欲がやたらと強い。偶にはこうして好きにさせるのも必要だろう」

 

「……アッソオ」

 

「それではー! いざ尋常に……勝負ッ!!」

 

 尾美一が合図をした瞬間、新八が雄叫びをあげて飛び出した。

 仮にも万事屋を担ってきた一人。悪くない踏み込みと振り下ろしが実……というか松陽を襲い、

 

「ぐぼぁ!?」

 

 一歩も動かず、一撃でぶっ飛ばされた。

 新八の眼鏡(本体)が飛び、神楽が素早くキャッチする。

 

「大丈夫かぱっつぁぁあん!!」

 

「そっちじゃねェェ! っ、でも……こ、この人……強い……!!」

 

「ワハハハハ! 勝負は始まったばかり! さぁもう一本じゃ、新坊ぉ!!」

 

「いくらでもお相手致しますよ」

 

 にこにこと笑みを崩さぬ松陽。そこに再び、新八が向かっていく。

 竹刀がぶつかり、新八が飛び、竹刀が交わされ、新八が外までぶっ飛び……を何度か繰り返した後。

 

「……はぁ、はぁ、はあ、はぁ……ッ!!」

 

「おや? もう終わりですか?」

 

「い、いや……まだまだ……ッ」

 

 ──その光景に、銀時はデジャヴを感じていた。

 かつて、己が師と打ち合っていた時と同じ。師というあまりに高い壁。立ち向かう新八の姿に、昔の自分の姿が重なる。

 

(……別人とは思えねぇ……)

 

 太刀筋にも、覚えがあった。

 アレは──紛れもなく、吉田松陽と同じものだと。

 

「……おい、ぱっつぁん。選手交代だ」

 

「えっ? 銀さん?」

 

「おお!? 坂田さんも先生の剣に当てられたか! 結構結構!!」

 

「銀ちゃん頑張れぇ──!」

 

「あの銀さんがやる気になるなんて……」

 

 お妙から竹刀を受け取り、今度は銀時が松陽の前に立つ。

 ──ここからだな、と羅刹は思う。

 

(いわば、坂田銀時修行編追加DLC……)

 

 ネーミングは松陽によるものである。

 この状況こそ、尾美一を連れてきた真の狙い。──坂田銀時、強化訓練だ。

 

『せっかく道場がある家で顔合わせをするなら、銀時がどれくらい強くなったのか見ておきましょうか。虚に対抗できるくらいの実力は、どの道、必要になるでしょうし』

 

 ……という軽いノリで計画されたこの企画。

 松陽(本人)による、坂田銀時レベルアップ作戦の始まりだ。

 

 

 *

 

 

 羅刹はただ、見ていた。

 正座したまま微動だにせず。目の前で繰り広げられる試合の数々を。

 

「ちぇあらあぁぁああ!!」

 

 初めは経験則からぎりぎりで渡り合っていた銀時の試合。

 それは長引けば長引くほど、スタミナ勝負となり、勝つまで己が実力を底まで曝け出すことになった。

 小細工一切無しの実力勝負。松陽の太刀筋とスピードに徐々に適応していった才覚は、やはり主人公に相応しいスペックだ。()()()()彼からの攻撃を掠る程度に抑え、一撃さえ当てることを許さない松陽の実力も、まさにラスボスの風格であったが。

 

「ぎ、銀さんが……押されてる……?」

 

 胴に良いのを貰い、銀時の姿が吹っ飛ぶ。

 それでもまだ、立ち上がる。

 

(……松陽(アイツ)……さては宇宙でも腕を磨いたな?)

 

 羅刹の考察は正しい。

 原作の虚戦よりも、今の松陽の方が強い。経穴突きとかいう暗殺殺法こそ今は封じているものの、それがなくとも、もう十数回は銀時は死んでいる。

 

「ごぇッ!!」

 

 再び銀時が飛ばされる。羅刹の方に来たので首を傾けてかわした。ズドンと後ろの壁に突き刺さったようだ。

 

「銀さん!」

 

「銀ちゃん!」

 

 坂田銀時、敗着。

 やはり剣の腕だけでは渡り合うのがせいぜいか。集団戦ともなれば、戦いの推移もまた大きく違うのだろうが。

 

「一本! いや~、惜しかったのぅ坂田さん!!」

 

「どのへんがですかオビワン塾頭」

 

「そのへん!!」

 

「いやいや、あのへんですよ」

 

 結局どこのへんだ、という新八のツッコミが入ったところで。

 ──道場に踏み入る新たな気配があった。

 

「失礼……僕とも一手ご指南願えないだろうか」

 

「九ちゃん!?」

 

 柳生九兵衛。代々将軍家の剣術指南を担ってきた名家、柳生家の次期当主。

 左目に眼帯をつけた洋装の女武士だ。お妙の友人でもある。

 

「その剣捌き……ただ者ではないと見受ける。どうか」

 

「もちろん。歓迎しますよ」

 

 かくして、そこからはその繰り返しが続いた。

 九兵衛にさえも「参りました」と言わせた後、続いて出てきたのは、近藤(ゴリラ)。お妙のストーカーにして真選組局長である。

 

「銀さんに続いて九兵衛さんまで……! 次は近藤さん!?」

 

「見ていてくださいお妙さん! 俺の勇姿をぉ──!!」

 

 で、彼さえも敗れたとあらば、出てくる人物たちは必然。

 

「ウチの大将が世話んなったようだな」

 

「剣術指南役だか知りやせんけど、近藤さんの仇討たせてもらいまさァ」

 

「土方さん! 沖田さん!」

 

「死んでない! 死んでないよ俺!!」

 

 土方十四郎と沖田総悟。

 ぞろぞろと出てくる江戸の強者(つわもの)たち。

 彼らまでもが松陽の剣技の前に沈むと、

 

「まったく情けない様を晒しているな真選組! それでも俺と日夜争ってきた武士(もののふ)か!?」

 

「ヅラ!?」

 

「桂てめぇ!?」

 

「待て。今日の俺は攘夷志士としてではなく……一人の侍として来た」

 

 本来、敵対関係にある警察組織と攘夷志士。

 だが道場内においては、皆が一人の侍だと桂は説く。……捕まらないようにする建前だろうが。

 

「連戦続きで申し訳ないが、一戦願おう。実殿」

 

「お気になさらず。私の剣技が皆さんのお役に立てるのなら、これに勝る喜びはありません」

 

 その試合は良い勝負だった。

 仮にも攘夷戦争を生き残り、また、坂田銀時同じ松下村塾の出身にして、吉田松陽の太刀筋を知る一人。

 荒々しい太刀筋と機転のある体術が特徴的な銀時の戦いぶりとは異なり、桂の太刀筋は真っすぐな基礎を固めた剣術だ。もしやすると、銀時よりも優勢かに思えた一戦だったが、最後は竹刀を弾かれた末、首に刀身を突きつけられた。

 

「一本、ですね」

 

「……まったく。相変わらずお強い……」

 

 松陽の手を借りて桂が立ち上がったところで、あーあ、と沖田が声をあげた。

 

「結局、敵も味方も全員仲良く負け犬ですか。江戸の平和も明日までですかねィ」

 

「まだアル!! 私が情けないお前らに代わって仇を取ったるネ!」

 

「リーダー……!」

 

 最後の希望、神楽が立ち上がった。

 一応、夜兎の彼女も竹刀を構えて始まった試合だったが──早々に飛び道具にして消費した。

 

「ほァたァァァ!!」

 

 が、夜兎の戦闘能力、それに伴う神楽自身の体捌きあっても、松陽の体勢は崩れない。

 竹刀一本で易々と強い打撃を受け流し、弾き、逆に神楽を蹴り飛ばして、一撃入れて気絶させた。

 

「神楽ちゃーん!!」

 

「ワハハハハ!! これにて一本! 先生の全勝! ──では最後はわしの番じゃな!!」

 

 かくして始まるラストバトル。

 そこで尾美一が抜いたのは竹刀ではなく──ビームサーベルだった。

 

「えっ、ちょっ……一兄、竹刀は……竹刀はァァァ!?」

 

「これぞわしが宇宙で習得した天堂無心ビームサーベ流! 師範、今日こそは一本取らせていただく──!!」

 

「伝統はァァァ!?」

 

 いや竹刀でビームは流石に無理じゃねーの、いやそういう問題じゃなくね? みたいな会話が銀時と土方の間で交わされる中、容赦ない打撃音が道場に響き渡る。

 

 結局松陽による一人勝ちだった。

 

 

 *

 

 

 全員でかかればワンチャンあるんじゃね?

 

 ──そうやって意志を一つにした敗者たちは、松陽一人にレイド戦を開始した。

 流石の数の物量には手も足も出まい……! という欠片程度の希望は、やはり丁寧に打ち砕かれた。掛かってくる一人一人を丁寧に処理し、立ち上がってくるものをモグラ叩きのように沈めていく。

 

 ゴトン、と最後に銀時が頭から床に倒れた。

 

「ふう、流石に疲れましたね」

 

「嘘つけ……」

 

「全然息乱れてないけど……」

 

「強ェ……問答無用で強ェ……理不尽的に強ェ……」

 

「くく……懐かしいな、この感じ……分かるだろう、銀時……」

 

「……」

 

「なんなんすかこの人……一兄、どんな師範連れてきちゃったんですか……もう僕らの恒道館(どうじょう)、この人に指南してもらった方がいいぐらいな気がするんスけど……強すぎるんですけど……一兄? ……あ、気絶してる……」

 

 死屍累々。

 対虚戦への共闘シミュレーションとしては悪くない景色だった。実戦だったならばここにいる全員、死んでいたが。

 

「まだあと一人、高みの見物決めてる奴が残ってますよねェ」

 

 そんな声をあげたのは沖田だった。

 視線が向くのは、ずっと隅で静観していた羅刹だ。

 

「逃げねーで下さいよ用心棒さん。アンタも仲良く負け犬(こっち)側に来ましょうや」

 

 竹刀が放られてくると、彼女はそれをキャッチする。

 あぁ、最後の犠牲者か……あいつの負けを見届けて溜飲を下げようぜ……などと観戦席に歩いていく侍たち。完全に最後の見世物扱いだった。

 

 羅刹が立ち上がる。

 

 立会人に、お妙がやってきた。

 

「それでは本日、最終戦! いざ……尋常に!!」

 

「「決闘(デュエル)」」

 

「いやデュエルじゃねーけど!!」

 

 両者、見合って放たれた同時のボケに、新八に代わって銀時がツッコミの声をあげる。

 竹刀を構え、相対する松陽と羅刹。

 ──静寂。

 水を打ったような緊張感。風の音もない無の時間。

 互いに動かず、佇んだまま、十数秒が経過する。

 

 刀を使う侍たちなら分かる。

 この勝負、一瞬でケリがつくと。

 そう思うほどの緊張感。汗ばんだ肌から水分が(したた)る、その刹那。

 

 

 二者の影が消えた。

 

 

 直後、道場内に斬撃の旋風が襲い掛かる。

 壁に斬撃痕が走り、掛け軸が飛んで切り刻まれる。

 床が砕ける。天井に亀裂が入る。窓が破砕する。鳴りやまらぬ無限の剣戟音が、ようやく追いついて観戦者たちの耳に届き始める。

 

「──、──」

 

 声もない。声も出ない。

 何が起きている。何かが起きている。二人の太刀筋が、追い切れない。残像が見える。どこにいる。速すぎる。──見えた。

 

「がはッ」

 

 それは最後の一瞬だった。

 松陽の背後、羅刹が()()()()()()()()()()()()()()彼の竹刀を弾き飛ばし、トドメにその後ろ首を叩いていた。

 

 ──先日、虚と戦った際の応用だった。こっちの方が死角に入れるな、という彼女なりの改善の結果だ。今回両者の勝敗を分けたのは、彼女が先に、松陽と同じ太刀筋を繰る虚と戦っていたのが大きいだろう。

 

 そうして短く呻いた松陽がその場に倒れ込む。遅れて上から彼の竹刀が落ちてきた。

 その後ろに着地した彼女が自分の竹刀を担ぎ、言う。

 

「講義終了」

 

 ポイ、と竹刀を投げ捨てて道場を後にしていく。

 見ていた者らは、しばらく、動けなかった。

 

『ちょッ……ちょっと待ってェ師匠(せんせ)ェェェ──ッ!!』

 

 ドタドタと騒がしい男衆の足音が響き始める。

 江戸の剣術ヒエラルキーが決定した日だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。