今日も何かイベントはないかと町を歩き、そして耳にしたのは3日後に開催される祭りの話だった。
まさかと思い、橋へ行ってみると案の定、遠目だが派手な着物を着ている男と坊さんの格好をしたテロリストの姿を見つけた。
絶対に関わっちゃいけない雰囲気である。
坊さんの方はともかく派手な着物を着ている方は特に。
鬼兵隊総督・高杉晋助。
攘夷志士の中で最も過激で最も危険な男と称され、坂田銀時のライバル的立ち位置の人物。
……本格的に活躍するのは紅桜篇からだ。今はまだ会う時期じゃないだろう。
そっと何事もなかったかのようにその場を離れると遠くから寺門通の曲……を、歌っている新八らしき声が聞こえてきた。音は外れているクセになんだか楽しそうである。
「祭り、ね……」
着物どころか浴衣さえ持っておらず、そもそも着方も知らん私だが、祭りの参加条件に着物の着用はない。前世ぶりに子供に混じって遊んでみようか。
翌日、祭り開催までの時間つぶしにおやつ感覚であんぱんを胃に入れる。
ちなみに飲み物はコーヒー牛乳をチョイス。別に張り込みをするわけでもないのでここら辺は気分だ。
ヂューヂューとストローで飲み歩いて、数十分前に訪れた橋……正確には土手へ行く。
そこには案の定、カラクリを修理している万事屋と江戸1番のカラクリ技師・平賀源外の姿。本当になんでもやるんだな万事屋……
が、なぜか神楽ちゃんはからくりに向かって昼ドラじみた台詞を言い、ドロドロなままごとをやっていた。一体どこで覚えてきたのやら。
「あ、ソラ!」
こちらに気付いた神楽ちゃんが声を上げる。
おい途中でやめるなよ。さち子とカラクリはどうなったんだ。
「いいところに来た。俺ちょっと厠行くからそれまで代わっといてくんねーか?」
銀さん、アンタ逃げ出す気満々でしょう。
アニメとか原作にそういうシーンなかったし……いや今は
だがしかし。
「代わんねーよ。つか何してんのお宅ら」
無論、カラクリをいじるなど私にできるハズもない。映らなくなったテレビ叩くくらいの知識しかないよ。
「えーと……明後日のお祭りで披露するカラクリ芸の手伝い、というか修理をですね……」
マトモに答えてくれたのは新八。
明後日ねー……それまでどう時間を潰そうか。
「おいテメーら。無駄口叩く暇があんなら仕事しろ仕事。まだ三分の一しか組み立て終わってねーんだぞ!」
騒ぎ立てるはカラクリ技師の平賀源外さん。
いずれ魂が入れ替わる装置やらタイムマシンなどを開発してしまう大物だ。
「そこの嬢ちゃんも手伝うなら手伝うで協力してくれよ。やる気がねーならどっか行きな」
「ちょ、平賀サン!」
「あーうん。もう行くわ私。頑張れよー」
そう声をかけるとエッ!? という源外さんの声。どうやら万事屋の手伝いだと思っていたらしい。残念だったな。
「ええぇ!? ホントに通りかかっただけなんですか!! わー、ちょ、待ってくださいよソラさーん!!」
聞く耳もたず。
別に私がいなくてもなんやかんやで間に合うんだから大丈夫だろう、と思いながら今日も町を徘徊する。
…………さらに翌日、白いペンギンみたいな謎の生物が町を徘徊していた。なにあれ怖い。
「おぉ! ブルジョワ殿ではないか! その節はすまなかったな。んまい棒は美味かったか?」
尋ねて来たのはテロリストこと桂小太郎。
坊さんの格好で変装しているというのに丸分かり。原因はもちろんその傍らに佇んでいるもののせいだろう。
「……シケってたけどちゃんと食べたよ。ところであのー……そちらさんは?」
訊くまでもない事だが、折角なので触れておく。
実際見ると物凄いインパクトだな。
「最近飼い始めたエリザベスだ。かわいいだろう?」
お、おう……と引き気味に返答する。
かわいいのか、アレ。かわいいの分類に入れて問題ないのか、アレ。
『よろしく』
そう書いてあるプラカードを見せるエリザベス。あ、ハイ。
「か~~つらァァァ!!!」
声が聞こえた方を見てみると真選組。既にサディスティック星から来たドS王子がこちらに向かってバズーカを構えている。
「いかん、逃げるぞエリザベス!」
「逃がすかああアアッ!!」
発射。ちょ、私もいるんですけど!!
反射で腰にある木刀を抜き、飛んできたバズーカの弾を斬る。
真っ二つになった弾はそのまま後ろへと飛んでいき、背後で爆音。幸いにも民家はない。
あっぶねー!! あっぶねえええ!!
「すいやせん、絶条さん。俺はそこの瞳孔開いたクソ上司の命令で仕方なく……」
「何言ってんの!? さっきのは完全にお前の判断だったろうが! なぁオイ!!」
白々しく自分に責任を押し付けてくる沖田に怒鳴り散らす鬼の副長。続けざまに、部下へ桂の追跡を命令している。
「そっかそっか、怖いマヨラー上司なんて大変だねぇ。今度何か奢ってやろうか? そのクソ上司の金で」
「是非」
「無視か!? っつーか俺の金かよ!! テメェらになんか絶対に奢らねぇからな!?」
副長のツッコミが冴え渡る。
奢るならせめて土方スペシャル以外のものでお願いしたい。
*
祭り当日になった。
りんご飴から始まり、たこ焼き、いか焼き、金魚すくい、ヨーヨー釣り、チョコバナナ、容器に入った焼きそば、狐の面を買い、わた飴を食べ終え残った棒をくわえていたところで――
「お! そこのお姉さん射的やっていかない? サービスするよ!」
グラサンをかけたマダオを発見した。折角だしやっていくか。
そして銃口を構えた先は扇子。
思えば江戸に合ったものを何も持っていない。あるとするなら先ほど買った面くらいだ。
引き金を引く。見事命中。
だが――少し揺れただけで倒れない。
「あちゃ~おしいねお姉さん! どれもう1回……」
瞬時にハンドルを引きコルク弾を装填し、もう一度撃つ――揺れる。
もう一度――揺れが大きくなる。
ラス1――行った。
「……お、おぉ……お姉さん、すごいねぇ」
「はよ寄越せやマダオ」
マダオ!? と効果音の「ガーン」が聞こえるような声を上げる長谷川さん。
すると、
「あ、おじちゃんだ」
焼きとうもろこしを食べている神楽ちゃんがやってきた。その後ろにはりんご飴を持った新八がいる。
「げっ!! 激辛チャイナ娘!」
「長谷川さんじゃないですか――って、ソラさん!? 滅茶苦茶満喫してる!?」
「おー、メガネ助手。祭りってのァ、何歳になっても楽しいモンなんだよ」
とは言ったものの。
現在の私の装備を改めてみると大人にしてはどうかと思われるような格好だ。
まず頭には狐の面をかけ、わた飴を巻きつけていた棒をくわえ、左手には焼きそばを抱えて、その手首から水風船をぶら下げ、右手には先ほど取った扇子――……
はしゃぎ過ぎた。
金があるとどうも無駄使いをしてしまう傾向にあるらしい。気をつけねば。
「当てればなんでもくれるアルか?」
キュッ、とコルク弾を詰める神楽ちゃん。
もちろん長谷川さんの答えはYESである。
そして激辛チャイナ娘こと神楽ちゃんが狙ったのは。
「よこせよグラサン」
パンッ、という音ともにグラサンが地面に落ちる。
突然のことにうろたえる長谷川さんことマダオ。次の瞬間には腕時計が砕け散った。
「腕時計ゲーッツ」
真選組一番隊隊長の沖田総悟である。サボりか、サボりだろ絶対。
待てという長谷川さんの主張もむなしく、その身は的と化された。二人共容赦ないな。
やがて花火が打ち上がり始める。
そして程なくして向こうの広場から聞こえる爆発音。
「テロだ! 攘夷派のテロだァァ!!」
場は騒然となり、客たちも次々と避難していく。
煙幕か。しかし祭りはこれで中止になってしまった。
ふと神楽ちゃんや沖田へ視線を向けると、なんだか赤色や青色のオーラが見えた。子供を本気で怒らせると怖いのだ。
広場にはカラクリの軍団が群がっている。
それに対抗しているのは武装警察・真選組の面々。
先に妖怪・祭り囃子こと、神楽ちゃんと沖田が突っ込み、一部のカラクリ達を破壊していく。
「祭りを邪魔する悪い子は……」
「だ~れ~だ~」
ゴゴゴゴゴ、と尋常ではないオーラを発する2人。
――かくいう私も、試し切りついでにカラクリを一掃していく。
「なんで木刀でそこまで斬れんだテメェはッ!?」
土方さんの声が飛んでくる。
金属製であるハズのからくりを木製の刀で粉々にするのはいくらなんでも有り得ない光景だったからだろう。だが受け入れて欲しい、なぜならこの世界、この刀のパチモンで何でも砕く馬鹿侍が主役やってるのだから。
「ただの木刀じゃねぇ、妖刀だバカヤロー!!」
言って、祭り囃子たちと共に次々とカラクリを破壊する。
その様子を見て祭りの神が光臨なされたぞォ!! と声を張り上げる近藤さん。
このとき、真選組とカラクリ軍団の形勢は逆転した。
*
いつ使っても、何度使ってもこの妖刀はすごい。
カラクリ軍団が面白いぐらいに斬れていく。
内蔵された部品達を粉砕する様はまさに星を砕くが如く。まぁバズーカの弾も斬れるのならカラクリだってそりゃあ斬れるだろうが。
けど少しでも力加減がおかしくなると、いつの前にか地面にクレーターができていることがあるんだよな。
いつかこの刀の強度や切れ味について真剣に検証してみたいところだが、結局今日まで試せたことは一度もない。
真・妖刀なので銀さんのようにあまり手荒く扱えないのである。ていうか私が扱いたくない。
「大分片付いた、か……」
とは言ったものの。
現場は死屍累々の有り様。
私が参戦した影響もあるだろうが、神楽ちゃんや沖田の戦いっぷりがすごかった。遊びを邪魔された子供の本気はホントに恐ろしい。
突然カラクリ達が動きを止めたところから察するに、舞台での決着もついたのだろう。
敵討ち――今時、流行るもんじゃないけれど、私は全部を全部否定し切れない。
もしかしたら、私もいつか「そういう風」になる可能性もあるからだ。
その時はおそらく、私にとってとてつもなく不本意な形だと思われるが。
とは言っても。
結局のところ、はっきり過去の記憶を思い出すまでは、一介の用心棒としているまでである。