“
たま~に遠くから見ている限り、周囲の人々とは上手くやっているようだ。フィジカルを頼られて力仕事をしている場面も多い。あと顔が良いので女にもモテる。
クク……いいだろ……そいつ、私の弟子なんだぜ……
異種恋愛は不死生物としての指針を見つけるためにもチャレンジしてみてもいいんじゃないか? と個人的には思ったのだが、どうやら空くんはそういう方面に興味はないらしい。というか、たぶんアレ知らねぇ。ヤベェ。教育し忘れてたわ。
百年単位年齢の初心で無垢なモンスターが誕生してるゥゥ~~!
狂う。狂っちまうよ周囲の人間は。初恋奪ってその人の思い出に焼き付ける「変わらないあの人」ポジションの筆頭になっちまうよアイツ。桜に攫われそうなビジュアルしてるしな。アルタナパワーで体格いいけど。
「よきかなよきかな……」
そんなことを呟きつつ、満足したので山に帰るとする。基本的にあっちから訪ねでもして来ない限り、不干渉を貫くと決めている。私がキッカケで周囲に不死バレすんのも嫌だからね。
──そう思って5年後に再び顔を見に行ったら、町に空の姿はなかった。
アレアレアレ? 住処にしていた住居にも影も形もない。聞き込みをしてみれば、あいつの通っていた塾がある夜、焼き討ちに遭い、誰も生き残っていなかったという。
……コレ奈落フラグ踏んだな。
あいつ……どう足掻いてもラスボスになるしかねぇのか……?
となると居所は天照院奈落だ。暗殺組織の首領になって、殺戮の日々を500年以上は送り続けることになる。=虚の誕生だ。結局かい。
どうにか引きはがしたい……が、これは私にとってかなりリスキーな問題がある。
羅刹──私という人格を作り出した彼女の存在だ。
彼女が羅刹たり得るには、虚によって故郷を滅ぼされなくてはならない。でないと私が生まれない=タイムスリップの事実がなくなる=これまでの苦労が水泡に帰す!
コレがあったから彼にも「約束守れなかったらおあいこ」だと言ったのだ。奈落に入らなかった場合、私という存在は消える。そんなことを知ったら、否が応でも奈落に入ろうとするだろう。それはいけない。
“空”側のメンタル面も考慮しなくてはならない。人間を知りたいと言って師の元を離れたのに、人間を殺し続ける仕事をしているなどと私に知られたらどう思うだろう? 間違いなくマズイことになる。絶対知られたくないだろ。今の彼に関わること自体、未来を狂わせる火種となりかねない。
結論────何もできない。
できるのは、弟子が殺戮の日々を耐え抜くことを信じて祈るだけだ。天人が襲来し、松下村塾が出来るまで放置プレイするしかない。
タイムスリップって難しいな。
そう簡単な話じゃないとは思っていたが、想定外の耐久戦だ。
「……とりあえず、土産話でも作りに行くか」
旅に出よう。
あいつとまた会った時、楽しい話の一つや二つ、聞かせてやれるくらいの師匠になっていないとな。
◆
江戸時代!
天人襲来!
攘夷戦争!
ヒャッハー!
さて、ざっと900年くらい見所が無かったのでスキップさせていただいたが、現在、絶賛戦中でございます。眼下で侍たちと天人たちが戦っておるわ。記念すべき第一次攘夷戦争である。お登勢さんの旦那さんや次郎長も参戦してるに違いない。
干渉する気は特にない(人の心)。
私がやりたいのは全員救済ルートではない。虚ラスボス失脚ルートだ。二兎を追う者は一兎をも得ず。長い時間を使う企画だからこそ、方針は一つに絞らなくてはならない。余計な伏線や布石を蒔いて回収できるほど器用じゃないしな。
「おい、そこの地球人! 一人か? 金目のモン全部置いて──」
「──あぁん? うるせぇな」
なんか犬面の宇宙人が話しかけてきたので殴り飛ばした。
ぎょっとその仲間たちが怯むが、即座に剣を構えて襲い掛かってくる。山賊かよ。
この900年、私も別にダラダラ生きてきたわけじゃない。
特に戦国時代は面白かった。死んだり殺したり殺されたりした。遠くからオダノブも見た。割とフツーの人間だった。逆に怖かった。歴史観光900年、それを成し遂げるだけの戦闘能力は身についていた。
分離の影響か、“羅刹”としての記憶が残っていたのもある。
だが記憶があるからといって、即座に彼女のような戦闘能力を持てるワケでもない。体の使い方は自分で覚える必要があった。彼女の記憶を活かし、使いこなすのに、50年はかかった。
そこからは自己鍛錬の域に入る。
徒手戦術、水面歩行、剣術、団体戦、掃討戦、撤退戦……ここ数百年の人間なんて暇さえあれば戦祭りだったので大変勉強になった。人間の域の武術は大体やったので、今度は変異体としての戦術を究め始めた。暇なので。結果、
「さいなら」
パチン、と指を鳴らす。
鳴らすことで刺激を与えるのは
「ぐはぁぁぁぁァァ!?」
「なんだこの女……なんだッ!? ばッ、化物……化物だぁ!!」
「ふはははは」
そうです。
化物、ちょっと究めてみました。
……これは出禁レベルですな……
◆
変異体ってなんか型月のアリストテレスっぽくね?
──そんな下らない思いつきから鍛錬してきた人外殺法。いやコレ、銀魂世界じゃオーバーパワーですわ。要らなかったわ。刀剣持って侍が暴れるのが主流なのに、一人だけSF方面に特化してしまった。マイナージャンル開拓と言えば聞こえはいいが、現状、需要が無いのと同義である。
かなしい。
まァこんな空気中のアルタナに干渉して~みたいな技は地球限定だ。宇宙じゃあ絶対使えない。私の身が地球産だからこそ出来た無法。ハイ禁止カード禁止カード!
「松下村塾でも探すか……」
果たして開校できたのか、この世界の重要発生源。
そもそも
「…………あったわ」
全国……というか江戸を中心に寺子屋巡りしていたら、あった。
表札にガッツリ「松下村塾」って書いてやがる。
今は真っ昼間だ。道場から子供たちの声が聞こえる。息をするように侵入し、気配を消しつつ、少し開いた扉から中を覗き見る。
『松陽ォォォオ!!』
と、竹刀を構えた銀髪の子供が、師である男──当然ながら見覚えがある──に斬りかかっていた。
別に漫画で読んだようなシーンではない。普通に他の子供たちもいるし、既に桂小太郎や高杉晋助っぽい少年らもいる。……あっ、あの白髪って朧か? 思いっきり松下村塾ルート入ってんじゃん。
……となると、もう私の大元──「羅刹」も発生しているという事になる。
どこにいるかはまるで所在が掴めないが。ま、たぶん元気に
変な干渉しなくてよかった。
後は……そうそう、今の内に松陽に──というかその内にいるだろう“空”に、最低限の原作知識を教えておかないとな。
久々の再会といこう。
◆
「先、生……?」
世界が橙色に染まる時間帯。
信じられないものを見るように目を見開く彼に、思わず頬が綻んだ。
「調子どう?」
「先生……!」
瞬間、松陽が目の前にいた。
え、ちょ、なに速い。回避行動を取る前に抱き締められ、動けなくなる。ちょっ、ちょ、ちょい待てお前。感動の再会シーンっていうか、感激すぎの再会シーンだけど!?
「ああ、もう会えないものかと……! 先生、せんせい、せんせっ……」
「……お、お前、
この軽く幼児退行してる感、松陽を押しのけて大元の人格が飛び出してきやがった。
よしよしと少し高くなった頭を撫でてやると、やっと拘束が緩んだ。あ、ちょっと泣いてら。
が、そこでハッとした表情になって、すぐに解放された。
「っと……すみません。お見苦しいところを……」
おっと感情の切り替えが早い。一瞬で老成した雰囲気になり、目尻の涙を拭う。
「この『私』はお初にお目にかかります。吉田松陽、と名乗らせて頂いています。──
「へえ、立派になったようで。今の
「いえ、私もまだまだ未熟者ですよ。今は、寺子屋を開いて子供たちに手習いを教えているんです。可愛い弟子が何人もいるのですが、その中でもとびきり手のかかる子たちが……ハッ」
話しすぎた、とゴホンと咳払いする松陽。少し顔が赤い。だから昔からなんなんだ、その妙なところで出る恥じらいは。
「ろ、路傍で話すのも何です。中に入ってください」
「そう? 弟子の世話とか大丈夫?」
「それは……あっ! 替えの衣を用意しないと……! あ、上がっててください! すみません!」
やたら忙しない様子で塾へ走っていく松陽クン。
転生者的には見たことのない態度だ。なぁにあれ。
おもしろっ。
「紹介します。私の
松陽と向かい合うように座布団に座る。編み笠も外套もそのまま、胡坐をかいて腰を据える。
松陽の手前──私の正面にはずらっと四人の塾生。
左から桂、銀時、朧、高杉の順だ。うわ~、皆ちっちぇ。中一とかそんくらい?
「桂小太郎です」
「……銀時デース」
「高杉晋助……です」
「朧と申します。この度は遥々ご足労いただきありがとうございます」
なんか一人だけ兄弟子の貫禄のある奴がいるぞ!
師匠顔負けのしっかりした挨拶に、他弟子三人の視線が集中する。マジかコイツ、みたいな顔だ。普段はどんなキャラで通ってんだ朧クン。
「ほー。内弟子が四人もか。……マジで偉くなってんじゃんお前。私が教えることはもう何もないじゃん。老後まで弟子と一緒に仲良く暮らせよ」
「勿体ないお言葉ですよ。先生は、あれから弟子は取っていないんですか?」
「取れるわけねーだろ。お前みたいな物好きじゃないんだこっちは。この前も第二次魔界大戦に巻き込まれて魔王サタンとぬらりひょんをブチのめしたりして忙しかったんだから」
「先生の師匠ヤベェ……」
「第二次魔界大戦って何? 攘夷戦争じゃないの?」
「一体何と戦ってる人なんだよ……」
「お前たち、少しは静かにしろ」
魔界があるならホントに地獄とか天国もあるのかもしれん、この世界。
割と天人以外の脅威もある地球、魔境ですよ?
「アンタも侍なのか?」
「うん?」
それ、と仔銀時が私の右横にある刀剣を指差す。
「刀と脇差、二本あってこそ一人前の武士だって聞いた。アンタみてーな奴が一人前ってやつなのか?」
「こら銀時──」
「これは模造刀だよ。刃はついてない」
プラスチック製である。
太刀も脇差も見せかけのものだ。
「は? じゃあなんでそんなもん……」
「
「……あの松陽先生、この人ホントに先生の師匠なんですか。侍以前の酷いこと言ってますけど」
失礼なことを言う桂くん(仔)だな。
というか私は別に侍じゃねぇ。
「じゃあ、『立派な得物ぶら下げて腕が立つだけの侍』がお前たちのなりたい“侍”なのか?」
『!』
ピクリと四人が反応する。
はっはー、松下村塾の教えの琴線に触れる問いだ。これで大物感を出していこう。
「真剣を持ってりゃ立派な侍なのか? 悪党ブチのめせば一人前の侍か? 違うだろ。
「……クッソ適当な口調の割には……」
「……成程。この師匠ありて、松陽先生か」
「だったらアンタの武士道はなんなんだ」
今度の質問は高杉からだった。
じ、と見定めるような熱い眼差しである。コレ答えでヒエラルキー決まるな。おっかねー子供だよ。
「私は用心棒をやっていてね。護ると決めたものを必ず護り通すと決めている。それくらいかな」
「……ふーん」
チラ、と弟子の後方にいる松陽に視線を向けると、目を伏せて赤くなっていた。
だからなんなんだね、その恥じらいは。
「はい、先生の大師匠様! ──昔の松陽先生ってどんなだったんですか」
「ちょ、小太郎」
「おー、気になる」
「銀時!」
松陽が慌てた声を出しているが、弟子全員総スルーだ。そんなに気になるか? まぁ気になるよなぁ。気になっちゃうよなぁ! 私だって同じ立場だったら同じ質問してるわ!
「面倒くさい奴だったよ~。ああ、悪戯が多かったとか暴走しがちだったって意味じゃなくてな? 理屈っぽいところがあるというか、クソ真面目の権化だったなアレは。お前らに分かるか? 食事時に突然『人生の意味とは』『命の価値と意味とは』『人はどこから生まれどこへ行くのか……』みたいな質問攻めをされる気分を!」
「先生──!!」
「そんな子供だったんだ……へぇ~」
「面倒なガキだ……想像つかねぇ……」
「なんかこういう話を聞くのって新鮮だな……他には! どんなエロ本隠し持ってたとか──」
ゴッ、とそこで小太郎クンが拳骨によって強制脱落した。
銀時と高杉が青ざめる。朧くんの目はそろそろ諦観気味だった。
「……大師匠殿。我らが師の名誉のためにも、そこまでに」
「えー、そう?」
兄弟子からストップが入ったのでやめにする。「ナイスです朧……!」と松陽は軽くガッツポーズを取っている。この松下村塾組、兄弟子が最後の良心の砦と化してないか?
とそこで、不意に銀時少年が立ち上がった。
「……、じゃあさ大師匠殿。俺ら、いっつも道場で稽古してんだ。アンタ、松陽の先生ってことは松陽より強いんだろ? 俺と一発
「──銀時」
その言い方はどうなんですか、を含めたような松陽の呼び声がかかる。
やっぱ男子は剣でハッキリさせたい性でもあるらしい。侍だからね、しょうがないね。
だが──
「ハハッ、私と戦おうだなんて二十年は早いぞ小僧」
ぱちん、と空気にデコピンした。
空気中のアルタナ操作。それを伝って、銀時少年周りのアルタナをビリヤードよろしく弾く。
結果、轟音。ドッッ!! と銀時少年の体が後ろの壁に叩きつけられた。
「…………え、」
銀時少年からすれば、突然衝撃が来て、いつの間にか壁に衝突していた具合だろう。
何が起こったか分からない。
松陽でさえも目を見開いて、呆然としている。
何、加減はしている。怪我一つ、後遺症一つも残らないハズだ。
「……な、な、何……今の……」
ダメージゼロ。ただし未曽有の攻撃に、ずる、と銀時少年は腰が抜けてしまったようだ。
はっはー。びっくりしただろ。
「あえて言うなら……そう、仙術、かな……!」
「アンタ仙人なのかよッ!?」
「なんだ今の技!? 教えてくれ!!」
「企業秘密でーす。どうしてもっていうなら私の弟子になることだな」
「ちょ──! 人の弟子を取らないでください、先生!! 晋助は渡しませんよ!」
がばあっ!! と本気で危機感を覚えたのか、松陽が晋助少年をホールドする。あ、オイちょっと嬉しそうだぞ。良かったネ。
「銀時、大丈夫か?」
「ワケが分からねぇ……何をされたんだ今……な、何を言ってるか分からねーと思うが、俺も何をされたのか分からなかった……」
「怪我は……ないな。……流石は松陽先生の師匠。得体の知れない御仁だ……」
しっかり兄弟子クンから警戒の視線をもらったところで良しとする。
悪いね。人外歴1000年目ともなれば、これくらい出来てしまうんだ。
人間目指してないからね。