銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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春雨統合作戦

 ──銀時が目を覚ました時、そこは知らない天井だった。

 

 家ではない、と寝ぼけ眼で理解しつつ起き上がる。

 服装は白い着物を着たままで、あちこち体が痛い。腕に包帯が巻かれている。二日酔いの感覚はなく、昨日どうやって入眠したのかを思い出し、

 

「……!! 先生ェ!」

 

 眠気も吹き飛び、部屋の玄関にあったブーツを履きつつ──急いで外へと飛び出した。

 

 

 管制室の扉が開く音と気配で、羅刹は坂田銀時がやって来たのを感知した。

 振り返ると、包帯を頭にも腕にも巻いた銀侍が焦った様子で息切れしている。

 

「お目覚めか」

 

「……彼方! オイ、ここは一体──」

 

「今は作戦準備中だ。できる限り体を休めておいた方がいい」

 

「あぁ!? なんの話……ってここ、宇宙船かまさか!?」

 

 窓の外は暗い宇宙が広がっている。

 いくつもの戦艦が見え、気を失っている間に地球を離れた事実に、銀時の顔が引きつった。

 

「ここは宇宙海賊『春雨』第七師団の船の一つ」

 

「……は!?」

 

「これから始まるのは第七師団と鬼兵隊による春雨十二師団の主導権争いだ」

 

「何何何何何?」

 

 なんか情報が怒涛のように流れた。

 聞き捨てならない名前と爆弾情報が聞こえた気がする。

 

「要するにアンタは袋の鼠。お家に帰りたいなら、俺たちとここで生き延びなきゃならんってワケ」

 

「……! お前は……吉原にいた夜兎!」

 

 第七師団副団長、阿伏兎(あぶと)だった。

 彼と因縁が色濃いのは銀時よりも、万事屋の二人の方だろう。

 

「安心しな、団長はこの船にはいねぇ。大がかりな作戦だから今は別動隊として──」

 

『もしもーし、阿伏兎』

 

 神威の通信が入った瞬間、羅刹の妖刀の一撃と阿伏兎の蹴りが銀時に叩き込まれた。

 ゴッシャァァ!! と彼が通信モニターの死角になる位置に吹っ飛ばされる中、ササッと阿伏兎が前に出る。

 

「おう団長。準備オーケーか、こっちはいつでもイケるぜ」

 

『今なんか白い奴いなかった?』

 

「いないいない」

 

『あの侍が起きたら教えてよね。シンスケに先越されちゃったし、この仕事が終わったら()りたいんだから』

 

「はいはい。それで戦況は?」

 

『さっき始まったよ。第五師団と第六師団が争い始めた。不思議だねぇ』

 

 モニターにリアルタイムの戦況がマップとして表示される。

 それは春雨第五師団と第六師団と記された艦隊が、撃ち合いを始めている様子だった。

 

『一体どんな手品を使ったんだい、用心棒さん。あの鬼兵隊の参謀とどんな悪だくみを? 第五師団と第六師団の団長が急死したのと関係あるのかな』

 

 どうもこうもない。

 春雨は海賊というだけあって、構成員同士の繋がりが薄い。欺瞞。疑念。思い込み。ちょっとした火種を投入して然るべき手順で火を点ければ、それは簡単に燃え広がる。

 

「五と六の師団に限らず、お前たちの組織はトップのカリスマに依存している。そこが崩れて、下が次の団長の座を巡って争い始める時、おあつらえ向きの『敵』をリークしたらどうなる」

 

「同士討ちが始まるなァ。ものの見事に」

 

『ひゅー、おっかない。でも連中だってずっと踊らされ続けるほど馬鹿の集まりじゃない。次はどうするつもり?』

 

『団長! 元老院から命を受けた第八師団から緊急要請が! 共に第五、第六師団の争いを鎮めろと!』

 

『……』

 

「ホラ友達が来たぞ、よかったな。遊んでやったらどうだ」

 

『あはははは。そういうこと? 戦場(あそびば)を作るのが得意なんだね。親友になりたいくらいだよ。じゃあまたね』

 

 そこで神威との通信が切れた。

 阿伏兎は恐る恐る、隣の女の(ナリ)をした用心棒を見た。人情というものがまるで感じられない、凪いだ眼をしていた。

 

「……つ、通信繋げ。バレないようにな」

 

 阿伏兎が指示を出すと、第八師団の通信網がノイズ混じりに聞こえ始める。

 

『──緊急、緊急! どういうつもりだ、一体……! 第七師団!! 神威め、我々を裏切るつもりか!?』

 

『元老院に通達!! こちら第八師団、第七師団から攻撃を受けている! 第九、第十師団の実働部隊を至急向かわせっ……──え?』

 

 マップ上に表示される戦況が再び変遷する。

 第九師団、第十師団と共に、()()()()()()()()()()を受けているところだった。

 

『──もしもし。こちら鬼兵隊、武市です。羅刹さん、そちらに第三師団を乗せた船が向かっているので対応お願いします』

 

「心得た」

 

 羅刹は出口に向かって歩き始める。

 出勤の時間だ。

 

 

「……何がどうなってやがる」

 

「……いやはや、恐ろしい手腕だねェ。あの人、どっかで星間戦争とかやってたのか?」

 

 吹っ飛ばされたダメージから回復した銀時の疑問に、阿伏兎は独り言混じりに答えてやる。

 今、この宙域で起きている春雨大戦争の全容を。

 

 

 ◆

 

 

 ──坂田銀時をわざわざ巻き込んだのは、余計なイレギュラーを防ぐためでもあった。

 

 宇宙で行われる此度の対春雨大戦争。ちょっとしたきっかけで、かぶき町からトントン拍子でここまで嗅ぎつけ、横槍を入れられて滅茶苦茶にされてしまうような可能性を摘み取るべく、初めから坂田銀時を戦力として加え、巻き込んでしまえばいいという羅刹の発案だった。

 

「ところで、肝心の最初の第五・第六師団の同士討ちはどのように? 策としては悪くありませんが、両師団の団長をほぼ同時に暗殺できる人員など……」

 

「そこに元八咫烏(グランドアサシン)がいるだろ」

 

「あ、私ですか」

 

 作戦会議中、当然のように指名された松陽に、しかし待ったをかける者らがあった。

 高杉と桂だ。

 

「先生にンな仕事をさせる必要はねェ」

 

「同意見だ。先生は後方基地でUNOでもやっていてください」

 

「その気遣いだけで充分だよ、晋助、小太郎。でも君たちが参戦するというのに、私だけ見ているというのは出来ないよ。元より、この作戦は虚が将来的に確保する戦力を削ぎ落とすために行うものだ。そこで私の力が役に立つというのに、これを傍観するのは無責任というものだろう?」

 

「先生……」

 

「しかし……」

 

「──決まりだ。せいぜい元暗殺首領としての務めを果たせ」

 

「ええ、君もどうかお気をつけて」

 

 かくして吉田松陽の戦力投入が決まり、戦端は開かれた。

 

 

 

 羅刹は一人、小型船に乗り込んだ。

 操縦方法は事前に教わった。自動操縦モードで発進して、宇宙という大海原へ飛び出す。

 自動ナビゲーションの音声が流れる。

 

『前方、第三師団の船を感知。警告。停止命令が出されています』

 

「突っ込め」

 

 突っ込んだ。

 乗っていた小型船が第三師団の船の横っ腹に突き刺さり、爆炎を巻き上げる。

 さっさと飛び出して船内へ侵入すると、しかし船員は──

 

「いない、か」

 

 ──無人。

 通常ならば不意を突かれる船内状況。だが彼女にとっては想定内といえる。

 廊下を歩いて行けば、近づいてくる気配があった。

 

「まさか単騎で乗り込んでくるとは……だがその蛮勇、我が前では無謀と同じよ」

 

 頭部まで全身が機械仕掛けの姿をした敵影だった。

 ザクっぽい見た目をしている。

 

「我が名は機巧導師、范堺(はんかい)。春雨第三師団団長にして三凶星の一人──」

 

 妖刀を抜き、飛び出した。

 だが瞬間、相手の体から一本の機械管が伸びてくる。それ自体は大した攻撃ではない。斬り捨て、本体に致命傷を叩きこめばいい──と、何も知らぬならば思うだろう。

 

 だがそれは悪手だ。一撃でも受けた時、敗着は決定する。

 そういう手合いだった。

 

「──」

 

 機械の触手を断ち切る。更に敵影から二本の触手が飛び出した。確実にかわす。回避に徹する。細かく輪切りに斬り刻み、相手の攻撃範囲を物理的に縮小させる。更に踏み込む。距離を詰める。

 

(速いッ……!)

 

 初めて機巧導師が動揺を見せる。

 まるで狙いを読まれているかのような立ち振る舞い。隙も無ければ油断も無い。剣士はあっという間に彼の懐まで踏み込み、人型の器を五体バラバラに解体した。

 

 だが──

 

寄生(はい)り込んでしまえば此方のもの……!!)

 

 器が壊れゆく中、彼の機械生命体(ほんたい)が触手を伸ばす。

 剣士は背を向けている。敵を倒した時こそが絶好の隙となる。それを范堺は理解していた。

 体は元よりただの入れ物。機巧導師は肉体を持たぬ。その真価は生命にも機械にも尖兵達(ナノマシンウイルス)を感染させ、侵蝕範囲を広げる圧倒的制圧能力──!

 

()()()()()()()()()()()

 

「なッ……!?」

 

 ()()()、と。

 当たり前のように、剣士の眼が此方を向いた。

 

──なぜ知って──!?

 

 機巧導師の体の内から零れた、円球状の機械。

 そこに、慈悲のない一太刀が叩き込まれた。

 

「第三師団制圧完了」

 

 

 范堺とて考えなしで単騎だったわけではないのだろう。

 一撃でも攻撃を与え、ナノマシンウイルスさえ感染させてしまえば手駒にできる。機械だろうと生命だろうと、そうやって直接感染させていけば、敵の部隊をそのまま自分のものにできるのだ。

 

 ただ、相手が悪かった。それに尽きる。

 初見で己が本体を見切られ、瞬殺される可能性など、交通事故に等しい事象である。

 

 羅刹は船の通信室へ行った。この船自体も范堺が制御していたのだろう、一時的に電源が落ちて墜落しかけていた。とっとと復旧させて船内電力を回復させる。通信を繋ぐ。

 

『無駄だ逆徒ども。先ほど、第三師団の船が小型船と接敵した。中に何人いるか知らないが、三凶星が一人、「機巧導師」の前では敵も味方も掌の玩具と化す。今頃あの船では、我々の勢力が増え続けているだろう──』

 

 ──等と、ちょうど通信モニターで勝ち誇っている獅子顔の敵幹部が映っていたので、割り込んだ。

 

「こちら第三師団。敵兵の雑魚(ザク)一名を処断した」

 

『……一名だと? 范堺、それはどういう──貴様はッ!?』

 

「これより本艦は次の制圧目標を定める。死ね第十二師団」

 

『貴様何者だ!! っ、迎え撃て!!』

 

 舵を切った。

 全速で船体を動かし、第十二師団の船へと突貫していく。

 

 

 ◆

 

 

『じゃっ、第八師団の方は大体終わったから、俺たちは次に行くよ』

 

『こちら桂だ。これより第十師団及び攘夷党、第四師団に突撃する』

 

『こちら鬼兵隊、武市です。第九師団の制圧完了。第十一師団に向かいます』

 

 銀時は船内で、続々と送られてくる通信を聞いていた。

 ……要するにだ。

 

「春雨の派閥争いってか……つかヅラァ! なんでてめーが参加してんだ! ホントに宇宙キャプテンになっちゃったのお前!!」

 

『ヅラじゃない桂だ。我が攘夷党は海賊になんぞ迎合したつもりはない。出遅れているのは貴様だ銀時。どこで何をしている』

 

「なんで俺が責められてんの! っつーか紅桜篇の時言ってたじゃん! 俺と一緒に言ってたじゃん! 鬼兵隊にも春雨にも敵対宣言決めてたじゃん、ねぇ!!」

 

『それは違うぞ銀時……この世界において、そんな宣言は観測されていない。いや、描写されていない部分は基本的に原作準拠と考えてもらってもいいんだが、それは逆説、「観測されていない事は不確定事項」ということ。シュレディンガーの猫くらいお前も知っているだろう。アレと同じだ』

 

「知らねぇよそんな猫!! 何!? 描写ないからって俺らとコイツらの敵対関係もワヤワヤ状態にできるってコト!? んなモン通るかァ! 結構デリケートな問題だよ!? 多くの二次創作作家が神経削る部分だよ!?」

 

『仕方ねェだろ』

 

 と、銀時のもっともな指摘を諫めるように、もう一人の声が響いた。──高杉だ。

 

『第一、俺の視点からすりゃァ、銀時(てめー)が勝手に騙されて銀時(てめー)が勝手に落ち込んで銀時(てめー)が勝手に敵対宣言していっただけだ。つまりてめーが度外れた馬鹿だったことが全ての原因』

 

「通るかァァァ! じゃあアレじゃん! 『またしても何も知らない坂田銀時さん(27)』状態だったことになるじゃん!! 返せ俺の十年間を!!」

 

『返すも何も』

 

『俺たちは何も喪っちゃいなかったって話だろ、これは』

 

 相弟子二人が揃えた言葉に息を呑む。

 ──それは──まるで本当に、信じかけていた希望を、()()()()()と信じていいかのような言い草だ。

 

「おい……そいつァ……」

 

『銀時、銀時ー? 聞こえますか? 昨今の最新設備は複雑でどう動かしていいのか分かりませんねぇ……あ、こちら第五、第六師団担当です。制圧、一応終わりましたよー』

 

 どこのお母さんですか?

 戦場にまっっったく似つかわしくない声が聞こえた気がした。というか聞き覚えがあった。あり過ぎた。この天然さ、あの口ぶり、間違いなく──!

 

「ッ──松陽ォォ!! てめェ、そこで何してやがる──!」

 

 万感の思いを込めてそう叫ぶ。

 理屈は分からない。経緯もまだ何も聞いていない。

 だが──だが、聞き間違えるハズがなかった。画面一枚の向こう、すぐそこに、音声だけの画面越しでも、()()()()()と解った。

 

 ──松陽が。

 ──生きていた。

 

「何って、暗殺です」

 

 ………………。

 ……なんて? と感動の涙も引っ込む一言だった。ちょっとこれは聞き間違いであって欲しかった。一瞬、空耳を全力で願った。

 

「……あの先生ェ。アンタいつから暗殺業に転職したんすか。聞いてねェよッ!?

 

『え。朧から何も聞いてません? 私、昔は結構ヤンチャだったんですよ。人格もかなり違ってて……おっと、のんびりしてる場合じゃありませんでした。後で話しましょう銀時。えーっと武市さん、援軍どこに行けばいいですか?』

 

『たった今、神威殿率いる実働部隊が第一師団と交戦開始しました。あと残っているのは……』

 

 その時、銀時の乗っている船が揺れた。──砲撃だ。

 すぐさま阿伏兎が確認を取る。

 

「どっから撃たれた!?」

 

「第二師団の船です! こちらに……向かってきています!!」

 

「よぅーし、迎え撃つ!! サムライ、てめーの嬢ちゃんたちとは因縁があるが、今取り上げるべきモンでもねぇ。鳳仙を倒したその力、見せてもらおうじゃねーの」

 

 それは百歩譲っていいのだが。

 いいのだが──あまりにも、タイミングッッ!!

 

『助けは要りますか? 銀時』

 

「……いらねぇよ。とっとと敵始末して迎えに行ってやっから、そこ動くんじゃねーぞコノヤロー!!」

 

 木刀を抜き、銀時は管制室から外へと走り出す。

 それに続いて、戦の気配に口角を上げた阿伏兎や、彼が率いる夜兎も彼を追いかけていく。

 

 宇宙の果て。海賊どもの宴の中。

 かつて、喪い損ねたものを取り戻すために、吉田松陽の弟子は駆け出した。

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