銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

63 / 80
盃を交わす

 春雨第七師団、航行日記──

 

 この日、鬼兵隊の武市変平太とUNKNOWNの発案により、「春雨十二師団統合作戦」が実行された。

 要するに元老院から離反しかけていた者たちを、春雨の雷槍こと第七師団団長・神威の名の元にまとめ上げてしまおうという一大事業であった。

 

 序盤戦、第五師団団長と第六師団団長のほぼ同時に行われた暗殺を契機に、両師団が対立。また情報源不明のリークから、暗殺の主犯・原因が互いの組織にあるとして、同士討ちが勃発。

 

 これに介入し鎮圧せんと、元老院は第七師団と第八師団を派遣する。だがそこで起きたのは、第七師団団長・神威側による第八師団への攻撃行為だった。

 

「俺、これから宇宙最強の海賊王目指すから。じゃあそういう事で」

 

 更に春雨を襲ったのは、想定外の急襲だった。所属不明の二艦隊が、第九師団と第十師団を襲ったのだ。この所属不明部隊は、後に第七師団と協力関係にあった鬼兵隊と、その鬼兵隊総督のかつての仲間・桂小太郎率いる攘夷党だったと判明する。

 

 この時点で上層部も事の次第を理解する。これは第七師団による、大規模な反逆行為であると。

 

 元老院は、その危険性から長らく幽閉していた「三凶星」の投入を決定。

 中でも第三師団団長たる范堺の寄生・感染能力による戦力逆転を期待したものの、これを第七師団側から放たれた小型船に乗っていたUNKNOWNが制圧。

 

 UNKNOWNはその後、第十二師団の船へと突入し、これを単騎で制圧した。

 時を同じくして攘夷党が第十師団を降伏させ、第四師団に攻勢を仕掛ける。ほぼ同時刻、鬼兵隊もまた第九師団を掃討の後、第十一師団の制圧に向かった。

 

 ここで始めに同士討ちをしていた第五・第六師団が壊滅。

 戦火が広がり、戦力が削られていく中、第一師団団長・獅嶺(しれい)が第七師団団長・神威と交戦を開始。

 三凶星が一人、第四師団団長・猩覚(しょうかく)も攘夷党首領・桂小太郎と交戦開始。

 三凶星が一人、第二師団団長・馬董(ばとう)は、後方にいた第七師団部隊を強襲。

 

 ──だが第一師団団長の首が神威によって討ち取られ、時を同じくして敗北した猩覚(しょうかく)馬董(ばとう)も戦闘意欲を喪失。

 

 残る第十一師団・第十二師団も半数以上の構成員を失ったところで降伏。

 第二・第四師団の団長らは、第七師団に帰属することを決定し、また同日、神威は第一師団団長を兼任することとなった。

 

 かくして春雨の勢力図は、元老院と対立する形で大きく書き換わった。

 元老院の一人は、古い縁を辿り、かの宇宙最強のエイリアンハンター・星海(うみ)坊主を召喚し、これを第七師団にぶつけようと画策したが、

 

『え、ゴメン。今ちょっと忙しい。娘の手紙によ、友達から聞いたっていうフサフサ毛根の源になる星の話があって、今それ検証中だから。今日明日でそっち行ける距離じゃねぇわ』

 

 ──等といった文言で召喚に失敗し、実働部隊の大半を失った元老院は、春雨内での地位を失墜した。

 

 

「後は元老院(ジジ)たちが天導衆と組んで、なんか嫌がらせしてきたりするって感じかなぁ。──ま、ともあれ春雨の一師団団長から、また一歩海賊王に近付いたワケだ」

 

「ほぼ海賊王じゃねぇかなコレ……」

 

「で、阿伏兎。侍は?」

 

「あぁ、なんか帰っちゃったぜ──待て待て待て待て。止めた! 俺は止めましたッ! なぜなら俺が怒られるから!! だが得体の知れねぇ化物二人を加えた連中とやり合うのは、せっかく吸収した戦力がもったいねぇかなって! かなって!!」

 

「減給。三か月」

 

 

 ◆

 

 

 宇宙から住処のマンションに戻ってきた羅刹は、ただ黙って聞いていた。

 

「──というワケで今ここにいる私は、龍穴に落ちた心臓から肉体を再構成した個体になります。生後十年なのでぶっちゃけ銀時たちより年下なんですよね。虚としての記憶も吉田松陽としての記憶もありつつ、後者の人格が色濃く表出した結果で、正直君たちの師を名乗る資格があるのかどうか……ふふ、そんな顔をしないでください。言いたいことは分かります。ええ、君たちが『そう』受け入れてくれるのなら私も『そう』振舞うまでです。……ありがとう」

 

 彼らの再会を。彼らのやり取りを。十年の空白を埋めるべく、他愛のない話や言い争いを繰り広げるその空間を。

 奇跡のような、と当事者たちなら付け加えるかもしれないが、彼女にとっては些事だ。

 

 実にどうでもいい。

 

 感慨がない。感想がない。感傷がない。

 随分とこの世界に肩入れする半身ならば心持ちも異なっただろうが、ここにいるのは一人の羅刹(おに)

 

 今は弟子たちと炬燵に入った松陽の背を背もたれにしてマスターデュエルやっていた。

 

「……で、そこにいるデュエリストが……何? 本当に冗談の余地もなく、マジで歴史のMVPなの? 松下村塾とか一切因縁どころか関わりもない、通りすがりの剣聖が? ……足向けて寝られねーんだけど……」

 

「他でもねェ俺が証言するさ。あの日、お前らがとっ捕まる前に、虚の奴とやり合ってた奴がいた。あん時の童はアンタだろう、羅刹」

 

「増Gは通さない、うららで止めて初動展開……!」

 

「まるで興味ないよ! あの人こっちの大事なターニングポイントにまるで興味絶無だよ!! 過去どころかデュエルの盤面しか見てねーよ!!」

 

 銀時がツッコむ傍ら、ゲーム機を握る影はもう一人いた。

 桂だ。

 

「くっ、我が抜刀を止めるか! だが上級モンスターは生贄なしでは召喚できない! すぐにターンが回って──まわっ──……あの……いつまで展開してるんです? ねェ……ちょっと……」

 

「「てめーが対戦相手かよ!!」」

 

「ターンエンドでどうぞ」

 

「ここからどう(まく)れというのだァ──ッ!?!?」

 

 俺の知ってる遊戯王と違う! と叫ぶ桂。どうやら地獄を見ているらしい。戦慄している馬鹿を横目に、常識人(まとも)を自負する二人が情報整理を進めていく。

 

「で、朧の奴も知ってんのかよ」

 

「俺と一緒に見てたからな。奴が奈落に復帰したのは虚の指示だ。お前、再会したんだろう。どうだった」

 

「……大して変わってなかったよ。ふてぶてしいほどに兄弟子ヅラしてやがった」

 

「ヅラじゃない、桂だ──ふむ。朧兄さんもまた、敵の計略に落とされた一人だったということか」

 

「……お前、そろそろアイツへのその呼び方やめない? 気色悪ィんだけど……」

 

「一番兄さんと呼んでやるべきは銀時ではないのか」

 

 ……要は銀時の分まで、桂は朧を兄呼びしているようだった。昔から一貫している謎の拘りである。

 

「して、松陽先生。海賊春雨の統合戦を終えてなお、我々を一堂に会したのは何か目的があってのことでしょう? 俺も、銀時も、高杉も揃った。互いに大きな回り道をしていたようだが……再びこうして貴方の元に集えた。──その真意、お聞かせください」

 

「おやおや、まるでこれから戦争でも仕掛けそうな言い草だ。我が塾きっての俊才殿は、この十年で随分と立派になったようで」

 

「からかわないで下さい。心配なさらずとも、我々の戦う理由は昔から何も変わっては……あ、ヤバ。カード選択ミスった。ゆ、勇気のターンエンド!!」

 

「自分はそのエンドフェイズにカード効果を発動する──」

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 こいつ、そろそろ窓から投げ捨てるべきじゃないか? と銀時は思ったが、その思考は中断される。松陽がこっちを見てとっくりを持ち上げたからだ。……有難くいただく。

 

「銀時とお酒を飲める時が来るとは、感慨深いですね」

 

「……俺もだよ」

 

 ……こんなやり取りも、叶うはずがないと思っていたことだ。だがそれを覆したのが、今も馬鹿とデュエルをやっているあの剣客だ。

 

 礼を言ってもなお言い足りない。

 命を支払ったとして、釣り合うだけの返礼ができない。──というか江戸城で一度命を救われている。

 

(こりゃ一生あっても足りねーぞ……)

 

 ようやく借金返済したと思えばコレだ。

 あの用心棒はとっくの昔に、自分が出来なかった全てを完遂していた。

 畏敬の念を超えて嫉妬すら湧いてくる。なんなんだお前は。

 

「──オイ彼方。てめーから言うことは何もねぇのか。三度の飯よりデュエルが好きか」

 

「お前たちの今後の展望などどうでもいい」

 

 そこで、がくりと桂がうな垂れた。どうやら負けたらしい。

 勝者は松陽の背の後ろで、まだ何か画面を操作しながら話を続ける。

 

「自分は自分の目的のためだけに動いていただけだ。お前たちの現状はその偶然の産物に過ぎない。恩だの義理だの抱く必要性はどこにもない。再び私塾を開いて平穏に過ごすも良し。仲間と共に倒幕を目指すも良し。いつもの日常を送るも良し。何を求めることも、強制することもない。これ以上、余計な戦いに身を投じなくともいい」

 

「そうはいきません」

 

 松陽がハッキリ言った。

 

「──貴方がまだ、そこで戦っているじゃありませんか。それに此方としても、まだ大事な兄弟子が長らく遅刻しているんです。放っておくわけには参りません」

 

「そうか。それも自由だ」

 

 あっさり言って、彼女は立ち上がった。ゲーム機を充電場所に置く。

 

「自分は自分のするべきことをする。そして天導衆をこの世から消し去る。それだけだ」

 

「……その後は? どうするんですか」

 

「弔いながら生きていく。星が終わるまで。一人で」

 

「それは……寂しいですよ」

 

 松陽に振り返り、彼女は言った。

 凪いだ瞳で。

 

()()()()()()

 

 

 ◆

 

 

 羅刹は家から姿を消した。

 暇を潰しに行くと言って。

 

「……成程なァ」

 

 ややあって、高杉が切り出した。

 

「先生、アレをこっちの懐に入れんのは苦労するぜ。()()()()

 

 剣の腕の話ではない。

 本質の部分でだ。

 

「ですよねぇ……以前の彼女はまだ付け入るスキがあったんですけど。あ、聞いて驚いてください。あんな感じになってから、一度も笑ってないんですよ彼女」

 

「「「マジか」」」

 

 弟子三人の声が見事に揃う。

 あの松陽が近くにいながら無の境地。もはや精神性が常人とは違い過ぎる。

 

「あんまりボケすぎると無言で保険証を渡してくるし、先のように諭そうとしても理解した上で却下されるんですよ……!」

 

「理解した上で却下? 知らねぇだけじゃねぇのか」

 

「いえ、今の彼女はもう人の情というものを理解していますよ。()()()()()()()()()()。『寂しい』という感情が理解・共感できないのではなく、『自分には既に多くの人々の記憶があるから寂しくはない。何を言っている? なんだそれは?』──です」

 

「圧縮言語過ぎるだろォ!」

 

「正しく悟りの境地、というワケか。……まるで高僧だな」

 

 無我の境地。

 剣で、彼女はそれに至った。感情の起伏が少ないのは、常時ソレであり、決して過去の絶望や喪失からそうなっているわけではない。むしろ歩んできたその全てを背負った上で、星と共に終わる覚悟まで決めている。

 

「“人の命は世界よりも重い”」

 

 松陽が、そんな言葉を口にした。

 

「かつて、あの子がそう言ったんです。誰よりも命の重みを理解し、死に様ではなく生き様を記憶に刻み付け、悪しきを処刑する。そうして奪った世界より重い重さを、一人で永劫に背負い続ける。そういう生き方を選択した人です。不死長寿。生きて未来まで連れて行く。この星が終わるまで」

 

 誰かが、生唾を呑みこんだ。

 あまりにも厳しく、あまりに重い。想像を絶する精神性。

 

「私は不死者として、人に憧れましたが……彼女には、人ならざる者としての矜持がある。終わらぬ輪廻を受け入れ、立ち続ける。見返りも求めず護り続ける。それは──」

 

 寂しい生き方だ、と人は思う。

 だが、所詮は人の視点だ。

 義務と矜持を以って、己が約束を背負い続ける生き様の、なんと美しいことか。

 

「──どうしようもなく、惹かれてしまうんですよ」

 

 ……その結びの言葉に、銀時の思考はしばし白くなった。

 

「……え? あれ? 今もしかして、恋バナしてる?」

 

「そりゃそうだろ」

 

「気付くのが遅いぞ銀時」

 

「なんで分かってんだよ!? いや! 俺も解ってたけどね!? 薄々察してたし? つーか同棲してる時点でバレバレだったしむしろ!!」

 

「えっ? ああ、すみません。当世の言葉選びは難しいですね……今のは異性として意識しているという話ではなく──」

 

「「「違うじゃねーか!!」」」

 

「──私の永きこれからの生涯、ただ隣に寄り添いたい相手として想定して……おや?」

 

 全員落第だった。撃沈していた。

 男女の仲とかそういうのを超えた何かだった。師の感情が思っていたよりデカかった。弟子には貫通ダメージ付きだった。あまりにも容易く行われた残酷な仕打ちだった。

 

 とはいえ、

 

「ふむ……なるほど。それはまた難儀しそうな話だ」

 

「ヅラだけノーダメージかよ……」

 

「そういやNTR好きだったこいつ……」

 

 弟子の一人は変態だった。神妙な顔をしながら若干ニヤけていた。気持ち悪かった。

 

「つーかよつーかよ、一個まだ疑問が解けてねーんだけど」

 

 ひらひらと片手を振って銀時が挙手した。

 

「──アイツ、俺のよく知ってる人格と違ぇんだけど。まさか……」

 

「ええ、二重人格というものです。といっても、今の彼女の内には銀時の知る方の……『絶条ソラ』を名乗った方の意識はありません。この私と同じように、然るべき場所で肉体再構成中です」

 

「なっ……」

 

「一向に起きる気配ねェけどな。顔は一度合わせたが……実際、どういう奴なんだそいつァ。戦力として数えられんのか」

 

「大丈夫ですよ。というか……変な話ですが、君たちは昔にも会ったことがあるハズです。なにせ、()()()()()()()()ですから」

 

「「「──は?」」」

 

「覚えていませんか?」

 

 松陽は当時の事を振り返りつつ、弟子たちに語り聞かせる。

 それを聞き──三人の顔も、まさか、と言いたげなものに変化した。

 

「……ちょっと待て松陽。まさか、あいつは……これから……」

 

「……つまり、先生が生きてきた時と同じくらいの時間を……」

 

「オイオイ……あっちもこっちも流石は同一人物ってか。どうなってやがる」

 

「──ええ。ですから」

 

 松陽は笑った。

 眉尻を下げて、困ったように。

 

「力になりたいと願うのです。惹かれてしまうのも、仕方ないでしょう?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。