「──あれ。変わった?」
縁側で腕に抱いていた弟子が顔をあげると、その目は真紅に染まっていた。
吉田松陽ではなく、人外の──不老不死者としての彼が表出したようだ。
“
「……ハア~~~~……」
「おい、なんだそのクソ長溜め息は。師に対する態度かぁ?」
物スッゴイ呆れた目を向けてくる。マジかよこいつ、みたいな目だ。敬意の欠片もない!
「……驚きましたよ。まさか、貴方が私のためにそこまで骨を折っていたとは」
「今さら頑張って格を保とうとしてもお前私に再会した時ちょっと泣いてたから取り返しようがないぞ」
「ちょっと黙ってくれます?」
じと、とした目になる。
……そういや、音が同じの名前は与えたけど、結局のところ、今はどっちなんだろ。
「空を描く方か? それとも虚実か?」
「……そんな事まで見通しているんですか。貴方から頂いた名です、どちらでも好きな方で構いませんよ」
「なるほど。それじゃUちゃん、協力してほしいんだけど」
「どちらでもない!?」
バカヤロー、師は常に弟子の予想外を行かなくちゃならねぇんだよ。
ネタに走りたくなる性ともいう。
「はぁ……本当に相変わらずですね貴方は。私の辿ってきた血濡れた道を知りながら、なぜそんな態度を貫けるのか実に不思議ですが……どういう神経してるんです?」
「へぇ~~」
「ちょ……あの……なんでくっついてくるんですか。話聞いてました?」
ぐぐぐい、と右半身の側面を弟子の体にぴたりとつける。
特に理由はない。師による命がけの特に意味のないじゃれつき、恐れおののくがいい。
「聞いてる聞いてる……おい、膝枕しろよ。師匠は長旅で疲れてるんだよ。弟子としての甲斐性を見せてみろや、あ?」
「無駄な喧嘩腰はやめてください……いや、待ってください。本当に寝る気ですか。ちょっと?」
無視して縁側に、ごろり、と横になり、ラスボスの膝を枕にして仰向けになる。硬いな。
見上げると、心底から困惑一色になった顔が見えた。はははは、良い景色だ。ザマミロ。
「さっきから何がしたいんですか……というか、それが人に物を頼む態度ですか」
「え? 弟子って師匠の奴隷じゃないの? 私のお願いは絶対命令じゃなかったの?」
「どこの世界の常識ですか!
「チッ、刷り込み忘れたか……出会った最初期に叩き込んでおくべきだったな……迫害されてたからって情けをかけるんじゃなかったぜ。もっと師匠に絶対服従するよう洗脳しておくんだった……!」
「これは貴方を反面教師にした結果ですが……? ああ、いえもう、何を言っても無駄なんですね。どう足掻いても、貴方は私を恐怖する気がないと。……本当に困ったお人だ……」
さら、と慣れない手つきで此方の髪を梳いてくる。
どう触ったらいいか分からない、という仕草だ。900年前の方がまだマシだった。それほどまでに時間が感覚を摩耗させたのか。生きる者との触れ合い方を、すっかり忘却してしまったようだ。
「死にたい?」
「……ええ。叶うのなら今すぐにでも、貴方と共に」
「そうか。だったら私の願いを一つ残らず叶えてからにしてくれ。お前だけ未練ナシとかズルイ」
「なんですかその理屈は……はぁ……」
はあ、と再び、深く息を吐き出す我が弟子。
困っている。明らかに困っている。自分同士で脳内会議でもやってる? セルフデスゲーム始まっちゃう?
「あの、今、貴方にもっとも憎しみを抱いている人格からの八つ当たりな質問なんですけど」
「お前の
「『奈落にいると分かっていながら、なぜ助けに来てくれなかったのか』……と」
「私が本当になにもせず放置していたと? 探したよ。超探したよ。不審死を遂げている村々や屋敷やら全部巡ってきたよ。でも全ッ然見つからねぇんだよ。奈落の隠密技術どーなってんだよ。追いつけねぇんだよ。くたばれ天導衆」
「あ、なんか満足したようでにこやかに自決しました」
「どうなっちゃってんだよお前の中身本当に!!」
にこやかに自決ってなんだよ! そんな人格あるぅ!? 多種多様すぎんだろ!! ラスボスがこんなネタに走っていいワケぇ!? あ、走らせてんの私か! ごめんな!?
「もうちょっと自分を大事にしろよ……」
「大元の私にとっては無数にある人格の一つに過ぎません──それと師匠はもう少し慎みを持ってください。貴方に邪念を抱いた人格をいちいち処刑するのも面倒なんですよ」
「厳しいよ! お前自分に厳しいよ! 思春期時代に何もなかったのってそういう事なの!?」
「むしろよく百年も何事もなく傍に置いてくれましたね。お陰で何人も拗らせてるんですよこっちは。今まで残っているのはそういう選別された拗らせ野郎か、精神的に成熟した厳選野郎だけです」
急に申し訳ない気持ちになってきた。
えぇ……? あれ……? もしかして迫害されてた同族の子供を拾って優しくするって、相当に脳を焼き切る行為だったりします……? ……あ、そういえば銀さんも松陽先生に拾われて魂を焼かれていたわ。理解したわ。私はとんだ重罪野郎です……
「……ちなみに松陽はどっち? 流石に後者か」
「前者です」
「嘘だろお前」
う、嘘だ! 吉田松陽、ちゃんと師匠キャラだもん! 拗らせるとか……そんなことしないもん! 弟子たちに解釈違いで訴えられるわ!!
「ふっ……今も私の精神の中で、『なぜバラすんですか!』と憤慨していますよ。くく、いい気味だ」
「自分への当たりが強ぇぇ……」
「──それで? 協力するにあたり、他に私に話しておくべき情報はないんですか」
お、やる気を出してくれたらしい。やったぜ。
ひとまず現代の松陽が言っていたように、虚が出てくる未来周りの出来事を伝えておく。
「……って感じで、本来のお前は宇宙ぶっちぎり大戦争消滅計画を実行する」
「ネーミングに悪意を感じますが」
「事実だが? マジで迷惑と被害の規模が尋常じゃないからやめてね?」
「やろうと思えば出来るのなら若干やってみたい気持ちの方が勝りますがね」
「童心で世界滅ぼそうとするな」
銀魂世界だからまぁまぁ実現しそうな動機だよ!
ギャグのノリで宇宙の時間が停止したこともあるしな!!
「頼むぞお前……なるべく手心を……手心をだねお前……頼むぜ……ラスボスとして難易度を考えてくれよな……!」
「さぁ、知りませんね。その時に対応している『私』に祈ってください」
「人格ガチャで宇宙の命運決まるのかよ!?」
「しませんよ」
と。
急に謎の確約をもらった。
「というか……どうでもいい連中と死んで何が良いんですか、それ。私が心中したい相手は宇宙でただ一人きりです」
じ、と底のない赤目がこちらを覗き込んでくる。
……え。何……照れる……
「あ、でも羅刹ちゃんとの戦闘には全力出せよ。油断とかしちゃ駄目だからな。マジぶっ殺され続けるからな」
「貴方の大元、ですか。それは楽しみですね」
うぉー、ラスボスの貫禄。
応援はしとく。
じゃっ、と体を起こした。
「もう行くわ」
「え!?!?!?」
「なんだぁお前いきなりビックリしすぎやろ」
咄嗟に弟子に着物の裾を掴まれる。
ぐぐぐぐ、と動こうにも動けない。おいこら。
「ちょっ……ちょっと待ってください。折角の再会なんですよ? それに長旅で疲れたと言っていたじゃありませんか。少しは此処で休んでいってはどうですかいや休むべきですええ確実に」
「引き留め方に圧がある」
あんまり松下村塾……というか主要メンバーの過去に干渉するのはリスキーだ。いや、影響がありそうなのは銀さん桂さんぐらいなので、二人にさえ近づかなければセーフかもだが、それでもリスクを考えると、とっとと離れた方がベストである。
「話し足りませんよ……」
分かりやすくションボリしている。
長く滞在すればするほど惜しくなるんだけどなー、こういうの。
「……じゃあ、陽が昇るまでね」
◆
「奈落ってどうなの? 生活環境的に」
「普通ですよ。流石に人里から離れた拠点ですが、そこで暗殺の鍛錬をします。おとなしく仕事さえこなせば食に困ることはありません。好きなものを食べられるのは娑婆に出た時くらいですが」
「へ~。あっ、そういえば経穴? ってのを突く暗殺術があるんだよな? アレさぁ、私よく分かんないんだけど。ちょっと教えてよ」
「……なぜそんなピンポイントな技を知っているんです……訓練しなくては身に付きませんよ」
「じゃあちょっと試しにやってみてよ」
「ええ……」
来い来い、と誘うと空が片手を伸ばす。
「この辺ですかね」
「ぐはッ」
ドスッ、と首の後ろを叩かれ、人体から出てはいけない音がした途端、彼の膝上にうつ伏せに倒れ込んだ。
うおー! なんだこれ、動けねぇッ!! 指先まで痺れてますよコレッ!!
「常人ならば今ので気絶すると思いますが……」
「……あ、もう回復してきた。動けるわ」
むくり、と起き上がる。
やはりアルタナパワーか。変異体の回復力の前では、あんまり意味はないらしい。
「同族相手には効きが悪い、と。なるほど、勉強になりました」
「こいつもう羅刹戦に予習してやがる。偉いか」
「勤勉ですから」
──というか、アレだ。
こいつ、徐々にテンション上がってない? いやテンションっつーか、こう、人間味が増してきている気がする。ノリいいし、ツッコミボケのスキルも取り戻し始めているような。
「……どうだった? 約九百年間の人間観察は」
するとにわかに表情が暗くなる。
そうですね、と一言置いて、
「愚かで臆病、醜悪で残忍な生き物でした。それだけです」
「嫌な人間だけだった?」
「……、いえ。私の目で見てきたものが全てではないのでしょう。解っています。一組織に属していたが故の偏りだと。多くを巡り、多くを見てきた貴方より、ずっと狭い見識だ」
──そんな答えを、たとえ上辺だけの言葉だったとしても、彼から引き出せたのは干渉の甲斐ありというものだった。
この彼は知っている。化物の自分を排斥し、怯え、殺すだけの人間しか世界にいないわけではないことを、少しは知っている。
「でも、先生。貴方は
「……松陽が若干ショック受ける回答になるけどいい?」
「どうぞ」
即答かよ。容赦してやれよ、自分自身なんだから。
ともあれ答えてやる。
「見所のある人間は好きだけどそれ以外は別に……って感じかな」
「……案外、普遍的な答えなんですね」
「私は確かにお前を教え導きはしたがね、本質はそこらの凡人とさして変わらないよ。人類全体の意味とか価値とか裁定できるほどの視点の広さは持っちゃいない。ただの一不死生物だからな。世界には大体平和であって欲しいし、身近な奴には幸せであってほしい。それだけさ」
どこにでもある、恐ろしくつまらない回答だ。学習経験の一部にもなりはしない。
そろそろ師匠としてのガワも剥がれてきたかな。
「……私は、未だに人間というものが解りません。なぜ……私から、松陽のような人格が生まれたのかさえ」
────まぁ、彼が最終的に得る結論を私は知識として知っているが、それを言ったところで意味はない。
自ら悟らなければ意味はない。
悟れるかなぁ? こいつ。私の存在が巨大なノイズになってそうだ。
思えば。というかこれは私の個人的な考察というか、妄想に踏み込んだ話だが。
状況の流れとはいえ、原作の彼が天導衆の老人らに協力的な姿勢を見せていたのは、彼らだけが「虚」という不死の化物を受け入れたからではないか。
そこに研究目的だとか、自分たちも不死になりたいという利己的で打算的なものがあったとしても──あの世界においては、あの天導衆だけが、彼を化物として化物のまま「受け入れた」。
まぁ虚側だって自身の死に方を探すにあたり、天導衆という宇宙を股に掛けた組織は都合がよかったという事情もあるだろうが。
なぁ。
やっぱ寂しいだけだったんじゃねーのかなぁ、こいつ。
「……む、なんです」
よしよしと頭を撫でる。師匠による不可解な行動に、怪訝な顔をする彼だったが、特に拒否られることはない。うーん、この可愛い奴め。
「…………師よ、慎みを持ってほしいと忠告したはずですが」
「え、今なんか
ぱっと咄嗟に手を離す。
すると何やら赤い眼の目付きが鋭くなった。怒ってる?
「……貴方にとっては、私はいつまでも『弟子』なんですね」
「そうだけど……?」
「永遠を共に生きる伴侶としては見てはくれないのですか」
────流石に言葉を失った。
……ほぉ。ほう? なにかな? これはアレか。──口説かれているのかッ!?
「ど、どこで覚えた……」
「いえ単純になんとなく。こうしてしばらくぶりに会って、初めて気付く事柄も多くあったということです。貴方は師として私という弟子の自主性を尊重している。有難いことですが、しかし、それ故に踏み込むことを避けていますね?」
なんだぁその観察眼……
いやだって、アレですよ? 現状おねショタですよ我ら。いや実年齢的にもほぼもはや意味のない概念と化している気がするけども、師が弟子に手を出すってそりゃあなんか──アウトだろっ!!
「私には貴方だけですよ、
「……あ、そぅ……」
「ふ……いつもの調子はどうしたんです?」
勘弁してほしい。こっちの経験値はゼロよ。
急になんか向こうが年上になった気分だ。弟子よ、お前も成長しすぎだ。
「……なぜ、時を遡ってまで私を救いに来てくれたんです。いえ、動機や理屈は聞きましたし納得もできますが……──決め手はなんだったんですか?」
決め手か。
ただ、幸せになってほしい。知っている筋書よりかはマシな結末を迎えてほしい……という私情なんだが、それも理由でしかないか。
そうだなぁ。
「……たぶん、やるべき事だと思ったから」
転生先の人格と分かたれて転生した。
一方は復讐から始まり、一方は人生の延長上として楽しんだ。
彼女の方が最終的にどんな結論に辿り着くかは不明だが、向こうの人生に気を遣わず、私個人がやることと言ったら、無茶も限界も超えた「何か」がいいと思った。
よって時間逆行。
ラスボスの座そのものではなく、その座までの道そのものを叩き壊す。
ゴールはあってもそこまでの道が滅茶苦茶になっていたら、さぞかし結果には大きな影響が出るに違いない。
「変異体だって気付いた時にさ。やっぱ思うじゃん、同族のことを。だったら、やっぱり、なんとかしてやりたいなぁ、って」
「……。酷いですね。苦しみから逃れたいと願う私に、そこに留まれと楔を穿つような真似ですよ」
「だろうな。謝らない。その代わり、
だったらいいなぁ、と思いつつ彼の顔を見る。
相も変わらず、諦観混じりの表情だ。目にハイライトがねぇ。綺麗な赤眼だけども。
「そうですね……結論から言えば、貴方のその目論見は失敗したと言えるでしょう」
「えー」
マジかよ。
自信なくすわー。自己肯定感が下がるわー。
「苦しみはどこまでいっても苦しみです。吹っ切れて娯楽と捉えられるような柔軟な感性は身に付けられませんでした。──ですが、代わりに」
「?」
「
──む?
ちょっとよく分からない。教えた覚えがない。いや精神的な心構え的なモンとか、人生論とか、哲学とか、私なりの解釈で交えた指針を求められるまま講釈垂れた覚えはあるけども。
……これはもしかして不穏なルートに入った前振りなんじゃ──
「お
──人は。
──完全に予想外の言葉を食らった時、言葉を失う。
「貴方と過ごした百年。貴方から離れていた九百年。それらを経て再会した時、沈殿し停滞していた私の永劫が、まるで別のモノへと変化しました」
「え……な、何に……?」
「“喜び”、です。水を得た魚のような気分でしたよ。貴方が傍にある時、私の魂はもっとも潤う。いや……貴方こそが私の魂なのかもしれませんね」
……なんか物凄いことを言われている気がするが、物凄いことを連続して言われているので、物凄いことの情報処理が間に合ってない。核を連打されてる気分ってこんなですか?
何!!??
「
「え、あ、は、はい」
「貴方の願いを叶える……すなわち貴方の未練を解消したら、私の未練に付き合ってくれますか?」
「未練?」
「死が訪れるまで貴方と共に居たいという未練です」
いいですよね? とにっこり笑いかけられる。
別にその笑顔の圧に負けたワケではないが、気付けば首を縦に振っていた。
ふ、と彼の笑みが柔らかいものになる。一瞬、その眼に人間らしい光が宿った気がした。
「──良かった。それで先生、……触れても?」
「早くないかお前なんか手が早くないかオイ」
「この付き合いの長さで何を今さら。お嫌ですか?」
嫌、ではないが……
戸惑うものはある。彼のことを愛しているといえば愛しているのだろう。ただ、それは師弟としてのものとか、読者側がキャラに向けるような偏愛や執着じみたもので、異性恋愛的なものかと問われれば首を傾げざるを得ないというか──そもそもだ。
「い、意味、分かって言ってる?」
「はて。生憎とそういったものは貴方からは教わりませんでしたからね。分かるか分からないかと言えば、分からない」
「だよな」
「しかし」
「逆接ッ!?」
「触れたいと思うのも、共に居たいというのも、貴方にだけです。相互理解は必ずしも不可欠ではない、隣にいたいのなら居ていいというのは、貴方から習いました」
「くッ……!」
「なぜ悔しそうな顔を……別にいいじゃありませんか。人並みの恋情などが分からずとも、
「……んん……ああ……おう……」
────真っ当だ────!
実に真っ当な意見すぎて何も返す言葉が思いつかない。誰だよ不穏な気配を勝手に感じて勘ぐってたのは。私だ。ごめん。ほんとごめん。心の底から謝罪する。つーか、
……情緒……育ちすぎじゃねッ……!?
いや、九百年も離れていたんだ……男子三日会わざれば刮目して見よ。予想以上、そして予想外の成長や変化を遂げているのは当然っちゃ当然なのだ。私がルーズすぎるだけだ。自分の精神性に変化を求めず、維持できてしまう。そういう人種なのだ。
肉体的、運動的な鍛錬は行っても、精神的なものを怠っていた。
ここですぐに返事ができず、ぐだぐだ考えてる時点で終わっている。何も成長していない。
論外である。
……、なんかもう落ち込んできた。自分で自分に落ち込んできた。もういいよ、好きにしてくれよ……なんて思いが浮かんでくるが、それは答えを投げ捨ててるのと変わらない。
ちゃんと考えて、答えを出そう。
「……あの」
「はい」
「触れたいって……部位は?」
「視界に収まる範囲の全てと捉えていただいて構いませんよ」
頭を抱えた。
──弟子の好感度が──高すぎる──!!
誰だァァァここまで手遅れにしたのはァァァ!! 完全に熟成済みだ、心なしかこっちを見る目が
とはいえ、だ。
……ん~。
「……うーん。分からん。キスしてから考えるか」
「……はい? えっ??」
立ち上がり、縁側に座る弟子の顔を、両手で正面から掴んだ。
顔を近づける。
「ちょ、あの、せ、先生! 先生!? 乱心ですか!?」
「いや……深く考えたところでよく分かんないしさ……物は試しでヤッてみりゃ分かるんじゃないか? って思ったのよ。そこで発露するのが愛情か恋情か性欲か分かんないけど、少なくともそれで私がお前のことをどう思ってるかのデータはとれるワケじゃん?」
「じゅ、順序が逆では……!」
「真っ当な順序じゃ分かるモンも分かんねーんだよ。ホラいくぞ」
「まっ、」
待たなかった。口を塞いだ。
んんんんんん!? と息の仕方を忘れた弟子が暴れそうになるが、周辺空間のアルタナを凝固させて空間的に動きを止めさせる。がちっ、と空間によって体が固定されたのを察知した彼が目を見開き、互いの間に潜り込んでいたことで唯一自由だったその両手がこちらの服にしがみついてくる。あまりにもささやかな抵抗だ。
「っふ、は、ぁ……!」
「────こんなもんか」
流石に舌を入れるのはやめておいた。唾液が溢れかけてきたところで離し、周囲の空間凝固を解く。ひゅ──……ひゅ──……とか細く呼吸をする空の顔は赤く、涙目で、心ここにあらずといった様子だった。絶対これ大丈夫じゃないな。
さて結果としては、
「かなりアリだな」
「……ソウデスカ」
「うん、悪くなかった。かなり良いと思う。あとお前、凄く虐めたくなる反応するのな。なんだろう、迫害の才能があると思う。される方のな。たぶん知らずの内に周囲の人間煽って加虐を加速させてた可能性が出てきた。本当に生まれた時代が悪すぎたのかもしれないな」
「……おこりますよ」
「ごめんごめん。ともあれ、だ。うん────処女ぐらいは食ってもいいぞ」
「性欲じゃないですか!!」
「でもキスしてる時はそれはそれで満足してたぞ。あー、可愛いなー、幸せにしたいなー、一緒にいたいなー、って感じてたぞ?」
「……そ、そうなんですか……?」
それなら、まぁ……いややはりおかしいのでは……いや……などと、ぶつぶつ呟いている。
うん、おかしいと思う!
今かなり酷いことしたと思うぜ私!! でも考えて分からないなら行動しかないぜ!!
「結論を言おう…………お前を伴侶として認めるッ!!」
「……なぜでしょうか。この、釈然としなささは……何かに負けたような……失ってしまったような……そんな感覚は…………」
あ、なんか遠い目になってる。
私に惚れたのが悪いと思うぞ、そこは。
~おまけ あの時の状況~
師匠による攻撃!
弟子は師匠にさからえない!
空(本人)は耐えた!
虚Aは混乱した!
虚Bは発狂した!
虚Cは叫んでいる!
松陽は混乱している!
虚Dは昇天した!
虚Eは自分たちにドン引きしている!
虚Fは怠けている!
虚Gはふて寝した!
松陽は混乱している!
虚Lが生み出された! 「押し倒すべきでは?」
虚A~Fによって虚Lが処刑された!
空(本人)は耐えきった!
人間性を100手に入れた!