銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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良き旅を

 三千世界時計。

 それは絶条ソラを過去へ送り込むために絶対必須のアイテムだった。全宇宙の時の流れそのものを司るとかいうバランスブレイカーもかくやというレベルのギャグ回アイテム。それが、

 

「本当に墜落してきましたね……」

 

「だろ」

 

 UFO的なものが墜落を起こした空き地の事故現場。

 そこに羅刹と松陽はいた。

 松陽が携帯で救急車を呼ぶ中、羅刹は転がっている三千世界時計を拾い、倒れている天人……否、「時の番人」の一人を助け起こし、応急処置をする。

 

 なお、本来目撃するハズだった坂田銀時は現在、高杉と桂とついでに坂本辰馬を宇宙から召喚し、四人の飲み会にぶち込んでいた。やむを得ない原作改変である。

 

 まぁそれはいい。

 

「うっ……うう……君は……」

 

「今、連れが救急車を呼んでいる。だが代わりに『時の番人』、汝らと取引をしたい」

 

「と、取引……?」

 

「タイムマシンの作り方教えて」

 

 駆け引きも何もなかった。ドストレートなヘビーな要求だった。

 仮にも全宇宙の危機が懸かった取引、そう簡単に応じられるものではないはずだが──

 

「そ……それは出来ぬ。人による時への干渉など、断じて認められッ……」

 

「なら今すぐこの時計を壊す。いーち……」

 

「あああああ分かりました!! 分かったからヤメテェ! 上に掛け合って出来るかどうか訊いてみるからッ!!」

 

「結局シンプルな脅しなんですか……」

 

 後ろで松陽が苦笑しているが、やむを得ない手段である。

 反則技を実戦するにはどんな方法も厭わない。

 

「あとコレ電池切れ近いから変えた方がいいよ」

 

「えっ? あ……ホントだ……」

 

 というワケで、ギリギリ宇宙の危機を救いつつ、運命のタイムマシン製作がこうして始まった。

 

 

 ◆

 

 

「────よーっし、良し良し、ちゃんと回収できたな」

 

 建物の屋根の上。

 墜落現場の空き地を見下ろせる位置に、「彼女」はいた。

 

 傘──夜兎族が使うような紅い番傘を差した女だ。生物としての気配も、視線の気配も、自ら会得した技術と、周囲を漂う空気中のアルタナを操作することによって、完全に眼下の「羅刹」の気配感知から己が存在を遮断していた。

 

 これぐらいやらないとあの死神は気付きかねない。

 それをよく知っているからこその完全隠密体勢だった。

 

「いや危なかったな……まさか此処で介入が必要になるとはね」

 

 言いながら、傘を持っていない方の()()()()()()()()()()()()()()を見る女。

 彼女の存在は今、不安定だった。歴史から──あらゆる記憶から、その足跡が薄らいでいる。それもこれも、今日この日の「三千世界時計を回収できるか否か」が彼女の成立条件にダイレクトに関わるからだ。

 

 よって先ほど、時の番人が乗っていた円盤を意図的に襲撃し、墜落させた。

 かくして眼下のあの通りである。

 

「……もしかして原作であのUFO墜としたの虚だったりしたの? いややりかねねーけどさ……」

 

 胡乱な考察である。ギャグ回を深く考えたって仕方ない。

 しかし全宇宙の時を司る飛行物体を墜とすだけで世界滅亡を狙えるRTAとしては、まぁまぁなくもなさそうな線だった。

 

「さぁ頼むぜー。とっとと行ってくれないと、こっちも舞台に上がれないんだからさ」

 

 

 ◆

 

 

 時の番人の協力のもと、平賀源外によるタイムマシンの製作。

 専門家監修もあって、製作自体は意外なほどあっさり開始された。ただし、

 

「……なるほど。この製作者に頼むならオッケーですね。過去にギリギリ一人までなら……あと、あまり理を乱すような真似をしたら、ティンダロスさんちの犬が迎えに上がりますので気を付けて」

 

「怖ぁ」

 

 ──使用回数一回。渡航人数一名。過去への片道切符。

 それらを条件に、タイムマシンの開発はなされた。なにやら時の番人は平賀源外を見て得心いったような反応を見せていたが、彼らは並行世界の事象も把握しているのかもしれない。

 

 並行世界で世界を救った実績のある開発技師。

 つくづくこの世界において重要因子すぎる平賀源外だった。

 

「まー、今日中には完成の目途が立ちそうだ。俺の代理として運動会出といてくれや」

 

「運動会?」

 

「そんなイベントもあったな……」

 

 かぶき町大運動会。

 おそらく志村新八にはまったく別のモノに見えているだろうが、他からすれば至って騒がしいだけの運動会である。羅刹と松陽がそこに追加参加するというだけでカオスと凄惨さは約束されたようなものだが、気にしたところで仕方ない。

 

 タイムマシンの完成を期待し──からくり堂を後にした。

 

 

 ◆

 

 

「──んん? なんだ、今日は修理依頼は受け付けてな──、」

 

 数時間後。からくり堂に踏み入ってきた来客の気配に、源外は顔をあげた。

 立っていたのは番傘を持つ一人の人影。夜兎か、と思いかけたが、

 

「──な」

 

 番傘をあげて見えたその容貌に、息を呑んだ。

 ガタリ、と椅子から立ち上がる。

 

「お、お前……まさか」

 

「作業を続けなよ爺さん。こっちはこっちで準備しとくから」

 

「準備って……オイ!」

 

「早く早く。頼みますよー」

 

 勝手知ったる様子で建物の奥へ歩いていく来客。

 追おうか一瞬だけ悩んだ源外だったが──完成直前の仕事が目に入り、そちらを優先させた。

 

 

 

 ──彼女は地下へ続く階段を下っていく。

 カツ、カツ、カツと金属を踏む足音。やがて最下層に辿り着き、その先に鎮座するモノを見る。

 培養液の中で今も眠る、「彼女(自分)」の姿を。

 

「さー、目覚めの一発いってみよー」

 

 腰の木刀を握る。振り抜く。目覚めの挨拶は? そうだなぁ。

 

「──いい加減、起きろコラ──ッ!!」

 

 斬撃がガラスケースを粉砕する。

 ガシャン、と派手な音を立てながら砕けた破片が飛び散り、培養液が溢れ出す。

 そこから出てきた人物は、倒れたまま動きもしない。

 

──そんなことは知っている。

──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何が問題なのかなコレ……あ、心臓のアルタナが足りてないのか。電池切れと一緒だな」

 

 ならば電力を叩き込んでやればいいだけのこと。

 倒れている体に一撃、ドスッと手刀を突き刺すと同時に必要なエネルギーを叩き込む。

 がっ、と声があがる。目覚めの衝撃にその肉体が跳ね上がり、生命(いのち)の循環を確認した。

 

「がぼっ! がッ……ゲホゴホガハッ!!」

 

「──よし、生き返ったな」

 

「っ……? え…………だ、誰……」

 

「寝坊助。旅立ちの時間だよ」

 

「は……? ……あッ!?」

 

 そこでやっと()()()()()を理解したらしい。彼女が──この時代の「絶条ソラ」が、己が手足、()()()()()()()を見下ろして愕然とする。

 構わず、来客は用意してきてやった衣服を投げつけ、着替えを促した。

 

「ど……どれくらい寝てた?」

 

「将軍暗殺篇の直前。もう現代(こっち)で遊ぶ暇はないってコトだ」

 

「あいつは?」

 

「好きにやってるよ。もう原作なんかバキバキよ」

 

 そっかぁ、と着替えながら返すソラ。

 手間取っている部分を少し手伝ってやりながら、来客は口を開く。

 

「やりたい事は決まってる?」

 

「うん」

 

「我ながら感心する即決さだ。向こうに飛んだら、まずはゆっくり慣れていけ。あとちゃんと鍛錬しろ」

 

「方向性は?」

 

型月の真祖(ファニーヴァンプ)

 

 あーね、と本当に彼女たちの間でだけ通じることを話していると、上から源外が降りてきた。

 その小脇には、ビデオカメラ型の装置が抱えられている。

 

「準備できたか」

 

「「当然」」

 

 彼女は編笠を被り、真剣を腰に差す。

 荷物を持たされたところで、顔をあげた。

 

「用意周到」

 

「存在が消えるか消えないかの間際だからね」

 

「そりゃそうだ」

 

 ──床に置かれた時間泥棒(ビデオカメラ)のレンズが向けられる。

 見届け人は後ろに下がって、スイッチを押した。

 

「片道切符だ。千年の良き旅を」

 

 ひら、と旅人は片手を一度振って、カメラと共に時空を転移した。

 同時に。

 姿が半透明に薄まっていた用心棒は、その姿を確立させた。

 

「……あっぶね~。消えるところだった」

 

「おいバイト」

 

「はい?」

 

「おかえり」

 

 ニカッ、と笑う店主に、苦笑を返した。

 

 ──ただいま。

 

 

 ◆

 

 

「あ」

 

 その時、天照院奈落の拠点にいた()は思い出した。

 霞が掛かっていた記憶が晴れる。薄らいでいた人間性を取り戻す。

 ──敬愛する己が師を、思い出す。

 

「……虚様?」

 

 不意にあげた声に反応したのは、部屋で読書していた朧だ。

 吉田松陽……自分の師と似て非なる者に、半ば強制的に仕える身となっているが、その忠義は本物だ。たとえ師の屍をまとった別の(モノ)だったとしても、彼から与えられた不死の血で命を繋いだことに変わりはない。

 

「……あー、朧」

 

「はい」

 

 ご下命か、と朧は本を閉じて立ち上がる。

 が、告げられたのは意外な言葉だった。

 

「何か食べにいきます?」

 

「……はい?」

 

 

 ◆

 

 

 からくり堂に戻れば、タイムマシンごと絶条ソラが消えていた。

 つまり。

 

「奴はどこへ行った」

 

「知らねぇよ。お前らが来る前に逃げちまった」

 

「探してくる」

 

「ちょ、ちょっと羅刹さん」

 

 迅速果断に行動しかけた羅刹を松陽が腕を掴んで止める。

 なんぞ、と冷たい視線が投げられる。

 

「何をしに行くんですか? 味方に引き込むなら私も……」

 

「アレは敵だ。殺しに行く」

 

「な」

 

 当然のことだ、と羅刹は続ける。

 

「千年生きた絶条ソラは虚の師として、虚の味方をするだろう。生かしておく意味がない」

 

「え、でもそれなら、なぜタイムマシンを作るようなことを……」

 

「作らず、眠ったままの彼女を排除する方が効率的だったと? それは違う。彼女の干渉によって、虚には人間性が付加されたはずだ。是、すなわち弱点となりうる」

 

「い、いや、効率的って……(カレ)を殺しやすいか否かの話ですか!?」

 

「それ以外に何がある。だがその役目も果たされたはず。後は見つけ次第、師弟共々葬るのみだ」

 

(……さ、殺意が……)

 

 ──あまりにも──高すぎる──!!

 松陽は事ここに至って、未だに甘かった自分の見通しに辛苦する。羅刹は本気だ。ずっと本気だった。剣士として最高の精神状態に至りながら、強烈な復讐心を両立させている。

 

 虚を必ず殺す。

 自分の故郷を、家族友人を手にかけた仇を、絶対に。

 

「羅刹さん……」

 

 その復讐心を癒す術を、松陽は持たない。

 虚の罪とは、翻って、彼自身の罪でもあるのだから。

 

「行ってくる」

 

 松陽の手を振り払い、彼女は行ってしまう。

 追うことも出来ず、ただただ松陽はそこに立ち尽くした。

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