銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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木刀

「ソラのもパチモンアルか?」

 

「あん?」

 

 ある日――正確にはおそらく刀狩り事件後の幕間の出来事。

 日向ぼっこに土手で寝転がってボーッと空を見上げていたところ、例の如く金の匂いか、それとも単に私に懐いてくれているからなのか、やってきた定春によって神楽ちゃんと会う機会が増えた。

 そして会うや否や言われた台詞が先のものだ。

 

 ……これはあれだな。

 銀さんが木刀を通販で買うのを見ちゃった後なんだろうなー。

 

「んなワケねぇだろ。私のはガチモンだよ」

 

「……ホントアルか?」

 

 疑いの眼差し。

 銀さん……私が子供からこんな冷たい視線を向けられる理由はなんだい?

 

「ちょっと貸せヨ」

 

「……なんで」

 

「大丈夫アル。ちょっと試すだけ――」

 

 折るつもりだろ。絶対折るつもりだろ。

 私のやつは通販の紛い物じゃないからそう簡単には折れないとは思う。

 しかし相手は酢昆布好きのチャイナだと言っても戦闘民族の夜兎。いくらモノホンの妖刀とはいえ、折れない可能性はゼロではない。

 

「嫌だね。これは子供が触れて良いモンじゃねーの」

 

「じゃあ嘘アルか。大人は皆嘘つきアルか」

 

 知るかよそんなん、と起き上がって伸びをする。

 少なくとも、私としてはあまり絶条ソラという人間を全面信用してほしくない。それは私自身のこともあるが――

 

「フン、結局ソラも銀ちゃんみたいに単に腕っ節が強いだけで他は全部ダメダメアルか。金があるだけのダメ女アルか」

 

「別に金に価値は求めてねーよ。お前今日は随分と不機嫌なのな」

 

 今月分の給料か、それとも口止め料で貰ったのか、どちらにせよあまり美味しく無さそうに酢昆布を黙々と食べる神楽ちゃん。

 なんでこんな気まずい雰囲気でいなきゃいけないのか。子供って面倒くさい。

 

「ん」

 

「?」

 

 ふと神楽ちゃんが手を出してきた。

 金か――? 別に渡す気なんて更々ないけど。

 

「貸せヨ。なんなら私が素振りしてやるネ」

 

 木刀の方かよ!

 

「ダメです。子供にゃ早い」

 

「子供扱いすんじゃねーヨ! いいから貸すアル! 質屋に行って見て貰うからー!!」

 

「売る気満々だろ! そんなに金が欲しいならあの銀髪でも一回ぶん殴って来い!!」

 

「もうやったネ!!」

 

「やったんかい!!」

 

 物騒極まりないガキだコイツ。

 本当にヒロインか? いやゲロイン枠だったか?

 

「いいじゃんちょっとくらい!」

 

「だああ! ちょっ、」

 

 不意を突かれた。

 すっと全く違和感のない動きで神楽ちゃんが木刀を掴む。

 

「ふんぬぬぬッ」

 

「いやいや待って! 何でイキナリ折る感じ!? 試すってなに、握力検査!?」

 

「大丈夫アル。折れたら最悪、通販で買えるネ」

 

「ガチなもんは買えないの!! 返せ!」

 

 嫌ー! と木刀を持って駆け出すチャイナ娘。

 ……そっち川だぞ。

 

「ンボァッ!!」

 

 よく前を見ていなかったからなのか、それとも単なるアホなのかバシャンと水しぶきを立てて、川に飛び込み軽く溺れかけるヒロイン。

 アホだなー、という呆れと子供だなー、とほっこりした気持ち。当の本人からしてみれば羞恥しかないだろう。

 

「……、」

 

 サッとびしょ濡れになりながらそっぽを向く神楽ちゃん。

 人の物をとって自分から川に落ちたのだ、いい訳のしようがない。

 どう声をかけようかとしばらくその姿を見ていたが、段々見ていられなくなってきたので一旦引き上げてやることにする。木刀も回収しなきゃならないし。

 

「何してんだ。風邪ひくぞ――いぎッ!?」

 

 とりあえず近くまで行って手を貸そうとすると、待っていたといわんばかりの早業で腕ごと引かれ、川に落とされた。

 

 冷たい水が服にも靴にも染み込み、急激に身体の温度が下がってゆく。寒い。超寒い。

 上から馬鹿にしたような笑いが降り注いでくる。あー、殴りたい。

 

「これでおあいこネ――痛ッ!?」

 

 殴りはしなかったがチョップを脳天にかます。

 何がおあいこだよ、人の親切を無駄にしやがって……という怒りの念も込めた渾身のチョップである。

 大人気ない、という言葉は銀魂の世界において今更すぎるツッコミだ。聞くつもりはない。

 

「何するネ! 道連れにしたぐらいで!!」

 

 大人である銀さんは道連れにされたぐらいでは怒らないのだろうか。

 いや銀さんの場合、カナヅチだから道連れにされて気絶ルートだな。そんで気付いたら覚えてないパターンだろう、きっと。

 

 

 *

 

 

「全くエラい目に遭ったネ」

 

「こっちの台詞だ。金に目が眩むとロクなことがないってこれでよく分かったろ? ……つーかさ、やっぱ重いんですけど……」

 

 とりあえず当初の目的である妖刀の回収は達成――したのだが、なぜか私が神楽ちゃんを背負う形になって歩いている。

 私もびしょ濡れなんですけどね……定春の背に乗せるという選択は毛が湿ったら乾かすのが面倒、という理由で早々に却下された。

 

 ならばどうして私がおんぶをすることになったのか? という疑問についての理由は、子供特有の「おんぶしてー」という粘り強い要望からである。

 断れば駄々をこねて周りの視線に困らせる精神攻撃、承諾すれば水に濡れた荷物を背負って家まで送る、という肉体労働。

 どちらがマシか、という選択において私は後者を選んだ。目立つのは好きじゃない。

 ……ある意味脅迫じゃないかねコレ。

 

「ソラ、木刀取って悪かったアル。私もう人の大事な物奪うのやめるネ」

 

「そーかい。私がお前に今やって欲しいのは謝罪じゃなくて背中から降りてくれることなんだけどなー」

 

 しかし降りる気はないのか首にかける腕の力を強くされる。首絞まるって。

 ていうか謝るくらいなら最初からすんな。

 

「でもあの木刀どこで手に入れたネ。銀ちゃんみたいに通販で買ったアルか?」

 

「これは宇宙をフラついていた時に貰った奴だよ。仕事の報酬」

 

「宇宙アルか! まさかソラもえいりあんはんたーアルか!?」

 

 ソラ()……そうか、もう少しで星海(うみ)坊主篇だったな。

 確かに木刀を使ってエイリアンを倒したことは数回だけあるが……けど、別にそれも用心棒という仕事の一環だったしなぁ。

 

 宇宙では主に日本語が伝わる奴に雇わせていた。宇宙人故、姿形が異形な奴が多かったが、とりあずキチンと報酬を払ってくれる者と関わったらヤバい者の区別はしっかりつけれていた。

 まず自分が地球人ということはナメられたり売り飛ばされたりする可能性があったので、決して明かすことはなかったが。

 

「エイリアンハンターではないな。宇宙でも地球と同じことをやってたよ……なんで?」

 

「私のパピーがえいりあんはんたーやってるネ。けど家庭ほったらかしでずっと好き勝手やってるアル」

 

 そうどこか寂しそうな声色で愚痴を零す神楽ちゃん。

 あの人の出番まで巻数的にはあと1巻分と少し後か。もうちょい先だなー。

 

「ふーん、父さん凄いんだな」

 

「……ん、星海(うみ)坊主って聞いた事ないアルか。あちこちの星転々としてる、さすらいの掃除屋なんて言われるヨ。実際にはうすらいの掃除屋だけど」

 

 確かに噂でチラッと聞いたことはある。というかそれ以前に()ってる。

 しかし会うことはなかった。ていうかあの人が行ってる場所ってかなり荒れてる星ばっかりだったし。地球人である私に到底そんな危険地帯に降り立てる度胸なんてないし。

 せいぜい「星砕」で太刀打ちできるレベルの化物がいる星。あとは……まぁ死なない程度に治安が良いところか。

 

「星海坊主? あぁ、最強のえいりあんばすたー……だっけか? って、なに。父さん?」

 

「だからそう言ってるアル。今は一体どこほっつき歩いてんだか……」

 

 なんだかんだいって心配な様子である。まぁ当たり前か。

 

 しかし星海坊主篇って、確か終盤で松平さんが「松っちゃん砲」とかいう威力が馬鹿デカいビーム撃ってくるんだよな。

 ……介入したとして、生き残れるかどうか……不安だ。

 

 

 

 

「ハー……やっと着いた」

 

 子供一人背負って歩くのはもうやめにしよう。

 どうにかこうにか子供が駄々をこねても言い返せる言葉が載ってる本でも今度探すか。

 

「おい、降り――」

 

「Zzz……」

 

 Zじゃねぇよ。寝てんじゃねぇよ。

 玄関前に放置してやろうか――しかし、それで風邪を引かれても寝覚めが悪い。

 

 仕方がないのでインターホンを連打。

 しばらくするとドタドタと荒々しい足音が聞こえてきた。

 

 

「ンだようるっせぇなっ!! ピンポンピンポン押してんじゃねェェッ!!」

 

 

 蹴破られる戸と共に出て来る銀髪の侍。

 飛んできた戸については玄関より一歩横の方にいたので事なきを得た。怖い怖い。

 

「……どうしたのお前等。今日って雨予報だったっけ?」

 

「お届け物だよ、すっとこどっこい。川に落ちてこのザマだ。早く風呂に入れてやんな」

 

 そういえば事の元凶って目の前のコイツなんだよな……一発殴ってやりたいところだが、先ほどの神楽ちゃんの謝罪に免じてここは何もしないでやろう。

 背から寝ている神楽ちゃんを降ろし、放るように銀さんに預ける。

 服だけじゃなく、靴の中もぐっしょりだ。早く帰って乾かしたい。二度と土手で日向ぼっこなんてするか。

 

「オイ待て。テメーもずぶ濡れじゃねぇか。コイツと一緒に風呂入ってけ」

 

「いらね。私、自分の家の風呂にしか入れないから」

 

 即答した。

 なんというか、あまり万事屋の世話になるのは嫌だ。世話といっても今回の場合、非は完全に神楽ちゃんの方にあるのだが……

 

 憧れは憧れのまま。

 リアルだろーがなんだろーが、私は他人(ひと)と一定の距離を保つクセが出来ていた。

 他人とは一定の距離を保ち、決してその境遇には同情せず、ただ「護る」ことに徹する用心棒。

 要するに職業病というやつだ。こればかりは仕方がない。

 

「宿の枕じゃ寝れねぇってタチかよ。けどそのまま帰ったらお前も風邪引くぞ」

 

「大丈夫大丈夫。今まで風邪なんて引いたことねーから」

 

 ちなみにこれは本当だ。

 あちこちの地域や惑星を流れ歩いていた頃も、どしゃぶりの雨に濡れていても風邪だけは引かなかった。痛かったのは仕事でできた怪我くらいのもの。私の身体にも某テロリストと同じように様々な病原体に対する抗体があるのかもしれない。

 

 給料はちゃんと払ってやれよ、と言い残してその場を去る。

 後ろからまたも呼び止めようとする銀さんの声が聞こえた気がしたが、応えるつもりはない。

 ……というか。

 

 

『うあああ! 何アルかこれ!? ビチョビチョで気持ち悪いヨ銀ちゃん!!』

 

 

 気がついたのか、神楽ちゃんの声が聞こえた。

 さっきまでのことをもう忘れたのかあの子は。

 

『うおっ、起きたのかテメー。俺ァ川に落ちたとしか聞いてねーぞ。早く風呂入れ』

 

 人の物取った上に自分から落ちた、というのが正しいけどね。

 ばたばたと神楽ちゃんの足音が止んだ後、しばらくすると戸が閉まった音がした。

 それだけで、私のことを最後まで気にかけてくれたことがくみ取れる。

 優しいなーと感じながらも決して振り返ることはない。

 

 後は頼んだぞ、保護者さん。

 

 

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