銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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怪物

「船へ急げェェェ!!」

 

 爆撃轟く戦火の中、真選組・見廻組・攘夷党の者たちは脱出船へと乗り込んでいた。

 彼らの退却戦は完了間近だった。道を塞ぐ奈落の手勢が急激に減少したことで道を進みやすくなったのが大きい。

 

 そう、とある天災じみた一人によって。

 

「奈落が……全然こっちに来てない……?」

 

 志村新八の零した言葉に、歯噛みしたのは銀時だけではなかった。

 敵勢の方針転換。自分たちは今、それにあやかっていると自覚する者たち全員がだ。

 すなわち──この現状は、()()()()()()()()()()()ことによって成立していると。

 

「ッ……」

 

 彼女の、単騎爆進の戦いっぷりは遠目からでもよく分かった。

 移動するたびにぶっ飛ぶ森。

 走るだけで死んでいく敵兵。

 屍山血河で黒縄島を開拓する勢いの暴れようを。

 なんというか、もう、人の形をした台風か何かだった。

 

 そんな相手に、自分たちの助けの手など考えるだけ無用、どころか邪魔にしかならないと思われるが──

 

「……おい新八、神楽。お前らはこいつらと先に行ってろ」

 

「!? ちょっ、銀さん!?」

 

 船の搭乗口の前で、いきなり銀時が足を止める。

 更に正気を疑う発言に、驚きの声をあげたのは新八だ。

 

「俺ぁちょっと野暮用思い出したわ。あー、あっちでバーサークしてる方じゃねぇぞ。むしろ、アイツに殺されかねない兄弟子(知人)の方だ。そっちは引きずってでも連れ帰らなきゃならねぇ」

 

「馬鹿かテメーは!? ここに残っても死にに行くようなモンだぞ!!」

 

 続く土方のもっともな意見に反応したのは、信女に支えられてやっと立っている状態の佐々木だ。

 

「まァ……現状、私たちは一人を残して帰ろうとする直前なワケですが。警察組織が揃って呆れますね」

 

「こ、こいつ……!!」

 

 元はといえば見廻組も真選組と敵対していただろうに、と様々な言いたいことが土方の喉元まで来る。が、下らない言い争いをしている場合ではない。

 

「じゃあ、銀ちゃんがそっちに行くなら私は彼方の方に行ってくるネ」

 

「あ? 何言って……」

 

「なら僕は神楽ちゃんと一緒に行きます。銀さん、一人で大変でしょうけど頑張ってくださいね」

 

「いやちょっと待てお前ら。先に帰れって……!!」

 

 ──ああ、しまった始まってしまった、と土方は思った。

 こんな事を言い始めたら絶対に聞かない連中なのだ。ぐだぐだ言っているが、彼らの中でこの島に残ることは決定事項になっている。

 沖田もまた土方に視線をやった。

 

「あーあ、どうしますか土方さん。民間人だけ置いて帰るなんて、コレ職務放棄に入りますかね?」

 

「ぐゥ……ッ」

 

「……別に彼女のことなら放っておいても……大丈夫だと思うけど。死なないらしいし」

 

 信女の言う通りだった。残るだけムダ、心配するだけ無用。

 不死者のために命を捨てるなど、以ての外だ。

 

「そういう問題じゃないアル」

 

 と、はっきり否を唱えたのは神楽だった。

 

「死なないからってアイツに全部押し付けて、後から何事もなく『あの時は大変だったね』とか、私、言いたくないアル。ここで放っておいたら……彼方、本当に一人になっちゃうヨ」

 

 それに、

 

「アイツのこと……誰が護ってやれるアルか。もしピンチになってたら、誰が助けに行けるアルか。ここまで借り作られてどこかに行かれたら、絶対に後悔するアルヨ」

 

 そう言って、神楽は森の方へ足を向ける。

 今もまだ、ここ以上に殺気と殺戮の気配がする方へ。

 

「今の彼方(アイツ)は私の知ってる奴じゃないかもしれないけど。──でも、友達見捨てて行くなんて出来ないアル!!」

 

「あっ、神楽ちゃん! 待って!」

 

「ちょっオイ、てめーらァァ!!」

 

 神楽が走り出し、それに新八が続き、更に引きずられるようにして銀時も追い、

 ──かけた。

 

ドッッッ!!!!

 

 次の瞬間、天から降ってきた光の一射が天地を揺るがす。余波の衝撃が起こした爆風に、三人とも搭乗口の入口まで吹っ飛ばされる。なんなら他の面子も同様で、思い切りあっちこっちにぶっ飛ばされた。

 

 ……静寂が訪れる。

 むくり、と起き上がった銀時は、なんか、森がまた大きく開拓されただろう方角を見やり、青ざめながら、

 

「……や、やっぱやめとこっかっ」

 

 当然ながら二人に袋叩きにされた。

 

 

 ◆

 

 

「体調良好、気分最高、身体万全────良し、いつでも()れる」

 

 そう言い放った彼女はやはり無表情だった。言葉からして気合を入れ直したと解るが、聞いている身からしたら処刑宣告としか思えなかった。

 

 これまでも散々宣告されてきましたが。

 

 ……妖刀を構え、やや腰を落としてスタートダッシュに入ろうとする姿勢を見る。まるで狩人だ。不死者を狩るハンター。彼女の目には殺すことしか無く、人情、人間味というのが削ぎ落されている。

 

 自らの身そのものを刃としているような。

 強い信念。確固たる意志。まるでそのためだけに自身を加工してきたのだと、()()()()()()()()()()()()のだと言うように。

 

 ()と松陽が、鬼と人との側面に対応し表出した人格ならば。

 彼女と我が師は──刃か人か。

 ……いや、それも違うか。彼女らの共通点は「化物」だ。

 

 化物として、そのように振舞う彼女と。

 化物として、人間に擬態するあの方と。

 きっと、そういう対応関係だ。

 

「……はあ……」

 

 息を吸い、空気中のアルタナを少しでも多く取り込んでおく。

 異星のアルタナ砲が降ってくる以上、いずれこの場一帯のアルタナは()()されるということ。そうなれば再生に使えるのは自らの内にあるアルタナだけだ。それは彼女とて同じだが、

 

「さぁ──死に抱かれる時だ」

 

 ──承知の上だろう。

 

「まったく……やり甲斐のある人生ですね」

 

 肉体的にも精神的にも、己が持つ「全て」を懸けねば、此処は乗り切れない。

 人は恐らく、こんな日をこう呼ぶ。

 ──決戦の日と。

 

「開幕だ、盛大に行くぞ」

 

 互いの呼吸を読み合い、刹那、飛び出した。

 間合いが迫り、刃を振るおうとした瞬間、──光を感じて、全力で右へと跳んだ。

 

「くッ……!?」

 

 落ちてきたのは先ほどのような光の一射。だがそれが撒き散らす粒子は我々にとって猛毒だ。まだ体内のアルタナで対抗できる程度の量だが、

 

──連射されれば、この場は本当に……!

 

 もはや生きていられる地ではなくなる。

 今の一射で大地が爆砕し、地盤の破片が無数に吹き飛んでいく。自分が回避に跳んだ先の足場も同様で、一気に浮き上がる感覚を得た。

 

 そこへ、羅刹が向かってくる。

 

 もはや空間から空間へと跳躍しているように見えた。だがしばらく見て解ったが、アレは恐らく空気中の“面”を蹴っているのだろう。それが恐ろしく速い速度で行われており、まるで瞬間移動に見えているだけだ。

 

 師曰く、人間と変異体の差異は、アルタナを自身のエネルギーに変換できるか否かだけだという。

 つまり変異体の彼女の身体能力は人間の能力の延長線上だということ。人間、極めるとあれくらい出来るようになるらしい。

 

 正気か松陽。もしやゲテモノ好きか?

 

「死ね」

 

 斬撃が来る。浮き上がり、暴風を受けながら、不安定な大地を足場に剣閃を交わし始める。

 攻めればかわされ、カウンターを食らい、それを利用して更に動きを作る。死角に入られれば気配を追って刀身を薙ぎ、意識と動きの隙を常に狙いつつ、衝撃を加速に変換して立ち回り、一合一合に必殺と殺意の乗った剣戟の応酬が、幾度も繰り返される。

 

 まるで生と死の狭間を、ギリギリで渡り合っている気分だ。

 ──死んでも、死にはしないというのに。

 

「二撃目」

 

「ッッ!!」

 

 光が落ちてくる。

 その時、彼女が此方の外套(マント)を掴み、左足の脛から刃を突き刺してきた。機動力を奪われると同時に、その場に縫い留められる。

 決断は一瞬だった。渾身の力で刀を振り下ろし、足元の大地を叩き割った。

 

「チィ──」

 

 彼女の舌打ちが聞こえ、足場が崩落する中、妖刀が足から引き抜かれる。動きの秘匿性を失うが、そこで外套も脱ぎ捨てた。近場にあった僅かな木片を蹴ってその場を離脱した瞬間、すぐ傍を砲撃が突き抜け、地上に着弾した。──再び地平が爆散し、一帯から緑が消えていく。この場の大地が死んでいく。

 

 もう、空気中の地球のアルタナがだいぶ薄くなっている。

 取り込めるアルタナがない状態とは、変異体にとって真空状態に等しい。その場で体内に貯蔵されているアルタナも尽きれば、この身も死に向かうのだろう。

 

 ……師が語っていた「原作」とやらでも、こうやって私を追い詰めたのだろうか……

 松陽の弟子たちも殺意が高いな。

 

「──!?」

 

 その時、頭上から更なる光の起こりがあった。

 一射目、二射目の間隔と随分と違う。早すぎる。時限制──そうか、あの砲撃は充填式ではなく、装填式……! 発射までの時間間隔を悟らせない、或いは、数えたとて無意味にする……!

 

 中空を落ちる岩盤を跳躍しながら天空(ソラ)を仰ぐ。

 そこに見えた光は、

 

「……わぁ」

 

 ()()()()。軌道衛星上からの六連射が、流星の如く戦場に降り注ぐ──!

 

──……コレ、ホントに死ぬかもしれませんね……?

 

 軽くこの世から逝く覚悟を決めつつ、更にここまで万端の準備を成し遂げた彼女の殺意に、戦慄と畏怖を覚える。皮肉ではなく。

 これまでも私を殺そうとしてきた者は後を絶ちませんでしたが──ここまで万難を排して、私に挑んできた者は他にいない。踊る心もあろうものだ。

 

 

 ◆

 

 

「ふんぬぅぅぅうううう────ッッッ!!」

 

「無理ィ──ッ!! 無理無理無理無理ッ!! 行ったら死ぬっ、これ以上行ったら絶対死ぬって神楽ちゃん!! 木を盾にして進むにしても限界があるって!! 爆風ヤバイって!!」

 

「何の砲撃!? おいどこからの砲撃ッ!? 宇宙から狙ってんのアイツッ!? 殺意の段階(ギア)違くね!! 一対一(タイマン)に戦略兵器ィ!? アイツだけ違う世界で戦ってねッ!?!?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、よ、ようやく一旦落ち着い……え、アレ? 銀さんアレ、なんかまた光ってるんですけど。流星群でしたっけ今日」

 

「バカヤロー、そんなワキャないだろ。願いが叶うってんなら、ここで流星群降るハズないもんねっ、ピカピカの快晴の夜になぁれって俺お願いしたもんッッ!!」

 

「ギャアアアアアアまた来るぅぅぅ────ッ!!!!」

 

 

 ◆

 

 

 一撃だけでも大地を焦土と化すものを、実に六連射。

 苛烈──凄絶──などという言葉だけで言い表せるものではなかった。世界の滅ぼし方チュートリアル、などと師ならば表現しただろうか。

 人が造った兵器による環境汚染と破壊活動。確かにこれは星を殺す戦法だ。

 

 ──六つ分の閃光の後、開けた視界にあった大地は白く染まり、灰燼と化していた。

 

 まさに、死の星の光景そのものだった。

 

「──ッ!!」

 

 灰の大地の上、無音の接近に振り返り、放たれてきた殺気に反応した。

 

「──は?」

 

 だが火花が散る事も、金属音が響くこともなかった。

 ぽん、と視界に放られてきたものがあったからだ。

 

 生首。

 

 師と同じ顔をした──首だった。

 

 その光景に、その物体に一瞬、気を取られる。

 意味が解らない、と脳が理解を拒否し。

 ──決定的なその隙を突いて、後ろから心臓を穿たれた。

 

「ごぁッ……!?」

 

「随分と殺しやすくなったな、お前」

 

 そういう事か、と全てを理解する。

 同時に。この相手がどこまでも私を殺すことに特化しているのを、真の意味で理解した。

 中空に放り投げられていた生首が、結晶化して砕け散る。

 

「……自ら、首を……ッどこまで……!!」

 

()()()()()、だ。あの私がお前に与えたものさえ、私にとっては有用な手札(カード)の一枚に過ぎん。我ながら良い仕事をしたものだ」

 

 心臓を抉り抜かれつつ、更なる斬撃が来る。それを弾きつつ、後ろへ跳んだ。

 直後、左の肩口を衝撃が襲った。

 銃弾だ。彼女がこちらへ接近しながら発砲したのだ。ドクン、と体内のアルタナの循環が狂い始める。──これは以前にも受けた、異星のアルタナの結晶石を用いた弾丸──!

 

「さぁ、早急に死ね。とっととアルタナを使い切れ。()()()()()()()()()

 

「……それは──」

 

 それは、出来ない。

 死ぬ? あの人(先生)を残して死ぬ? いいや駄目だ許されない、私を救ってくれたあの方を、私に(こころ)を与えてくれたあの方を、一人残して、自分だけ楽になるなど──

 

 出来るハズもない。断じて。

 まだ何の恩も返せていないのだ。まだ何もお返しできていないのだ。

 ──それだけは絶対に、許されない──!!

 

「……っ、」

 

 彼女の猛攻をかわしながら、弾丸の入った部分を、刃で素早く削ぎ落とす。

 結晶石自体は体内に取り込んでしまったが、少しでも多く取り除いておくに越したことはない。

 ──再び銃声が鳴る。今度はかわした。弾丸が尽きるまで回避に専念したい。いや駄目だ、そちらに気を取られすぎると、次の砲撃に対処できなくなる。アレを食らうのは致命的だ。

 

 ならば、銃そのものを──

 

「忘れていないか?」

 

「!!」

 

 瞬間、彼女の妖刀が光を放った。

 ああこれは本当にマズイ、と本気で思った。

 

「く──!」

 

 射撃をかわした途端、光が爆ぜた。

 妖刀が放つ収束波。異星のアルタナが斬撃として放たれ、右腕が持っていかれる。再生に、また、体内のアルタナを消耗していく。

 

「ッ!? ごほッ……!」

 

 急に、むせた。

 血を吐く。右腕の再生が、滞っている。これは──

 

「効いてきたか。なぜ土地を灰になるまで砲撃したか分かるか?」

 

「……ぁ、」

 

 ここは既に異星のアルタナによって汚染された地。

 そこに舞う粒子も、灰すらも、蓄積すれば摘出も分解もできない毒素となる。

 

「結晶石、空気中の粒子と灰。三重のスリップダメージだ。心臓を突き、片腕を失ったとまでくれば、かなり()()んじゃないか」

 

 ──いや、まったく。

 悔しいとか言うより、脱帽したい気持ちですね?

 

 だが感心している場合ではない。一刻も早く、一手でも多く、彼女の武器を取り上げなくては。

 時間が経てば経つほど此方が不利だ。天地の主導権を握られた以上、彼女も引きずり下ろす以外に道がない……!

 

「……ッふ!」

 

 右腕の蘇生が完了した瞬間、彼女へ向かって飛び出した。

 発砲音と共に弾丸がくる。そちらの回避は揺らめく白刃をかわすより易い。問題は、

 ──斬撃だ。

 

「消し飛べ」

 

「ぅうッ……!!」

 

 視界が白く染まる。正面、避けようのない死が迫る。

 ならばと、高く跳躍した。斬撃の波を飛び越える。眼下に、そんな此方に目を向ける彼女の姿があった。射撃が来る。刃で斬り弾いた。直後、()()()()()()加速し、羅刹へ突貫した。

 

「!」

 

 そんな此方の動きに彼女は跳びさがる。

 空中を踏んだかのような今の挙動。理屈は単純だ。自ら左腕を斬り、跳躍と同時に足元へ放っただけ。彼女の空中跳躍の真似事でしかありませんが。

 

「身を削り始めたか!」

 

「そうでもしないと勝てなさそうですからね……!!」

 

 速度を、緩めない。攻める。踏み込む。近づく。弾丸をかわして、銃を彼女の手から弾き飛ばした。瞬間、下がる。向こうが繰り出してきた一撃が首を掠めていく。おお恐い。

 

 ──次の砲撃が来る前に決める──!

 

「おォッ……!!」

 

 その決意で、攻め込んだ。斬り、弾き、突き、結び、打ち、かわし、読んで、生と死のギリギリを実感しながら、打ち込み続ける。なるべく呼吸は数回で、狂った再生力に吐血しながらそれを無視して、この壁を越えるために生き足掻く。

 

 瞬間、視界に赤が舞った。血液だ。羅刹が自分の血を撒き、こちらへの目潰しに掛かった。単純な戦法ですが実に効果的。大きく左へ跳躍することで回避し、すぐさま飛んできた斬撃光を、咄嗟に身を低くすることでやり過ごす。その直後、肉薄していた彼女が妖刀を振るい、その刀身を柄頭で止めると、顎下から蹴りを食らう。

 

……いや本当にお強いですね……

 

 次いで、再び収束するエネルギーを感じた。間髪入れずに胴へ拳を入れた。が、左手で掴まれ、止められる。光を帯びた妖刀が首目掛けて一閃される。

 

「……ッ!?」

 

 ()()()

 今にもエネルギーを解き放とうとした刀身を、歯でかじりつき、砕きにかかる。当然ながら顔表面から頭が溶け始めているが構いやしない。そのまま、右手の刀で彼女の心臓を串刺し、引き抜き、一瞬で妖刀を握るその右腕を斬り落とす。

 

「ぎィっ……!!」

 

 彼女が血を吐きながら倒れかける。

 妖刀からエネルギーが霧散する。拳を引き、くわえていた妖刀を手にした。容赦も躊躇いもない。これで彼女の首を落とし、

 

「な、」

 

 不意に、左手首から先が消失した。()()()()のだ。──(なに)で?

 今の彼女には何の得物もない。不可解の断割。いや、

 

(──骨──!?)

 

 そう、骨、だった。

 先ほど私が斬った右腕を、その骨を、()()()()()()()()()()()()()使()()()のだ。

 分離していた彼女の右腕が結晶化し砕ける。落ちた妖刀を左の手で掴み取られる。此方が振っていた右の剣撃を受け止められる。同時、私は左足を跳ね上げ、その頭を蹴り飛ばした。

 

「ぐァッ、」

 

 彼女の身が飛ぶ。

 血を吐く。体が重い。上手く、左手を再生できない。

 構わない。

 足に力を篭め、飛んだ彼女を追いかける。

 灰燼の上に倒れ込んだその身は、起き上がりかけたところだった。遅い。間に合う。

 

「虚」

 

 辿り着く直前、彼女の声が聞こえた。

 変わらぬ、平淡な調子で。

 

「──私は、お前さえ滅ぼせれば構わない」

 

 その声を斬り裂くように、刀を振るう。

 トドメの一撃を──!

 

「────な、」

 

 が、止められた。

 木刀だった。

 ──それは、彼女の妖刀ではなかった。

 

「君は──」

 

「マジで先生と同じ顔かよ──虚」

 

 銀髪の、侍。

 ()()()()

 なぜ……ここに。

 

 理不尽的な運命を感じながら、背後からの気配を察知する。

 瞬間的に刃を弾きつつ、その場から大きく離脱すれば、先まで居た位置に、眼鏡をかけた少年と、先ほど見かけた夜兎の娘が攻撃を空振りしたところだった。

 

「彼方さん! 大丈夫ですか!!」

 

「やっぱり危ない所だったネ。一人でやるからヨ」

 

 そう言って、彼女を護るように立つ彼ら三人。

 彼らの登場は、──しかし、羅刹は驚いた様子も呆れた様子もなく、やはり無表情のままで、

 

 一拍置き。

 

「──なぜいる」

 

 と、訊いた。

 

「このままお前がおっ()んだら寝覚めが()りーんだよ。松陽の奴になんてどやされるか分からねぇしな」

 

「来る途中で銀さんに聞きましたけど……アレが、実さん、いや松陽先生の別人格……?」

 

「……、なぜ来たんですか? 君たちの目的は、この島からの脱出のハズ……」

 

 羅刹の質問の繰り返しだが、はっきりさせておきたかった。

 彼らはどんな意志で、わざわざ此処に来たのかと。

 

「言っただろ。こいつが死ぬと都合の悪ィ奴がいるんだよ」

 

「……つまり……松陽のためだと?」

 

「好きに解釈しろよ。なんにせよ、こいつを連れてくのを邪魔するってなら相手になるぜ」

 

 連れていかれるのは困る。

 彼女をここで逃せば、私の(唯一)が殺される。

 

「──万事屋。これは私が為すべき事業だ。依頼もしていないのに首を突っ込むな」

 

「知るかよ。首突っ込める余地があった方が悪いだろ」

 

「暴論の極みか。ここで先に貴様らを始末してもいいんだぞ」

 

「そーかよ。だったら三つ巴だ。てめーだろうが虚だろうが、両方相手にしてやらぁ」

 

 ──もはや論理も何もない言い分だった。すなわち馬鹿というやつである。

 ……なるほど……松陽、貴方の教育の結果ですか。共に我が師から何を学んだのか。もう少し他にやりようはなかったんですかね?

 

 などと、私が思っても仕方のないことだろう。

 いずれにせよ──斬るべき相手が増えただけだ。

 そこで羅刹が、最後の質問をした。

 

「……()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「したいところだが、(やっこ)さんはやる気のようだしな。てめーが協力する気なら、まずはあっちからだ」

 

「誰が協力だ──アレは私の獲物だ」

 

 そこで大方の肉体の再生が終わったのだろう、彼女も立ち上がった。

 骨が折れるどころじゃ済まなそうですね、と私も開戦の予感に集中し、

 

「──!?」

 

 途端、後ろへ跳びさがった。

 攻撃は上からだ。砲撃ではない。──上から、人影が落ちて来たのだ。

 

「あっれ、かわされた。完全に奇襲だったでしょ、今の」

 

「……神威(かむい)ッ!?」

 

 突如として現れた三つ編みの青年の名前らしきものを、夜兎の娘が叫ぶ。

 どうやら予想外の珍客のようだった。と、更なる気配の増加に、天を仰げば、

 

「……宇宙海賊、春雨(はるさめ)……!?」

 

 眼鏡の少年がそんな声を作る。

 黒縄島上空に、ステルス状態だったらしい、いくつもの飛行戦艦が現れてくる。

 ……これは……一体、なんです?

 

 状況が上手く理解できずに傍観していると、船から次々と何十人もの気配が降ってきて、先ほどの青年の周囲に着地してくる。

 番傘を持った傭兵部族。──春雨第七師団、夜兎の集団だった。

 

 ……あの? ちょっと……あの???

 

「お前ら、なんでここに……!?」

 

「地球上で一番強い奴がいるって聞いて。君たちだけで愉しもうなんてズルいじゃん。俺たちも入れてよ」

 

 …………ズルいっていうか、その…………

 

「ッッ!!」

 

 瞬間、凄まじい生命の気配を感知した。身を翻すと、空気を突き抜ける拳が鼻先を掠めていく。一歩後ろに下がることで距離を作り、そこにいた人影を見る。外套をまとった男だ。見たことがある。宇宙最強のエイリアンハンター──星海(うみ)坊主。

 

「パピー!?」

 

 しかもまたあの夜兎の娘の身内らしかった。どんな一家だ。

 

「ほう、俺の一撃をかわすか」

 

 言葉に構わず刃を振るった。が、相手の番傘で受けられる。これまで相手にしてきたどんな相手よりも強靭な壁に思えた。互いを弾き飛ばし、再びぶつかる。意識の間隙に潜り、瞬間的に背後を取ったが、──第六感か経験によるものだろう、反応してきた左拳が飛んできて、

 

「っォ!?」

 

 スレスレでかわし、一閃した。向こうが驚愕の声を上げつつも咄嗟にかわしていくものの、彼の左腕が斬り飛んだ。──義手か。

 大きく距離をとり、星海坊主が警戒の眼差しでこちらを見やった。

 神威という青年がそんな彼に白い目を向ける。

 

「何やってんのハゲ。油断かよ」

 

「うるせぇ。……アイツはヤベェぞ。エイリアンハンター生活25年、俺が出くわしてきた中でも、最も危険な生物かもしれねぇ」

 

「星海坊主さんがそこまで……!?」

 

 ……周囲からの恐怖と怯えが、やや増すのを感じる。

 なんなんでしょうかね一体。顔には出しませんが、どこからいきなりゾロゾロとやって来たんですか貴方たちは。

 

 羅刹さんにこんなにお仲間がいたとは──……

 

「……?」

 

 いや、違う。なんだ今の引っかかりは。

 何かを、見落としている気がする。

 ……何を?

 

──出来ることは全て仕込んできた──

 

 彼女は、そう言った。言っていた。()()()()()()、と。

 出来る範囲の全て。私を滅ぼすための全ての手を尽くしてきたのだと。

 

 自身のクローンを新たに造って奈落をおびき出す囮とした。

 衛星軌道上にビーム砲を設置して悪魔的に使いこなしてみせた。

 自らの首を斬って私の動揺を誘った。再生能力を操って骨刃を作った。異星のアルタナを用いる携帯装備で私をここまで追い込んだ。

 

 そして最後の一押し。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……!!」

 

 ぞ、と悪寒が走り抜けた。

 それはまだ、私に人間性というものが残っていた証。人間に近しい道徳倫理を持ち得ていたことの証明だろう。今はそれに感動することすらできないが。

 

「あ、そうそう。()()()()()()()()()()()()()

 

 神威と呼ばれていた青年が言った途端だった。

 春雨の船から、続々と、多くの天人の兵士たちが地上に降下してくる。

 この灰燼領域の中央に立つ私を、大きく取り囲むようにして。

 

 春雨三凶星を始めとした、先日第七師団に吸収・統合されたという十二師団の精鋭たち。

 現宇宙、最大の戦力が。

 

「──げ!! 高杉!?」

 

「なんだそのツラは。悪い夢でも見たか──銀時」

 

 更には第七師団と協力関係にある組織、鬼兵隊と思しき者らまで、森の向こうから歩いてくる。

 松陽の弟子の一人、高杉晋助が率いる部隊が。

 

 ……これは……これは………………

 

「み、皆! こんなに来るなんて……!」

 

「──ちょーっと待った。海賊だけに良い顔させられねぇなぁ」

 

「え…………こ、近藤さん!? 真選組と……見廻組まで!? どうして!」

 

 更には、鬼兵隊の登場を合図に、逃げたはずだった警察組織……真選組と、見廻組の隊士たちまでが歩み出てきた。

 流石に負傷兵は置いてきたようだが、この場に立つ者らは最低限の治療受けて来たらしい。包帯を巻いた隊士の姿が多いが、闘志に満ちている。

 

「どうしてもこうもないさ。聞くに、ここがあの化物を倒せる最後のチャンスらしいんだろ?」

 

「奈落、天導衆……後々いつかまた衝突する相手だ。ここで大将首取っといた方が理にかなってる」

 

「ク、幕府の狗どももようやく目が覚めたってワケか。それとも尻尾巻いて逃げる度胸もなかったか」

 

「そこまでにしておけ高杉。いずれにせよあの男は、俺たちの手で決着をつけるべき相手だろう」

 

 近藤勲、土方十四郎、高杉晋助、桂小太郎。

 真選組と攘夷志士という、本来対立するハズの彼らまでもが、今は協力的な姿勢を見せている。

 

 ──私という一つの共通の敵を前にして。

 

 春雨、鬼兵隊、真選組、見廻組、攘夷党、万事屋。

 今おそらく、この場にかき集められるだけの戦力全てが、ここに揃っていた。

 

 

 彼女(羅刹)の暗躍の手によって。

 

 

「彼方お前……思ったより友達多いじゃねーか」

 

()()()()()()()()()()

 

「どいつもこいつも素直じゃないアル。困ってる女の子がいたら手を貸したくなる馬鹿な連中ばっかりネ」

 

「──そうか。理解に苦しむな」

 

 ……本当、なのだろう。

 本当に羅刹自身は、誰にも頼んでいなければ、誰にも頼っていない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 先ほど、彼女は言っていた。

 “お前()さえ滅ぼせれば構わない”、と。

 

 すなわち、もう、彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 自分以外の誰かでもいい。私を殺し、滅ぼせるのなら誰でもいい。

 

 見えない糸。見えない繋がり。見えない絆。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 率直に言おう。

 

 

 ────驚嘆の極みである。

 

 

 ◆

 

 

『怪物の三原則』

 

 遠い日、師との記憶が蘇る。

 

『一つ、不死身であること。二つ、正体不明であること』

 

 そんな事を、言っていた。

 人間としての振舞い方も、怪物としての振舞い方も、あの方は教えてくれた。

 

『──三つ。言葉を話さないこと』

 

 そうか、と理解した。

 この場で私に求められてるのは、つまり、そういう事だと。

 

 

 ◆

 

 

 それはそれとしてだ。

 

「……」

 

 ……えーと。

 私、もうかなり満身創痍なんですけど。

 

 えっ。

 

 ここから私一人でこの人数、相手にするんですか?

 

 ……。

 

 

 えっ??

 

 




Q.つまりどういう事です?
A.虚VS銀ノ魂篇の総力戦(-かぶき町戦力)+攘夷党と鬼兵隊と春雨十二師団再編成仕様

羅刹「これが絆のチカラだ(真顔)」

 箇条書きマジックが発動した!
 オリチャーでかぶき町を救った! 宇宙最強の夜兎一家の母親と同じ種族! その夜兎一家(割と)友好的な関係! 自分を化物だと自虐してみた! 吉田松陽を生存ルートに叩き込んだ! 沖田ミツバを生存ルートに叩き込んだ! 佐々木妻子を生存ルートに叩き込んだ! 今井信女にトラウマを刻み付けた! 周りを突き離しつつ要所要所で援護クリティカルを出した! 黒縄島で奈落をいっぱい倒した! 真選組と見廻組の負傷兵が原作より減った! 皆には絶条ソラも殺すつもりであることを特に話していない!

 まあ普通に助けにくるよねって話。
 良い人たちだなぁ、ほんと(地獄への道は以下略)。

 幼女戦記の「Remembrance」をかけつつ。なんでこの展開でこの音楽が執筆BGMになるんだ……
 ラスボス視点から見た主人公の仲間たちが集結してくる決戦展開って結構なクソゲーな気がする(小並感)
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