銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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矛盾

「もういい。帰る」

 

 ──盤外。絶条ソラが支配下においた戦場の外、森林。

 肉体を再生させた羅刹はそんな事を言って、()()()()()()()()()()()。ビーム砲も使い切った今、もはや逆転の目はない。次は300個、いや3000個ぐらい用意しよう、などと考えながら。

 

「ま、待ってください!?」

 

 そんな踵を返す彼女を引き留めるのは、松陽だ。

 遅刻。出禁。生存ルートなのに出番ナーフ。あらゆる運命の苦難に翻弄されつつも、この度、ようやくソラの介入(回収)によって、この最後の舞台に間に合っていた。

 

 松陽の声に羅刹は足を止める。

 彼女は別に、他人が嫌いなワケでも、拒絶しているワケでもない。復讐相手さえ絡まなければ、至ってまともな対応を行う。

 

「……彼方さん。復讐は……まだ続けるおつもりですか?」

 

「当然だろう」

 

 松陽に振り返り、仇と同じ顔を見ながら彼女は言う。

 

「この先、何百、何千年かかろうと(アレ)は排除する。──いや、その前に絶条を殺し、宇宙ごと破滅させる決意を固めさせる方が効率がいいかもしれないな」

 

「──今の彼はもう、そんなことを考えはしても、実行には移しませんよ」

 

 軽く羅刹が首を傾げる。

 

「何故だ」

 

「悟っているからです。魂とは……人間とは何かを。死別()を以ってさえ、滅びることはない。貴方もそれは……気付いているんじゃないですか?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──ッ」

 

 そうだ。

 虚の悟りは、彼個人が見出した真理に過ぎない。

 結局のところ、その価値と意味に、同じくらいのものを感じられなければ、どんなに真理を諭したところで意味はない。

 

 彼女にとって意味のある言葉でなければ。

 説得も何も、出来ない。

 

「…………前から、気になっていたんですが。なぜ貴方は、笑いも泣きもしないのですか?」

 

 それは意図的に、避けていた質問だった。

 問えば答えは返ってくるだろうとは思っていたが、松陽は優しさから踏み出すことをしなかった。気遣い、故の躊躇い。己のような──彼女の過去に大きく関わった者が踏み込んでいい領域ではない問い。

 

 だが、それをずっとしなかったから、こうなっている。

 だから問いにして、ようやく伝えた。

 

「……忘れたくないからだろうな」

 

 そして答えは、きちんと返される。

 

「忘れたく、ない?」

 

「怖いんだよ、上書きされるのが。奪われた家族との思い出や記憶、それに勝るものを作りたくない──劣化させたくない。人間は刹那を累積して生きていく生物だ。そしてやがて過去を埋もれさせ、いつの日か割り切って、乗り越えて……忘れていく」

 

 そういうものだ。

 それは悪いことではないし、そうなってしまう人間の脳の仕組みだ。

 ──だが。

 

「それが許せなかった。いや今も許せない。とんでもない欠陥だ。()()()()()()()()()()()()()。あれだけ愛していたのに時間が経てば忘れる? あれだけ楽しかったのに今を優先して楽しむ? ──酷い話だ。成長こそが是であり、不変こそが否である悪ならば、()()()()()()

 

「──、」

 

「私は現在にも未来にも『幸せ』を求めない。私の幸福は……過去にしかないんだから」

 

 永遠を生きる。

 不死の身で、永遠にそうやって生き続ける。

 彼女のする話と、彼女自身。どちらが酷い話なのか、優劣などつけようもない。

 つけられるものではない。

 あんまりだった。

 

「私の魂は過去に置いてきた。これからもずっとそうだ。だから泣く権利も笑う権利もない。

 ──それは、特別なことだ。()()()()()()()()()()()()

 

 ──(おまえ)が奪った。

 ──取り戻しようのないもの。

 

 真の意味で、彼女は彼らの罪罰の化身だった。

 ソラが世界を愛し、現在と未来を肯定する側面を請け負うのなら、彼女はその逆。

 戻らない過去に固執し、その価値を維持するために、永遠に在り続ける愚者の末。

 

 それでいい、と彼女は完結(納得)する。

 閉じたセカイ。泣くことも笑うこともなく、憎悪が果たされるまで、そうやって生きていくと。

 

 ……かつて。

 松陽は、己が身にあるのは死して償える罪過ではなく、せめて生きて己を憎み続けて欲しいと言って、ある子供を助けた。その子供はむしろ松陽に恩を感じ、一番弟子にさえなったが────

 

 本当に自分を憎み続けた存在が、この相手だ。

 

 なんて傲慢。なんて愚か。結局、自分のことしか見えていなかった。弱さと戦う? 自分の魂を護るだと? ()()()()()? ああまったく、思い上がりにも程がある。自分に出来ることなど、何もありはしない。その意志を受け止めて、粛々と、彼女の道を後押しすることしか──、

 

「──待って、ください」

 

 掴んだ。

 背を向け、この場から立ち去ろうとする彼女の右腕を、力強く。

 

 解っている。

 自分に何も、権利など無いことは分かり切っている。だけど。

 

 だけど──このまま彼女を行かせるのは、あまりにも己を裏切る行いだ。

 救うと、一度決めたのだから。

 

「……貴方が、そのように生きていくのなら。私が、貴方の隣にいます」

 

「──なんのために」

 

「貴方の代わりに泣いて笑うためです。……殺していただいても構いません。私もまた、貴方が憎む仇であることに変わりないでしょう?」

 

「……、」

 

 彼女が松陽にとっての罰の化身であるなら。

 彼女にとって松陽とは、己の矛盾の塊だった。

 

 自分自身に抗い、人となった鬼。人の弟子から慕われ、もっとも幸福を願われている者。

 故に、違うと思った。()()()()()と理由をつけて、見逃した。

 目を逸らした。

 

 ──同じ(もの)であるのなら、真っ先に、関係なく、殺さなくてはならなかったのに。

 

 化物だと一度見なしたのなら平等に殺すべきだったと思う自分(カナタ)

 化物でも「先生」と慕うのなら、同じ別の化物でもただ排斥するのではなく、話し合いをするべきだったと訴える自分(ソラ)

 

(……──ああ、やはり絶条(アレ)も私か)

 

 嫌な共通項を見つけて辟易する。

 結局のところ、どれだけ人格も優先事項も違っても、根底は「同一人物」だった。

 

 というか、(アレ)を傍に置くと決めるような人格が生まれた時点で、この決意も限界だったのだろうと、彼女は思う。

 

 史実。原作知識。それを知った時、本能的に危険だと感じたのだ。

 ()()、と。

 決意が。憎悪が。この自分の在り方が。

 奴がどんな環境で育ち、どんな思いで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、何も思わないでいられるワケもなかった。

 

 憐れに思った。

 

 千年も生きてきただろうに、あんな結末しかないなどと。

 

 吉田松陽、なんて存在は関係ない。どんなに悪行を成そうと、()()()()()()()()()()()のだ。

 

 人間に疎まれながら。世界に憎まれながら。死ねなくとも、生きて来た。

 その果てに“苦しみを終わらせる”ことでしか報われない思考に行き着いてしまった。

 

 千年必死に生きてきた者の報いがそれでよかったのか?

 千年間の人生を、誰も彼も、本人でさえ、認める者はいなかったのか。

 

「酷い話だ……」

 

「?」

 

 同じ永遠を生きる化物として抱いた憐憫だった。憎みながら憐み、結果、それを切り離すように──押し付けるようにして、専用の人格を生み出した。ベースはほとんど前の生の流用だったが。

 

 あちらはあちらで、行き先を定めた。

 ソラがいる限り、満足な復讐は果たせそうもないだろう。

 だからといって殺すにしても──それは、彼女が生き直してきた千年を否定することになる。

 

 不変でいい、という決意がある以上、否定(それ)をしたっていい。

 いい、のだけれど。

 

「……復讐のやり方も、一つじゃないか」

 

 やめた。やめることにした。

 松陽(カレ)を殺めて得られる“楽しみ”など、何もありはしないと思ったから。

 

「え?」

 

「確かに、ただ殺すのでは芸がなかった。盲点だ。(アレ)にはせいぜい、『私』の無茶ぶりに付き合わされる生涯を送ってもらおう」

 

「……え……!! 彼方さん!?」

 

「何を嬉しがってるんだ? 私はともかく、あちらには欲望のブレーキがないぞ。地獄の拷問よりも厳しい未来が待っているだろうさ」

 

 まぁ、もう、知ったことではない。

 復讐の続きはあちらに丸投げる。そうすることにした。

 だが納得できないのはそんな心情を知る由もない松陽だ。

 

「……こ、この数秒で、一体どんな心境の変化が……!?」

 

「別に。自己矛盾が看過できなくなっただけ。さて──」

 

 やる事がなくなった。

 とは言っても、方法を変えると決めただけだ。過去を色褪せさせるような事はしない。

 

 未来永劫。

 吉田松陽が彼女の笑顔を見ることはない。

 

 だが──

 

「……()()()()()()()()()()()

 

「……んッ!? はい!? 彼方さん、ええと、じ、人格変わりました?」

 

「──失礼なひと。今までは余計な人間性(モノ)省エネ(カット)していただけ。復讐に個性とか必要ないし。何か問題でも?」

 

「も、……問題というか、」

 

──キャラが違い過ぎて追いつけません──!?

 

 まさか、そう、()()()調()……本来の性格、が、表出したらしい。復讐モードから通常モードへ移行しただけ。彼女自身は何も変わってはいない。()()()()()()()()

 

「そういえば、私の代わりに泣き叫んだり爆笑する人生を送りたい、という話だったわね。殺しても(好きにして)いいとも。──つまり、私に隷属したいという解釈で相違ない?」

 

「相違ありますッ!? 対等性を主張します! 貴方の隣に生涯居させてほしいんですよ!!」

 

「──うん、意味が解らない。貴方、本当に教育者とかやってたの? 信じられないわね……」

 

 松陽はショックで吐血した。

 その場に崩れ落ちそうになる。

 失恋。これが失恋の(いたみ)かぁあ──ッ!! と掴んでいた彼女の右腕が手からするりと抜ける。

 

「居たいなら居ればいいじゃない。一体なんの許可が必要なの、それ」

 

「────へ?」

 

「ああ、でも。料理の作り手くらい察する能力は身につけて欲しいわね。一切疑うことなく、あんな黒コゲ料理を私の手料理だと喜んで食べられるの、心外だったわ……」

 

「あ、あの。いえ、すみませ、じゃなくて、えっと、その、」

 

「じゃ、疲れたし帰りましょう。向こうの『私』の試練は、人間が自分で辿り着かなきゃ意味がないものだし。退場した私たちが関わるだけ時間の浪費よ。面倒くさいことは預けて、有意義なことに使いましょう」

 

 言いつつ、すたすたと歩き出す淑やかな女性。

 口調だけでなく、その歩き方まで完全に変わっていた。いや、元に戻っていたと言うべきなのか。一挙手一投足、効率だけで詰められたようなものではなく、品のある歩き方になっている。

 彼女なりの、数十年の時を生きてきた人生が滲み出ている、そんな挙動だった。

 

「──あ、あの……彼方さん!」

 

 未だ動けずも、松陽は様々な葛藤と戦いながら言葉を作る。

 言うか。言うまいべきか。いや言うべきだ。ここを逃せば最後、もう二度と言えないような気がする──ッ!!

 

「か、……帰ったら、お、お茶でもどうですかっ……!」

 

 ──勇気を振り絞ってそれかぁー、と、がっかりする脳内師匠(ソラ)の幻聴が聴こえたような松陽だったが。

 

 ふっ、と。

 微笑みというには余りにも微かな息遣いを示した相手の反応に、内心小躍りしながらその後を追いかけた。

 

 

 ◆

 

 

「────ふぅ、流石に少し疲れたな」

 

 アルタナを操った大規模テラフォーミング。これをこの場にいる人類たちの半不死の加護を維持しながらやる、というのは想定以上にキツいものがあった。だがまぁハンデとしてもゲーム難易度としても丁度いいものがあるだろう。第一、半不死でもないとこの環境は生き残れまい。

 

 今もなお六つの竜巻が発生しつつ、除去し忘れたマグマが一部残った地表、氷河期をイメージして適当に放置したまま上空で吹き荒れるブリザード、そこへ人類にも私にも未解明なアルタナの性質が合わさって化学反応を引き起こした結果、落雷が各地で雨のように降り続けており、その雷撃を受けた大地が舞い上がって、定期的に隕石よろしく落雷と共に落下している。

 

 極小スケールの世界終末の光景だった。

 

 自然災害という障害を、しかし悲鳴と雄叫びと共に乗り越えて此方に向かってこようとする気配がいくつもあるが、暴風と隕石と落雷がアンサンブルしている戦場を駆け抜けるのは、相当に修羅場を潜ってきた者らか、死を、そしてそれに伴う再生の痛覚を恐れない狂人だけだった。

 

 主に、ネームドの彼らだ。私との距離はもう、五十メートルも離れてはいない。だが隆起した地表、マグマと密林がミックスした足場と、完全に終わっている天候のコンボの前では、少しずつ協力しながら距離を詰めるので精一杯、といった様子だった。偶に喧嘩しているので、更に進行速度に遅れが出ているところもある。

 

「頑張れー。頑張れー」

 

「ムカつくッ! あそこにいる人外GM超ムカつくぅ!!」

 

「完全に遊ばれてますね僕ら──ウアァッ、眼鏡どっかいった! 僕の眼鏡どっかいったぁ!!」

 

「マジかよ何やってんだ眼鏡掛け機ッ!! てめーの主人をなんだと思ってやがる切腹しろッ!」

 

「だから眼鏡が本体じゃねーっつってんだろッッッ!!!!」

 

 ストレスと疲労で全ギレした新八が全力で銀さんを殴り飛ばしていた。それでもギリギリ殺さないラインの辺りにツッコミのプロ意識を感じる。

 

「──大師匠様」

 

「あ、松陽の一番弟子くんじゃん」

 

 と、後ろの方から錫杖片手に朧クンが出現していた。この暴風雨の中いかにして? という疑問は無用である。気配を感知した瞬間から彼には周辺環境の影響がいかないよう、アルタナガードで保護していた。GM権限というやつである。

 

 一番弟子、という呼び方に若干だけ揺れる気配があるが一瞬だ。コホン、と咳払いが一つ聞こえ、

 

「……そちらは」

 

「見ての通りお休み中でーす」

 

 地獄のようになっている領域だが、私がいる半径十メートル範囲は安全地帯だ。芝生を絨毯に座り、足を崩した私の膝上では()が横向きになって熟睡している。ウチの弟子がこんなに可愛い。

 

「向こうのギャルゲ陣営どうだった? こっち来そ?」

 

「──いえ、帰路につきました」

 

「ははは、そりゃそうか」

 

 お互いの思考回路を理解している以上、そうなるだろう。

 本当に一切の無駄を許さない彼女だが、ま、松陽と帰ったということは多少なりとも「無駄」を取り戻したようだ。無駄、つまり人間性。あいつの笑顔を見られるかどうかは松陽クンの努力次第である。

 

 でも最後の最後でドボン選択肢を選んじゃう奴ができるのか……?

 ターニングポイントでありえない不正解を選んじゃう癖、直した方がいいんじゃないかなぁ……

 

「ところで先ほどから天導衆(ほんぶ)と連絡がつかないのですが、其方の力の影響ですか」

 

「アイツら塵になったよ。今は本拠地を星芒教団辺りが襲って、次のアルタナ保全協会の座を決めてる頃合いじゃないかな」

 

 その言葉に完全に朧が言葉を失い、立ち尽くす気配がした。

 知らない間に職場が爆破されてた気分はどうよ? 清々しいだろう!

 

「……なるほど……本当の意味で『祭り』なんですねこれは。やるべき事は全て完遂された後だと」

 

「そやで。後は皆がここを乗り越えたら私の干渉はおしまい。誰も知らない未来へゴーで終わり」

 

 言葉を区切り、前方向こうで樹海を越えようと足掻いている攻略者たちの方を指差す。

 

「あっち行っていいぜ? まぁ君にも色々と私の策略に付き合ってもらったし、出来る範囲でならなんか望みを聞くけど」

 

「ご厚意、痛み入ります。ですが貴方がたのお陰で師は救われ、私もあの方の元で多くを学ぶことができました。天が落とされたのなら、烏もまたそれに従うのみ。許しを得られた暁には、再び門弟として一から出直す所存です。……あえて言うのなら、その際に使う(うじ)に何か適切なものはないでしょうか」

 

久坂(くさか)とか」

 

「む。……なぜかしっくりくるような。やはり慧眼をお持ちなのですね。──と」

 

 その時、大気を突っ切ってくる音が聞こえた。この雷鳴とブリザードと隕石という三重コラボの天気の中で。

 どうやら無理矢理、力づくで上のルートを突破してきたらしい。そんな事が出来る無茶苦茶な人材は、この宇宙中を探しても一人しかいないだろう。

 

 星海(うみ)坊主だ。

 

 飛んできたその姿が上空の視界に見える。

 

 そろそろ親子喧嘩にケリでもついたのか飽きたのか、神威の姿は近くにない。まぁ単独突破が難しい環境だろうし、恐らく春雨の夜兎勢で協力して、なんとか星海坊主を鉄砲玉としてこの地点にまで送り込んだと予想できるが。

 

「っ、」

 

「あー、いいよいいよ」

 

 構えた朧に片手を挙げて制止する。

 当然のように中空を足場のように蹴り飛ばし、フサフサの髪のおっさんがこっちへ突っ込んでくる。軽く笑いつつ言葉を放つ。

 

「早かったですねー」

 

「宇宙最強ナメんなァ!! 悪いが女子供だろうがこんなヤベェ力持った奴を野放しには出来ん! お父さんの毛根復活アタァーック!!」

 

 アルタナの影響でハゲが改善されたらしい。よかったっすね、と思いながら、宇宙最強の夜兎の拳、その右ストレートが迫ってくる。

 

 が、それは直撃する前に止められた。

 

 起床し起き上がった虚がその片手で拳を掴んで止めていた。

 

「──人の(おんな)に触れないでもらえます?」

 

 そう言って間髪入れずに星海坊主の姿を殴り飛ばした。

 立ち上がった虚が軽く髪をかき上げ、戦意を見せる。いやちょっと待てなんだその流れるような色気動作は。髪型が原作お馴染みのやつになってる! ラスボス虚モードに入ってるぅ!!

 

「私の弟子がこんなに強くてカッコイイんダァ……」

 

 はわわ状態になっていると、弟子が此方を見、軽く慈愛混じりの微笑みが返ってくる。

 やめろお前、師匠をギャップの落差で殺す気か! 奈落ってそういう組織だったのか!? アイドルグループNARAKU!? うわ普通に次の新刊のネタに使えそうだわ……

 

「……いっそ配信者デビューか? アリだな……」

 

「「何がですか」」

 

 奈落のトップコンビから良い声のダブルツッコミを食らってしまった。ていうか普通に声が良いんだし適性しかないだろう、雑談のネタが暗殺業務ぐらいしかないってぐらいで。致命的だわ。

 

 そんなことを考えていると、吹っ飛ばされた向こうの星海坊主が起き上がる気配がある。するとこんな声が聞こえた。

 

「クッ……! 知っているぞ、その空気! 瑞々しく、甘ったるぅい、なんか無根拠に幸せオーラを周囲に放ちまくってる人生無敵期間ッ! さてはお前ら……新婚かッ!!」

 

「おお、流石は既婚者。分かるもんなんだ」

 

「分からいでかッ! 俺も江華(ヨメ)と暮らし始めた頃はそりゃあ熱い毎日を──」

 

 と、そこまで言ったところで落ちてきた隕石に更に吹っ飛ばされていった。

 ちょっと猶予時間ができたな、と思いながら立ち上がり、ごそごそと振袖の中から用意していたものを取り出し、弟子に手渡す。

 

「ハイこれ再会祝いの新衣装~」

 

 ──数分後、白い長着に黒袴、黒羽織に着替えたラスボスが陣地を飛び出していった。

 長髪は弄り甲斐があったのでポニテに仕上げてみた。しかしやたら気合いが入った様子で出陣していったが、星海坊主さんは大丈夫だろうか。まぁ、死なんしいっか。

 

「……どうやって収集をつけるおつもりなんですか?」

 

「この祭り(ゲーム)は特殊勝利でしか終わらないぜ朧クン? まぁ──」

 

 その時、ザッ、と目の前まで辿り着いた人影があった。

 坂田銀時でも春雨でも鬼兵隊でも真選組でも見廻組でもない、その全ての陣営を出し抜いた男。

 原作において唯一、国盗りを実現してしまう真のバランスブレイカー。

 

「──挑戦者が来たみたいだね」

 

「桂小太郎……!?」

 

「桂じゃない──ヅラだァァァ!!」

 

 黒髪長髪、青の着流しで腕組みし、カッッ!! と目を見開いたその姿を前に笑う。

 

 さぁ、そろそろ宴もたけなわ。

 このバカ騒ぎの終演を見せてもらおうか。




羅刹/絶条彼方
 彼女の永劫の生は奪われることによって始まった。生殺与奪も何かを護ることも人の情も解するに至ったが、その上で復讐を諦めないと決定した。
 松陽がちゃんとダークマターを「彼方が作ったやつじゃない」と看破して踏み込んでいれば、今話の結論に辿り着いていた。松陽マジ松陽。
 本来の口調は淑やかなもの。ただしソラだと思い込んでた時と同じく、人格は変わっていない。また、ソラだと思い込んでいた時期に発した台詞はソラの思考回路が出力装置となっているが、意志や価値観は彼方のものである。

吉田松陽
 永遠の戦犯。なんでだ。

虚/空
 超はしゃいでる。
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