銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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終演

 桂小太郎。

 彼は吉田松陽の弟子の一人であり、坂田銀時、高杉晋助の二人と最も付き合い長く幼馴染をやっている男であり、頭良くてバカで電波という特異的なキャラを持つ変人だ。

 

 ギャグみたいなノリで初代総理大臣に就任できる辺り、色々と「おかしい」と表現できるスペック持ちの人材であることに異論はないだろう。

 

 なんかコイツが場にいたらどんな状況でもなんとかなりそう、というか。

 銀さんという主人公とはまた異なる頼もしさを有する人物だ。

 

「……」

 

「……」

 

 さて。

 彼が「ヅラだァァァ!!」と叫んでから実に数秒。

 なんか桂さんが腕組みで突っ立ったまま動かなくなった。どうした?

 

「……小太郎、」

 

「あーいや待て、待つんだ朧兄さん。この通り、俺は俺なりに見つけた結論でこの状況を解決に導きに来たのだが、──まさかコレ、先に兄さんと戦わなければならん流れなのかッ……!?」

 

 ……どうやら敵陣地に予想外の人物()がいたことでフリーズしていただけらしい。

 うん、そりゃ初動を迷うよね。やってやるぞ! と意気込んできたら、ラスボスに続く取り巻きがいて、しかも知り合いとか。

 

「うん? 私としては別に戦いたいなら戦ってどうぞ、だけど……どうよ朧クン?」

 

「私はここで何が起きているのかを見に来ただけですので……というワケだ。俺のことは一旦気にしなくていいぞ」

 

「お、おう。そうか分かった。ではそのように──ゴホン」

 

 安全地帯に踏み込みつつ、咳払いをした桂さんが一メートルの距離を空けたところまでやってくる。

 此方は正座した状態で、特にアクションを起こすつもりはない。ここまで来た以上、回答者の答えを聞くだけだ。

 

「では単刀直入に言って……此度の戦、()()()()()()だと指摘する」

 

「ほう」

 

 初っ端からダメ出しだとは容赦ねぇ。

 が、それは話の主導権を取りにいくための言葉だろう。その予想通り、桂さんが此方のアクションを待たずに話を続ける。

 

「まず両者参加者(プレイヤー)に公平を期するための『半不死者ルール』。これがいけない。戦とは基本的に()()()()()()だ。先に相手を消耗させた者が勝ち、そこで初めて『負け』が生まれる。──だが今の状況には()()()()()()。どれだけ削り合っても死者が出ない──平和的に聞こえるが、これは主催者が参加者たちを()()()()()()()檻に閉じ込めたのと同義だ。そんなものを戦とは言わん。永遠に暴れて、楽しむことだけを目的にした催し……つまり、『祭り』だ」

 

 だから、

 

「──今の状況は祭りとしては完璧でも、戦としては不完全だ。()()()()()()

 

 自分の頬の微笑みが深まるのを感じた。だが言葉を発することはない。

 それで? と、視線だけを返す。その期待に応えるように、

 

「つまり──()()()()()()()()()()()()()

 

 彼は正解に等しい答えを言った。

 

 

 ◆

 

 

 桂は慎重に言葉を選んでいた。

 目の前に無防備に座すのは、人の形をしてはいても、気配がまるで別の生物だった。人間一人を相手にしている感覚がしない。もっと巨大なモノと相対しているような感覚だった。

 

 星一つ、そのものを相手に対峙しているかのような。

 

 姿と顔は以前の彼女と同じものだとしても、中身まで同じとは限らない。そう、人外──人外の眼をし、そのような思考をし、そのようにして動く生物で、存在だ。

 

 どこで地雷を踏むか分からないし、どこで突然ちゃぶ台を引っくり返されるかも分からない。

 

 非常に恐ろしい。

 

 だがそれでも、

 

「俺は其方が敷いたこの無法地帯に、秩序を設けたい。()()()()()()()()だ。この祭りを終わらせる条件。──構わんだろう? なにせ其方は、『満足させてみろ』とは言ったが、『倒せ』とは一言も言っていないのだからな!!」

 

──決まった──

 

 内心、指差して断言まで言い切った己に感心する。よく言った、よく言ったぞ桂小太郎。さぁ頼むぞ正解であれ正解だよな正解と言え──ッ!!

 

 ──そんな必死の祈りに、

 

「ふーん。どんなの?」

 

 獲物はあっさりと、釣れた。

 

 

 ◆

 

 

「不死者と人間ってさぁ、まだ人間側に『不死』への理解が浅いから起きる偏見・差別があると私は思うんだよね」

 

 思ったより真面目な考えだ……という呟きが後ろの朧と前の桂さんから聞こえる。

 すみませんね、ハチャメチャやってますけど、ブッ飛んだ化物みたいな倫理観までは持ててないんです。

 

「そもそも変異体の実例自体がクッソ貴重だからね。例えば、千年の孤独の果てに見つけられた身内の価値の重さとか、人間には想像つかないっしょ?」

 

「ただ一人で生きるだけの千年か、親しい相手と過ごす一年か。……なるほど、人間という種の観点でいえば前者は永遠の命に等しい悲願であるが、結局のところ、変異体とは『死が限りなく遠くに置かれただけの人間』なのだな?」

 

「そうそう。アルタナで体の物持ちが良くなっただけなんだよ、実は。私や虚にも子供時代があったからね。超スロースピードで細胞は劣化してるし、老いてもいる」

 

「……今回の催しは、不死者(そちら)の良さと苦しみを人間に体験させるためのもの。俺も先ほど隕石に当たってミンチから復活したが……あの感覚は、筆舌に尽くしがたい。肉体がどんな風になろうとも、必ず死から復活させられる。そんなことが繰り返されれば、自分の命、という当たり前に持っていた人間としての感覚が狂っていくんだろうな。──この星と自分。一体どちらが自分の本体なのか、とな」

 

 理解力がバカ高くて助かるどころの話じゃない。この人、本気で不死者の理解者できるぞ。

 

「そう思ってくれた人がいただけで、やった意義はあったかな。──じゃ」

 

「ああ、始めよう」

 

 正面、胡坐をかいて座った桂さんの準備が終わる。

 互いに戦意を高めたギリギリの緊張状態。最初の一手が引かれ、公開し、戦いの火蓋が切って落とされる。

 

「では俺から行かせてもらおう──スキップだァァァ!!」

 

「何──!!」

 

「フハハハそして更に色を青に変更しつつ貴様に4枚引かせてやるッ! 強制11枚スタート! この差はデカいぞぉ……!」

 

「くッ……4枚……実に4ターン分の差……! 一対一でこれはキツイッ!!

 

「……流れるように始まってしまったので口出しするタイミングを見失っていたが。なぜUNO

 

 朧ツッコミ係の言う通りだった。

 私と桂さん、正面向かい合ってクソシリアスに始めたのはカードゲーム、UNOである。

 

「ん? 朧兄さん、話を聞いていなかったのか。此度の戦い、勝利条件を得るルールが存在しなかった。故に提案したのだ、『UNOで勝った方が勝者とし、その命令を1つだけ敗者は聞く』とッ!」

 

「聞いてた。いや聞いていたが。────だからってそんなのアリなのか」

 

 チラ、と朧くんが伺うような視線を向けてくるので、サムズアップを返す。

 

「アリだよ別に? 理にかなった提案だし。別にジャンケンでも良かったけどね」

 

「流石に人間の動体視力はこの場合、アテにならんからな……よってUNO! 老若男女、誰もが公平に楽しめる、かつ、俺が最も得意とするカードゲーム!! 悪いが本気でいかせてもらうッ……!!」

 

 桂小太郎は本気だった。本気でそう言っていた。大真面目に。馬鹿真面目に。

 嘘だろ、と正気を疑う言動だが、しかし真面目なりに真面目に考えているので理にかなっているのだ。

 

 ルールがないならルールを追加し、勝者と敗者とを分けるゲームを展開する。

 死が敗北条件から外れたのなら、生死以外での勝敗の付け方を決めようと。

 

 ──うん。やはり総理大臣になるべき器じゃないのかね?

 

「はい、ドローカード。2枚引いてね」

 

「ンヌァァァ──あと3枚のところを貴様ぁぁ──」

 

「先に上がらせはしないぞぉ……!!」

 

 カードを出し、山札から引き、スキップ、リバース、カラーチェンジを繰り返して、ゲームは進んでいく。

 攻防一体。どちらも譲らず、手札を5枚以内に強制しつつ、ぎりぎりの読み合いと駆け引きが発生する。

 

 ──だがそれも長くは続かない。

 

「UNOォォォ!!」

 

「ちぃっ……!」

 

 先に手札が1枚となった桂さんが宣言する。

 対するこちらは2枚。かなり捨てたが、いずれにせよ次のターンで勝負が決まるッ……!

 

「ふふふふ……どうした不老不死。どんなに長く生きていようと、UNOの腕は磨いて来なかったようだなッ!」

 

「まったくだ……天人襲来からの二十年間、ごった返した懐かしのエンタメ文化に夢中になりすぎた……デュエルだったら、自慢の烙印使ってたんだけどなぁ」

 

「UNOにして良かったぁ!!」

 

 話通じるってことはやってんのかい。

 彼方がなんかやったのかね?

 

「……う~~、なけなしのカラーチェンジ! UNO! 緑だ!!」

 

「ここまでワイルドカードを確保していたか……だが甘いッ!」

 

 異様な気迫をまとった桂さんが、その最後の手札を振り下ろす。

 ま……まさかッ!!

 

「ワイルドカードは最後にこそ使う!! これでアガリだァァ──!!」

 

「な──! ラス1に……ワイルドカードをッ!?」

 

「その通り……敵がいかなる読みや手を使ってこようと、『必ず上がれるラストカード』だ。エリザベスと共に培った鍛錬の日々、俺たちの絆を甘く見たなッッ!!」

 

 マジかー、負けたわ。

 UNOって思ってたより奥深いのかもしれん。

 

「ちぇー。じゃ、望みをどうぞ」

 

「俺たちの半不死化状態を直ちに解除し、ここから解放してくれ。あとついでに幕府の追跡とかもなんとかして」

 

「ここぞとばかりにねだるな? いやいいけどさ」

 

 やはり帰り道のことを考えている辺り、流石は「逃げの小太郎」といったところか。

 幕府……あぁ喜々か。天導衆を私が潰した以上、もう自分で動くしかないもんな。

 

「じゃあ軽くそっちの船にステルスかけとくよ。ここから江戸に戻るまでは持つだろうさ」

 

 パチン、と指鳴らしし、その音から伝って全領域のアルタナを制御する。

 ブリザード終了。マグマも掃除。隕石は分解して無害化。落雷も分解。大気成分を調整。死にかけてる奴らを保護して治癒しつつ、人類側に供給しているアルタナ量を徐々に減衰。密林状態も元通りにし、破壊の痕跡も、荒事の痕跡も、なにもかもを無かったかのように修復・修繕していく。

 

 桂さんの要望通り、逃亡用の戦艦にも軽くステルス保護をかけて完了。

 お開きの時間だ。

 

「よーし、大体こんなところかな。ま、アルタナの影響で皆ちょっとだけ寿命が延びたかもしれないけど、後遺症はそれくらい」

 

「待て。そっちの感覚の『ちょっとだけ』ってどのぐらいだ」

 

「二十年とか三十年くらいじゃない? 長くとも」

 

 あ、桂さんが微妙な顔をしている。ギリ許容範囲か……? みたいな苦い顔だ。はははは、百歳越しても元気に暮らせよ。

 

「……オ~イ、なんかさっき『ウノ!』って耳を疑う声が聞こえたんだけどぉ……」

 

「……まさか、桂さん。UNOで決着つけた? UNOやってた? ナンデェ!? どうやってぇ!?」

 

 と、密林の前に足止めを食らっていた銀さんや新八が、元通りになりつつある森の向こうから歩いてくる。

 事情説明は桂さんに丸投げするとしよう。

 

「フ、遅かったなお前たち! 見ての通りだ、せいぜい俺の機転に感謝するがいい。ふはははは!!」

 

「いや意味分かんなすぎて置いてけぼりなんだけど……」

 

「さーって、終わり終わり! あー楽しかった。(うつろ)ー、帰るよー」

 

 立ち上がって二回手を叩くと、どこからともなく残像を残しながら傍らに弟子がやってくる。

 ちょっとボロっとしている。そっちもかなりの激戦だったようだ。

 いきなり出現したラスボスに周囲はビクッとなっているけど。

 

「じゃあね人類諸君! 満足したので私は帰ります! これに懲りたら野生の不老不死を見かけても優しく接して、まずはUNOにでも誘ってください。いきなり殺傷とかマジナンセンスよ?」

 

 途端、天空から強風が吹きすさぶ。

 今度は何だ、と周囲が空を仰げば、そこには馬鹿デカイ──この黒縄島を優に超える大きさの、数キロメートル単位の大戦艦が出現しているのを見るだろう。

 

「先生、あれは?」

 

「新居ー」

 

「新居」

 

「初めはアルタナ操作を自由に練習する土地が欲しいな、って思っただけなんだけどさ。色々と機能性とか考えて突き詰めていったら、──なんか航空都市戦艦に行きついちゃった」

 

「都市」

 

「あのアレ、境ホラ的な」

 

「ぜんぜん分かりません」

 

 まぁ、とにかくでっかい船の上に土地を乗せて家も乗せたってワケだ。

 高度数千メートルで江戸の周りをぐるぐる回る航路だよ!

 

「じゃ、新愛なる人間たちよ! お前らも帰ったら風呂入れよ! ご飯食べて歯ァ磨いてちゃんと寝ろよ!! 寝る前に携帯の画面とか見るなよ! ばいばーい!!」

 

「いや、オイちょっと待て。まだこっちは全然流れが掴めてねーんだけど! オイぃぃぃ!?」

 

 銀さんのもっともな指摘はガンスルー。

 オチとして響き渡ってそうな叫び声を聞きながら──

 

 サッと虚が此方の身を横抱きにした途端、一瞬でその場から離脱する。

 補助しようかと思ったが、なんかこいつ、当たり前のように宙を蹴って移動している。なにその技術? どうやんの?

 

「このまま上に行っちゃってー。ハッチ出るから」

 

「……本当に今更ですが……先生って常識を超えていますよね?」

 

「えぇ? 皆に比べたらそうでもないでしょ」

 

 そうですかねぇ、と何やら憑き物が落ちたような顔をする。

 ともあれ、私の主催した最後の祭りはこのようにして終わった。

 もう何も起こらないといいなぁ、と心底祈りつつ、今は弟子の腕の中で、祭りの余韻に浸るのみだった。

 

 

 ◆

 

 

「……行っちゃいましたね……」

 

「あの野郎……しばらく見ねー間に、どこの誰よりも問題児と化してるじゃねーかよ……」

 

 黎明の陽が差し始めた青空の向こう、消えた二人の人影と巨大戦艦を見届けて、銀時たちは静かに悟っていた。

 

 ──絶大な力を持った馬鹿(アホ)には誰も勝てん。

 

 それがこの世界の真理だと。

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