銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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 アニメ銀魂20周年おめでとうございます


魘魅

「顔色が悪そうね」

 

 ──誰かに勘付かれる前に、何処かに身を隠そうとかぶき町を出ようと決意したその日。

 当然のように、その女は彼の前に立ちふさがった。

 

「……よォ、彼方か」

 

 まだ運の良かった方だ、と彼──銀時は思う。

 ここにいたのが松陽や高杉、或いは新八や神楽だったら、相当に手間のかかる事態になっていた。ならばそんな面子よりも、まだ話を聞いて道を空けてくれそうな相手だと、思ったのだ。

 

「こんな夜更けに女が一人で出歩くモンじゃねーよ? 酔っ払いに絡まれんぞ、俺みたいな」

 

「そう。じゃあ酔っ払いなら相応の与太話があるの?」

 

(……勘が良いな)

 

 薄気味悪さを覚えるほどの鋭さだ。女の勘というのは、恐ろしい。

 だがそうとは言い切れないほどの、なにか見えない威圧感が、今の彼女にはあった。

 

「あぁ…………なぁ彼方、オメー、世界か一人かって言われたら、どっちを選ぶ。一人殺して皆助かる道か、皆殺して一人生き延びる道か」

 

「余程の愚か者でない限り、前者が正答でしょう。私は一人を殺すためなら、世界を敵に回したって構わない」

 

「……だろうな。見上げた根性だよ」

 

 ──やはり、この相手なら。

 この相手なら──間違わない。きっと、正しい道を選んでくれるだろう。

 

 坂田銀時という人間に対して、それほど気負うこともなく。

 その死も、今まで見届けてきた数多の死の一つとして、記憶するだけ。

 だが──

 

「……そうか。いや、なんか妙な会話に付き合わせて悪かったな。とっとと帰ってやれよ。じゃねーと松陽の野郎、夜でもソリティアするハメになっからな」

 

「そんなのいつもさせてるわよ。下手だけど」

 

「てめー人の師匠にナニさせとんじゃァッ!?  マルチ参加しろよ! マルチプレイが基本だろそういうのは!! デュエリストの精神どこ行ったァァ!!」

 

「前から思ってたんだけど山札って卑猥よね。沢山重ねた山なんて……乱交の暗喩じゃない?」

 

「一番卑猥な発想してんのはテメェだァァァ!! そんな気持ちで握られるカードの身にもなれや! 握るべきモンが()げーだろーが!!」

 

「そんな手で握られる方が嫌だと思うけど」

 

──……こ、コイツ……かなり下のネタに乗ってきやがるッ……!!

 

 そこはやはり数百年を生きてきた人間だということか。身内や知り合いの女だったら、どっかで途中で物理的暴力のツッコミで打ち切られるだろう所を、しっかりパスしてくる。

 

 やはり剣技の最高峰に立つ者は、あらゆるネタを制するというのか……!

 

「それで、貴方はその手で何を粉々に握り潰すつもり?」

 

「ッ!?」

 

「それとも、握り潰そうとして──失敗したの?」

 

 彼方の視線は、先ほどから銀時が押さえている腹部に向いた。

 そう、誰だって見れば今の彼が平常でないことに気付く。片脱ぎスタイルの着流しを着込んで、まるでそこに染み付いた血を隠すように片手を押さえていることに。

 

「……気付いてやがったな? 初めから……」

 

「下品なネタより、それを使って有耶無耶にして行こうとする方が汚いわよね」

 

「……その下品なネタに乗ってまで、何しに来やがった」

 

「絶望的な盤面を、引っくり返しに来るのが主役の十八番(おはこ)でしょう」

 

 私ではないけれど、と。

 彼女は言って、坂田銀時を見据えた。

 

「まだ足掻けるだけの意地はある? 無いなら何処へなりとも行けばいい。そうでないなら──」

 

「──何処へ行けばいい」

 

 藁にも縋る面持ちで、銀時は食いついた。

 それを、彼方は呆れた目で見る。──こんなやり口でないと人に頼ることもできないのか、と。

 

 

 ◆

 

 

 劇場版銀魂完結篇、万事屋よ永遠なれ。

 バッドエンド確定の「5年後の江戸」を舞台に、タイムスリップしちゃった銀さんが、問題解決ために奔走する話である。

 

「あ、ソラ! 銀ちゃん見てないアルか?」

 

「昨日から帰ってなくて……どこで飲み歩いてんだか。もし見つけたら、連絡くれると助かります」

 

 週刊連載中の原作者書き下ろしで描かれた、色々と無茶と血尿の上に出来上がったというアニメ銀魂の「最終回」をイメージして編まれた長篇だ。

 銀魂名物、終わる終わる詐欺の作品の一つといえばもっと分かりやすいだろう。

 

「……おや、奇遇ですね大師匠様。それに……そちらの『先生』も」

 

「そ、そんなに嫌な顔をしなくてもいいじゃありませんか……虚? ねぇ、なんで舌打ちするんです? しばらく見ない間に表情豊かになりましたね? ……なんで先生の後ろに隠れるんですか!?」

 

「大師匠様、ウチの銀髪頭の弟弟子を見ませんでしたか。それと……もう一人の貴方も、昨晩から行方が知れません」

 

「な、何もしてませんよ? 喧嘩別れとかではなく! ……も、もしかして、銀時たちが劇場の見廻りの報酬で貰ってきた、映画のチケットを渡したのがやはりいけなかったんでしょうか……!!」

 

「まァデート先にポルノ映画はどうかと思いましたが」

 

「なんで言ってくれなかったんですか朧──!!」

 

 要するに銀魂のアナザー最終回。

 史実じゃない方の最終回。

 

「要するにこの世界は異聞帯になったワケよ」

 

 銀さんを探す万事屋、泣きながら朧をがくがく揺する未熟な方の弟子を後にして、かぶき町を歩きつつ隣の虚にそう説明を続ける。型月用語はとっくに履修させているので疎通の心配はない。

 

 赤い番傘を持たせた、人間嫌いオーラを放つどう見てもラスボスな男を連れた女に、往来の人々は見なかったことにしてそそくさと通り過ぎていく。江戸の住民は賢いなぁ。

 

「この世界は間違った歴史、消え去る運命(さだめ)に固定されてしまった、ということですか」

 

「そう。十五……いや十二年前か。攘夷戦争時代、『星崩し』の異名を持つ傭兵部隊が投入された。そいつらは『蟲毒(こどく)』という呪術を使うんだが、その正体がナノマシンっていう極小の機械(からくり)でね。人体に感染すると全身の毛髪から色素が抜け落ち、死に至る」

 

「坂田銀時もそれに?」

 

「だったら勝手に死ぬんだから介錯を求めはしないよ。白夜叉が寄生されたのは、『魘魅(えんみ)』──そいつが操る寄生型ナノマシンウイルスだ」

 

 これが私の持つ最後の原作知識。

 ああ、今これ思いっきり転生者っぽいことしてるなぁ、と遠い気持ちで思う。

 

「白夜叉の中で魘魅はコアを形成し、十年に渡って人間の遺伝子情報を喰らって進化、更に人間には対抗できないウイルスを生成して──いずれ世界中にバラまくのさ」

 

 それを阻止するために未来の坂田銀時は自害……しようとして失敗する。

 結果、世界はバイオハザードして滅亡。それがこの世界の終焉だ。

 

「世界を救うのなら坂田銀時を、坂田銀時を救うには……」

 

「──時を返すしかない。だから専門家(わたし)の出番ってワケ」

 

 

 集合場所は当然のようにからくり堂だった。

 いつもの秘密拠点だ。

 虚と共にそこへ行くと、地下の方で彼方が待っていた。

 

「いらっしゃい」

 

 ……お淑やか、な白い着物姿だ。別世界線の自分を見ている気分になる。髪を結いあげて簪を刺しているビジュアルは、なんかこう、人妻感がハンパじゃねぇ。

 

 偶に地上に行く時、顔を合わせてはいたけども……やっぱり慣れない。このビジュで復讐者の精神を成立させてんだぜ? 人は見かけによらないね。

 

 だがまあ、今回は非常事態なので虚も連れて来ちゃってるけどね。

 

「……今から弟子と(そっち)行くけど、殺し合わないでね?」

 

「世界の危機より優先するほど重要な私情じゃないわ」

 

 あ、そーね。

 なんかそーゆートコはまともよね、貴方。

 

 そんなやり取りを挟みつつ、彼女が待っている地下に行く。かつては私が培養されていた場所だ。暗がりで、闇の底には、──一人の白い侍が、壁に背を預ける形で居座っていた。

 

「……寝てる?」

 

「精神で抑え込んでるみたい。貴方が干渉すれば、多少は自我も戻ってくるんじゃない?」

 

 離れたところに虚を待機させ、私一人で坂田銀時の近くへ寄る。

 近づけば、その様子がはっきり見て取れた。悪夢を見ているように、うなされている。実際、病人と変わらん状態なので当然だろう。

 

 ではアルタナ干渉を始める。

 

「……えー……っと……」

 

 まだ神経が侵されていない箇所を探りつつ、更に内部の魘魅ウイルスに気付かれないよう干渉を始める。もはや一種の手術だ。器官の外側をアルタナで保護してしまうと、外部から侵入されるだろうから……内部から銀さん側の細胞部分を強化するしかない、か。

 

 内から強くすることによって、侵蝕の速度を遅らせる。

 アルタナ操術なんてチートを持っていてなお、鎮痛剤ぐらいのことしかできない。改めて、とんでもねぇ病状である。

 

「……寄生したナノマシンを排除することはできないんですか?」

 

「無理よ。そうしようとした瞬間、世界を滅ぼすウイルス──『白詛(びゃくそ)』が拡散される」

 

 ネーム本の情報だけどね。

 だがたとえネームだろうと神が書いた本なので重要視せざるを得ない。

 

 魘魅(えんみ)、恐るべし。

 

 干渉のし易さを考えて、銀さんを横に倒して仰向けさせつつ、干渉すること六時間ほど。

 心臓から脳にかけての「処方」が終わると、彼の固く閉じられていた目蓋が動いた。

 

「っ……う……?」

 

「──おはよう銀さん。タイガー道場あらため、アルタナ道場へようこそ」

 

「……は……? なんでお前が……いや、あ、待て。まさかッ」

 

 がばっ、と勢いよく起き上がる銀侍。

 だが上手く身体が動かせないのか、その動きはややぎこちない。

 

「治せたワケじゃない。とりあえずの応急処置だ。いずれにせよアンタは世界を滅ぼす魔王になるよ」

 

「──、……そーかよ。ケッ、やっぱ全部知ってやがんのか」

 

 が、ガラ悪ィ……

 いや、そんな空元気が出せるくらいの気力はあることを喜ぶべきか。さて──

 

「死ぬ気か?」

 

「そりゃ──」

 

「虚ー、拳骨一丁。生で」

 

「ごばッッ!?!?」

 

 一瞬で銀さんの後ろに回り込んだ虚が要望通り、銀髪の脳天に拳骨を叩き込んだ。

 地面に生首まで埋まるほどではなかったものの、しゅうしゅうとその頭から煙とたんこぶが上がる。

 

「何しやがるッ……!!」

 

「Hey、現状確認ついでに貴様の罪を数えていくぞ。──松陽や高杉や桂さんにはなんて?」

 

「言うワケねーだろッ!」

 

「じゃなんで彼方(わたし)には言った?」

 

「え? いやホラ、事情を説明すればサクッと()ってくれそうかなって……ゲバブッ!?」

 

 隣に彼方がやってきて、その顔面を蹴り飛ばした。

 病人相手にマジ容赦ねぇなこの娘。

 

「心外だわ……良識ある殺人鬼とでも思われているのかしら。(からす)でも鬼でもない人を斬り捨てる趣味はないのよ?」

 

「貴方にいつ良識があったんですか?」

 

「死ね」

 

「喧嘩すんな因縁コンビ。今はこっち」

 

 場の空気が割と最悪なので、私が進行役をするしかない。

 お前らの最終決戦(ラストバトル)はもう終わったの!

 

「しかし銀さん、お先真っ暗な状況に思えるが、なんと──ここから入れる保険があります!」

 

「マジでっ?」

 

 がばりっ、と鼻血を出しながら銀さんが起き上がる。

 本当に酷い状態だが、なけなしのギャグ要素として今は流すとして。

 

「ひとぉーつ。今回の案件はタイムトラベル案件! 肝心のタイムマシンは……ここにあるッ!」

 

「いやどこだよ」

 

「あー、上で源外さんが今作ってるから。私ホラ、一回千年前に行くためにタイムマシン使ってるじゃん? それを再現するだけだから、二週間あれば出来るってよ」

 

「早ッ!! ジェバンニジジイ早ァ!!」

 

 本当にそこはジェバンニである。

 源外さんの天才っぷりに拍手ー。

 

「……じゃあ……後は十二年前の俺……白夜叉を叩けば──」

 

「不正解。馬鹿」

 

「落第ね。ろくでなし」

 

「不合格。寺子屋からやり直しましょうか銀時くん?」

 

「なんなのてめーら! あと虚その松陽口調やめろ腹立つッッ!!」

 

 弟子も芸を覚えたなぁ。──と思うかね? ああそうさ、彼方がガン見している通り、虚の中にいる本人だよ!

 

 むしろ本家本元と言ってもいい。

 師匠成分は随分と失われたけどね。

 

「(……ちょっと、ソラ。彼、ねえ)」

 

「(……イメージ的には、ショタ時代なんだよね)」

 

「(──理解したわ。見なかったことにします)」

 

 そうしとけ。

 多重人格者なんて、ただでさえツッコんでたら、ややこしい事この上ないんだからな! これブーメラン!

 

「じゃあ正解発表するぞ? 十二年前に行って、お前が! 先に! 魘魅を倒すの!」

 

「は……? ……あー待て、そうか。それなら……!」

 

「──動けるんですか? その体で」

 

 もっともな問いを投げかけたのは虚だ。

 まあ……這ってでも坂田銀時なら行くだろう。この現状を、いずれ自分がもたらす最悪の未来を壊すためなら。

 

「……やってやるよ」

 

 その決意を証明するかのように、坂田銀時は──フラフラになりながらも、その場に立ち上がる。

 鬼のような、鬼気迫る眼光が、そこには宿っていた。

 

「こんな薄汚れちまった剣でも……護れるもんなら、まだあるさ」

 

 その有様に彼方は目を閉じ、呆れの溜息をついた。

 彼の視線を受けた虚も理解しがたいものを見る目で、だが瞬きの間に表出した彼の「師」は、仕方なさそうな慈愛の笑みを浮かべた。

 

「──決まりだ。けどやっぱりその体で戦いに行くのは無理がある。過去へ行くまでの二週間、私がずっと面倒を見てやるのも限度があるし」

 

「……? ああ、そうね。なるほど。今回の場合、その発想はアリだわ」

 

 即座に私の言葉の意味を解した彼方が、虚の方を見て頷く。

 ? と虚も銀さんも怪訝そうな表情を見せる中、

 

 

「──虚の血を飲んで不死になっちゃえよ銀さん。不死の血かナノマシンか、どっちが強いか人体実験しようぜ」

 

「「……え゛?」」

 

 

 悪魔の発想を口にした。

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