「どうやらこの世に女神様なんていねーらしいな……」
「貴方のではなく、私のですからね」
「だからいちいち嫁自慢がウゼェっつってんだよ先代魔王」
曇天。
崖上の彼らが見下ろすそこは戦場だった。坂田銀時にとっては懐かしき、虚にとっては数多ある死地の一つに過ぎない、人間と天人の屍が転がる灰色の大地。
攘夷戦争。
地球に飛来した天人に反発し、侍たちが戦った夢の跡。
現代より十二年前にあたるその地点に、彼らはいた。
「どうですか? 不死となった気分は」
「……」
どうもこうもねぇよ、と銀時は心中で吐き捨てる。
第一、虚の血を受けることにしたのは、既に体内に巣食う寄生虫を抑制するためだ。ここから先の未来が断絶する以上、永遠の時を生きるようなことにはならない。──が。
「助かっちゃいるさ。てめーの腹の中でてめーら寄生虫どもが昼夜関係なくハッスルしてるせいで、安眠もできやしねェ。それさえ無視してりゃ、こうして自我も保ってられるんだしな」
ソラが提案した悪魔の発想は、予想通り、悪魔の所業の名にふさわしい結果を銀時の身にもたらすことになった。
だが悪いことばかりでもない。虚の血とナノマシンウイルスが拮抗している影響で、今も銀時の体内には「
無論、変異体にも対応した白詛が完成すれば、本当に世界は滅亡の一途を辿るだろうが。
──全てを覆す、最後の猶予が。
◆
坂田銀時がかぶき町から姿を消して二週間。
五日も経てば万事屋近所が捜索を呼びかけ始め、一週間経つ頃には警察組織も巡回しつつの捜索に駆り出され、それ以降は初代総理大臣に就任した
「ふーん。で、こんなに集まってるワケだ」
万事屋前──
そこにまずいるのは、新八と神楽ちゃん、それにお登勢さんやキャサリンの万事屋ファミリーだ。
「わんっ」
あと定春。
相変わらずでっかいだけの白犬に見えるが、実は地球の龍穴を護る「狗神」というれっきとした私たち変異体の天敵である。マスコットキャラは甘く見ると痛い目見るんだよねぇ。
「江戸中、皆で探し回ったんですけど、銀さんの毛の一本も見つかんなくて……」
「ソラなら、アルタナで色々出来るし……見つけられるんじゃないアルか?」
「──そんな回りくどい訊き方する必要ねェだろ」
と。
場の空気をぶった斬るようにして前に歩み出てきたのは高杉だ。……相変わらず両目が揃ってる彼は違和感が凄まじいな。いや、その辺の感想はもう彼方が語ってるか。
「ここら一帯の地上は探し尽くした。奴が身を潜めそうな所も、同門の俺たちや先生で調べ尽くした。だがそれでも痕跡一つ出てきやしねェ。──だが一つだけ、地上にいる以上は探しようもない場所が存在する」
高杉の人差し指が上を指した。
「てめーの
──まあ、最終的に疑われるのは当然だ。
銀さんが姿を消した直後に、地上に降りているところを万事屋や松陽に目撃されている。容疑者筆頭候補である。正解!
「まぁ……そういうワケなんです。ソラさん。すみません」
「ソラ……何か知ってるなら教えてほしいアル。っていうか教えるまで帰さないネ。もし帰ろうモンなら──」
神楽ちゃんがそこまで言った時、辺りに身を潜めていた者らが姿を現す。
一人や二人、なんて規模ではない。
万事屋の屋根、近くの建物の屋根や影から、千人単位の人員が出てくる。
吉原自警団の月詠さん率いる「百華」。
さっちゃんと全蔵率いる忍者集団の「公儀
お登勢さんや次郎長勢力、西郷特盛が率いる勢力の「かぶき町四天王」。
それから柳生陳陰流一門、桂さんの攘夷党、高杉の鬼兵隊、見廻組の人員を吸収して再編成された真選組──他にもマダオでお馴染みの長谷川さんや、刀鍛冶や火消しの娘さんなど、ちらちらと万事屋と関わりのある顔が見える。
宇宙の春雨陣営を除いた、ほぼ全ての原作キャラクターたち。
かぶき町の主戦力が大集結していた。
「──ここにいる全員でお前を地上に縛り付けるからナ」
「神楽ちゃん、穏便に穏便に! 黒縄島でのこと忘れたの!? この状況でも普通に即死できるからね僕ら!!」
改めてこう集まると壮観だなぁ、と周りを見渡す。あ、ヘドロさんもいるぞ。こえ~。
とりあえずスマホを取り出しパシャッとく。
「『かぶき町に圧かけられてるナウw』……と」
「凄い嫌な現代人の対応してきた! 拡散してきた!! アルタナの力使うまでもなく現代社会の力を行使してきたァァァ!!」
「大丈夫大丈夫、フォロワー十万人しかいないから──あ、やべっバズり始めた」
「桂さんの顔も映ってるせいで支持率が物凄い勢いで低下してます!! ネット炎上中です──!!」
「ハ、案ずることはない。政治家など常に炎上しているような職種だ。たとえ燃え尽きようとも、俺の魂は政界に在り続ける」
「かっこいいけども! 言ってることはカッコいいけれども!!」
「大丈夫、火消しなら任せろ。今アカウント消したから」
「ソレ逆効果ァァァ!! 政治的圧力で消されたってまた炎上してるッッ!!」
軽くネット社会を焼き尽くして楽しんだところでスマホを仕舞う。
いやぁ、全部なかった事になると分かってると人間タガが外れるね。
「で、なんだっけ? 天パの侍がコンビニのトイレ行ったまま帰ってこないって? じゃあ……死んだんじゃね?」
「身も蓋もないこと言わないでください! アンタ絶対なんか知ってんでしょ!?」
「うーん、私が提示できる手掛かりといえば、これくらいかな……」
着物の振袖からメモ帳を取り出す。
銀さんから預かっといた証拠品だ。
『キノコ食べたらハラ超いて~~~~~~』
「……銀さんの筆跡ですね」
「……銀ちゃんの筆跡アルな」
「待て待て、そんなワケがあるまい。どれ、ちょっと俺たちに見せてみなさい」
銀さんのメモ帳が万事屋から桂さんとそれを覗き込む高杉に渡る。
しばらく二人とも据わった目で筆跡を鑑定し、
「「……マジか……」」
確定してしまった。幼馴染二人からの確定的な鑑定結果が出てしまった。
ざわざわと集まった皆がざわめき始める。そんな中、新八が引きつった顔で此方を見る。
「か……彼方さん。アンタこれどこで見つけたんですか」
「いやコンビニで軽く聞き込みしたら店長がくれてさ。で、その後トイレに行ったっきり戻ってこなかったって。二週間も続くウンコとかすげーね」
「どういう事ォォ!? じゃあトイレで死んだんか! あの人トイレで死んだのか流されたのか!! どんな死に方ァ!? どう転んでもカッコ悪いんですけど! ウソでしょ!?」
渡したメモ帳には、「白詛」や「ナノマシンウイルス」などという単語は書かれていない。
そもそも今の世界に白詛は広まっていない。彼方の坂田銀時捕獲RTAがマジファインプレーだったので、世界が滅びる前にこんな下らない証拠品まで捏造できてしまった。
だって銀さんがさー。
誰にも知らせないままで解決したいって言うんだもんさー。
──「銀魂」元読者としては、あの主人公からの頼み事は断れないからねぇ。
レアだし。
「じゃ、そういう事で。あんま力になれなくて悪いね」
「待っ──」
「──待ってください。先生」
おや。
踵を返しかけた足を止めれば、松陽が万事屋の後ろから来ていた。
その隣に──朧はいるが、当然ながら彼方の姿はない。
「どうした我が弟子。何か用?」
「貴方のことは弟子の私が一番よく分かっています……千年かけて私一人を救いに来てくださった貴方が、彼らの質問に頑なに答えない──すなわち、相応の理由があるものと推察できます」
「……」
「そして私は銀時の師です。彼のこともよく分かっている。──銀時に、何か頼まれましたね?」
その言葉に、周囲の空気が変わる。
綱渡りでもするような硬い表情で、此方の真意を言い当てた松陽は慎重な口調で続ける。
「……師ならば、弟子の一人くらい、自力で見つけ出すべきですが。生憎と私は、貴方ほど出来た師ではない。──お願いします。銀時がどこにいるか、教えてください」
「不正解」
「…………え?」
トントントン、と腕組みした状態で右の人差し指で腕を叩く。
でもって再び松陽を見つめ返す。
「──
すなわち。
もう一度ちゃんと答えてみろ、という意味だ。
「……! え、えっと……銀時は私の大事な弟子の一人で──」
「不正解!」
「うっ……こ、ここにいる皆さんは彼のことが心配で!」
「不正解ィ!」
「ぐぅぅぅ……!!」
そこで松陽が膝から崩れ落ちた。
どうだい? 弟子:吉田松陽の姿は!! 新鮮だろう!
「しょ、松陽先生」
「す、すまない……必ず正解するから、少し待っていて……」
と、彼の肩に触れる手があった。
桂さんや朧や高杉だ。新八や神楽ちゃんも、松陽の顔を覗き込むようにしゃがみ込んでいる。
「松陽先生、これ、たぶん難しく考える必要ないんだと思います」
「そうアル。もっとはっきり言ってやるネ」
「あ、思いついたぞ先生。もしやUNOを所望しているのではないかッ!?」
桂さんの提案に、松陽が崩れ落ちたまま、再び此方に顔を向けた。
「えっと……」
「おいおい、ゲームで聞き出そうってのか? 二番煎じは芸人的に避けたいんだが……大体お前、カードデッキ持ってんの?」
するとその場にいた全員が無言でスッ……と懐からカードの束を出し始めた。
UNOだけではない。色んなカードゲームのデッキだった。新八や神楽ちゃんのみならず、定春まで口から一枚吐き出している。桂さんは当然UNOで、松陽を始め、朧や高杉までデッキを取り出していた。
「人間社会の適応早すぎない?」
「憲法九条。江戸の住民は皆、任意のカードゲームを履修し、己のデッキを持つことが義務付けられている!」
「ここはいつから童実野町になったんだよ。戦争の放棄はどうした」
「それは十条に書いてある!」
そうですか。良かったよ。良かったか???
「ナシナシ。今回に限ってはTCGなし! さぁ、回答を続けてみよう! さぁさぁ!!」
「答えてほしいっぽいので答えてあげましょうよ松陽先生。一発当てたら教えてくれますよアレ」
「うーんうーん」
「じゃああいつが正解するまでゲームして待ってるか……」
松陽のシンキングタイムに、待っていた人々がTCGをやり始める。かぶき町って自由だね。今、それを本気で体感しているよ。流石は物語の舞台だよ。なんか……ごめんねぇ!?
「……晋助。お前、気付いてるだろう。言ってやれ」
「……あー、先生」
「? なんです晋助」
ひそひそと、そこで朧に促された高杉が松陽に何かを耳打ちした。
いいぞー、そうでなくっちゃな。松下村塾は師と弟子、一緒に学ぶ場所だからね!
「……そんなのでいいんですか?」
「多分」
弟子の後押しを受けた松陽が頷き、立ち上がる。
そして真っすぐに此方を見て、言った。
「──
「正解。では第二次試験を始めます」
「えぇ──ッ!?」
松陽の反応を無視しつつ。
視線を彼から万事屋へと向ける。
「回答権は万事屋の二人。回答時間は1秒です」
「い、1秒!? 僕らが答えるんですか!?」
「おっしゃぁ! なんでもコーイ!!」
良い返事だ。
状況遷移の速度に追いつけてない松陽がアワアワしている中、問題を言う。
「──世界と坂田銀時。どっちかしか救えないとしたら、どっちを救う?」
空白の0秒。
誰もがその刹那、脳裏にそれぞれの答えを思い浮かべ、それぞれの逡巡があって、それぞれの結論を出すだろう。
回答の1秒。
万事屋の二人の口が同時に開く。
『どっちも!!』
「──大正解」
すまんな銀さん。
私はアンタの万事屋やれねーや。