『ソラてめぇぇぇぇ────ッ!!!!』
──そんな戦場からの怒号を聞いて笑っていた。
眼下。十二年前。攘夷戦争時代。
先に送っておいた虚と不死銀さんが魘魅討伐に向かっていたところに、かぶき町戦力──というか現代における全主要人物という援軍を送りつけたのだ。
ちょっと過去に戦争しに行かない? で第七師団オンリーの神威と阿伏兎を釣って。
息子さんと娘さんが過去に行くらしいけどパパはどうします? で星海坊主も追加。
そんなワケで坂本さんこのままだとまたハブですけどどうします? で快援隊も。
ほぼほぼ、原作における最終決戦メンバーを揃えての、永遠なれ篇の決戦だった。
ちなみに戦場の一番先頭を走ってる銀さんは、修羅のような顔をした高杉や朧に追い回されている。どっちが味方で敵ですか? あそこだけなんかレベルの違う鬼ごっこやってんな……怖……
で、当の私は──その戦場全体を俯瞰できる崖上に座って、観戦していた。
だって私、レイドボスですし?
主人公陣営に混ざってレイドに参加する側には、とてもとても。
ま、単純にここからなら、全員ぶんの活躍を拝めるからね。
「村塾組の完全共闘とか熱すぎ」
しかも松陽入り。
マジでこの時代のJOY4が見たら歴史が砕けるどころの騒ぎじゃない光景だが、あっちは長谷川さんがしっかり酔い潰してきたら大丈夫。
あー、松陽が銀さんの背中護って戦ってる。弟子たちが松陽と戦場を駆けてるとかいう夢の舞台にテンション上げまくってクッソ暴れてる。いいねぇ、いいですねぇ。
「……む?」
その時、戦場の端で妙な動きをする一人の兵士があった。
……いや、兵士じゃない。あの地上を駆ける高速機動、あの子供ぐらいの小さい人影。あのボロい外套──見覚えがある、というか、身に覚えがあるぞ。
「私じゃん」
幼少羅刹。
アレ? なんでここに? ──と思ったけどまさかおい、アレか。
……坂本さんに用心棒の依頼されて戦った初陣か、コレ?
「何年前の伏線回収だよ!!」
13話ぐらいの言及だぞ! でもそういや坂本さん言ってたわ! 「戦死者ゼロ」、「途中で援軍が来た」って!! あっ、戦ってる銀さんの頭を踏み台にして横切っていった! 確定じゃん!
……虚、近くにいるけど殺されねぇか……?
と思ったが、スルーしていった。視線だけは交わしたっぽかったが……あぁ、アレか。もう原作知識あるのかもな。「永遠なれ篇」って分かってるから、喧嘩吹っ掛けても無意味になると判断したか。いやぁ、あの時代の自分自身が一番おっかねーよ。
「ロリとは思えん暴れっぷり」
万事屋の旗を掲げてる連中を護る挙動で戦場を横断している。あまりの速度に、周りは黒い強風が吹いたようにしか思えないだろう。ところで、
「彼方本人はどこいった……あぁ、もう敵戦艦に登ってるし。蟲毒対策は──あ、私か」
ふざけんなよあいつー、と愚痴りつつ、彼女へ放たれた呪符攻撃を妨害する。
奇妙な軌道、アルタナ干渉の暴発によって術が吹き飛ぶ中、鬼神の強さで魘魅の取り巻きをズバズバやっている。いや、遠目から見てもとんでもねーなアレ。やっぱあの裏ボス怖っ。
で、邪魔な兵士を大方掃けたところで、下から真選組の援護をもらって、万事屋三人が戦艦頂上に到達していた。
前世で観た映画のように。
魘魅の兵士たちを新八と神楽ちゃんが叩き、魘魅本人を、銀さんが殴打する。
崩れる戦艦。内部に落ちた彼らの姿は、此方からは見えなくなる。
「……お、攘夷四天王が合流してきたな」
どこからか走ってきた四人の将が、それぞれ分散して戦場入りするのが見える。
軽く、戦場にいる虚と松陽にステルスを掛けておく。一応ね、一応。
「これでやっと肩の荷が降りるなぁー……ん?」
一人、此方に近付いてくる気配を感じた。
知っている気配だ。だが、
「──大師匠様?」
「あれー。朧くんじゃん」
振り返ると、黒衣の戦闘着をまとった朧──この時代の朧がそこにいた。
◆
「十二年後の未来、ですか」
「そうそう。今ねー、グランドオーダーで特異点修復中ってワケ」
「なるほど……これが。先生から聞いた覚えがあります」
師から弟子へしっかり
「──お、倒したか」
何やら一瞬、戦艦から不穏な三つの黒い霧と赤いコアが出てきたが……そこはすかさず参上した攘夷四天王が叩っ斬っていった。四天王っていうか、戦艦内に飛び込んでった白夜叉以外の三人だけど。
あの戦艦内部では、銀さんと白夜叉で魘魅を討伐していることだろう。
曇天の雲間にも光が差し始め、戦の終着の気配を感じ取る。
「……未来で何が?」
「色々と最悪な事になる前に干渉したのさ。放っておくと世界が滅んでたからね」
「やはり、我々とは違うスケールで物事を見ているのですね……」
「そういうんじゃないけどなぁ」
まぁ、傍から見れば得体の知れない人外だよな、転生者って。
なぜか世界について詳しいし、存在しない世界線についても詳しいし。怖っ。
「あの、ところで気になっていたんですが」
「何かな?」
「──先生っぽいのが二人いた気がするんですが」
「気にするな……ここで見たことは忘れる。そしてあの戦場に未来の君もいる以上、いずれ全てを知ることになるでしょう……」
どんな未来だ……と若干横で
うんうん、カオスな未来を見ると混乱するよね。それが希望っていう感情だよ(適当)。
「……貴方のような方がいる以上、我々の世界はそう簡単には滅びなさそうですね」
「いやあ、結構終わらないぜ、世界?」
なにせ無数の実績があるからな!
「この世界が何度完結詐欺起こしてきたと思ってんだ。変異体の不死性が如く終わらねェんだよこの世界。どうなってんだよゴリラ原作者。とっとと先に進ませてくれよ。いつまでもいつまでも染みの取れねェしつこい汚れみたいに復活してきやがって」
「物凄い本音を聞いている気がする」
「別に何度でも映画もやるといいよ? 見に行くし金も落とすから。そんなに思い出になりたくないなら付き合ってやるよ。今度こそ息の根を止めてやる気概でな」
「殺意では?」
一読者、一視聴者、一消費者としてのスタンスである。参考にしないでね。
もうアレ、しつこいとか言う地点をとっくに超えてるし。伝統芸能の域に入ってる。
だったら黙って楽しんでやるだけだ。
「じゃ、そろそろ行くわ。まったね~」
立ち上がり、崖から飛び降りる。
朧から完全に此方の姿を見えなくしつつ、地上に落下──
「着地任せたー」
──する前に、飛び込んできた虚に空中でキャッチされた。
このサーヴァントごっこいいなぁ、無かった事になるの惜しいなぁ。
「無茶ぶりも程々にしてくれませんか?」
「別にいいじゃん。超カッコいいよ?」
ハア~~~~……とまた深い溜め息をつかれる。
お前、そういう顔してる時はスッゲー内心喜んでるって分かってんだからな?
と、そんな風に弟子をタクシーにしつつ、戦艦の上に向かう。
銀さんに色々と言いたいことがあったかぶき町の面子は大体消えて、映画通りなメンバーが残っていた。
「やっほー。皆さんお疲れ~」
「来やがったな戦犯野郎……! 信じてたのに!! お前のことは信じてたのに!!」
「そんなこと言ったらアンタまた殴られ──てるなもう」
一瞬で万事屋組が銀さんをボコボコにし始めていた。うあーッやめろーッなどという悲鳴が聞こえるが誰も助ける者はいない。残当。
「いやぁ、悪いね銀さん。私は弟子のお願いは断れないんだ。ハッピーエンド絶対主義者もね」
「本当、彼方さんとソラさんの介入がなかったらどうなってたか……」
「彼方が引き留めてなかったら、このバカ、本当にどっか行ってたアルからな……」
「五年ぐらいは本気の雲隠れできるからねぇ、銀さん……」
「オイだからお前余計なことを──ぐはァァッ」
定春の超重量が乗っかり、銀さんが潰れていた。不死になったとはいえ瀕死である。
甘んじて罰を受けている辺り、若干の反省の色は伺えるが。
「……本来の彼はどうなるはずだったんですか?」
虚の方から慈悲のない質問がくる。当然答える。
「世界を滅ぼしちゃった後、過去の自分を呼び出してそのまま消されるよ。で、後は過去の銀さんが白夜叉殺害して、一旦『自分のいない未来』を作るけど、なんだかんだでハッピ──」
「マジでありえそうな捏造予言語るのヤメロ人外コンビ!!」
「でも彼方に会ってなかったらそうなってたっしょ?」
「……ソ、ソンナコトナイヨ」
今度は横から高杉が銀さんを蹴り飛ばした。不死相手なので本当に容赦がない。たぶんアレ一回殺されるな銀さん……と思いつつ、視界外へ消えた惨劇から目を逸らす。
「まぁまぁ、世界救済RTA達成ってことで」
「あの……銀さんの不死性は大丈夫なんですよね? アレ……」
「魘魅に対抗するために与えただけですのでご心配なく。過去を変えたことにより、『血を与えた』事象ごと消えて無くなるので、元の世界の彼は普通の人間ですよ」
そういう事である。
終わり良ければ全て良し。虚の言葉に新八がホッとした顔を見せたところで、あれっ、と呟いた。
「……山崎さん、なんか半透明になってますけど……」
「えっ? ええアレェ!? なにこれェ!?」
「先の話の通り、タイムスリップの事実がなくなり、それに伴い今の私たちも存在しないものになったようですね」
すかさず補足してくれたたまも、足元から消え始めていた。
これでタイムマシンなしでも帰れますね、省エネですね、と言いつつ山崎と共に完全に消えていく。
「歴史の修正力が働き始めたみたいだね」
「オイ聞いてねーぞ! せっかく過去を改変し銀さんとの出会いをなかった事にしてリストラを防ごうと……ッ」
後味悪いこと言って段ボール防具を装備した長谷川さんも消えて行った。
変わんないなー、あの人は。
「仕事は終わったわ。私たちもさっさと帰りましょう」
「えぇ? いいの彼方? 今しか出来ないことやれるよ?」
いち早く、スーッとセルフで半透明になり始めた彼女に声を掛けてみる。
無駄な事柄は一切しないタチだが、こんなところにまで持ち込まなくたっていいだろう。勿体ない。
「……そう。じゃあ、松陽」
「はい?」
「目を閉じなさい」
「えっ?」
「遅い」
言った瞬間、彼方が松陽に腹パンを叩き込んだ。
目を閉じるってそういう……? みたいな空気が流れる中、ぐはっとよろめいた松陽の襟首を掴み上げ、自分に口付けさせていた。……あまりにもバイオレンスが強いイチャつきだな?
「──満足」
「えっ、ちょっ待ってください彼方さ──ん!?」
そこで彼方の姿が消失した。抱き締め返そうとした松陽の両腕が宙を掴む。
あまりにも虚しい光景だった。まるで彼の人生を表しているかのような。
ガクリとその場に松陽が膝と両手をつく。
「どっ……どうして……どうして……ッ!!」
「お前は……なんかこう、本当に可哀想な奴だな……」
「我ながら無様ですね」
うわーん! と軽く泣き始めた松陽を、村塾組が背中をさすって慰め始める。難儀な人じゃのー、と遠目にいる坂本さんまで同情していた。松陽、お前ほんとマジこれから頑張れ。まずは瞬発力を上げろ。
さて彼方が消失したので──当然、後を追うように私の手足も消え始める。
虚の方を見上げる。
「最後になんかやっとく?」
「ふふ、必要ありませんよ。私たちには永久に近い時間があるんですから」
「あぁッ、ズルイ! そっちの私だけズルイですよ! 先生、私も連れていってください!!」
「離れろ松陽私の先生に近寄るな!!」
虹色の残像を出す速度で腰に松陽がしがみついてくる。それを引きはがそうと虚が声を荒げる中、松陽の頭を撫でつつ、じゃっ、と私は苦笑と共に片手を挙げる。
「先に行ってるね~バイバーイ」
弟子たちと共に存在の感覚がなくなるのを感じながら。
──特異点こと、完結篇の時空から退去した。
ソラ
やっと一息つける。消える瞬間まで絶対に泣かないよう独り気を張ってた。
虚/空
当たり前のように師に頼られると嬉しい(人格総意)。内なる弟子松陽はもう一人の自分のアレっぷりに青ざめている。
完結篇を察知した時のソラの顔が追い詰められていたので心配してた。
彼方
普段はできない悪戯をやった満足感と共に退場した。選択肢を選ばせてくれる時間がとてつもなく短い。
松陽
ファーストキスだった。消える刹那、死にそうなほど疲弊した師の顔を垣間見た。
残された全員
消える刹那に見えたソラの疲弊っぷりに、「