銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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バカと終わる終わる詐欺は永久不滅
DAY×DAY


 朝。

 まだ布団でゴロゴロしていたい時に、携帯が震えた。

 眠気に抗いつつ、枕元の端末を片手で探る。どこだどこだ。──あった。

 

「んぁ……彼方からDMだ……」

 

 本当に珍しいなぁ、と思いながら画面をタップする。

 まず目に飛び込んだ文章は、

 

『万事屋が劇場の見廻りの依頼に行ってきた』

 

 ……ぅぉ……と緊張の声を上げてしまったのは仕方ないだろう。

 世界の行く末が決まる重大事項。流石に脳が覚醒し、左隣でスヤる虚の安眠を邪魔しないよう体を起こす。……見るたび思うけど、ホンット綺麗な寝顔だな。

 

 さて、三回ぐらい覚悟を決めてから、更に下にあるメッセージに目を通す。

 

『坂田銀時は普通に帰ってきた』

 

『時間泥棒に出くわした様子ナシ』

 

 ──ということは、「五年後の未来に呼び出される銀さん」ではないという事。

 すなわち──道は二つに一つ。

 

 魘魅に寄生されている彼か、

 魘魅の寄生を免れている彼か。

 

『先ほど、万事屋が出勤するところを目撃』

 

『坂田銀時の「遅刻じゃねーか」の発言を確認』

 

「……お、おお……?」

 

 その台詞は完結篇、最後の台詞。

 全てが解決した世界線の彼が言っていた、何気ない日常の一言だ。

 それが確認されたということはつまり──つまり──

 

『要注意案件を回避した可能性大』

 

「おぉ~~!」

 

 やったのかもしれない。もしかしたら。

 憶えていないだけで、私たちが頑張ったのかもしれないね。でなくとも、かぶき町の皆が。

 

「……どうしたんです……」

 

「あ、おはよー」

 

 のそり、とまだ眠気で目が開いていない()が隣で起き上がる。あーこら肩にのしかかってくるんじゃありません。

 

「今日はちょっと江戸に行ってみようか」

 

 最終訓の先を覗きに行けるのは、終わるまで最終回が来ない人生の良い所だ。

 

 

 ◆

 

 

「……銀時って、浮気調査もやってくれるんですか……?」

 

 ──その場の空気は沈んでいた。師弟の空気感はマリアナ海溝よりも沈んでいた。

 ファミレスであった。

 昨日の間に電話で連絡があって、それで万事屋面子はこの世界終了一秒前な空気を放つ、吉田松陽と、ボックス席で向き合う羽目になっていた。

 

「……あ、あのォ。どうしたの吉田サン? なんか暗いよ? 話題も暗けりゃ顔も暗いよ! なんか今にも暗殺者始めそうな雰囲気だよ?」

 

「私は本当に情けない男で……」

 

「やめようよぉ!! 聞きたかないよ! 師匠の家庭崩壊問題なんか弟子も聞きたかないよッ! またアレだろお前、すれ違ってるだけだろぉ!? あの女が浮気するってまずねーから! たぶんどっかで言葉がかけ違ってるだからッ! お前がまたファンブッてるだけだからぁッ!!」

 

 必死だった。流石に必死だった。今にも闇落ち寸前、いつも笑顔を絶やさぬ師が、世界に死を振りまきかねない雰囲気を放っている。ワールドエンドが見えてくる。

 銀時の横で、新八もまた緊張の面持ちで言葉を放つ。

 

「しょ……松陽先生。何があったんですか? 浮気って……彼方さんが?」

 

「最近……なんだかずっと家に帰ってこなくて……どこに行ってるのか朧と追跡してみたところ、どうやら場末の劇場に足しげく通っているらしく……」

 

「劇場? って、昨日俺らが見廻りに行ったところか」

 

「そういえば彼方、居たアル。やってる映画、片っ端から見て時間潰してるみたいだったネ」

 

「っつっても、それだけだろ? 誰か他の奴と楽しくなんかやってなかったぞ。ずっとスクリーンに引きこもって、微妙なB級映画ばっか見てただろ」

 

 彼方という人物の行動原理は、偶に不可解なものがある。

 合理性を優先して行動するのは彼女の知り合いの多くが知るところだが、それでも周囲にも意図が分からない、謎の言動を偶にやる。代表的なものでいえば、春雨統合作戦がその一つだろう。

 

「……すみません。浮気、というのは思いついた最悪の可能性の一つを言ってみただけで……先に言っておくことで、『ありえない』という確証が欲しかっただけなんです」

 

「まあまあ、誰だって不安になる時はありますよね。どんなご夫婦でも、パートナーが長らく帰ってこなかったら心配になりますもんねっ」

 

 沈み込む松陽を、間髪入れずにフォローしにかかるのは新八だ。

 世間一般の感覚にすぐ共感できるが故の、当たり障りのない励ましの言葉だったが──

 

「……新八。こいつ別に結婚してねぇぞ」

 

「えっ」

 

「好きな女と同じ屋根の下で二年住んでてなんにもないアル。お前に次ぐ真正のヘタレっぷりヨ」

 

「ええぇぇぇぇ!? 松陽さん!?」

 

「……お恥ずかしながら。でもまあ、私たちには時間が有り余ってますし。お互いのペースでゆっくりと──」

 

「ンなコト言ってたらポッと出の男にかっさらわれるぞ。不死者だろうが人間だろうが、ウカウカしてたら別の男んものになってましたー、は普通にありうる話だろ」

 

 そこで松陽の笑顔が色を失った。

 その目尻に涙が浮かぶ。

 

「ドウスレバイイデスカ……教えてクダサイ……」

 

「だぁあーもうこの人間初心者ッ!! 女の口説き方一つも知らねーのかァァァ!!」

 

「い、意外な弱点が……」

 

「パフェおかわりー!」

 

 かくしてファミレスで松下村塾式、口説き講座が始まった。

 今日も平和に──何気ない、日常の一つとして。

 

 

 ◆

 

 

「あら、来たのね」

 

「来たよー」

 

 団子屋に、彼女はいた。

 お淑やかな白い着物姿だ。別世界線の自分を見ている気分になる。髪を結いあげて簪を刺しているビジュアルは、なんかこう、人妻感がハンパじゃねぇ。未婚だけど。

 

「お弟子さんは?」

 

「なははは。緊急事態でもないのにお前と顔を合わせさせるほど気は緩んでないです。新刊コミック、新作ゲームの買い出しに行かせました」

 

「彼にとってはまぁまぁな罰ゲームよね、それ」

 

 彼女の右隣に腰を下ろす。正面には川が見える地形だ。どこかで見たことあるなと思ったら、たぶんアニメのオープニング映像だろう。デイバイデイ、好きだったなぁ。

 

「たぶん原作、終わったわよね」

 

「なんじゃない? 『ギンタマン』の更新も終わっちゃったし」

 

「たま子、いないわよね」

 

「そもそもたまさんが無事だからねぇ……」

 

「東京、できるかしら」

 

「その内じゃない? 新政権になって色々あるだろうし」

 

 そんなところで注文していた団子が来た。

 みたらしだ。遠慮なく頂戴する。

 

「平和ね」

 

「退屈?」

 

「そうは言ってないわ。人の営みが滞りなく運営されている証だもの。──でも、まあ」

 

 ふう、と一息ついてから、言った。

 

「エンディング後って、何をすればいいのかしら」

 

「子供でも作れば?」

 

 提案に、彼女はしばらく悩むような沈黙をみせた。

 本当に悩んでいるのかまでは分からないが、なんとなく、その未来を想像しているのかもしれない。

 

「──松陽(アレ)が父親になれるイメージがわかないわ」

 

「辛辣すぎな。本人が聞いたら卒倒するぞ」

 

「第一、もう子供が五人ぐらいいるような状態じゃないの。それに彼が父親になったら、子供は百パーセント一回グレる」

 

「反証ができねぇ……健やかに育ちそうだけど、なんらかの地獄を見そうだよなぁ。そんでその後に大成しそう」

 

 変異体の両親から生まれる子供は果たして人間か?

 ──まあ、人間だろう。江華さんから生まれた夜兎兄妹の事例がある。アルタナに適応していない以上、彼と彼女は順当な寿命を迎えるのだろうし。

 

 では私たちが生む未来とは、なんなのか。

 さんざんメタ知識を悪用して世界を救ったり一人を救ったりしてみたが、そこから新たに生み出せるものはあるのか。

 

 知らん。そんなの。

 何が起こるのか分からないのが未来だ。

 

「ていうかお前、松陽のこと好きなの?」

 

「そういうのは然るべき時にのみ言葉にすることで重みを持たせるのよ」

 

「普段から言ってやれよ。あいつの選択肢ファンブル癖、お前のノーヒントも原因にあるからな?」

 

「……善処しましょう」

 

 大丈夫かなぁ。

 0か1しか無いような自分だ、いきなり押し倒さなきゃいいんだが。

 

「……いきなり押し倒すなよ?」

 

「同人誌じゃないんだから」

 

 平気そうだった。てか、そういう単語が通じる辺り、やっぱ「私」って感じだ。

 

 

 ◆

 

 

「──ハア、我ながら無様ですね。あの方との百年の記憶は貴方も保持しているはずでしょう? たとえ別人格といえど同一人物。変に遠慮をしているからそんなザマなんですよ」

 

 ファミレス、ボックス席の対岸席。

 そこには松陽と同じ顔をした男がいた。黒い着流し姿の虚だ。冷たい眼差しは、温和な表情を絶やさない松陽とは似ても似つかない。

 

「……オイ、誰だよあの危険生物連れてきたの。ナンパできそうな奴にしろって言っただろッ!」

 

「銀さんが朧さんに連絡した結果じゃないですか……というか、まだ連絡取ってたんですね。あの二人」

 

 誰か松陽に恋愛指南を! ──ということで銀時がまず頼ったのが兄弟子だった。店の固定電話から連絡し、結果、「良いアドバイザーがいる」の一言を最後に、このファミレスに姿を現したのが虚だった。

 

 突然のラスボス降臨。

 かぶき町の治安をもってしても、彼一人が放つ終焉の気配は、覆しようがない。

 

「自分にとやかく言われたくないんですけど……というか貴方、師匠(せんせい)とは上手くやれているんですか。そちらも散々振り回されていたような記憶しかありませんが」

 

「──ハッ」

 

「オイ鼻で嗤ったぞ……凄ぇベテランの気配だ……」

 

「いや、ああいうのって逆に、こっちもあっちも大差ないオチなような……」

 

 新八が怪しむ中、虚は片手をあげて店員を呼んだ。

 

「すみません、苺パフェのセットを一つ。さて、どんな助言をしようが所詮は松陽。私たちの愛を語ったところで、二割も理解できないでしょう。第一どこまで進んでいるのです?」

 

「しれっと苺パフェ注文とかいうキャラから離れた言動しながらマウント取ってきたよこの人」

 

「おや、そう見えましたか眼鏡くん。私は既に『次に師とこの店に来た時、彼女が注文しそうなもの』を注文し、下見をしたつもりだったんですがね」

 

「ベテランだァァァ!! この人ホントにベテランだァァ! スマートなスパダリムーヴしてたァァァ!!」

 

「バ……バカな……」

 

 愕然とする松陽。戦慄する銀時と新八。窓際で二杯目のチョコパフェを食らう神楽。

 彼らの視線を受けつつ、虚は片肘をつきながら見下すような目を返す。

 

「そんな細やかな想像もできないから貴方は松陽なんですよ。子供を相手にする時の癖が抜けてませんねぇ、お人よし。どうせ同じ店に入ったところで、シェアもした事ないんでしょう?」

 

「シェアッ!?」

 

「まずい……やっぱラスボスだぜこいつ……松陽とはレベルが違いすぎるッ!!

 

「銀時!?」

 

「い、いやまあ……シェアくらい、付き合った男女の間では珍しくもないでしょ、うん。多分。……彼女いたことないから分かんないけど」

 

 その辺りで虚が頼んだ苺パフェが運ばれてくる。

 大体ですね、と真面目な顔でパフェにスプーンを入れながら、虚は言う。

 

「いつも弟子と共にいて『子持ち』みたいな顔をしてるから駄目なんじゃないですか? 彼女は師と同じ知識、視点を持っているんですよ? ──遠慮するに決まってるじゃありませんか」

 

 松陽と銀時がノックアウトされた。

 

 

 ◆

 

 

「私が接していいものか分からないのよね」

 

「あー、分かる分かる」

 

 雑談は続けばやがて誰かの愚痴大会となる。

 今がそれだった。

 

「吉田松陽の原作での最後ってホラ……アレでしょう? だから彼が彼らと平和に過ごしてるところを見るたび、思うのよね」

 

「『自分が入ることでその景色を壊したくない』?」

 

「……そうね。復讐を第一に考えていた頃は、『知るか』という怒りで蔑ろにしていたけれど、こうも平和な日が続くと嫌でも感じるわね。自分がいかにこの世界にとって不要な存在か」

 

「思うのが遅いなぁ」

 

「そう。それは貴方に押し付けていた感覚だから。傍観者として最低限の干渉だけで関わる。どうして貴方があれだけ謙虚だったのか、今なら解るわ」

 

 そうか。

 随分と人間らしくなったなぁ。

 

「どうして彼が私を気に掛けるのか……ええ、彼が仇であって、私はそれを憎んでいる。この前提は決して変えることはできないわ。でもその清算は、貴方に任せると決めた。だったら、残された私は何? 彼に求められて、愛されて……それを享受して、返礼する。それが一般的な行いよね?」

 

「人によるんじゃない? フッてもいいと思うよ?」

 

「それは……」

 

 それは、なんだろう。

 引っかかるのか。無責任だと。

 

「……彼は、幸せになるべきなのよ」

 

「でもその『幸せ』が自分に向いているのが、分からないと」

 

「自問自答はレスポンスが速くて助かるわね」

 

 そりゃあお互い、この世でもっとも理解している自分(相手)ですし?

 半身、相棒とはまた違う。彼女は私、私は彼女なのだ。どんな思想でどんな思考だろうと、共感なんてものじゃなく、はっきり「分かる」。「自分ならそう思うだろうな」、と。

 

 魘魅銀さんが過去の銀さんを頼ったように。

 過去の銀さんがその意図を理解したように。

 

 松陽が虚を封じ込めて人を愛したように。

 虚が松陽を嫌って人を憎み続けるように。

 

 ()()()()なのだ。

 

「彼方」

 

 長椅子から立ち上がった。

 

「少し歩こう──この世界を」

 

 

 ◆

 

 

「貴方が享受する幸福の価値の重さは、彼女が最もよく理解している。では今の彼女の幸福とはなんですか? 私への復讐から道を切り替え、目標を探す道中で、突然『自分の女になれ』と迫る男を、どうして好きになれるんですか?」

 

「ごああああッ」

 

「松陽ォ──! しっかりしろォ──!!」

 

「しかも憎む仇と同じ顔で……ふっ、浅はか! 浅はかですねぇ松陽。()()()()()()を送るしかないでしょう、そんなの! 謝罪をするのも筋違い、だからといって己を『殺してもいい』だのとのたまう優しさを向けてくる相手を──周りから慕われている相手を身勝手に殺すほど落ちてもいない。それは間違いなく彼女が貴方へ向ける『愛』ですよ。ですがポンコツな貴方は、また何もかも()()()()()()に思い込むことで丸く収まるなどという妄想をしているッ!」

 

「うぐあぁぁッ──」

 

「オーバーキル──ッ!! し、死体蹴りの域ですよ銀さん! こんなに酷い光景、見たことありませんッ!!」

 

「俺もだよぱっつぁん……人って自分のことになると、どこまでも残虐になれんのな……」

 

「だったら」

 

 と──剣の雨が降っていそうなほどの空気の中、声を差し込んだのは神楽だった。

 

「お前はソラのこと、どうやって『幸せ』にしてるアルか。松陽(コイツ)とお前が同じなら──何が違うアルか?」

 

「愚問ですね」

 

 ()はやはり、即答した。

 

「愛しているか否か、ですよ。──ただ傍に居たいだけだなんて、ナヨッとした考えの男とは違いましてね」

 

「松陽先生がまた倒れたァ──!」

 

 

 ◆

 

 

 かぶき町を歩くということは!

 

「聖地巡礼です!!」

 

「まぁ……そうなるのね。住んでいると、そんな感覚も薄れるけれど」

 

 というか、どこからでもターミナルが見えるので、アレを見てるだけでも充分に観光気分は満たされる。

 銀魂世界の象徴だからねぇ。

 

 そうやって二人で歩き始めると、江戸時代に人だか何だか分からない宇宙人が闊歩しているという、混沌とした町の風景が見えてくる。これですよこれ、と思いつつ、騒がしそうな気配を辿ってそちらの方へと足を向けていく。

 

「あれっ、ソラさんに彼方ちゃんじゃないか。今日は二人で?」

 

 ──と、まず出くわしたのはかぶき町の代表、マダオこと長谷川さんだった。

 相変わらず無職な様を晒している。この世界では英雄になることもなかったんだよな、この人……

 

「「ごめんね?」」

 

「なんで出会いがしらに謝られるのォ!? 憐み!? 憐みの目なの!? いや、それはそうと、そろそろ次の職は何にしようか軽く考え始めててさ……二人はなんかある? 俺に向いてそうなの」

 

「「声優一択」」

 

「声優!? え~……ソウ? お、俺、そんなに良い声してるかな!?」

 

 ちょっとやってみようかな……と呟き始めた彼を置いて、そのまま歩き続ける。果たしてこの世界では脱無職できるのか。そんな日が来るのか? それは本当に神のみぞ知る。

 

 選挙カーが走っているのが見える。そよ姫だった。護衛に信女さんの姿はあるが佐々木さんの姿はない。裏方、というやつだろう。新たな警察庁長官は信女さんになったらしく、そこだけ見れば原作と何も変わらない。──お忍びのような格好で歩いている、どっかで見たことあるような間のびした顔と、うんざりしたような顔をして歩いているバカ殿を除けば。

 

「お前、なんか言ったの?」

 

「異世界の歴史の授業を少々」

 

 博識ですねー、と言いながら通り過ぎる。佐々木さんに続いて喜々まで生存とは、政界は色んな意味で荒れそうだ。

 

 さぁ次次、と行けば今度は黒隊服の集団を目撃した。真選組だ。近藤さんの顔に傷は──無い。黒縄島では私も彼方もハチャメチャやり尽くしたので、シナリオが激変したのだろう。というか、私のアルタナ領域に招待したので、目立つ怪我もなにもない。

 

「あれっ、ラスボスコンビじゃありやせんか。今日は江戸を火の海にしに来たんで?」

 

 先に此方に気付いたのは沖田総悟だった。なぜかやっぱりバズーカを担いでいる。刀よりバズーカが似合う奴だ。凄い馴染みがある。

 

「「なんでいつもバズーカ持ってるの?」」

 

「警察の標準装備でさァ」

 

「オイそこ勝手なこと言ってんじゃねぇ。そっちの姉妹……? は何だ。何しに来た」

 

 当然ながら彼の近くには鬼の副長こと土方十四郎の姿もある。そのマヨ型ライター、どこに売ってんだろ。

 

「「禁煙したら?」」

 

「息ピッタリだな!! 余計なお世話だ!!」

 

「「近藤(ゴリラ)ってゴリラと結婚するの?」」

 

「なんかもう双子キャラみたいになってっけど! 不気味なホラーっぽい双子みたいだけど! っつーか何の話だ!!」

 

 どうやらバブルス王女の事件は消滅したらしい。或いは、これから起きるのか。せいぜい今の内に平穏を享受しておいた方がいいのかもだ。

 

 ──そういえば、と思い出し、彼方の方を見ると頷かれた。ああやっぱ気になるよなぁ、とアイコンタクトで同意し、二人揃って土方さんの肩に手を乗せ、沖田から距離を取りつつ尋ねる。

 

「「ミツバさんと……どうなった?」」

 

「…………て、てめーらには関係ねェだろ……」

 

 ドガァッ!! と二人で蹴り転がした。コイツは駄目かもしれない。沖田さん、やっちゃっていいっすよ。そんな気分で振り向くと、おぉ、と何やら尊敬の眼差しを向けてくる沖田がいた。

 

「まさかこんな強力な仲間(コマ)が出来るとはッ……!?」

 

「駒って言ったな今」

 

「ドSは所詮ドS。つける薬もないのでしょうね」

 

 行きましょう、と歩き始める彼方に続く。そういえば近藤さんは? と軽く探すと、既に九兵衛と歩いていたお妙さんにアタックして返り討ちされていた。あっちはいつも通りだな。

 

 肝心の万事屋が見えないな。

 どこで仕事してるんだろう?

 

 

 ◆

 

 

 ファミレスだった。

 

「いや……ですから。私は決して邪な気持ちで彼女に近付いたわけではなく……」

 

「ンな草食系、もう流行らねぇよ松陽クン? ってか同棲にまで持ち込んどいて今更何言ってんの? なにカマトトぶってるワケ? てめーは据え膳を前にして包丁だけ研いで仕舞う奴と何も変わんねーんだよ」

 

 銀時に拳骨が叩き込まれた。ファミレス内に侍が舞う。

 銀さぁーん!! と新八が回収に向かう中、未だボックス席で松陽は両手で顔を覆う。

 

「わ、私だって……私だって少しは考えますよ? 手を繋げたらいいなとか、好きなものを共有できたらとか、我が塾に入ってほしいなとか、師弟になって『先生』って呼ばれてみたいなとか、銀時たちと仲良く過ごしてほしいなとか……」

 

「ソレ結局ただの松下村塾ぅぅぅ!! 男としての欲というより師匠欲じゃねーか!! 弟子にしたいだけか! 恋人じゃなくて弟子にしたいだけなんかお前!!」

 

「そっ、そういうワケでは……!」

 

「ホラ見たことか……この男は所詮『こう』なんですよ。他人を教え導いた気分になって悦に浸りたいだけなんです。伴侶としての在り方ではないでしょう、それは。親子のままごとですよ。いつまで彼女を子供として()()()()()()()()んですか」

 

「うぅっ……」

 

「──貴方のことですから。彼女の本性と邂逅した瞬間には一目惚れしたんでしょう?」

 

 松陽が黙りこくった。

 今まで虚に何を言われても、微かに何かを反論しようと呻きはしていた彼が、完全に黙った。

 沈黙。

 ……俯いたまま、その頭から湯気が立ち昇り始める。

 

「だっ……だって! だって反則ですよ女性口調(あれ)は! ギャップの差が激し過ぎるじゃありませんか! お淑やかで上品で優雅で穏やかでッ……! あれにグッと来ない男がいますかいないでしょう!? 毎日ハラハラしてるんですよ、いつ、どこから見合いの話が舞い込んでこないかッて!!」

 

「いやそこはお前が同棲してるんだから来るわけねーだろ」

 

「あんな素敵な女性など私には勿体なくて……きっともっとずっと良い人が……ああでも、そんな事になったら(かつて)を思い出してしまいそうでもありッ……!」

 

「腹の底が見えてきたアルな。やっぱりただのヘタレヨ」

 

「違ッ……違うんです!! ならざるを得ないんですよ!!

 

「い、言い訳の新説まで出てきた……」

 

「分かりますか……毎日毎日、話す花のような方と過ごす日々を……! もし笑顔なんて見せられたら私、その場で爆散しますよッ!?」

 

「新手の生き恥ポップコーン?」

 

「ただでさえ隣にいるだけでも限界なのにッ……その先になど、どうやって踏み込めるんですか! 私のような男の傍に置いていいどころか、触れてすらいい存在でもありませんよッ! わたっ──」

 

 勢いまくし立てたせいか、そこで言葉を噛み。

 すぐさま立て直して、立ち上がって、松陽は叫んだ。

 思いっきり。大声で。

 

「私と彼女はいっそ離れた方がいいんですよ!! 結婚なんて論外です!!」

 

「やっほ~虚~。なんか凄い良いタイミングで来ちゃったみたいだね?」

 

「……アッ」

 

 蚊の鳴くような声が松陽から聞こえた。

 ……ぎ、ぎぎ、と一同がファミレスの入口を見れば、そこには同じ顔の女性が二人。

 

 ソラと彼方だった。




 次でラストー
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